109.レアアイテム
「母上の……姉上様ですか…?」
そういえば聞いたことがあったな。
……てことは王族の御一行だったのか。
「ええ。馬車から貴方達を少し見て……もしやと思いましたの。調べさせてみたら思った通り。この様な所で馬車に乗るでも無く何をしていらっしゃるの? お父上とお母上は何故ご一緒では無くて?」
「は。いえ、父上は多忙ゆえ、また母上は今……少し体調が悪く……」
「まあ。リリアがどうなさったの? それではより一層貴方達がこんな所にいらっしゃるのは何故なのかしら。早く戻るべきではなくて?」
「いえ……実はその、母上の体調を戻す為の旅でして……」
嘘は言っていない。いないんだけど面倒なことになってきた気がする。
「そうなの……? 貴方まだ見るからに子供ではなくて?」
「母上、どなたですか?」
「静かになさい。ごめんなさいね。私も子供を連れておりますの」
確かに途中、少年の声が聞こえた。
馬車の窓にはカーテンがかかっていて、こっちからは何も見えない。
そしてぶっちゃけ話のゴールも見えてこない。
こんな所で叔母に出くわすとは、ある意味新鮮ではあるんだけども……出来れば早く解放して欲しい。
馬車の中では、子供の高い声が聞こえ、軽く揉めている感じがする。
すったもんだの挙句、少し距離を取らされたまま馬車の扉が開いた。
そして騎士達にはさっきよりも厳重体勢で取り囲まれてしまった。
「こちらからでごめんなさいね。危険だからと馬車からは出して貰えないみたいなの」
おお! この人が俺の伯母さんなのか。
確かに良く見ると母上と似てなくもないな。母上と同じで年齢不詳な程若く見える美しい女性が優しげに微笑んでいる。
その側には強面のいかめしい顔のおっさん。この人がベネット国王……なんだよな。
そしてもう一人。好奇心で目を輝かせた少年が俺とアイリスを凝視していた。
俺達よりも年下だ。メイよりも小さいかもしれない。
「こちらは、私の夫、ヴィンセント・ニル・ベネット。ベネット国王よ。そして末の息子になる第4皇子のアンジェロです」
叔母により紹介され、それぞれ礼をする。
国王は何も喋らないが、俺達をっていうか……特に俺をガン見している。こわい。
悪い事をした覚えは無いのになぜだか萎縮してしまう。
国王ってのはやっぱ目力がものをいうのかな。
両親から何か言われているのか、従弟のアンジェロも礼儀正しくちょこんと静かに座っている。
だけど好奇の目は隠せていない。やはりガン見している。主にアイリスを。
可愛いもんな、アイリス。
いいだろ? 俺の妹なんだぜ? 例えいとこ同士の結婚が許されるとしても……お前にはやらんぞ。
「まあ、良く見れば……貴方はお父様のガルム様に生き写しの様……貴女は母上に良く似ているわ」
叔母のメリアナ王妃のみが一人盛り上がっていた。
そして是非とも一緒にナリューシュ国へ戻る様に勧められたのだが、それは丁重にお断りをさせてもらう。
いくら親戚でも他国の人間にアンドレが攫われたなんて事は口が裂けても言えない。
でも事実として、この旅は祖父であるナリューシュ国王より承諾を得ての事であり、早く済ませて帰らなくてはならないと言えば、疑わしげにも「そういう事なら」としぶしぶ諦めてくれた。
「リリアの事は心配だわ。この訪問の間に機会があったらお会い出来るよう手紙を出しましょう」
「それは母上も、きっと喜びます。是非に……」
「その者達、どこまで行くつもりだ?」
沈黙を破り国王自ら口を開いた。鋭く良く通る声だ。やはりこわい。
「はっ。さ、最西の港町を目指しております」
「船に乗るつもりか?」
「いえ、そこまでは……探している物が見つかれば良いのですが」
「なんだと? 何も分からずに旅をしているというのか」
う、厳しいな……。
そりゃ自国内で隣国の人間が何してるんだってのは気になると思うけど……しょうがない、言うしかないか。
非礼を詫び、周りの騎士達には聞こえない程度に近づかせて貰うと、声を落として手短に話す。
「いえ、実はナリューシュ国に突如現れた化け物が暴れ……国宝が盗まれたのです。それを追っての旅なのです」
「それを一介の貴族が行っているだと? それだけの人数で……なるほどな」
あ、これもうバレだな。見た感じ伯母さんにも。
だってこの面子だもん。
……まずったかな。
だけどすぐに俺の表情を読んだ国王からフォローが入った。
「他言はせぬ。だが、ナリューシュ国に入ったら国王へは話をさせて貰おう。それは良いな?」
「はい」
「安心せよ。我が国とナリューシュ国の仲だ。結んでいる同盟を反故にする様な事はせん。この度の訪問もそれを強固にする為のものだ。しかしまだ子供だというに……なかなか家族想いではないか……嫌いではないぞ。私も息子たちを甘やかすのは止めるとするか」
結論から言うと、ベネット国王は良い人だった。
子供の話をするときに垣間見えた、父上と同じような眼差しと雰囲気に多分大丈夫だろうと思えたのだ。
「だが、そなたらを我が領土で危険な目に合わせるわけにはいくまい。治安の強化に力を入れるよう私からも通達しておこう。その化け物とやらもこの私の国ではきにはさせん。気を付けて参れ」
ベネット国王は、国外へ行く船も止めてくれるらしい。
これなら馬鹿皇子は船に乗る事は出来まい。
思ったよりも早く二人を確保出来そうだ。
ついでにベネット国王は俺達のために直筆の書状を書いてくれた。サイン入りだ。
何か揉める事があったらこれを見せると色々と便利らしい。
こんな所でまさかのレアアイテムゲット! やったぜ!
『ラッキー! それじゃとっととおバカさん二人をとっ捕まえに行きましょ』