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99.退散!


 『まずいっ! 人が来るわ! とりあえず姿を隠して!!』


 やばっ!


 部屋の中からは特に人の足音は聞こえないが、急いで剣を服の中にしまう。大仕事を終えて眠るアイゴンもすぐに懐にしまいこむ。


 部屋のドア付近で待機。もし逃げられそうなら扉が開いて人が入って来たタイミングでここを出よう。


 息を殺して扉が開くのをじっと待つ。


 開いた。ぞろぞろと人が入ってくる。思ったより多いな……6人か。

 ん? 今度はちゃんとした人間ぽいな。つーかそれ以外は即席で神殿係やってる騎士達じゃんか。うわっディアーナまで来てる。


 ディアーナが一番最後にスッと部屋に入り込んだ時点で閉まりそうな扉に足をかけてキープ。


 「なんだ、この惨状は!?」

  

 「”祈りの寝台”が破壊されている……おお……神よ」


 「……礼拝中に起きた振動は確かにここで間違いが無いようだな」


 「……終わりだ。何もかも……この国はもう終わりです」


 「司祭殿……お気を確かに。この場所は我々がこれから調査を行います。宜しいですね?」


 「……終わりだ。ああ……もうこの国はもう……」


 司祭は、一応人間だな。この部屋の惨状に一番取り乱しているのはこいつだ。

 騎士の奴らは……驚いちゃいるが、こいつらもこの部屋まで入ったのは初めてだから何のことか分からないようだ。

 主に、俺が破壊したクリスタルの台に近づき状況把握に努めている感じだ。


 ……この隙に、逃げ出したい。


 ルッカの力により透過され姿の見えないディアーナまで騎士達につられて部屋の奥に入りそうになるのを阻止するべく、鑑定を頼りに手探りで触れる。

 あっ何かに当たった。よし、ディアーナゲット! ん? なんかやわかいな。これ本当にディアーナか? ディアーナは鍛えているからあんま柔らかいイメージないんだけどなー。


 っ!! 


 頭を思い切り殴られた。 ってー。


 『……あんた、どこ触ってんのよ?』


 え? どこって……もしかして……


 『もういいから。ディアーナもあんたに気が付いたみたいだし』

 

 一体どこに触れてしまったのか非常に気になるが、ディアーナも俺の居場所に気が付いたみたいだ。

 そのまま手探りでディアーナの腕を探すと、逆に捕まれた。物凄い握力だ……ディアーナ、痛い。痛いよ……。

 何とか、もう片方の手でディアーナの俺を掴む手をどけると、部屋の外へと引っ張る。


 部屋を出ようとした瞬間に、バーンっと外から勢いよく扉が開き、顔面を思い切りぶつけ屈み込む。


 う……鼻血……出てないよな?


 『いまんとこ平気。ちょっとレオ、しっかりしてよ』


 ……くっそう


 「司祭様! ご無事でしょうか。ただいま参列者は全員外へと避難させました」


 「おお……終わり……この国の、もう取り返しは……」


 『この人さっきからおんなじことばっかり』


 だよな。とにかくもう魔法陣も破壊したし……人が多いここに長居しない方がいいと思うんだが。


 『ま、それもそうね』


 今度こそ出……『バンッ』「原因はこの部屋なのか?」


 またしても扉が勢いよく開き、再度顔面を打ち付けるハメに……


 扉付近でうずくまり、涙目で両手で鼻を抑えつつも覚えのある声に顔を上げれば、兄貴アンドレの姿がそこにあった。

 

 「光の御子様、月の御子様っ!! お助け下さい!! この国を守る力が弱まってしまいます」


 司祭が初めてまともに喋ったと思ったら、アンドレとその後ろにいる妹、アイリスに縋るように懇願してきた。

 

 『この国を守る力って、何よ? この子達の持つ力をどこかに転送していただけじゃない!!』


 だけど、司祭こいつはいまいち魔法陣の事も知らなそうだぞ?

 だって、もし知ってたら、騎士達をまずあのクリスタルに近づかせようとなんてしないだろ?


 「これは一体……」

 

 兄貴アンドレも驚いているみたいだが、司祭と同様に魔法陣については知らなそうだな。

 ていうか、なんでそんなに顔色が悪いんだ? 前に会った時よりも背は伸びているみたいだけど、みるからにガリガリじゃねーか。アイリスは? ちゃんと食わせて貰ってんのか?


