121.漂着
ザザーン……ザザーン……
「……あいててて……どこだ、ここ」
大蛸に思い切り吹っ飛ばされて、その後俺たちは……ええっと、記憶が曖昧だな。
……ここどこだ?
身体を起こしてみると、見知らぬ海岸が広がっている。
天気が良い。
エメラルドグリーンの海、真っ青な大空。雲一つない。
陽の高さを考えると、朝、なのかな。
『あっ! 目が覚めたっ! おーいっ! みんなーっ! レオンが目を覚ましたわよーっ‼』
「本当?」
「レオン兄様っ‼」
「おう、起きたか」
声の方を振り返ると、少し離れた所から、俺のいる方に歩いて来るディアーナとアイリスとボン爺の姿が見えた。
「……おはよう。あのさ、ここどこ?」
「知らん。わしらも今、付近を探っているところじゃわい」
「レオン兄様っ‼ お身体は大丈夫ですか……⁉」
「えっ‼ おうっ。大丈夫っ‼」
両手を大きく振って、元気をアピール。
どこも痛くないし、マジで寝てただけっぽい。
くっそー。なんだよ、俺だけ意識飛んでたってのか?
恥ずかしいな。
「本当に大丈夫なの? これ、何本か分かる?」
「二本。ちょっと、ディアーナ俺の事バカにしすぎじゃねえ? 俺、ただ寝てただけじゃん。確かに情けないけどさ」
「寝ていただけって……貴方、メイとマールが岩に打ち付けられそうなのを助けたのよ? 覚えてないの? アイリスが、回復してくれたみたいだから大丈夫だと思うけど、思いっきり頭を打ってたから少し心配したわ」
「えっ? マジで⁉ メイたちは? 大丈夫なの⁉」
「多少、忘れとるのか。ま、若いし、問題はないじゃろ」
「うん。大丈夫だよ。で、メイたちは?」
「二人なら大丈夫よ。あそこで水遊びしているわ」
「……おお。確かに。やっぱ可愛いなー、メイは」
『大丈夫そうね。じゃ、アイリスもうその魔法はいいわ。あんまり無理しないで』
「はい。お気遣いいただいてすいません」
『謝ることないわよー! じゃ、また後でねっ‼』
ええっと、どういうこと……?
『あのね。タコに船ごと飛ばされたのは覚えてる?』
おう。
『あなたが、重力魔法で船を軽くしていたからすんごい飛んで行っちゃったの。私たち』
おう。悪かったな。
『それは、別にいいんだけど。そのあと、ボン爺さんとあなたが一緒に風魔法で立て直しをはかったんだけど、そのまま嵐に巻き込まれちゃって』
まじかー。すげえな、その辺おぼえてないや。
『そうなのっ‼ すごかったのよ! カミナリとか。で、そこでマールが起きちゃって、カミナリこわいだとかおへそを取られるとかなんとか大騒ぎしちゃって』
すげえ。そこまで寝てたのかよ、マール。
『メイちゃんはまだ寝てたわよ? それでね? それで、マールが逃げ魔導士がどうとかなんとか言ったら、船が猛スピードで飛んでったわけよ』
逃げ魔導士って、えっ? ちょっと良く分かんないんだけど。
『だから、船まるごと逃げ魔法をかけたのよ。あの子』
逃げ魔法? どういうこと? 余計意味わかんねー。
『うるっさいわね。せっかく気持ちよく話してるのに、邪魔しないでよっ! とにかくそのおかげで嵐からは逃げられたんだけど、船が浮いている状態だったわけじゃない? その時にはもうこの海岸の真上に来てたってワケ』
……ほうほう
『それで、私たちはこの辺りにまっさかさまに落っこちたんだけど、寝てるメイが岩の上に落ちそうになったのをマールが庇って、それをレオが庇った結果、レオだけ岩の上に落っこちちゃったのよ』
なるほど。
『で、大丈夫? って話』
なるほど。そういう事なら大丈夫だよ。身体も問題なく動くし、ほら!
っていうか、凄かったんだな。記憶にないのがもったいないくらいだぜ。
『そうね。でも元気そうで良かったわ』
で、ここどこ?
『それはね、私たちも分からないの。でも見て! この海っ‼ すっごく綺麗じゃない⁉』
確かに。まあ、いいや。教えてくれてサンキューな。
あとはボン爺に聞くわ。
『なによー。私たち……ずっとレオがお馬鹿になっちゃうんじゃないかって心配してたのにっ‼』
あっ! そういや俺の意識が無い間、ルッカみんなと喋ってたよな?
余計な事、話してないよな⁉
『何よそれ……はっ‼ このルッカちゃんとあろう者がすっかり忘れてたわっ! 次からは気を付ける』
いや、気を付けなくていいから。
たとえ、俺が先に死んだとしても俺のことはとにかくただ良い奴だった体にしておいてくれ。
ってルッカの方が先に死んでんじゃん。やっかいだな。
『そうよっ! 先に成仏なんかさせないわよ』
なんか訳わからなくなってきた。
「ちょっと、レオ。本当に大丈夫なの?」
「ディアーナ。ああ、今ルッカに事の経緯を教えて貰ったんだ。たこに吹っ飛ばされてから今までの記憶はないけど、もう聞いたから大丈夫。思い出すかもしれないし、思い出さなくても大丈夫かなって思うし」
「まあ、そうね。でも良かったわ。貴方は無理しないでまだ寝ていなさい」
「えっ……⁉」
ディアーナが、俺に、優しい、だと……?
俺、本当に死んだのかな?
「嬢ちゃんが心配するのもわけないわい。ほれ、あの岩場を見てみろ」
ボン爺の指さす方を見ると、かなり尖ったごつごつした岩が密集する辺りには大量の血痕が残っていた。
「げっ‼」
「あれが、全部お前さんの血じゃ。本当に、アイリスがおって良かったわい」
「た、確かに……。あ、ありがとう。アイリス、命の恩人だよ」
「そんなっ‼ レオン兄様が私たちを助けて下さった事に比べたら……」
「いや、あー、そういや兄貴たちをまた見失ったって事になるんだよなあ……」
「まあ、気にするな。船も壊れちまったし、もう少し休憩したらひとまずこの周辺を探るとしよう」
「……無人島とかじゃないよな?」
ここでいきなりサバイバル生活とか、嫌なんだけど。
『あ、それは大丈夫そうよ? 人なのか何なのかよく分からないけど、何人か視えるもの。ふふっ』
なんだよ、何が視えるんだよ。教えろよ。
『ふふふふっ。どうしよっかなー』