7話 バカップルゲーマー・2
気が付くと草原で寝ていた。
いや、倒れていた。
「いっ……!」
頭が痛い……
いったいなにが起きた?
《フロンティア》をプレイ中に急にふらついて、それで……?
痛みをこらえながらも、起き上がって周りを見ると俺の横には桜の姿があった。
アバターの姿ではなく現実の桜だ。
だが、装備はゲームで装備していたものだな。
どういうことだ……?
「うぅ……ん……あれ?」
「お、目が覚めたか。大丈夫か?」
「え、零くん?……あーうん。大丈夫……少し頭痛いけど……」
桜に手を貸してやり起き上がらせる。
「ありがと。……なんで現実の顔?もしかして私も?な、なんで?私たちさっきまで《フロンティア》プレイしてたよね……?」
「ああ、確かにプレイしてたと思うが……俺も気づいたらここで倒れてたとことしか分からん」
一体なにがどうなってるのかさっぱりだ。
俺たちはさっきまで確かに《フロンティア》で戦っていたはずだ――――
《フロンティア》の攻略も進みついに最終ボスと戦うことになった。
今では俺もサクラも攻略ギルドの一員になってたりする。
本腰いれてプレイしてみてもいいかもしれないと途中で思ったためだ。
とはいえ相も変わらずサクラとイチャイチャはしていたのでギルド員のヘイトを無駄に集めていたりするわけだが。
そんな感じの俺たちだが元々異常に強い二人組として知られていたのでギルド加入自体はすんなり受け入れられたし攻略ギルドの中でもその活躍に期待されてたりする。
ギルド内最強決定戦では俺とサクラでワンツーになった。
サクラとは決勝で当たったわけだが俺は愛するサクラに対して攻撃することなどできずに……
なんてこともなく、元々こういう機会が合った時は互いに全力でという約束があったのでどちらも全力でぶつかり合った。
俺が攻撃すればサクラは最小限の動きで回避してカウンターを仕掛けてくるがそんなことは分かりきっているため攻撃しながら駆け抜けることでそれを回避する。
サクラから攻撃を仕掛けてくる時は二刀流による息もつけない連撃がきて俺はそれを必死に弾く。
そんなやりとりを延々繰り返して最期は少しずつ巻いていた痺れ薬でサクラが麻痺に掛かったところを押し切った。
説明すればそんな感じなのだがギルド員曰くそれぞれブレた姿しか見えずわけが分からなかったとか言っていた。
そんなわけで最終ボスには攻略ギルドの主力として参加していた。
最終ボスはデーモンロード。なんでもこの世界を暗黒に包み悪魔の世界に仕立てあげるため異界から現れたとかなんとかそんな感じのストーリーが背景にあった気がする。
さすがにラスボスなだけあってそいつは強く何より狡猾だった。
なんとこちらのプレイヤーを何人か操って同士討ちさせてきたのだ。
味方からの不意打ちでタンクの連中は沈んでしまいさらに配下の悪魔が召喚されて一気に泥沼となった。
なんとか撃退するもこちらの損害も大きくしかもデーモンロード自体はピンピンしている状況で追い詰められていった。
だが、それでもさすがにトッププレイヤー達で、徐々に持ち直し攻撃を地道に与えてついに瀕死まで追い込んだ。
激戦の末の勝利の予感に誰もが油断してしまった。
その油断をつかれてしまいデーモンロードが残った力を費やして自己を強化し今までとはケタ違いのスピードで襲いかかってきた。
それにより俺とサクラ以外のメンバーが沈んでしまうことになったがメンバーの一人が死と引き換えに発動させた<命の鎖>というスキルによってデーモンロードの動きが一時的に止められた。
俺とサクラはそれを見逃すこと無く<斬首>で首を落とし見事ラスボスを撃破したのである。
