9.家庭教師
家庭教師の先生はミラ・マイヤーという、代々教師の家系の若い女性だ。
ミラ先生は長くて艶のある黒髪黒目の女性で、肌は白くとても美人である。
そして、真面目を絵にかいた様な性格の人で、質問には的確に答えてくれるし俺が理解出来るまでとことん付きあってくれる、とても良い先生だ。
そんなミラ先生は、いつも首元までしっかり隠れる様な修道者の様なローブ姿で殆ど肌を見せる事はないのだが、なぜだか大変なエロスを感じるというとても不思議な女性なのだ。
……実はこのセクシー教師のせいで、あまり授業に集中出来ていない。
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俺はこの機会に、隣国のベネット王国の公用語であるベネット語と魔法史を教えて貰う事にした。
両親に交渉するに当たって、俺は外国語と魔法の先生を要望していた。
魔法は当然として、将来他国へ行く機会があると思う。その時に言葉をマスターしていればモテる確率が上がる。
予想通り、外国語を学ぶ前にまずは自国の言葉を学ぶ様に言われたので、両親には自国のナリューシュ語の読み書きはマスターしている事を白状せざるをえなかった。
それを聞いた両親は取り乱すほど驚いたが、執事のロイが助け舟を出してくれた。
俺が小さい時から書庫に入り浸って本を読んでいる事を教えてくれたのだ。
そして無理やり「本を読んでいたらなぜだか読み書きまでマスターしちゃった」という事で納得してもらった。
なぜロイ爺が助けてくれたのかは分からないが、助かった。
まぁそういう訳で、貴族の嗜みとしてもまずは隣国の言葉を学ぶことになったのだ。
魔法については、まだ少し早いらしい。
……この世界のスキルは年齢制限が好きなようだ。
とにかく怪我でもしたら危ないの一点ばりで却下された。
その代わりに、実際には魔法を一切使わない魔法史を教えて貰う事になったんだ。
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さて、そして冒頭のミラ先生の話に戻るとしよう。
ミラ先生は美人で賢くて優しくて真面目で、そしてとても色っぽい。
そんな綺麗なお姉さんと密着してお勉強をするなんて状況は幼少期の大特典だって俺だってわかってるんだ。
だから、毎日2時間のお勉強タイムに遅刻したことなんて一度もないし、授業も真面目に受けているつもりだ。
だけど、どうしても集中が出来ない。
二人きりで机に身を寄せ合って先生の説明を聞いているだけで頭がくらくらする。
ミラ先生はいつも良い匂いがするし、かがんだ時にローブに隠されたナイスな体つきがかすかに見える様なきがするから、ついつい教科書より先生に目がいってしまう。
初めて先生の息が俺の髪にかかった時は衝撃で大きく椅子から転げ落ちて物凄く心配させてしまった。
とにかく、露出もないのに刺激が強すぎる。
そういう訳で、授業の進行は遅々としていた。
先生から前回どんな事を学んだか聞かれても答えられなかった。
だんだん、あんなに美しいミラ先生の表情がこわばるようになってきた。
思いつめた先生の表情にもそそられるものがあった。
心なしかため息も多くなった。
アンニュイな表情の先生も悪くない。
先生が無表情になり、授業の声が棒読みに近くなった。
……俺はやっと目が覚めた。
このままでは、ミラ先生が愛想を尽かすかもしれない。
俺は、ミラ先生との授業時間を死守する為に1日のうち2時間ほど自習する事にした。
授業なんて頭に入ってないから、最初から全て独学だ。
隣国のベネット語は、自国語とやや似通っている文法だったから比較的入りやすかった。
魔法史も歴史っていうか神話みたいな内容だからすんなり理解できた。
一人での勉強はとても捗り、そのうち授業内容よりも自分の勉強の方が先に進んでしまった。
ミラ先生の表情が出会ったばかりの頃のキリリとした涼やかな表情に戻った。
俺はほっと胸を撫でおろした。
自習の時間を割くために、俺は運動や個人的にやっていた魔法の勉強時間がかなり削られたが、ミラ先生との時間の方が大事だった。
それに努力の結果、授業のペースに余裕が出てきた。
良い事はさらに続き、雑談や授業内容以外の勉強の話をするようになった。
勉強頑張って良かった。
ある日、俺は意を決してミラ先生にこっそり魔法を教えてもらえないか聞いてみた。
「魔法?……そうよね。男の子だもの。魔法使ってみたいわよね?」
あの真面目なミラ先生のことだ。
雇い主の俺の両親が駄目だっていってるんだから一蹴されるだろうと思っていた。
それなのに、ミラ先生は悪戯っぽく微笑んでこう言った。
この瞬間、俺は思った。
将来こんな素敵なギャップのある美人と結婚するんだって。
くそ、俺がもっと早く生まれていれば……すぐ側に理想の女性がいるのに。
「最近のレオン様の頑張りを見ていると、気持ちに応えてこっそり教えてあげたいのはやまやまなんだけど…… まだちょっと難しいかな」
「え……?」
「うーん。正確には子供の頃は、体の中に魔力を溜められないの。
魔法は、この世界の空気中に漂う魔素から取り込むんだけど、成長していくと……つまり体がこの世界に馴染んでくると、この魔素を魔力として体に留めておけるようになるのよ。
そして、その体内の魔力と外の魔素を合わせて魔法が発動出来る様になるの」
「本当に・・?」
……年齢制限…
「……お父様とお母さまは危ないからって言ってたわよね。
たまに、魔素の濃い所で子供が遊び半分で魔法を使おうとして魔素が集まり過ぎて制御できずに爆発したり、事故が起きる事があるの。
レオン様のご両親はきっとそこを心配なさっているのよ。
この辺りは自然が豊かだから魔素もとても濃いもの」
「……」
……濃度が濃い所であのゴミみたいな魔法しかだせないんですが。
「あっ大丈夫よ!
このお屋敷は全体的に結界が張られているから。
魔素の濃度は低く抑えてあるはずよ。
まぁそれもあって、多分魔法を教えても使えないんじゃないかしら」
「えっ本当に????!!!!!」
それって、魔法の適正が無いわけじゃないってことじゃん!
「そうよ。だからごめんなさい。力になれなくて」
ミラ先生は申し訳なさそうにかすかに微笑んだ。
「もう大丈夫です。
無理を言ってごめんなさい。
早く魔法を使ってみたくて我儘を言いました。
教えてくれてどうもありがとうございます」
俺の頭の中は、屋敷の外に出て魔法の練習するこ事でいっぱいだった。
「……レオン様はとても賢い子ね。
最初は、少し心配したけど。。でも最近は本当に言葉も沢山覚えて。
そうね。ベネット語はもう大分上達したし、珍しい南方の島の言葉を教えてあげましょう。
私もいつか行ってみたくて勉強した言葉なんだけど、とても温かくて素敵な所なんですって」
「南方の島……それはビュイック諸島の事でしょうか。
僕も少しだけ本で読みました」
「その通りです! レオン様本当に賢くなられましたね!」
俺はミラ先生に思い切り抱きしめられた。
鼻血は出なかったが、先生の胸に埋もれて息が止まりそうだった。
先生は着痩せする方だった。
題名が間違えていたので修正しました。
まさか題名で誤字を出すとは思いませんでした。。