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117.盗賊


 食事を終えると、マールが元気よくぴょこんっと椅子から飛び降りた。


「みなさんっ! 私はお腹がとってもいっぱいになりました! こんなに沢山のご馳走を食べたのは生まれて初めてです! 元気100倍ですっ!」


 と嬉しそうに膨れ上がったお腹をポンポンと軽くたたいて見せ、


「ちょーっとまっていてくださいねーーーーー」


 と元気よく言い残し走り去っていってしまった。


 ……まったく見えなかった。

 残像すら残さない早さだった。


 マールにはさっき出会ったばっかりだけど、これまで2度も逃げようとするマールの捕獲を軽く出来たので、突然消えてしまったマールにみな驚いて起きたことにしばし呆然となり、そのすぐ後に慌ててマールを追うために立ち上がろうとしたその時……マールは俺たちの目の前に戻って来た。


「おまたせいたしました!」


「ちょっと、驚いたじゃない。どうしたの? どこかへ行ってたの?」


「ふふふっ。……港ですっ」


 いたずらっ気たっぷりの余裕の表情だ。


「へっ? 港って……ここから3kmはあるじゃん」


「えっへへー。お腹もいっぱいですし、このくらい余裕ですよ? えっへん」


 マールは得意げに言うと、とにかく嬉しそうで笑いを堪えるのを抑えている感じがする。

 マールは現在メイのワンピースを借りて着ているのだが、食事で膨らんだお腹とは別に、妙に懐が出っ張っている。

 何かを隠しているのは一目瞭然だ。

 ボン爺も少し厳しい表情を見せている。


「マール、そこに何を隠しているんだ?」


「あっ分かります? えっとー。ここだとちょっと、どこか人のいない場所でお見せしましょう!」


「それじゃあ、メシも食ったことだし皆でいったん部屋に移動するとするか」


 この見知らぬ町で秘密の話をするとしたら部屋しかないよな、ということでぞろぞろと移動。

 マールはディアーナの腕を掴みながらぴょんぴょん飛び跳ねたり、アイリスの周りをくるくる回ったりととにかく上機嫌で一緒に付いて来ていた。


 俺とボン爺が今夜泊まる予定の部屋に集まり扉を閉めると、全員の注目を浴びるなか、マールはくすくすと嬉しそうに笑いながら、勿体ぶった様に服の中からジャラジャラと鍵の束を取り出した。


「じゃじゃーんっ!」


 ものっすごいドヤ顔である。


「それは、なんの鍵だ?」


「ふふふっ。これは、なんとっ! 港の、倉庫の鍵です! 船着き場への鍵もこの中にありますよ? うふふ。これがあれば夜中に船を盗むことも可能ですよね?」


「おおっ! そいつはすごいな」


「マールったら、あんな短時間で取って来たっていうの? もう、危ないじゃない」


「えっへん! 私の卓越した能力を使えばこんなの簡単ですよ。どうですか? これならもう今夜にでも船に乗れますよね? そうですよね?」


「その通りじゃが、まだ今は昼間だ。鍵が無くなった事に気付かれるじゃろう」


「あっその辺は大丈夫です。この辺の漁は昼前にはもう終わってますから。今日はもう船を出す事はないでしょう。私って、この町のどこに何があるかはだいたいもう知ってるんで」


