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115.逃げ魔導士


 空いている食堂の片隅に陣取り、目の前には山盛りの肉の塊。

 スープとパンとメイのための野菜とフルーツのサラダ、そして更にフルーツの盛り合わせにこの港町名物の丸ごと煮詰めたどでかい魚。

 それと大ジョッキに入ったジュース。

 これもこの辺りで良く取れるクワイというピンク色の果物をまるごと絞ったものだ。

 味はメロンに近い。種ごと入っているが種も柔らかく甘くてジューシーだ。


 浴場の近くで怯えるマリベルことマールを安心させるため、まずは食事で落ち着かせようというディアーナの提案により、俺達はすぐに食堂へと移動したのだ。

 食事、ご馳走というキーワードに、マールは敏感に反応を示し大人しくというよりはノリノリで付いてきた。今は、目を輝かしながら手づかみで肉を持ちむさぼっている。

 メイもマールの食べ方が美味しそうに見えるのか、真似をして小さな肉のかけらを手に取るとちびちびとかじりながらジュースで流し込んでいる。


 マール……この子もなんだな。

 こんなこというのもあれだけど、簡単に誘拐とかされやすそうなタイプだな。


 しばらく食べて落ち着いたところで、テーブルをはさんで向かいに座るマールに話しかけた。

 

「さっきは驚かせてごめん。マールはさ、いったいどこから来たのか教えてくれないか」


「それは、いえません。人間には特に」


「でもさ、マールは故郷とか……家族に会いたくないの? 俺の友達もひとりぼっちでさ。出来れば家族に会わせてあげたいんだ。そういえばルッカって知ってる?」


「ルッカ……? その名前は聞いた事ないです。そのお友達はどこにいるんですか?」


『ここにいるわよ? 私もあなたのこと知らないわ』


「だから聞こえないって。今この場にいるよ。テーブルの上に座ってる。ルッカはさ、幽霊なんだ」


「え……?」


「そういえば、そうよね。ルッカもエルフだって言ってたわね」


「ちょっと待って下さい。どういう事ですか? 幽霊って」


「いや、実はルッカの事は俺しか見れないし、話せないんだ。数百年前に森で大蛇に食われてしまったらしくて、たまたまその蛇を倒した俺にだけ見えるし喋れるようになったんだよね」


「数百年前……まだ私生まれてないのかも。私まだ100歳くらいだから」


「100歳!? そんなに小さいのに? メイと同い年くらいかと思ったわ」


「私たちって、長生きするんです。だから成長も遅いみたいで」


 俺としたことが迂闊だった。すかさず鑑定


--------------------------

 マリベル・ポルカ(178歳)

 職業:盗賊、逃げ魔導士

 好きな物:食べられるものならだいたい

 嫌いな物:人間


 『ステータス』

 Lv:138

 HP:1978/2012

 MP:4520/4987


 『スキル』

 火魔法:Lv3

 水魔法:Lv5

 風魔法:Lv5

 土魔法:Lv4

 俊足 :Lv9

 

 『ユニークスキル』

 精霊使い

 とんずら

--------------------------


 うん……だいたい想像通りだぜ。

 こうだと思ったんだ。強くなきゃな、一人で生きていけないもんな。


『やだ、この子……強いじゃない。それにレオ、聞いた? マールってば年齢サバ読んだわよ? 100歳くらいって、200歳に近いのに。エルフなら別に年齢詐称しなくたって普通のことなんだから気にしなくていいのに』


 ルッカ……いやっだめだ。

 今は雑念を払うべし。

 こんなときこそミラ先生の聖母のような微笑みを思い出すんだ。

 ……ふう。


『ちょっと、何考えてるのか教えなさいよ。どうせこの子の事も変な妄想したんでしょ。エルフ代表として許せないわ』


 いや、違うんだよ。ルッカ、なんかごめん。

 エルフってさ、なんかさ、なんか……面白いんだね……


「あの、どうしたんですか?」


 おずおずと心配そうに声をかけてくるマール。


「ごめん。今ルッカとちょっと」


「気にしないで。レオはルッカが現れてからしょっちゅうこうなの。私たちには見えないし聞こえないから変な感じよね?」


「メイもおはなししてみたいな」


「レオン兄様は不思議な力をお持ちなんですね。凄いです」


「えっ? 俺そんな変な感じなの? ごめん。ルッカはさ、お喋りで面白い奴だよ。ルッカもみんなと喋りたいって言ってるんだけど、今はその手立てがなくて……っていうかそうだ! アイリス、後で試してみたいことがあるんだよ。ルッカのことで。協力してくれないか?」