だが、ボスが消える間際に
「俺の敗けだ……だが、目的は果たした……」
と、俺たちに告げていった。
その瞬間辺りが光で包まれて俺と桜は気を失った。
―――で、今のこの状況。
「……ゲームの中なのかな……?」
「小説みたいな出来事が起きちゃったってこと?」
ラスボス倒したら異世界ってそんなファンタジーあるわけないって思ってたが我が身に振りかかるとは……。
「ん?ねえなんか指輪光ってるよ?」
「え?」
桜にそう言われ俺の左手を見る。
その手の薬指には俺と桜の結婚指輪がはめられていて桜の言うとおり確かに光っていた。
桜の指輪も見てみればそちらもやはり光っている。
「なんだこれ……?」
そう疑問を口にした時指輪からSF物でよく見るような半透明の画面が飛び出してきた。
「なんか書いてあるな……『緊急事態発生 休神状態を強制解除します』?なんだそりゃ―――ッ……!?」
「え、なにこ―――」
突如、頭が割れるように痛むと共に様々な知識や記憶などが蘇ってきた。
「あーお休みチケットってそういうこと……」
「神としての能力、記憶など消した上で一つの人生を生きれるっていうものだったんだね……」
神野零……まさしく俺のことだ。
俺はレイと言う名の正真正銘本物の神様だもんなあ。
「あークソッ、頭痛え……」
「私も……」
頭痛が酷え。
多分これはいきなり神としての記憶が蘇ったせいだろうな。
そのショックに身体が耐えられなかったんだろ……ってあれ?
神がその程度のショックに耐えられないものだろうか?
まてよ?
「ステータス確認」
「え、なに?」
……やっぱり。
「どうやら、俺たちは神としてのスペックではなくゲームキャラのスペックでここに存在しているようだな」
「え?す、ステータス確認!……ほんとだステータス出た……そもそもこれで確認できるってことはゲームのシステムがある程度生きてるってことだよね」
<端末>みれば詳細わかるだろうか?
確か緊急事態が発生したんだっけか。
『強制解除にエラー発生。能力制限が一部解除されませんでした。 緊急依頼発生。大規模な世界融合を確認、原因を直ちに見つけ出し排除してください。』
「うげー強制縛りプレイですか……。しかも原因が何か分かってないっぽい」
「なんかこれ、緊急とか書いてるし結構重大な問題らしいね?」
縛りプレイで重要案件どうにかしろとかやめてほしいわ。
「とりあえずどうしようか……」
「うーんここってさあ、どこなんだろうね」
「ゲームの中かもしくは酷似した異世界ってのが有力だろうなあ」
「じゃあ、やっぱりここってさ、あそこじゃないかな。ほら私たちがよく利用して―――」
サクラの言葉は途中で切れることになった。
だが、サクラが言わんとすることはすぐに分かった。
というか、もうね。
お馴染みのあいつの登場ですわ。
「鉈巨人か。ま、余裕だな」
懐かしの経験値がやってきた。
当初、余裕だと思っていたが俺たちは思いの外苦戦していた。
このボスの特徴はこちらの強さに合わせての強くなるというものだったが俺たち二人はなんだかんだでラスボスを倒しているくらいには強い。
そんなわけでこいつもかなり強化されていた。
まあこの世界でのこいつはもともとこれぐらい強いのかもしれないが。
鉈の一撃は明らかに威力が上がってるようだしスピードも早くなっている。
まあそれでもそんな攻撃に当たる俺たちではないが何よりも問題なのがこいつの防御力の強化だった。
持っていた装備でこいつを攻撃した途端武器が砕け散った。
ふざけんなって感じである。
あの武器ラスボス戦で使ってたやつだぞ。
耐久値がギリってわけでもなかったのに。
それが通じないっていうのか?
