6話 バカップルゲーマー・1
お開きの小説は『死んだら神になりました。』で間違いございません。
巨人のような姿をした化け物が右手に持った巨大な鉈を振り下ろしてきた。
俺はそれを回避して懐に潜り込む。
あれだけデカい鉈だから攻撃後のモーションも鈍重になるため鉈でこちらをどうこうすることはできない。
化け物もそれを分かっているのか鉈を引き戻そうとはせずに前蹴りを繰り出してきた。
それをジャンプして避けて、そのままその足を踏み台にしてさらに飛び上がる。
そうしてようやく化け物の顔とご対面だ。
その顔を手に持った忍刀で数回切り刻む。
化け物も回避しようとするが巨体ゆえに避けきれず浅いものではあるが傷を負った。
それでも化け物は怒り狂う訳でもなく空いた左手を握りしめ、殴りかかってきた。
それを今度は奴の鼻っ柱を蹴りその反動で回避してまた元の場所へと着地する。
「あと、ちょっとだな」
既に化け物のHPゲージは半分を切っている。
手数で勝負するのが俺のスタイルだから、一発一発が弱い。
攻撃を避けながら攻撃ではその手数もあまり稼げない。
だが、それももう終わりだ。
「これでもう俺の勝ちだ!!」
おもいっきり駆け出す。
化け物もそれに応じて鉈を振ろうとするがその動きは明らかに遅い。
状態異常が効いているのだ。
鉈が振り下ろされる前に通りすぎ、足元を抜けながら脛の辺りを斬りつける。
後ろまで駆け抜けたら直ぐ様切り返して、振り下ろした体勢で前かがみになった敵の背中を斬り刻みながら駆け上がる。
そして無数の傷が背中へと付けられる中、立ちあがろうとする化け物の動きに合わせジャンプして飛び上がった。
それにより一気に空中へと飛び出して、敵はこちらを見失ったのかキョロキョロしている。
俺はいま敵の真上にいるのだから周りを見ても見つからない。
落下する勢いそのままに俺は化け物の脳天に忍刀を突き刺せばこれまでにない大きなダメージを与えることができた。
それと同時に化け物の動きがHPもまだ1/5程残っているのにピタリと止まる。
鈍足の次は麻痺に掛かったことを理解した俺は化け物の肩へと降りてスキルを発動した。
「<斬首>!」
<斬首>は不意打ちによる攻撃または、動きの封じられた敵に対して有効で大ダメージを与える。
またその敵のHPが1/4以下の場合その名の通りに首を落としてHPを全損させるスキルだ。
効果が発動して化け物の首が落ち消えていった。
「よっし、撃破!」
「レイくん、おつかれさまー」
化け物を倒した所で労いの声がかかる。
その声に振り返ればニコニコと笑顔を浮かべた女の子。
労ってくれたのは俺の同級生の神野 桜で、今はサクラというプレイヤーネームで俺と一緒にこの《フロンティア》という名のVRMMOゲームをプレイしている。
ちなみに俺は神野 零という名前でここではレイというプレイヤーネームでプレイしているが、二人共同じ苗字なのは俺達が夫婦だからである。
俺たちは大学生だがお互い親の遺産で何もせずともお金が増える状態でなんら心配すること無く一緒にいることができる。
つまり俺たちはVRMMOでイチャイチャとしながら多くの他プレイヤーのヘイトを集める存在である。
彼女との馴れ初めは一言で言えば一目惚れしたから告白して結婚した、というものである。
告白した時は入学式の直後で周りには多くの人がいたが「俺と結婚してくれ!」と告げた。
周りの連中は何言ってんだって目でこちらを見てきたが彼女が「よろこんで」って返した時は目を見開いて驚愕の表情を浮かべていたのを思い出す。
「なにニヤニヤしてるの?」
「んん? いや、ふとサクラに告白した時を思い出してな」
上目遣いでサクラが聞いてきたので正直に答えた。
「あーあの時はびっくりしたよ。入学式でいきなり告白されるんだもん」
「その割にはすぐ返事を貰ったけどな?」
「そりゃそうだよ。私も一目見て好きになってこの人が運命の人って直感しちゃったんだもん」