 「御子様、どうか……どうか、貴方方がお持ちのお力を……全てのお力を……この国の為に、全て差し出して下さい。時間が無いのです。そうしなければ我々は……」


 前言撤回!

 夢遊病者の様な焦点の合わない表情でふらふらとアンドレとアイリスに近づく司祭の目の奥に薄気味悪いうじ虫が大量に見えるぞ。馬鹿皇子ヨハンが用意したぬいぐるみに仕込まれてた奴に似てる。


兄貴に近づここうとする司祭の前に足を差し出してすっ転ばせると、ついでにアンドレとアイリスの身体を引っ張り、司祭から引き離す。兄貴の身体は驚くほど軽く感じられた。


「な、なんだ? 誰かいるのか?」


驚いた様にアンドレが振り向く。久しぶりに見たアイリスは瞳が大きく開いただけで、相変わらずの無表情だ。


『しっ弟のレオンです。今は何も聞かず二人はここを出て下さい』


耳元で囁くように早口で言えば、アンドレは更に驚いた表情をした。

が、それも一瞬で意思を固めた様な凛々しい顔立ちでアイリスを抱き寄せ、部屋を出るべく身をひるがえした。


「お待ち下さい! 皆の者っ! 御子様をこの部屋から出してはなりませんっ! 早く押さえ……ぐはあっ」


何も無い所で司祭が不自然な感じで吹っ飛んだ。


いらついたディアーナが、思い切り蹴り飛ばしたのよ。レオもあのくらいやらなきゃ』


いや、そんなあからさまにやれるかよ。一応、俺は自分達も上手く逃げられる様に気を使ってたんだけど。


「何事だ!」


「司祭様は無事か!?」


「何者かいるのか?」


床に転がって呻く司祭と、尋常ではない状況に騎士達も剣を抜き、付近を気にし出した。


ほら、言わんこっちゃない。


しかし、ディアーナは姿こそ見えないものの、もう隠れるつもりはないらしい。

騎士の持つ剣は全て跳ね飛ばされたあげく、順々に殴り飛ばされているかの様に意識を失って床に転がった。


『……カッコイイ〜!! ちょっとレオっ!ちゃんと見た? あの勇姿を。ちゃんと彼女の背中を見て学びなさいよ』


……うん。本当すごいよな。透過で見えないはずなのに、ディアーナの無駄のない攻撃が見える様な気がしたよ。


『芸術ね……さっ、今のうちにみんなで逃げましょう!』


そうだな!

この部屋にいる人間は全て伸びきっている。

俺は軽くフードを取ると、扉の手前で驚きに固まる兄弟に顔を見せる。


「お待たせしました。またいつここに人がやって来るか分かりません。早く逃げ出しましょう! ディアーナ、行こうぜ! 」


今は色々と話してる場合じゃない。そんなのは後で屋敷でいくらでもできるぜ!


「……貴方は……どなたなのですか?」


え……? いや……俺だよ、俺、俺……レオンだけど……?


もしかして、忘れられてる……?


兄貴アンドレまで怪訝な表情をしているだと?!

何でだよ! さっき小声で話した時『承知!』みたいな顔したくせに!


「本当に、レ、オンなのか? 髪や肌の色が……君は、何者なんだい?」


「……!! ああ! これはある意味魔法です。素性がばれない様に変えていただけで……ほらっ」


急いで姿を元に戻して見せると、二人は驚きつつも「レオン、兄様」「レオン、本物だ」と嬉しそうな表情に変わった。


良かった。忘れられてたわけじゃなくて、本当に良かった。


「レオ、急ぎましょう!」


「ディアーナ、ごめん! さあ、急いで神殿ここを出ましょう」


「何て不思議な事が……分かった。アイリス、走れるかい? 私達も足手まといにならぬよう早く逃げよう……やっと……やっと出られるんだ」


「神様……兄様……感謝いたします」


廊下に出る。

ルッカが先回りして、この先に人がいない事を教えてくれた。

神殿の外には、礼拝に来た参拝客が避難しているらしいが、とにかくここから出られたら上手い事言って二人を屋敷に連れて行こう。


ん? じゃあ、俺は一応ローブを脱いでいた方がいいかな。どうせ俺は『隠密』のせいで影が薄いし。『礼拝? えっ……最初から居ましたけど?』で押し通せる。


いや、それよりもルッカに頼んで、この兄妹ふたりを透過してもらった方が早いか。


なあ、ルッカーー


長い廊下を走りながら、ルッカに呼びかけようとしたその時ーー背後から爆風が押し寄せ、俺たちは吹き飛ばされた。

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