異世界は突然に。
物事大きく分ければ、なんでも片手で数えられちゃうものなのだ。by私
今回の話題は異世界転生について。
どうしてかっていうと私がたった今、経験しているからなんだけど。私の場合、生まれ変わってないから正確には、異世界転移というのだろうけれども、そんなことより。
私は今、異世界にいます!
突然異世界から始まっても何が何だかわからないよね。私もまったくわかってない。だから、少し記憶を振り返ってみようと思う。
まだ地球にいた頃から、簡単に。
私の家族や、その家族構成──といっても普通の四人家族なんだけど──から話してみることにするね。
まず、はじめまして! 私は橋本利矢。
十五歳で高校一年生。ちなみに誕生日は十一月でまだ来てないよ。早く大人になりたいな。
今は恋人と呼べるような人はいないの。でも、お兄ちゃんとは違って年齢イコール恋人いない暦、ってわけじゃないからね?
身長は百六十に届いてなかった、はず。最近、体重を量ることはあるけど、身長を測ったのは四月の身体測定が最後だったから。うん。あ、体重やスリーサイズは秘密ね。
私はそんな、いたって平凡な女の子です。
……あ、でも恋人募集って言っても誰でもいいってわけじゃないからね? そういう男遊びをする人じゃないからね?
私にはお父さん、お母さん、お兄ちゃんがいるよ。普通の四人家族で、みんなが仲良しなの。
両親のことを詳しく話すのは、少し恥ずかしいからしないけど、お兄ちゃんの話くらいしてあげても、いいかな。
私のお兄ちゃんの苗字は当然橋本。名前は広樹っていうんだよ。
身長は私よりも高いけど自慢できるほどってわけじゃなくて、顔は……そこそこ、筋肉はあまり無いように見えるけれど触ってみると意外と……って感じ。
優しくて、たまにおやつを買ってきてくれたりする。あとあと、服のセンスは皆無っていってもいいほど悪くて、いっつも私かお母さんが選んであげてるの!
他には……。
ああ、お兄ちゃんね。大学で好きな人ができたみたいで、他の友達も連れて──四人くらいかな? で──カラオケとかに行ってたみたい。妹としてすこーーーしだけ気になるけど、聞いてもそれ以上教えてくれないんだよね。
まあ、お兄ちゃんの趣味ならー……ショートボブの、細身というよりは肉が少し()ある子じゃないのかな。つまり普通ってことだよ?
私の話に戻すけど、私の趣味は読書だよ。
サスペンスやホラー、ミステリーなんかの定番なものから、お兄ちゃんが持ってるライトノベル? や漫画も読むの。お母さんが持ってる昼ドラになるような純愛系や泥沼系も、本当になんでも読むの。
本はいいんだよ。
たくさんの人と触れ合える──気分になる──し、自分には無かったいろいろな考え方ができるようになる。
本を読むだけで泣くこともあれば大笑いすることもある。泣いているとお兄ちゃんはまたか、って顔をしながらハンカチで涙を拭いてくれたりする。
そんな文系の私と、優しいお兄ちゃんなのでした。
私のお父さんは普通のサラリーマン、お母さんはパートをしていて共働き。
小さいときから家でお兄ちゃんとふたりぼっちだったので、よくお兄ちゃんと遊んでいた。
お兄ちゃんは学校の友達と遊ぶこともあったけれど、家にいることが多く、一緒にお庭で本を読んだりもしていたっけ。
日向ぼっこをしながら本を読むととっても気持ちいいの。でも本は傷むし途中で眠ってしまうのであまりしないようにしていた。
でもね、私がお昼寝をしちゃったらお兄ちゃんは毎回、私をベッドまで運んでくれるの。
「重くないの?」
「お兄ちゃんだから平気だよ」
小さく笑って答えるところがかっこいいなぁ、なんて。
小学校を卒業した頃、外でお兄ちゃんと一緒にいるのを見られるのが恥ずかしくなって、みんなにバカにされたくなくて、距離を置くようになっていた。
そしたら家の中では一緒にいることが多く……うんう、一緒にいたくなることが多くなって、私の定位置はお兄ちゃんのベッドにした。
お兄ちゃんは呆れ顔でゲームをして、私はお兄ちゃんの本を借りて読む。
お母さんが帰ってきたら「仲いいねぇ」なんて言って、買ってきたばかりの本を渡してくれるのがいつもの日常で……。だって私のほうが早く読み終わるんだもん。
お母さんの買う本は基本的に、ドラマ化や映画化した作品だから中身を知っているものも多いけれど、その分ハズレが少なくて面白いの。
逆に私が買う本はタイトルや表紙で選ぶせいか、面白くないものや意味がわからないものが多いけれど、大当たりが混じってるの。
そういう意味でも、本は面白い。お兄ちゃんは本を読まないみたい、もったいない。
「勿体ない」
「お前が話をしてくれよ」
「わかったっ! どの話からにする!?」
頬を膨らませたり目をキラキラさせる私に、お兄ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をします。言われたとおりにしたのにね。
そんな私にも中学二年の時、彼氏ができました。人生初の彼氏です!