「お互い一目惚れか。似たもの同士だな」
「うん!」
思わずお互い近づいてギュッと抱きしめ合った。
「さて、次は私の番だね」
「おう、がんばれよー」
「がんばるー」
バカップルな俺たちが今何をしてるかというとボス狩りである。
といっても新たなボスが現れたから狩っているというわけではない。
ここのボスは最新エリアへ行くために倒さねばならないボスであるが、既に攻略組を名乗る皆さんは既にここをクリアしてこの先のエリアでレベル上げに励んていることだろうし、後追いの人たちも半分は抜けている。
ボスは何度でも戦い直す事が可能で俺たちはそれを利用してボスとソロで連戦している。
ここのボスはこちらのパーティの強さに合わせて難易度を変えてくるのでソロでやると経験値稼ぎに丁度いいのだ。
ちなみに普通に強いので6人パーティが二組組んで挑むのが定石らしいので俺たちのやってるレベリングはやや非常識かもしれない。
さて、サクラのボス戦が始まった。
サクラは短剣の二刀流でそれぞれを逆手に持って戦う。
手数で攻めるのは俺と似たタイプであるが……
ボスが鉈を振り下ろす。
鈍足の状態異常になってないボスの一撃はかなり早く近くで見ればかなりの迫力だ。
それをサクラは横に一歩ずれるだけで躱し、降りてくる腕の軌道に短剣を置いて斬りつける。
まるでボスが自ら短剣に斬られていくようにも見える。
今度は左手で薙ぎ払うようなパンチでサクラに襲いかかるがサクラは一歩後ろに下がるだけでまたもや回避。
そのついでに通り過ぎて行く腕を斬り刻んでいく。
そんな感じでサクラはカウンターで戦うのである。
攻撃を回避してカウンターで攻撃する。
このボスだとどうしてもその攻撃する場所は攻撃に使った場所そのものになる。
ひたすら鉈を持つ手や、殴りかかった腕を斬られていくとどうなるか。
――ボトッ
何かが落ちた。
落ちたのはボスの右手。
手首から全て落ちてしまっているのでもちろん巨大鉈も落としている。
これでボスの攻撃力は激減だ。
続いて同じように左腕も斬り落とされた。
こうなると後はもうボスにはどうすることもできない。
サクラはあえて巨人の股下に陣取って斬り刻む。
両腕がない巨人がそこにいるサクラを攻撃するには足踏みしかない状況だ。
その後は足が破壊され倒れたところで最後に俺と同じように首を飛ばして撃破である。
それからもひたすら交互にボスを狩り、ごくごくたまに後追いの人たちがポカーンとアホ面晒しながら観戦してたり逆に彼らがボスを倒していくのを観戦したり、ボスを狩ったりしてレベリングを続けた。
ここ最近はそれを毎日やっていたので俺もサクラもかなりレベルが上がってきて、そろそろここのボス訓練所もおしまいかなーと思い始めた頃に次のエリアを開放するボスが発見されたという情報が入った。
エリアにある公園へとやってきた。
大体どのエリアにも公園のような場所がありそこでパーティの呼びかけがあったりする。
丁度、今もボスに関していろいろやっているようだ。
「今回のボスはワイバーン。名前の通り飛び上がって空中からブレスを吐いてくる強敵だ。まずは遠距離攻撃で地に落とす必要がある。そのためタンク役がブレスを受け止めその間に遠距離部隊が攻撃、落ちたらタンク役が抑えつつ一気に他の火力部隊で攻め落とすしかないと思う。これは一つのパーティでは厳しいため今回はレイドを募ろうと思う。ぜひ参加してほしい」
どっかの団長様かっていう鎧を装備している人がレイドパーティを募集していた。
あれは攻略組パーティで有名なパーティのリーダーだっけか。
攻略組パーティは二組いてどうやら今回は互いに協力するようで最初からレギオンを組んでいるようだ。
それでも追加の人員を募集するってことは今回のボスは攻略組の二パーティ、つまり十二人じゃ足りないって判断したということなんだろうな。