そんなわけで俺もサクラもただ回避に徹している。
うーむ。
いやまあ別に<神器>があるから焦ってるわけではない。
が、ゲーム世界の最高水準の武器が通じないっていうのはつまりそれだけ相手が強いっていうわけで不安がある。
ただでさえ縛りプレイになってるってのに。
多分こいつが現れたなら原因って間違いなくあのデーモンロードだよな……
あいつ倒してここにいるんだし。
こいつがこれだけ強化されてるならあいつも強化されてそうな気がする。
「あー考えてもしゃーないかあ」
「もうやっていい?レイ」
「そうだな、やっちまおう」
その瞬間サクラの手元には神狼の姿が描かれた短剣が逆手に握られた。
俺も<神器>を呼び寄せて刀へと変える。
試しに軽く斬りつけてみれば防御力が強化されていても<神器>は防げないようであっさり斬れてしまう。
「こりゃうだうだ不安に感じる必要も無かったかも、な!」
即座に接近して左足を膝から斬り落としてやる。
「<神器>が通じるなら別に武器の心配はいらないもん、ね!」
サクラが反対の足を同じく斬り落とした。
両足を膝から失って立っていられなくなった巨人は倒れこむ……かとおもいきや斬られた足で立っている。
大した根性だが体勢を保つのがやっとで動き回れるわけでもない。
それでも腕の力だけで振るわれる鉈は未だかなりの威力を有しているようだ。
とはいえやはり遅い。
あっさりとサクラにそれを回避されてカウンターで手首を斬り落とされる。
ゲームの時よりもスムーズに部位破壊できるな。
その後はズタズタに斬り裂いておしまいだった。
「うーん。普通の武器が通じないってのはびっくりしたけど結局<神器>あるから余裕だったな」
「むしろ<神器>で攻撃力補えるから私たちのスピード特化はかなりのものになるね」
思ったよりスムーズに原因を排除できそうかな。
さて初期地点が巨人っていうのはよくわからないがまあ原因と思われるデーモンロード目指すとするかね。
ゲームの時はエリア開放にボス倒す必要があったけど今はどうかな?
あ、それを言えばデーモンロードがゲームと同じ場所にいるとも限らない……のか?
まあ、手がかり無いからなあ結局は行くしか無いか。
「んじゃ、ラスボスエリア向かおうか」
「おー」
サクラが片腕を上げながら返事をする。
なんか精神若返ってませんか?
カワイイのでノープロブレムですが。
とりあえず巨人を倒した先にあるはずの街へと向かうことにする。
道中サクラと腕を組みながら歩きいろいろと話をしていた。
「そういえばお休みチケットで擬似的にだけど19年分人として生きたわけだけどサクラ的にはどうだった?」
「んーなんて言ったらいいのかな。いろいろ楽しいこともあったしおいしい物もあったけど何よりもいいって感じたのがあるよ」
「それってなに?」
「入学式の時レイと出会って胸がドキドキして身体が熱くなってね。好きになるっていう気持ちがよく分かったんだよ。それでレイに告白されて結婚して一緒になれて嬉しかった」
「へえ」
「でね。今は元の私になったけどその時感じたことは覚えているし好きっていうのがどういうものなのかも分かってる。そして自分のことを思い出してみると私最初っからレイの事大好きだったんだって改めて分かった。今もレイと一緒にいれてすごく嬉しくて身体が熱くて……それがわかったのがとっても嬉しい」
そういって照れくさそうに微笑むサクラはあまりにも綺麗でつい見惚れてしまうようで……。
「お、俺もサクラのこと大好きだからな。なによりも」
俺は照れながらもそう返した。
「うん!私も大好き!!これからは私もっと甘えるから!」
そうしてサクラに抱きつかれれば俺も力強く抱き返す。
サクラとこうやって抱き合うのは大好きだ。
互いの体温を感じられる。
互いの存在を感じられる。
すごく安心できる。
抱きしめあいながらも互いに見つめあう。
次第に二人の顔は近づいていき……熱い口付けを交わしていた。
顔を離せばサクラの顔は火照って赤らんでいる。
多分俺も顔が真っ赤だ。
これまでも散々イチャイチャとしていたのに今は無性に照れくさく感じてしまう。
これからもずっと俺たちは一緒だ。
心情描写難しい。
分からない。