真っ先にお兄ちゃんに報告した私は──恥ずかしかったので両親には内緒だけど──うきうきしながらお兄ちゃんの返事を待ちました。
お兄ちゃんは「良かったな」とだけ言うと、ゲームを続けました。ゲームが一段落つくのを待ってから、もう一度「彼氏ができた」と言いました。
「……じゃあ俺の部屋に居座るの、やめたらどうだ?」
もっとこう、少し寂しそうにしたり、一緒になって喜んでくれたりすると思っていたのに。私は怒った気がします、確か。
その時から、お兄ちゃんの部屋にいることは少なくしました。それは彼氏が別の人を好きになって別れてからも、お兄ちゃんの部屋に行かないようにしました。
高校に入ってようやく馴染んできた、夏休みになった頃。
私は、大学に行くために上京してしまったお兄ちゃんをお迎えに、駅まで行ったの。
会うのは……半年ぶりかな?
とびっきりのおめかしをして、るんるん気分で駅に向かう私を、偶然見た友達が「彼氏とデート?」なんてからかってきて。お兄ちゃんが彼氏っていうのはなんか嫌だけど、お兄ちゃんみたいな優しい人が彼氏なら……って、違います!
駅の改札で待つこと十分。
相も変わらぬだっさーい服を着たお兄ちゃんが、私を見つけて手を振ってくる。少しだけ手を振って答えるとゆっくりと、いつものペースで歩くお兄ちゃんを待つ。
お兄ちゃんは私が隣にいても一人の時でも、絶対にゆっくりと歩く、癖? みたいなものがある。早歩きをするくらいなら早すぎるくらいに家を出る。そうしてでもゆっくりと歩く。
……変わらないなーっ。
なんて、そんな些細なことが嬉しい。だから、お兄ちゃんの腕に抱きつく。体重をかけておっそい足がさらに遅くなるように。
「ちょ、なんだよ……」
顔を赤くしつつも抵抗はしないお兄ちゃん。私はとびっきりの笑顔を向けて、引っ張るように歩き出す。
お兄ちゃんの服がダサくて笑われないか心配だけど、笑われてもバカにされてもお兄ちゃんは気にしない。
「そう? 俺のセンスがわからないのかなぁ……」
これを本気で言っているのだからこまっちゃう。私も、もう気にしないことにしちゃった。だって何度言っても変えないんだもん。
二人で家に帰って、家族四人で外食をして──その時の服は私とお母さんで選んだ──、帰ったらみんなでテレビを見て、笑って。
お兄ちゃんと一緒に出掛けようと、明日もどこかに出かけようと約束をして寝る。一緒の布団で寝ることも考えたけれど、そこまで行くとブラコンっぽいから、流石にやらなかったけど。
……今では少し後悔をしている、約束。
明日も一緒に出かけよう、って。
なんで明日って、言っちゃったんだろう?
「焦らなくても広樹は一週間いるんだよ?」
お母さんはそう言っていたのに、なぜ聞き入れなかったんだろう、ね?