「それじゃ、その鍵も?」


「はい! だいぶ前に金目の物がないか色々調べてた事があったんですけど、その時に鍵の隠し場所も見つけてたので。ふふふっ」


「……すごいわ。すごいじゃない、マール。あなたのお陰で船に乗れるわ。しかも連絡船じゃなくて済むから、アンドレを追うのにとても助かるわ」


「ああ、会ったばかりなのにすまんな。本当に助かるわい」


「えっへへ……お風呂とご馳走のお礼ですっ」


「こんなに事がうまく進むとはまったく予想もしとらんかったわい。よし、さっそく今夜出発じゃ。お前たち必要な物は今のうちに纏めておけ」


「ええ、アイリス。私たちは仮眠を取っておきましょう。マールもね」


「えっ? わっ私もご一緒させてもらっていいんですか? ……たしかにお腹いっぱいですし、少し眠っておくのもいいかもしれませんね。でも……本当にいいんですか?」


「当然じゃない。さっ、私たちの部屋はこっちなの。付いてらっしゃい。ボンさん、メイを引き取るわ」


「おお、頼んだぞ。メイも最近は重たくなってきたもんだ」


「そりゃ成長期だもの。背も伸びたものね」


 ボン爺が抱えていた眠れるメイをディアーナが引き受け、愛おしそうに優しく耳を撫でている。

 メイはくすぐったそうに「うにゅぅー……」と可愛い寝声を小さくあげるとディアーナにがっしりとくっついた。

 確かにメイも最近背は伸びたかもしれないな。

 まだまだ可愛らしさの方が勝っているけど、将来はどんな美少女、そして美女へと成長していくのだろうか。将来が楽しみだ。

 俺もメイに見合ういい男にならないとなー。


「ってそうじゃなくてっ!! ちょ……ちょっと待ったあーーーーー!!!!!」


 我に返った俺は部屋を出て行こうとする女子達を慌てて止めた。

 全員が不思議そうに俺を見る。


「なんだ、レオン」


「どうしたの? 思ったより出発が早くなったから忙しいんだけど」


「……あのさ。みんな普通にマールを賞賛してるんだけどさ……いや、確かに助かるよ? 助かるんだけどさ……それって、普通に考えて、あの、盗み……なんじゃないの?」

 

「……えっと、そうですけど、それがどうかしたんですか?」


「船を一隻、借りるだけじゃないか。相手に話が通じん場合はそういうこともある。まあよくあることだ」


 完全に部屋の空気が白けている。

 ディアーナも、ボン爺も至って問題視していない感じだ。

 唯一まともだと思ってたディアーナまで? 

 うそだ、みんな……何が悪い事なのか分からないってのか?


 ……えっ? もしかして……俺が間違えてるの?


「……えっ? えっ? だってさ、勝手に船を盗んだりしたら大変な事にならない? 俺たちこの国の人間じゃないし。ていうか、国王に顔知られてるし、このあとベネット国の騎士がこの町に来たらさ……」


「その時は……その時じゃない?」


「剣の嬢ちゃんの言う通りだ。何をよく分からん事を言っとるんだ? 船を無理やり奪うとなると一悶着あるかもしれんが、夜のうちにわしらが乗って行く分には『気が付いたら船が一隻無かった』程度にしかならんじゃろう」


「へ? うそだ……そ、そんなもんなの? だって管理とかさ、ちゃんとしてるんじゃないの? 普通は……大騒ぎになるじゃん?」


「……レオ、今はそんなこと言っている暇はないのよ。そんなんじゃ、今後あなた一人きりになった時に生きていけないわよ?」


「こいつは旅らしい旅は今回が初めてだからなあ。貴族の坊ちゃんじゃ仕方なかろう。さてと、わしらは多少道具を揃えてから仮眠を取るとするか。レオン、行くぞ」


「えっ……わっ! ちょっと待ってよ」


 し、信じられない。

 っていうか、俺が間違えてるの? 船って盗んでも良いの?


 ……女風呂は駄目なのに……???


『なんで覗きなんて変態行為と一緒にするのか分からないわ~』


 え……?  そうなの? この世界の価値観ってそんな感じなの?

 そんな野蛮な考え方なの?

 そんなの……すごい危険じゃん。


『そうよ。なによ、いまさら危険だなんて。レオだって、前にボン爺さんと一緒にメイちゃんを盗んできたじゃない』


 あっあれは、メイのことは盗んだっていうか助けたんだぜ?!

 メイは攫われて売られそうになってたんだぞ!!


『でも、一応メイちゃんは商品だったわけだし、レオの考えの通りにするんだったら、メイちゃんを引き取るためにお金を払わなきゃダメだったんじゃないの? あなたのお家、お金持ちなんだし』


 え……? それとこれとは話がちがうっていうか。


『とにかくこの世は危険なことだらけなの! 力のないエルフが生き残るのがどれだけ大変か、私やマールを見ていてよくわかるでしょ? ほら、とっとと買い出しに行くわよ! ボン爺さんまってー‼』


 ルッカは、すでに階段から姿を消そうとしているボン爺を追い、遠くから俺に『はやくっはやくっ‼』とせかしている。

 確かに急いで用事を済ませないと寝る時間が確保できなくなるんだけどさ……


 でも、その例えだと余計わからねーよ。


 エルフってまだ2人しか知らないけど……世界の覇権とれるレベルなんじゃないの? 

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