10.森に入る準備
ミラ先生に抱きしめられた記念に今日は絶対に風呂に入らない事にした。
メアリには怒られるかもしれないが、今日は体調が優れないといって風呂は免除してもらおう。
あの感触を洗い流すなんてとんでもなく愚かな事だ。
勿論、明日の授業の前にはちゃんと入るぜ?
ミラ先生には綺麗な体で会いたい。
臭いなんて思われたら即死モノだ。
今日は本当に有意義な一日だ。
魔法について、次回いつ会えるか分からない神様に会うまでは知る事の出来ない事だと思っていたし、魔法のスキルに関して俺は潜在的に無能なんじゃないかって不安を解消する事が出来た。
剣術についてもきっと似た様な理由が、あるんだろう。
そう思える様になると、途端に希望が沸き上がる。
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一日のスケジュールを終え、完全に自由時間になった俺は
夜メシまでの間に少し屋敷の外に出られないか視察をすることにした。
ミラ先生が言っていた結界というのが、この広い屋敷と庭までだとすればそこからちょっと出てみるくらい問題ないはずだ。
とはいえ、正門から堂々と出る事は敵わないだろう。
俺は箱入りのお坊ちゃんだからな。絶対に止められる。
この屋敷は、庭を全体的に覆う様に高い塀が巡らされている。
この塀をよじ登るのはかなり難しい。
だが、塀の付近に生えている木に登ってそこから超えれば多分大丈夫、なはずだ。
人目に付かない、裏庭の方に周り、具合の良さそうな木を品定めする。
丈夫そうな枝が塀の方に向かって伸びている木があった。
よし、これに決めた。
さっそくよじ登る。
5歳の俺の体はとても軽く、するすると登る事が出来た。
剣術の稽古でやってた柔軟のおかげで体を自由自在に動かせる。
不安定な枝を渡るのも問題なく出来た。
気から塀の上に上手く飛び移る事が出来た。
よし!
あ、
あれ?
塀が思っていたより高かった。
ここから飛び降りると着地に失敗すれば骨折ぐらいはしそうだな。
俺は塀の上に立ったまま、外を見渡した。
森が広がっている。
屋敷の近くだからか魔物の姿は見えない。
まぁ魔物を見た事がないし、つまり動物を1匹も見かけないって事だ。
これからの事を考えるとなんだか緊張するな。
よし。
俺はいったん木に飛び戻り、ボン爺のいる小屋に走って行った。
ボン爺は、屋敷の中じゃなくてこの庭の隅っこに立てられた小さな小屋に寝泊まりしている。
あぁ、小さいっていっても屋敷が比較対象だからなんだぜ?
前世の日本でいう一軒家くらいのデカさはある。
小屋の隣には納屋と家畜小屋がある。
俺専用の馬もここにいる。馬の名前はアイリーン。
牝馬でこげ茶色の美しい毛並み、まつ毛が長くて切れ長の 大きなキラキラした目の美人馬だ。
ボン爺が世話をしてくれているが俺も毎日会いに行ってる。
アイリーンが慣れてきたら少しずつ乗せてもらうんだ。
そしていつかコイツで遠乗りに出かけるんだ。
アイリーンに声をかけ、体を撫でてからボン爺を探す。
ボン爺は納屋で道具の手入れをしていた。
「ボン爺! こんにちは! ねぇ、ロープちょうだい。長いやつ!」
「おっレオン坊ちゃん、ロープを何に使うんだい?」
ボン爺は日に焼けて色黒の細身の爺さんだ。
顔は皺で笑うとくしゃくしゃになる。
笑顔が魅力的な気さくなじいさんだ。
良く俺のワンパクな遊びにも付き合ってくれる。
「木に縛って、それを使って隣の木まで飛べるかやってみたいんだ」
嘘だけど。
「ほう?面白い事を思いつきましたな。どれ、わしがやってやろう」
「いいよ。自分でやるんだ!」
「いや、坊ちゃんじゃあまだ力が足りんな。ロープの結び方も知らんだろうに」
「そうかな?ここで教えてくれたら一人でもきっとできるよ?」
「そんなに簡単じゃないぞ。まぁいいからわしに任せとけ」
本当は誰にも知られたくなかったけど、残念ながら、ボン爺にお目当ての木まで案内してロープを設置してもらう事になった。
「あそこ! あの高いとこの枝に吊るしたいんだ」
「ふむ。。まぁしっかりした枝だから大丈夫だろう」
年寄りなのに、ボン爺はひょいっと木に登ってサクッとロープを括り付けてくれた。
「これでどうじゃろ」
まずはボン爺が安全確認のためにトライ。
隣の木にいとも簡単に飛び移った。すげぇ。
「すごい!すごいよボン爺!僕もやりたい!」
「いや、今日はまだだめじゃ。
明日落っこちても大丈夫な様に地面を柔らかくするかマットを用意しておくからまた明日来なさい、もうすぐ夕飯の時間だしな。さっ帰った帰った!」
ボン爺に軽く追い帰れたが、俺は内心ガッツポーズだ。
決行は今夜だ。
俺は素直にボン爺に挨拶をして屋敷に戻った。
ちょっと、連投します。