雨の日に馬鹿を見る
なんだろう。
新しい雨仲間は年上っぽいんだけど、フランクで、僕の言葉を否定はするけど拒絶はしない。
しかも僕の心を見抜いてくる。だから、最初は油断ならないと警戒していたんだけど、なんか、馬鹿らしくなってきた。
僕が、嘘つきだなんて。
笑っちゃうじゃないか。
新しい雨仲間は警戒に値する人間だ。
だのに、僕を[友達]だなんて呼ぶんだ。
笑っちゃう。
本当、笑えちゃう。
他の二人も、僕が[友達]であることを拒絶しない。
なんだ、もう僕。
傘を差しても嘘つかなくていいんだ。
正真正銘の
[友達]が、いる。
だから、気遣って、あの子の家に行くのをやめようという雨仲間くんの申し出を断った。
あの子の家が近いのも事実。
けれど何より……
初めて、謝らなくちゃ、って、思ったんだ。
あの子に。
「昔、傘の中で密やかに逢い引きするっていうのがあったそうですよ」
なかなか物知りのフードくんが以前、教えてくれた。
「堂々と逢い引きできる立場同士じゃない方たちが密やかに親交を深めるために利用したものの一つが傘だとか。傘といっても、今みたいに蝙蝠傘はありませんから、番傘ですね。こうして考えると、結構雅な風習なんですよね、相合い傘って」
それを知ってるフードくんが雅だよ。
僕は正直、あんまり頭がよくないからさ。
得た知識を上手く生かせなかったんだ。
天才たるあの子のことだ。
あのとき、[相合い傘]なんて死語を持ち出した中には、そんな謂れを掛けたメッセージが隠れていたにちがいない。
わかりにくすぎて笑える。
でも、わかった今だからこそ、あの子には謝らなくちゃいけない。
そうして、彼女の気持ちに答えを示さなくちゃいけない。
今まで傷つけすぎた彼女の心を癒す術なんて、僕は持ち合わせちゃいないよ。でもせめて、素直に、今まで隠し、欺き続けた気持ちを伝えたら、救えないかな?
君も、僕も。
「ほら、あの家」
「でかっ、あそこってここいらじゃかなり有名な名家じゃんか。そんなやつと幼な」
カッ
稲妻が暗い屋敷の窓を照らした瞬間、雨仲間くんは息ごと言葉を飲み込んだ。俺っ娘ちゃんもだいたい同じ反応。フードくんは声のない悲鳴を上げて、フードも傘も無意味にしている。
稲妻が瞬いた、その一刹那で僕は気づいたんだ。
気づくのが、遅すぎたことに。