まあ実際はこのゲーム全てのボスがソロで倒せるようになっているので倒せないことはない。
ただ、人数が少なければそれだけ攻撃が集中するのでそれを裁くのが異様に難しくなる。
もちろんソロでやったほうがHPは低くなるのだがそれでもパーティで参加したほうが楽だ。
パーティを組んだ時のボスのHPの増え方よりもパーティによる火力の増加分のほうが多くなるようになっているからね。
まあ、攻略組はパーティは良くも悪くもバランスのとれたパーティだっただろうしタンク職とか遠距離職とか足りないわな。
わざわざ大人数向けなボスを用意する辺り次のエリアではギルド機能が開放されそうな予感がするな。
呼びかけには結構な人数が応じていた。
後追い組は追いつくチャンスだしな。それも当然か。
尚、俺たちはというと……
「あ、レイくん! あれ! あの雲! 狼みたいでカッコイイよね?」
「ん、どれだ? あ、あれか。そうだな狼みたいでカワイイな」
肩を寄せ合いながら公園の景色などを楽しんでいた。
「カワイイなの?」
「カワイイだろ?」
「私はカッコイイだと思うんだけどなあ」
「まあその辺は感性の違いってやつだな」
「そっか」
似たもの同士でも違う部分ももちろんあるもんだ。
サクラもカワイイかカッコイイのどっちかハッキリさせようという訳でも無くただ会話を楽しんでるだけだったようだ。
ボス情報とレイド募集に騒いでいた連中の何人かはこっちに熱い視線を送ってくる。
それに気づいた俺はサクラの肩を抱き寄せるようにして視線を送ってくる連中を見てニッコリとしている。
サクラもサクラで幸せそうな顔で俺の肩に頭を乗せている。
連中の熱い視線に若干殺意を感じるがだれも喧嘩を売ってくることはない。
ちなみに、俺のは嫌がらせだがサクラは周りの連中のことがアウトオブ眼中なだけである。
「あーそこのバカップル二人。君らは今回も参加しないのかい?」
「いぇーす」
「しませんよー」
喧嘩は売られなかったが、声はかけられた。
さっきレイド募集を呼びかけていた人だ。
こういうレイド事態は以前にもあってその時にも俺たちはいたが参加しなかったのだ。
「君らが参加してくれればかなり楽になるんだがねえ」
「俺らはのんびりとプレイしたいので」
「うふふ、デートだもんね」
「どの口で言うんだか……」
ボソッとなんか言ってたが気にしない。
なんといわれようと俺たちはのんびりとプレイしてデートしているだけである。
ワイバーン攻略隊は移動を始めたので俺たちも付いていく。
参加こそしないがボスの行動パターンだとか攻撃手段だとかを観戦するためだ。
これもいつものことなので攻略組の面々は気にしないし後追い組の人たちも俺たちのことは知ってるのかスルーである。
俺たちは永遠の二番手なのだ。
ボスのいるエリアへと辿り着いた。
辺り一面木などは無くて荒廃した土地が広がっている。
ふーむ。
足場になるような場所はないか……。
俺たちはボスエリア手前にピクニックキットをアイテムボックスから取り出してボスエリアの手前でくつろぎ始める。
攻略隊はそのままエリアへと入っていく。
すると地面を大きな影が走ったかと思えば空からワイバーンが現れて攻略隊の目の前に勢い良く降り立ち咆哮をあげた。
なるほど咆哮が合図で戦闘開始ね。
一度地面に降り立ってからスタートか。
戦闘開始と共にワイバーンが空へと浮かび上がっていったが飛び始めはやや遅い。
なら俺たちにも手はあるな。
その後も攻略隊とワイバーンの戦いを観戦して自分たちではどう対処するかを考えていく。
それはともかくとして
「サクラこのサンドイッチかなりうまいな」
「ふふ、ありがとう。それはかなりの自信作なんだ」
「まあ、サクラが作ったのにまずいものなんて無いけどな」
この惚気である。
丁度今は仕事は無いのか遠距離攻撃担当の人の何人かが砂糖を吐き出しそうな顔をしていた。
戦闘中だぞ。集中したまえよ。