その日、寝坊したお兄ちゃんを起こして寝癖を直してあげて、お兄ちゃんの服を選んで私も着替えて、ちょっと遠出するためにバスに乗ってのお出掛け。
二人でいろいろなものを見て回るコースを選んだ。隣街のショッピングモールで、服だったりアクセサリー、ゲームも本も伊達眼鏡なんてものも見て。
「そろそろ帰ろっか」
なんて言うお兄ちゃんを引っ張って、当てもなくぶらぶらと歩く。あるく。
「危ないッ!」
大きな十字路の端っこで。誰かがそう、叫んだのが聞こえた。
それをどこか遠くに感じながら「ああ、死ぬんだろうなぁ」って感じながら、お兄ちゃんの歩幅で一歩。死へと歩きました。
隣にあった腕の感覚が広がる。
暖かくどこか気持ちいい……それでいて何か受け付けない匂いが目の前に充満する。
血じゃない。これは、お兄ちゃんの匂い。
お兄ちゃんの匂いってなんかいい匂いだという反面、あまり嗅ぎたくないような嫌な匂いがするの。聞いた話だと近親相姦……つまり兄妹でえっちなことをするのを避けるため、本能や血が拒絶する、らしい。よくできてるね、人間って。
そんなことを考えながら、車に轢かれてぐちゃぐちゃのお兄ちゃんを見ていました。
気がついて、異世界にきて、私がまずしたことは吐くことだった。
意識がホワイトアウトする直前の、身近な肉親の惨たらしい死体は、脳裏に焼きついて離れない。そこが草原であることを認識する前に胃から込み上げる液体を認識……察知? した。
唯一できたのは、服にかからないように気をつけることだけ。
不規則な呼吸を繰り返し、涙を流しながら、ゆっくりと深呼吸をする。気持ちを落ち着けないと。掴むものがほしくて、なくて、裾を握り締める。
もう吐くものも残ってないみたい。眠気に耐えつつも周りを見回すと、一面は草、くさ、www。
空を見て、夢かな? って考えちゃった。だって太陽が二つあるんだもん。
そして胃のむかむかする感じや喉のピリピリとする痛みから夢じゃない? と考えた。そうするとここは地球じゃない異世界となるよねぇ。
そう、檻の中で考えているのでした。
……あれ?
どうやら私は奴隷商の人に捕まってしまった、らしい。
私みたいに捕まっていた、他の女性にいろいろと話を聞くことができた。日本語が通じてよかった……!
まずここはラックという世界? 大陸? らしい。そして種族は人間の他にいる。エルフもドワーフもタビットもナイトメアもいれば竜人、狼男、吸血鬼なんてものもいる。
ファンタジーの世界に迷い込んでしまったんだと、理解不能を少しずつ理解していく感覚。
同時に、常識の崩れ去る音。
ああ、それからこの奴隷商は基本的に狼男を顧客にしたものであるとも聞いた、なんとか逃げなければ死ぬ、とも。
……なんでこんなことになっちゃったかなぁ。
馬車に揺られ、木枠から顔を出して景色を眺める、肩は出ないけど頭だけならなんとか出れるくらいのサイズ感。
「おーい、待ってくれ。止まってくれ」
並走するように馬にのった毛むくじゃらの男(?)が、奴隷商の馬車を止めた。
「あれが狼男よ」
いろいろと教えてくれる女の人、ロビンさんは外をちらりと見てから、小声で教えてくれた。
奴隷商と何かを話している狼男と、目があった。手を振ってみると、狼男も小さく、私にだけ見えるように、手を振り返してくれた。
なんだろう、不思議と嫌な感じはしない。学校の男子みたいに下賎な目じゃないし、だからといって無関心ってわけでもなさそう。
「……あの女は幾らだ」
「仕入れたばかりで、まだ躾もできてないんですが──」
「幾らだ?」
狼男が私を指差している。ロビンさんが悲しそうに目を伏せて、私に抱きついてきた。
えっ?
「降りろ」
私は馬車から降ろされた。しっかりと二本足で立っているけれど、首輪と鎖のせいで逃げられそうにない。
鎖を狼男の馬にくくりつけられた。それをじっと見てるしかない私……逃げろったって、どうしようもないよね。
なんとなくロビンさんのほうを見ると、安心したような顔をしていた。
うーん? 今の状況ってそんなに悪くないのかな?
