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111.かめ


「…やっと……やっと着いた」


やっと港町に着いた。

ルッカに協力してもらい、かなり馬にも無理をしてもらって来たつもりだ。

 

だけど追っている二人はもう既にこの大陸にはいない。


予想では王都の街並みを破壊しながら神殿の壁をぶち破って来たように、港町を破壊しながら突破するのかと思っていたのだ。

だが、馬鹿皇子ヨハンの行動はその予想を超えていた。


二人は亀の魔物に乗ったまま、街に入る手前の岩場から海へと入ってしまったのだという。


亀は水陸両用だったらしい。


まあ、確かに?

確かに亀だもんな。泳げそうだよな。


だけど俺、そこまでは予想できなかったよ……


しかも、様子を観察していたルッカによれば亀に乗って海に入る提案をしたのはどうも兄貴アンドレっぽいんだ。


どうしてだよ。

兄貴はなんで俺達から離れようとするんだよ。


アイリスが、アンドレがいなくなったことにどれだけ悲しんだか……ずっと一緒にいたのなら分かるだろ?


なんで馬鹿皇子ヨハンの逃亡を手伝うんだよ。

馬鹿皇子ヨハンのあの頭おかしい行動…アンドレだって見ていたはずだろ?


そんな俺の気持ちとは裏腹に、今は、二人して亀の上でのんびり釣りをしながら楽しそうに海の旅をしているようだ。


なんか、頭いたくなってきた。

そしてなんだか脱力感が……。


「おい、どうした?二人はこの町に入って行ったのか?」


港町の入り口で呆然としているところに、ボン爺達が追いつき合流した。


「うっわあー! うみだあーーーー‼」

 

メイ、大はしゃぎである。

遠目に見える、キラキラ光る海の水面の揺れに大興奮して今にも走り出しそうな勢いだ。

 

うん。今はもうそのくらいの方が癒されるかもしれない。

メイにはいつまでもこのままでいて欲しい。


ボン爺とディアーナに事情を話すと、同様に頭を抱えるボン爺とディアーナ。

アイリスの顔色も悪い。心配そうだ。


「アイリス……ごめん。追いつけなかった」


「いえ、レオン兄様は一人無理をして追ってくださっていたんですもの。それより……アンドレ兄様が……泳げるかどうか心配で……」


『心配って……そっちの?』


「いや、確かにもし魔物に振り落とされたりしたら泳げないとまずいよな?」


「ええ。一度アンドレ兄様と本で読みましたの。そして、いつか行ってみたいとお話ししていたことがありましたが、水中では息をすることが出来ないと知りましたので……とても心配です」


「……そっか。そう…だよな」


『この子も……きっと才能があると思うわ』


 やめろ! 俺の妹をバカにすんなっ。


 俺たちは一度、気持ちを落ち着かせる為にも町へ入った。


 港町は潮の香りと魚の匂いが混じり合い……正直にいえば生臭い空気が漂っていて、臭いに慣れるまでにかなり時間がかかった。

 町並みもさして綺麗とはいえないが、店や露店屋台も多く行き交う声にも活気のある大きな町だった。

様々な肌や髪の色をした人も多い。


 まずは、船着場を目指した。

 道端で客引きに声を張り上げているおばさんに聞くと気さくに場所を教えてくれた。

 なんかみんなニコニコしていい人が多いんだな。


 出来れば小さい船でもいいから、すぐにでも出してもらいたい。


 そう思っていたのだが、船着場にいた厳つい男達には話は通じなかった。


「連絡船は今は週に二度出てるからその時に来い。それ以外の目的で見知らん者を乗せる船なんぞない。帰った帰った」


 よっしゃ! 早速手に入れた人脈パワーが発揮される時が来たぜ!

 発動せよレアアイテム‼︎


「あの、ここにベネット国王から頂いた書状があるんです。これで船を出してもらえませんか?」


「ああん? …偽モンだろ。何でみるからに旅装のガキがそんな物持ってるんだ。嘘はもっと上手くつきな」


 だめだった。

 このメンバーじゃ、確かに嘘くさい。


「レオン、下がっとれ。旦那、すまない。事情があってこれは本物だ……」


ボン爺が話をつけようとしてくれたが、男たちには取り合う気がさらさらないとばかりに態度は一貫して変わらず、結局俺たちは追い返されてしまった。


「だめだな。もともと今は魔族の外からの侵入を抑える為に漁場も限定的になっとるらしいから、あ奴らの不満も大きいようだ。唯一海に出る手段も連絡船しか無いようだ。どうするか……まあ、しばし町で情報収集を図るとしよう」


 案外あっけなく引き退ったボン爺に驚いたが、漁師や港町の人間は一見いっけん気さくでフレンドリーに見えて実は排他的なことが多いらしい。

 確かに外の人間の出入りが多い分、命の危険もあるからなー。


 大丈夫かな、アンドレ。


『仕方ないわよ。お兄ちゃんを信じましょう』


 亀ってさ、海に潜ったり……しないよな?


『あの馬鹿皇子さんの持ってるオーブ? があれば大丈夫なんじゃない?』


 だってあいつ落とすじゃん。


『まあね。そこは……馬鹿皇子さんを信じましょう』


 信じられるかっての。


『まあまあ、幸いにしてアイリスも初めての海をみてうっきうきだから今のうちに手段を考えた方がいいんじゃない? 今たぶん真面目にお兄ちゃんを心配してるのレオだけみたいよ? 気楽にいきましょ』


 うっそだー。何言ってんだよ。ボン爺とディアーナだって真面目に考えてるだろ?


『うーん? ボンさんは船酔いするから船あんま乗りたくないなー。とか、ディアは西の大陸行きたいけど行きたくないなーって考えてるわ。二人ともそこまでお兄ちゃんのこと考えてはないわよ?』


 は、薄情者。

 なんだよ、まさかみんな自分のことしか考えてないってのか?


『うーん。ま、でも考えてるだけだしそれは自由にさせてあげましょうよ』


 う……なんか、聞くんじゃなかった。

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