00話 なんか死んだっぽい
本当に、なんてことない普通の人生だったと思う。仕事をして、友達と笑いあって、たまに実家に帰って、お気に入りの漫画を読んで。
俺はいろいろ恵まれていたのだ。
就職できたことも、心を通わせる親友ができたことも。なにより家族がいたことも。
だが、そんな幸せは突如として崩れ落ちた。
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俺、森 祐希。
大手電力会社に勤める、絶賛彼女募集中の一人暮らし。25歳。
今はなにをしているかというと、駅前で待ち合わせをしている。
今日、中学時代からの親友と出かけることになったからだ。理由は単純、ヤツが会いたいと言ってきたからで。
ヤツ、つまり佐野 昌は、他人から見れば自由気ままで空気を読まないバカである。そのくせ何かと鋭いので油断できない。正直、俺も最初はそう思っていた。
しかし本質は、コロコロ鉛筆でテストを乗り切る(しかもそれが全て当たっているというなんとも羨ましい幸運の持ち主)だとか、意外と素直な愛すべきバカだったりと、憎めないヤツ。
ただ、ヤツの頭には不可能と言われた難関高校を俺と一緒にバカをやりたいというくだらない理由のために受験し、奇跡的にコロコロ鉛筆で乗り切ったのには驚いた。私立の高校だったので、選択問題が多かったのが救いだったと言えるだろう。
ともかく、昌は憎めない親友なのだ。
「おーい、ゆーき!待たせちまったか?ワリィな」
手を合わせながら謝りつつ、それでも笑顔全開の昌。一ヶ月ぶりだが、特に変わったところはなさそうだ。強いて言えば、もともと短かった髪が更に髪が短くなったことくらいか。
「俺も今来たとこだよ。相変わらずだな………っていうか、髪短けーことくらいか?」
「はは、仕事に邪魔だからな。しっかし、相変わらず幸運フィーバーが続いてるよ。いつかツケが回ってきそうでこえーな」
くだらない会話を続けながら、街を歩く。
どうせいつものようにうどんを食って、そこでオススメ漫画の情報交換をして、本屋に行くという流れだろう。実際、いつものうどん屋さんに向かってるし。
しかし、悲劇はそこで起きたのだ。
遠くに聞こえるパトカーの音。
なんてことない、すぐ捕まるだろうと思っていたが………サイレン音は近づいてくる。
ふと振り返れば、車が突進してきていた。
「うぉああああああああああ!?」
隣で叫んでいる昌。頭は今の状況を拒否するがごとく、思考を停止して。間もなく、全身を痛みが襲った。
いったああああああああ!?なにこの痛み!?全身の骨がバッキボキなんだけど!
隣を見れば、血の海に沈んだ昌が。血文字で「PCデータ全部消してくれ」と書いているが残念、血に呑み込まれている。「クッソ………男の夢が…バレてしまう!」とかなんとかブツブツ言っているが俺は気にしない。消さないお前が悪いのだ。
今まで幸運に恵まれたツケが回ってきたんだよ、バーカ。俺も巻き込まれてるし。
ああ、クッソ…………意識が沈んでいく。待ってくれ、まだ、俺は………死にたくないんだ!
遠くで聞こえるサイレンの音。
これが、死か…………
案外、あっさり死んじまうんだな。
ここで、俺の意識は闇に飲まれた。
気づかない。誰も、気づけない。
そこに、小さな空間の歪みが生まれたことに。
佐野昌は、最後に幸運に恵まれた。親友を死なせたくないという願いから、彼の魂を異世界に送ることができた。
本人は気づいていないが。
佐野昌という人間の人生は、そこで終わったのである。
“人として生きる道”は、そこで閉ざされたのだ。
二人の願いは、異世界にて叶えられることになる。
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「ここ、どこ?」
その日、小学生くらいの少女のような外見をした人間が、ポツリと森の中で立っていた。




