コビン屋 開店
あなたはコビン屋を知っていますか?
そこは、強い思いを抱いた者たちが導かれる店。棚に並べられたコビンを開ければ、きっと、あなたが望むものが入っています。
あなたの思いは何ですか?
そこは不思議な不思議な町の中。空は夕焼けのオレンジ色に染まり、道には誰もいない。人の気配などまったく感じられない町の中は、まるで時がとまっているかのようだ。家や店には灯りがともっておらず、閑散としている。そんな中、ただひとつだけ、窓ガラスから柔らかな光を放つ店がある。『コビン屋』と書かれた看板は、美しい色とりどりのガラスの破片が装飾されており、キラキラと輝きを放っている。そして店の中からは、何やら話し声が聞こえてくる。
「ノア!サボってないで手伝いなさい!」
美しい金髪、澄んだ青色の瞳をもつ少女が、店の奥に向かって叫んだ。彼女の名はキア。このコビン屋のオーナーである。
「うるさい……もう少し寝かせてよ」
奥から不機嫌そうに現れた黒髪の少年、彼の名はノア。この店の居候である。
「いつお客様がいらっしゃるか分からないのだから、コビンの整理はやっておかないとでしょ!」
自分より背の低いノアに対し、キアはまるで母親のように怒る。
「……はいはい、やるから怒鳴るなよ」
ノアはやる気無さげに伸びをした。
窓から見えるのは、静かな町の景色とオレンジ色の空だけ。店内には、様々な色のコビンが並べられており、不思議な輝きを放っている。どれも異なった形をしており、同じものは見当たらない。
「さて、新しく入ったコビンも並べないとね」
やる気のないノアに対し、キアはウキウキしながらひとつの箱をカウンターに置いた。
「あっ、それって季節のコビンか?」
箱を開き出す彼女の横で、ノアがニュッと顔を出す。
「そうよ。綺麗なコビンでしょう?」
キアは箱から4つのコビンを取り出し、並べた。
「きっと、このコビンを必要とするお客様が現れるわ」
優しい笑みを浮かべ、キアはコビンを見つめた。その隣で、ノアは大きなあくびをひとつ。
コビン屋には、強い思いを抱いた者たちが導かれてくる。何を望むかは人それぞれ。コビンは、不思議の扉を開く鍵となる。
今回は、季節のコビンの話をしましょう。
季節は巡り、新たな物語を運んでくる。不思議の扉を開くのは誰でしょうか。
それでは皆さん。コビン屋、開店です。