……いいんですよ、ロビンさん。少しの間だったけど、たくさんのことを教えてくれてありがとうございました。どうか貴方もいい人を見つけてくださいね?
「……処女か?」
「ええ、確認はしてませんが、おそらく」
「ならいい」
待ってまって。聞き間違いかな? もしかして私って奴隷は奴隷でも性奴隷として買われたの?
荷物持ちさせられるのかなーって現実逃避してたのに、今のはちょっと聞き逃せない……!
今まで付き合ってきた彼氏にもキス止まりだったのにこんな、人間でさえない生き物に、初めてを捧げないといけないの……?
「や、やだ……たすけて!」
突然叫んだ私に驚いた男二人を放っておいて、私はロビンさんに手を伸ばした。同時に駆け出したけど鎖のせいである程度しか近づけなかったし首輪が絞まり咳き込んでしまった。
それでも、なんとかしてほしくて手を伸ばす。
「ロビンさんっ!?」
まるで、聞きたくないというかのように、彼女は耳を塞いで、蹲ってしまった。
首が絞まり、息ができない。
けれど、一歩進み、さらに首を絞めながらロビンさんに近づく。
「……すいませんね、さっき仕入れたばかりで躾がなってないんですよ。だからしっかりした売り物をと言ったのですが」
「言っただろ、金がぎりぎりなんだ。これで満足するさ」
そのうちに正気に戻ったらしい狼男が、近づいてくるので首輪の範囲だけでも、逃げ回る。すぐに首輪の鎖を手繰り寄せられて、捕まってしまう。
ロビンさんを乗せた馬車はぐんぐんと遠ざかって行く。ああ、行かないで……。
「まず言っとくが、お前には何もしない。一人で寂しかったから、つい、衝動買いしたんだ」
「……」
「あー……料理は作れるよな? それがお前の仕事だ」
そういって私の目を覗き込む狼男。
私はなぜか涙が止まらない。泣いていたら殺されるかもしれないと思うと、涙を止めようとしてるはずなのに、涙が溢れてくる。
うわ言のように「嫌だ」「助けて」「死にたくない」を繰り返す。まるで自分が別人のように感じてしまう。
……そうか。奴隷になった私は私じゃない。本当の私は地球にいるんだ。そうに決まってる。
「俺の後ろに乗るか? それとも引きずられるか?」
狼男が馬に乗った。
いまだに混乱していて、その上現実逃避を繰り返すままの私は、その場にへたり込んだまま。私の首輪から伸びる鎖は、馬のサドルにくくりつけられているのが見える。長さは約二メートル。
馬は指示を受けたのか、数歩だけ歩き、止まった。引っ張られて、転ぶようによたよたと歩いた私。……このまま馬が走り出したら死んでしまう。
「……乗せて、ください」
精一杯の気力を振り絞って、か細い声で告げた。それを笑うでもなく、狼男は手を差し伸べて、馬に乗る手伝いをしてくれる。
わかったのは狼男の毛は狼というより猫に近いってこと。
もふっもふっ。
狼男の村? 集落? 住宅街? まあ、そんなところが見えてきた。
私が抱きついて──馬から落ちないためだから──いる狼男さんの名前は、エディスさんというそうで。
やっぱり不思議と嫌な感じはしないんだよねぇ、例えるならば学校の友達みたいな感覚。
ツンツンしてて人見知りをする、席が隣になった男の子。私が「よろしく」と言うと、ダルそうに目を逸らし「……よろしく」とでも言う、達観したようにも見える子供心を忘れていない男の子。
そう、仲良くなれそう。もしかしてこれって種族間交友!?
ただ問題は私が奴隷で彼は私を性奴隷として買ったということかな。
……ああ、帰りたい。
おうち帰りたい。
まだ、ね? 私が家庭の事情で身売りした悲劇のヒロインだったりとか。犯罪をしてしまっていたりするっていうのならば諦めたりもする、のかも、しれないけれど。
さあ、思い出してみて。
私は気づいたら異世界にいて、偶然通りかかった馬車に助けを求めたらそれが奴隷商で、馬車に乗ったとたん狼男に性奴隷として買われたっていう不幸すぎる経緯を持つ、普通の女なんだよ?
……今日は厄日だわ!?
