コビン屋 桜木の下で君と①
私の性格といえば、積極性が無くて、心で思っていることを相手にハッキリ言えない……昔からそうだった。いつも人に合わせて行動する、自分の周りから人が離れていくのが怖くて、頼まれたら断れない……そんな子。
小学5年生のあの日。そう、あの日も、自分の情けなさに反省しながら歩いていたっけ。
「何で断れなかったんだろう……」
学校からの帰り道、咲村 花恋はひとりぼっちの道で小さく呟いた。今日もクラスの子に頼み事という名の面倒事を頼まれ、断れなかった。いつものことだけど。
「よし、今日も寄っていこう」
いつものお気に入りの場所へと、花恋は足を向けた。
「わぁ!まだ咲いてる」
大きな桜の木を見上げ、花恋は微笑む。そこは、小高い丘の上。山道を少し抜けた先にあり、知っているものは少ない場所。そこには大きな桜の木がたっており、きれいな花をつけている。
やっぱりここは落ち着くなぁ。
木の下に座り、息をつく。心地よい春風が、優しく頬を撫でた。
断る勇気が私にあれば、こんなに悩まなくていいのに。
「私なんか、だいっきらい!」
大空に向かって、大声で叫んだ。その時。
「何してるの?」
誰かの声に驚いて、花恋は振り返った。そこには、ひとりの少年の姿があった。
「え……えっと」
見知らぬ人に見られていたと気づき、花恋は恥ずかしさでいっぱいになる。
「ここ、座ってもいい?」
そんな花恋を気にもしない様子で、少年は花恋の隣を指す。
「え!あっ、どうぞ」
少年は座ると、手に持っていた本を開き、読み始めた。
沈黙の中、花恋は少年を盗み見る。色白で、読書をする横顔は、ついつい見とれてしまう。
クラスの男子にはいないタイプだなぁ。
そんなことを思っていた時、ふいに彼と目があった。
「どうしたの?」
「え!いや、えっと……どこの学校ですか?」
「あぁ、第二小だよ。君は?」
本を閉じ、彼は言った。
「わたし……は、第一小です。えっと、咲村 花恋です」
ペコリと頭を下げて、情けない顔を隠した。
「僕の名前は……」
彼の声に顔をあげる。風が、ザアッと音をたてて桜の枝を揺らした。
「戸山 春人」
あぁ、なんてきれいな声なんだろう。
それが、私と春人君の出会いだった。