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113.旧友


 船の出港は3日後、ということで俺たちは情報収集と買い出しを行っている。


 やはり、誰に聞いても好意的に船を出してくれる人はいなかった。

 せめて、ベネット騎士団がこの町にまで来てくれれば多少は話が通じるかもしれないんだけどさ、なんか森をしらみつぶしに探しているみたいでしばらく港町こっちに向かう気配が無いらしいんだ。


 多分、あの森には馬鹿皇子ヨハンが殺した魔物の死体が放置されてるらしいから、犯人ヨハンはそこにありみたいな感じになっちゃったんだと思うんだけど。


 港町の店の人は基本的にみな気さくだけど、魚以外はやけに物価が高い。

 旅商人や冒険者が多いからか、足元を見られている感じが凄くする。


 ディアーナとアイリスとメイは買い物が楽しいのかキャッキャしていて、俺とボン爺はその護衛って感じで、悪い虫がつかないように目を光らせていて忙しい。

 あ、ディアーナには必要なかったな。


 今はみんなで屋台で買った焼き魚をほおばりながら、ぶらぶらと歩きまわっている。


 アイリスは、食べ歩きはもちろん、初めて魚を食べたそうでその味と食感に戸惑っていたが、味の方は悪くなかったみたいで頬を緩めて小さい口に運んでもくもくと上品に食べている。


「アンドレ兄様にも、是非……食べて欲しかったですわ」


 と、少し悲しそうに遠い目をして海を眺めるアイリス。

 大丈夫だぞ、妹よ。

 兄貴は自分で釣った新鮮なやつ食べてるに違いないから。


『うん。見ていてとっても飽きないわ。あっちの方が楽しそう。私もあっち行きたいな』


 ルッカさん、もちろんだけど、目的分かってますよね?


『うん。残念ながら私は囚われの身。レオに付いて行くしかないのよね』


 ほんとそういうの、冗談でも勘弁してよ。

 俺、ルッカとアイゴンでステータス底上げしてる部分大きいんだからマジでいなくなられると困るんだけど、あっ成仏も禁止な?


『えっちょっと待って。レオになんでそこまで権限があるのよ。今も別に楽しいからいいんだけど、転生して新しい人生を送るのも楽しみにしてるのに』


 うん。だって俺、死霊使いじゃん?

 ルッカは俺のいいなりな。


『……そういうのマジでやめて。呪うわよ?』


 大丈夫。俺、アイゴンいるし。

 なっ? アイゴン?


「グルアア……」


『ちょっとー。いくらアイゴンが懐いているからって卑怯じゃないそんなの。いやよ。私は誰の指図も受けたくないの! 私は自由を愛するエルフ少女よ!』


 あっと、ちょっと待ってなんだあいつ。


 民芸品のアクセサリーを売る屋台の前でこの数十分あーだこーだいいながら見ている女子三人に近づこうとする影が見える。

 妙に素早く動いているけど、あれ多分子供だよな?

 ……なんだろう。スリか?

 つーかその前にゆるさんぞ。俺のメイとアイリスに近づこうとする輩は。


 キラキラしたガラス細工に釘付けになっているメイのフードに手を伸ばそうとしている子供の腕をガシっと掴む。

 気分はGメンだ。お客さん、ちょっと来てもらおうか。


「ぎゃっ‼」


「おい、お前。何してるんだ? 盗みか?」


 メイに魔の手を伸ばしていた子供の手を捕まえてみると、驚いて飛び上がり俺を見上げた。

 汚い風貌の少年だ。メイと同じ年くらいかもしれない。

 それにしても汚いし臭い。服はボロボロだし、ボサボサに伸びきった髪もべとべとしているし、顔も手足も汚れと垢だらけでしかもこいつ裸足だ。靴も持っていないのか?

 肌の色は微妙に青黒いし、汚れなのか元々なのかっていうかそもそも元の肌の色も分からないくらいに汚れている。

 まさか、病気とかじゃないよな……? 俺、掴んじゃってるんだけど。

 それにしてもこいつの腕は細すぎる。碌に食べていないのかガリガリだし、まるで乞食じゃないか。


 ……なんとなく、初めて会った時のメイを思い出した。


 少年は俺に腕を掴まれたままかなり怯えた表情を見せる。


 ディアーナ達も気が付いて、俺達の方を振り返った。


「みっ見逃して。お、怒られる……」


「やっぱり盗みを働こうとしていたのか? っていうか、お前……仲間は?」


 こんなに汚れてるし、多分親もいないんだろう。

 ってことは、賊かなんかの使いパシリかスラム暮らしの子供なんだと思う。

 気の毒だけど、盗みは良くない。それに汚れた手でメイには触れて欲しくない。


「う……違うよ! ちょっとその子の声が聞こえて、知ってる子だと思ったんだ」


「あれ? もしかして、マール?」


「メイ? やっぱり‼ やっぱりメイだ‼ 無事だったんだね」


「うん! メイは元気だよっ! だってメイだもん。マールはどうしたの? なんだかすごくきたないよ?」


「メイっ! それはストレート過ぎるだろ。っていうか、知り合いなのか?」


「うん。いっしょにわるいにんげんにつかまってたの! なかよしだよ? まえはこんなにきたなくなかったのにどうしたの?」


 メイは、どこまでも残酷なまでにストレートだ。

 でもその表情は、眉をさげて今にも泣きだしそうだ。自分の事の様に心配しているんだろう。

 なんて優しくて良い子なんだ。

 しかし、なかよしってところが妙に気になる。

 メイは俺だけのメイのはずなんだけど、こんなところでまさかの恋敵ライバル出現か!?


「あ……うん。あのね……」


 小汚い少年マールの話によれば、捕まっていた奴隷商からは王都の騎士団の手によって解放されたらしい。

 だけど、騎士団によって保護される前にどさくさに紛れ一人逃げてしまったらしい。

 なぜに、と思うが「人間は嫌い」という事だった。

 そうか、この少年もどっかの珍しい部族の子供で攫われたんだろうな。

 何とか放浪生活を続けてこの港町に辿り着き、今はこの港町のスラム街であんまりよろしくない仕事をしてしのいでいるらしい。盗みとか、盗みとか、盗みとか。

 こんな小さな子供が生き抜くには仕方の無い事なのかもしれないけど、俺にはちょっと受け入れがたい。

 かといって、どうすることも出来ないし。


 そう思っていたところ、ボン爺がマントの中にさっと少年を隠してしまった。

 うーん。既視感デジャブ


 「今日のところは買い物は終わりだ。宿屋へ戻るぞ」


 そう短く簡潔にいうとスタスタと行ってしまった。

 ディアーナは難しそうな表情をしてボン爺の後を追い、突然の出来事に呆然とするアイリスと友人との再会にはしゃぐメイの手をそれぞれとると俺たちも遅れない様に宿屋へと向かった。

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