第1章~晴れのち曇り~
この物語はいじめを題材としています。
連載小説なので、完結ではありません。
続きを想像しながら、お楽しみくださいませ。
プロローグ
待ちに待った今日が来た。
私はいつもより早起きをして、勝手にはずむ足にやっと追いつきながら、全速力で学校に向かった。
こんなに清々しい朝が、今までにあっただろうか。
まだ誰もいない。
教室にさよならを告げた私はそそくさと屋上へ向かった。
澄んだ空気を目一杯吸い込んで、屋上の柵に手を掛けた。
裸足で立つコンクリートは冷たかった。
目覚まし時計が鳴った。
真新しい制服に身を通し、階段を駆け下りた。
「お母さんおはよう」
私は、早く学校に行きたくて仕方がなかった。
「おはよう。もう着替えたの、早いわね。」
お母さんは呆れたように笑った。
「お母さん早く。入学式遅れちゃうよ。」
「まだ大丈夫よ。気が早いのよ、沙奈は。」
そう言いながらもお母さんはもう化粧済みだった。親子だなぁ、と他人事のように思う。
学校に着くと、教室には誰もいなかった。
やっぱり早かったかな。
そう思っていると、女子の集団が教室に入って来た。
早くも仲良しグループが出来上がっているのか。
私は焦った。
女子という生き物は本当に面倒臭い、そう思いながらも我慢するしかなかった。
「あの、私もグループに入れてくれないかな…」
恐る恐る尋ねてみた。
案の定、女子たちの反応はよくなかった。
「うん…まあいいけど…」
反応は良くなかったが、不満はなかった。
その女子達が、みんなおしゃれで可愛かったからだ。
不安と言うよりも期待の方が大きかった。
これから何とかやっていけそうだ。
女子達の顔は笑顔だった。
「おはよう」
私は笑顔で挨拶をした。
「おはよう、沙奈。遅いじゃん、早く雑誌見ようよ。」
「ごめん、ごめん。」
よかった。笑顔だ。
先生がいても動揺せず、堂々と雑誌を広げる彼女達と一緒にいることに、誇りさえ感じられた。
彼女達となら、親友になれるかもしれない。
私は心からそう思った。
5月に入り、体育祭の時期になった。
6時間目に種目決めが行われ、女子の間では、もうすでに揉め事が始まっていた。
「誰かリレー出てよ。」
と、グループのリーダーであるナナが、私の顔を覗き込んだ。
え、私・・・?
「あ、そうだ!沙奈ってー、走るの速いんだっけ?」
そんな情報どこで仕入れたのだろう。
みんなに聞こえるような声で、そう言い放った。
みんなが注目している。
私は早く決めて帰りたかったので、引き受けることにした。
私は引き受けてしまったのだ。
そう、そんな単純な理由で・・・
次の日から、朝練が行われた。
案の定、ナナは遅刻して来た。
平気で遅れてくるナナに、私はこう言った。
「ナナ遅いじゃん。早く練習始めよ。」
冗談で言ったつもりだったのに、ナナは鋭い目で私を睨んだ。
「別にいいじゃん。私は何にも出ないんだし。沙奈だけでしょ、リレー出るの。」
「ごめん、ナナ。私ナナを責めたりとか、別にそんなんじゃなかったの。」
「まぁいいけど。早く練習始めれば」
「分かった。ありがとう、ナナ」
ナナは笑顔だった。
体育祭当日、私は緊張していた。
あんなことがあって、緊張しない人は、そういないだろう。
『沙奈、明日はがんばろうね。応援してるから』
『うちらも、期待してるから!転んじゃだめだよー』
プレッシャーに押しつぶされそうになった昨日。
私はなかなか眠れなかった。
それが当日になってしまい、もう緊張どころではない。
食欲もなく、朝から何も食べていない。
ちょっとフラフラするけど、大丈夫だよね・・・
午後のプログラム。
ついにリレーが始まる時が来た。
私の心臓は周りに聞こえるんじゃないかってくらい、ドキドキしていた。
…怖い。
スタートを告げるピストルが、私にはまるで銃撃のように聞こえた。
武器にまで見えてしまうバトンが、徐々に迫ってくる。
バトンが手に渡ると同時に、全体に痺れがはしった。
足は鉛のように重い。
視界が真っ暗になった私は、その場に倒れこんでしまった。
あぁ…ダメだ…
気が付くと、そこは保健室のベッドの上だった。
体育祭はもうとっくに終わっていた。
ヤバい…
とんでもないことをしてしまった。
こんな失敗をするくらいだったら、もっと練習をすればよかった。
無理をしてでも、朝ご飯を食べればよかった。
明日謝れば、きっとみんなは許してくれる。
ナナも、許してくれるよね…
皆さんこんにちは!作者の祇園亜子です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
2作品目ということで、初の連載小説を書かせていただく事になりました。
第1章はどうでしたか?
まだまだ真相は明らかではありませんので、次の投稿をお待ちいただく事になります。
学校のテストなどで、投稿が遅れてしまうことがありますが、ご了承ください。
次の章もどうぞよろしくお願いいたします。