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119.蛸


「はあっ⁉ 見失ったあっ⁉」


『ちょっと! 大きな声出さないでよ‼』


「どうしたんだ?」


 代表してボン爺だけが聞いてきたが、はっきり言ってこの船は大して大きくない。

 よって、みんなの目が、驚きの俺を何事かと注目している。


「いや、聞いてくれよみんな。ルッカが、アンドレ達の居場所を見失ったらしい」


「それって……つまり、私たちがどこへ向かえばいいか分からなくなったって事よね?」


 ディアーナとボン爺の表情に影が潜む。

 メイは分かってないみたいだし、マールにいたっては『ルッカさんそんな事出来るんですか! 凄いっ』と別次元で驚き、寧ろ尊敬の眼差しを俺の周囲に向ける。

 おそらく、ルッカは常に俺の近くにいると思い込んでいるからだ。

 今、恥ずかしくなったらしいルッカは苦い顔をして船から離れて水面から顔を出してるだけなんだけどさ。

 というわけで、エルフ美少女マールの尊敬の眼差しを一心に浴びているのは俺という事になる。

 全然、目合わないけど。


『ばかレオンっ! やめてよ。出来るエルフ代表のこの私の滅多にないミスをばらさないでってば‼』


「でも、言わなきゃしょうがないじゃん。俺たち……ここで釣りしかしないで終わりそうじゃんか。みんなちょっとルッカと話すからちょっとまってて。後で纏めてから話すよ」


『あのね、奴らが西の方角に向かっているのは知ってたの。でもね、良く分からないんだけど突然……真っ暗になっちゃたのよ』


 ……それは、ルッカの能力が消えたってこと?


『そうじゃなくて……今はかなり離れたあなたのお爺ちゃんの寝顔まで視えるもの。馬鹿皇子さんとお兄ちゃんと乗っていた大亀が視えないだけ』


 もしかして、あいつら何か術を使ったのか? 目くらまし的な……。


『……その辺は分からないけど。視えないものは視えないのっ』


 馬鹿皇子ヨハンの野郎、変な呪いとかかけてくる様なやつだからなあ。

 なんか変な奇術は使いそうな気はするけど。


『馬鹿皇子さんはちょっとトリッキーだもんね』


 そうなんだよ。兄貴アンドレは本当に大丈夫なのかな。


『とにかく、どちらにしても港を出てからずっと奴らは西を目指していたんだから、そっちに行けばいいんじゃない?』


 ……適当だな。でもそれしか情報がないならしょうがないよな。


「みんな、お待たせ。とりあえずルッカが把握していた限りでは兄貴たちはずっと西に向かっていたらしいんだ。だからとりあえず西に向かおう」


「西? 西って……もうこの先は何もないわよ? ……バルム大陸くらいしか。でも、凄く……凄く遠いの。大型の旅船で何日もかかるのよ……?」


「ああ、バルム大陸はわしも一度行ったが、長い船旅は堪えたわい」


「そうなの? じゃ、俺たち大丈夫かな。こんな小舟で。っていうか逆にあいつらの乗り物ただの亀だぜ⁉ それならさ、俺たちも行くしかないじゃんか」


「……ロイさんから聞いた話だと、バルム大陸はかなり危険な場所になってしまっているわ。私たち、こんな装備で大丈夫かしら……」


 その割には、なんかディアーナの目が燃えているんだが。

 ……戦う漢の目になってるぜ?


「……はっ‼ そういえば私、何でこの船に乗っているんでしょうか⁉」


「へっ? いまさら?」


 マールよ。宿屋では俺たちに付いて行く事をさんざんしぶっていたのを忘れていたのか。

 すっかり女子部屋でなんか話し合いの決着でもついたのかと思ってたぜ。


「あのさ、マール。てっきり俺たちと旅をする事になったのかと思ってたんだけど」


「私もてっきり。ごめんなさい、マール。嫌だった?」


「私もですっ! ついうっかり楽しくて。そうですよっ! そんな恐ろしい所へ行くなんて聞いてませんっ! 嫌です。帰ります! ……こわい、こわいよー! お母さーんっ‼」


 パニくって今すぐにでも海に飛び込みそうなマールを引き留めたのは天使メイだった。


「マールかえっちゃうの? メイのこと、きらいになったの……?」


「ぐううっ……‼ そんなわけないじゃんっ! バカメイっ! 大好きに決まってるでしょっ‼」


 メイのうるうるお目め上目遣い攻撃に勝てるやつなんかいない。

 たとえ、美少女エルフのマールであってもだ。

 メイは、なんて出来る子なんだ。

 メイと固く抱き合い大泣きすること数分間、泣きつかれたメイとマールは仲良く肩を寄せ合いながらぐっすりと深い眠りに落ちていった。


「……マールって、何だか面白い子ね」


「うん。マールっていうか、多分エルフがね……面白いんだよ」


「ま、メイに年の……近くはないか。とにかく仲良しの友達も出来て良かったじゃないか。賑やかな旅になりそうじゃわい」


 宿屋で仮眠をとったとはいえ、長旅になりそうな事が分かった俺たちは、船の上でも順番に仮眠を取りながら旅を続けることになった。

 アイリスはいいって言ったのに、「いえ、私もやります。妹ですけれど、私もレオン兄様と同い年ですもの。あまり便りきりでは恥ずかしいですわ」と、見張り役に志願した。

 それでもやっぱり心配だから、俺、ボン爺、ディアーナとアイリスの三交代だ。


 …………


 明け方、海に異変が起きた。


「お前らっ! 起きろ‼ 付近に魔物がいるぞっ‼」


 見張りのボン爺の大声に飛び起きると、すぐにその異変に気が付いた。

 波が高く激しい。

 船の周囲はひときわ海面の色も暗く、デカい魔物がいる事は一目で分かった。


『やっと起きたわね。ねえっ! 大変なの‼ この下におっきいタコがいるの!』


 はっ? たこ……?


 ここは海だもんな。いるだろう、たこぐらい。

 しかし、想像していたよりも巨大なたこ足が海面を突き破って姿を現しただけで船が半分傾いた。


「船の操作は俺がやるよ! ボン爺! ディアーナっ! 頼む‼」


「分かった! 嬢ちゃんっ準備はいいなっ⁉ やるぞ」

「ええ、旅の食料にしてやるわっ!」


 大きく傾き、ふっとばされそうなメイとマールを抑えて守ってくれたのはアイリス。

 この二人、まだ寝てんのか。


 船の傾きで閃いたんだ! こんな時こそ重力魔法だ。船ごと軽く浮かせればどんなに波が激しかろうとも問題ないぜ!

 波の高さに合わせて、船ごと持ち上げるのは結構MPを食った。

 だけど、成功っ‼


「来るぞっ‼ 化け物がっ‼」


 ボン爺が出現するタコ足を次々と凍らせていき、ディアーナが叩き切って行く。

 

 順調に見えた。

 だけど、怒り狂ったタコは水面下に深く潜ると、思い切り俺たちの船を下から攻撃してきた。


 そして、俺たちは船ごと大きく吹っ飛ばされた。

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