さすが攻略組の面々。安定してタンクがブレスを防いでその間に遠距離攻撃でワイバーンは地に落ちた。
後はもう飽和火力によってフルボッコされていくワイバーンが憐れで仕方ない。
そう時間も立たない内にワイバーンは撃破された。
これは攻略組の皆様を称えなければなりません。
「いやーさすが攻略組の方々だよな! いとも容易く空飛ぶワイバーンを倒してしまうとは!」
「うんうん。やっぱり私たちじゃ敵わないよね。やっぱりこれからものんびりいこう」
「「「白々しい」」」
なぜか総ツッコミを受けた。
解せぬ。
俺たちはどうあがいても二番手止まりだというのに。
攻略組の皆さんが次のエリアへと旅だった後、俺とサクラはワイバーンに挑んでいた。
さすがにソロで倒す手段は今はなかったので今回はサクラとパーティを組んだ。
ワイバーンが降り立ち、咆哮をあげ戦闘開始の瞬間俺は一気に駆けていくがその前にワイバーンは空へと旅立つ。
とはいえ飛び上がりは遅い。
その間に走ってくるサクラの方へと向き直り両手を前に組んで腰を落とす。
走ってきたサクラが軽く飛び俺の両手に足を乗せるのに合わせておもいっきり伸びながら腕を振り上げる。
うまい具合にサクラの前へと走る力を上向きに変えれたようでサクラはワイバーンと同じ高さまで飛び上がる。
サクラは紐付きの鉤爪を取り出し投げるとそれはワイバーンの首に巻き付いた。
落下の勢いによりロープは大きく揺れそれを利用してワイバーンの背中に取り付くことに成功したようである。
ワイバーンも予想外だったのか振り落とそうとするが上手くいかずその状態で翼を斬られていく。
どうにか振り落としたかと思えばサクラは振り子の様に揺れるロープをうまく使って空中で翼を執拗に斬り刻む。
そうしてワイバーンは地へと落ちることになった。
やっぱ部位破壊はサクラの得意分野だよな。
地に落ちたワイバーンは落ちた衝撃で動けないのか腹を向けている。
すぐさま俺は接近してその腹に忍刀で傷つける。
こいつの状態異常耐性はどんなもんだろうね?
それから10分ほど経っていた。
いやー二人だと地に落としても結構キツイものがあるねえ。
俺たち二人はスピード型だから抑えつけることはできないし尻尾の薙ぎ払いもあるからな。
だが、ワイバーンはこちらの姿を見失ってきたようだ。
たまにキョロキョロしては攻撃を再開している。
どうやら状態異常で目が見えなくなってきたみたいだな?
あ、完全に見えなくなったのか我武者羅に尻尾を振り回すようになった。
が、それもすぐに終わってしまう。
尻尾で攻撃するってことは必然的にサクラは尻尾を斬り刻むからね。
もはやワイバーンに為す術無しだ。HPは1/3をちょっと下回ったぐらいか。
見た目と違ってHPが残ってたりする辺りこいつやっぱ強いよなあ。
が、1/3ならあれが使えるな。
「サクラ!」
「りょーかい!」
サクラも分かってるようですぐに返事をくれた。
「「ユニゾンアタック<斬首>」」
俺が左からサクラが右から同じスキルを発動してワイバーンに襲いかかる。
<斬首>の効果が発動するのは1/4以下の時だが他の人と協力してタイミングを合わせることでその条件が1/3以下へと変化する。
それによりワイバーンの首は落ち、そして粒子化して消えていった。
「「我らに斬れぬ敵は無し!!」」
なぜか声を揃えて決めポーズもした。
「「ぷっ」」
二人して耐え切れず大笑いしてしまう。
「ふふ、なんだか私たちバカみたいだね」
「いいじゃん。バカで。そのほうが面白いだろ?」
さて、開放されたエリアへと向かうとやはりギルドシステムが解禁されたようだ。
ついでにいろいろな生産施設もここで買えるようでこの先は生産が鍵であると察した攻略組の面々は一度戻って生産プレイヤーの確保を狙うようである。
だがそんなことは俺たちには関係ないので新しく開放されたエリアにある街を散策してのんびりとデートを楽しんだ。
いろいろなジャンルに手を出していくスタイル