「え……? ええ。でも私なんかに出来る事なんて何も……」


「そういうのはいいからさ。アイリスは自信もてよもっと。可愛いんだし」


「そうよ。アイリスはもっと自信をつけた方がいいわ。少しづつでもいいから」


「あっ……はい。えっと、頑張ります」


「メイは?」


「メイは元気で優しくて可愛くてとっても良い子だよ」


「うわーい! メイはいいこだよーー‼」


「さてと、ごめんマール。こんな感じで俺たちはエルフだからどうこうなんて考えを持ってる奴はいないんだ。今、ちょっとした家庭の事情で旅をしているんだけど、もしよかったらマールの家族探しか故郷が分かれば送る手伝いも出来ると思うんだけど、どうかな」


「あっ……えっと、その……メイを助けてくれた人たちだし、多分悪い人じゃないっていうのは分かるんですけど、でもやっぱり人間を信じたらだめってお母さんが言っていたから……ごめんなさい」


「そっ……か。でもどうする? 俺たちは3日後には船に乗る予定なんだ。だけど、またマールはここで一人スラムで盗みを働くっていうのもさ。ほっとけないよ」


『さっきまでスラムに送り返すとか言ってた人の言葉せりふとはとうてい思えない』


 いや、それはさ……冗談だって。恋敵ライバルかと思ってたんだよ。

 ていうか、ルッカは絶対マールが女の子だって知ってただろ? 知ってて教えなかったんだろ?


『えー? しらなーい。だってレオには鑑定なんていうおチートを持ってるはずでしょ?』


 ぐぬぬ……そうだよ。女風呂の件ですっかり忘れてたんだよ。悪いかよ。

 ていうかそういうときこそのサポーターだろ? ルッカは。


『いえ。私はあなたに雇われているわけではありませんから』


「あのっ、ごめんなさい。いまルッカさんとお話していたんですよね? あの森の大蛇の話……お母さんから聞いた事があります。もしかしてルッカさんって、エルフ族長の一人娘だった方ではないでしょうか」


『えっ? そうだけど?』


「えっ‼ ルッカって族長の娘なの!? ちなみに、その族長は……?」


「元気ですよ。きっと。だいぶ前に私は捕まってしまったので。そうですか、族長はとてもお悲しみになっています」


『パパ……生きてるんだ』


「ごめん! マール、マールはまだ俺たちの事信用できないかもしれないけどさ、ルッカにお父さんに会わせてあげたいんだ。なんとかならないかな……?」


「えっ! それは……ちょっと考えさせて下さい。それに私たちの種族は常に外敵から逃げながら暮らしているので今どこにいるかまでは……」


「そっか。ルッカも良くそんなこと言ってるしな。……ところでさ、気になってたんだけど”逃げ魔導士”って……何?」


「ええっ!? なんで分かるんですか? 私の得意能力をっ‼」


「あっやべ。……ごめん。怯えないでっ‼ そっそう! ルッカってさ、幽霊なんだけど特殊能力があって色々と視えるらしいんだよ。それで気になって……」


 この発言に、メイ以外の残りの女子が異常に反応を示してしまった。特にディアーナ。

 なぜかディアーナもメイも食事をやめてとっさに手を胸元に隠しながら。


「ねえっ! 視えるって何が見えるの? どこまで!?」


「あ、いや……変わった能力を持っていたりするとぼんやり……分かる程度だよ。きっと」


『レオ、私を悪者にしないでよっもうっ』


「ルッカも悪かったよ。ごめん。それより、なんか聞いたことない能力だと思ってさ……」


「いえ、私たちの種族は逃げる事にだけは優れた力をもっていますから。私は……人間に捕まってからというもの逃げる事だけをとても真剣に考えて生きてきました。その結果その身に持つ魔力を”逃げ”に特化させる事に成功したのです。


「ほうほう」


「マールさん、大変だったのですね……」


「はい。そして……それが私の生み出した力で、私はその力にこう名付けたのです……『逃げ魔導士』とっ‼」


 ものすごいドヤ顔だ。


『語呂がいいわね』


「そう、ユニークな能力ね。でも私たちの前から何も言わずに逃げてしまわないでね。寂しいもの」


「あっ……はいっ‼」


 いい感じにディアーナが締めてくれた。

 そしてしばしの沈黙の後、和やかに食事が再会された。 

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