せめて。そう、せめて彼を……エディスさんを好きになる努力をしよう。彼はきっと、いい人だ。悪い人なら後ろに乗せてくれたり、抱きしめてる私の腕をそっと愛おしげに撫でたりはしないでしょう?
そう、ちょうど彼氏がいなくて、欲しいかも? 程度だったから……ちょうどいい、んだよ……。
「おい、泣く気持ちはわかるが鼻水をつけるのはやめてくれ……そこは届き難いんだ」
首筋を掻くように手を伸ばしてポンポンと、頭を撫でられる。男の子は泣いている女を撫でてればいい、とでも思ってるのかな? 甘く見られたものだね、なんなら涎だってつけてやろうか……?
「ここだ、ここ。これが俺の家だ」
馬に揺られて少しした頃、お尻も痛くなってきたなぁ、って心の中だけでぼやいていた。
紹介された家は見た目ボロ屋敷の、いわゆる木造平屋一戸建て。内装を案内してもらうとまさかの3LDK、地下付き。
地下は自分で掘ったと言っていた、何年かかったのかな。何歳なのかな。見た目……身長的にも二十歳は越えてるのかな。わかんないや。
「利矢には料理を任せる。買い物は俺がしてくるから、できるだけお前は外に出るなよ。ここは、何かと物騒だからな」
冷蔵庫に案内されたので開けてみる。見事に食材がなく、すっからかん。
あるのはレタスに鶏肉(開封済み)と野菜ドレッシング……調理器具はフライパンも厚底鍋もコンロも包丁もおたまなんかまであるから困らなさそうだけど。
この包丁を拝借して逃げたりできないかな?
……無理だろうなぁ、さっき物置部屋を片付けてくるって言ってクローゼットを軽々しく持ち上げてたからなぁ。
あ、ちなみに私にも一部屋くれるみたいで、その物置部屋を綺麗に片付けて私の部屋にしてくれるんだって。
プライバシーは必要だから、って理解度が高いけど、ここまでされると肥やしてから食べる気なんじゃないかとビクビクしちゃう。いやでも、もしかしてもしかするとホントに私に手を出さない可能性もあるよね。
もしそうなら……やったぁ。
家を探検していたら、居間に来るように言われた。
多少警戒しつつ、具体的にいうと包丁を隠し持ちながら、居間へ行くとお茶……冷えた麦茶を用意した、エディスさんが座っていた。
私にも座るように言ってくるので、素直に従って座る。
「単刀直入に聞く。その黒い髪に黒い目、物珍しそうに周りを見る態度、狼男を抱きしめるバカな行動から考えて。……お前、異世界人だな?」
この人、よく見てるなぁ。
「そう、です、けど……」
「ああ、別に何があるって訳じゃない。いろいろと、この世界のことを教えるつもりだが、まずは異世界人の……お前のことが聞きたい」
エディスさんは、オモチャを与えられた子供のような目で、私の……地球のことを聞いてくる。
狼男……というより、種族が違っても表情がある程度動けば? 目がキラキラすることってあるんだね。
「私が生まれたのは地球、というところ。です……」
こうでいい、のかな? 自分の世界のことを説明するのは少し難しいね……。だって、地球って世界じゃないし、宇宙をどう説明するのか悩んじゃうし。あの奴隷の女性は、私にわかりやすく説明するために頑張ってくれていたんだね。
あの奴隷の女性、名前なんだっけ?
「名前や年齢に生年月日、血液型、家族構成や住んでいた地域名なんかも教えてほしい」
助け船を出してくれたみたい。言われたものを順番に言えば終わりそう、それなら楽々だね。
「橋本利矢、十六歳で一九九六年十一月二九日生まれです。O型、です。家族は、両親と兄の四人家族で住んでいた場所は佐良富市、です」
エディスさんを見ると、目を瞑り、聞いた情報を整理しているようだった。それから少しして、目を開けると私の目をじーっと見てくる。
……いいムードにしようとでもしてるんですかね?
「……ああ、ありがとう。この、世界とは、いろいろと違うと、わかった」
つっかかりながらも、そう言ったエディスさんは少し目を伏せてこう言った。
「じゃあこの残酷な世界について教えてやろう」