12話 新生の神々
神界。
神様の住処で無数の世界を浮かべる空間。
世界は泡のような姿で神界のあちこちに存在している。
魔王と勇者が戦う世界。
いろいろな種族が平和に暮らす世界。
常日頃から戦争し続ける世界。
昆虫達の楽園と化した世界。
生命のいない世界。
その世界の数は膨大でその特徴も多岐にわたる。
そんな世界の一つにはある神とそれに従う神のみが住まい、出入りを可能としている世界がある。
その世界には三百以上の神が住まい、そしてほかの世界からの特殊な依頼を遂行することでその世界を維持、管理するという無数の世界の中でも特異な方法で管理されている。
その世界を管理している三百以上の神を従えるその神というのが……
そう、俺である。
俺は今ある事情からしゃべることができず、おまけにどこかに行くこともできないため、脳内で適当な物語を繰り広げたりして暇を潰していた。
ある意味暇ではないのだが、やっぱり暇なのである。
そもそも俺は誰に対してこのような思考を送っているのか。
そういえば大昔に読んでいた小説では一人称視点で描かれていて誰に言うでもなく急に説明を始める主人公というのがいたな。
じゃあ、俺もそれに倣っていることにしよう。
だがほんとに誰にいうでもなく説明すると認識してしまった今、あえてやるのは若干気恥ずかしいものがある。
ここは我らが物語の友、ヒエダノーレに対してこの思念を送ることにしよう。
物語を語るのが趣味な神ならこういうのも好きだろう。
後でおもしろおかしく俺の物語を語るがいいさ。
昔はまだまだ若かったから、やめてくれ!と思ったものだが成長した俺は今その辺に寛容である。
閑話休題。
今いるのは俺の管理する世界にある俺の宮殿の一室だ。
俺はそこで大きいソファにゆったり座りながらサクラとエルザを強く抱きしめながら2人と同時に熱い口付けを交わしている。
そう、ある事情というのは熱い口付けのことなのだ。
時折、サクラやエルザの口から艶めかしい声が漏れる以外に言葉が発せられることは無い。
俺自身も相当鼻息荒くしながら貪っていることだろう。
ああ、安心してほしい。
ヒエダノーレはモテない神の筆頭なので彼に配慮して俺たちが行ってるのは口付けまでだ。
舌は互いに入れたり入れられたりだがそれ以上のことはしていない。
……一瞬煩わしい抗議の声が聞こえた気がしたが話を続けようか。
俺はただ2人と口付けを交わしているわけではない。
俺は待っているのだ。
そろそろここにくるであろうとある神を待っている。
ただ待つのもあれなのでその神が来るまで延々とディープにキスしようぜと二人を誘ったのがトールの世界から戻ってすぐの大体五十年前だ。
二人はそれを快諾し、それ以来ずっとこの状態だ。
その間偽神に関する依頼は全部俺の従神達に任せている。
以前数えた時から数回依頼を受けて二百年。トール達のいた世界で約三十五年。そしてさらにキスをし続けて五十年経った今、また従神が増えて今では三百を超えている。
いやはや、元はサクラと一人、エルザと八人しか子供作ってないのに増えたものである。
サクラとの子孫は神狼族という狭いコミュニティ間で結婚して子供を作ることが多いため血が濃くなるのが多いため結構神へ昇華する確率が高い。
エルザとの方は、元は龍人がエルザ一人だったから最初はなるべく多くの子供を作ろうとしているから最初はあまり血が濃くなることは無かったのだがある程度問題ない世代では龍人の同士での結婚が推奨されたりするので必然的に血が濃くなっため神へ昇華する割合が増えてきた。
加えて龍人同士だと寿命が共に長いのでその分ハッスルしていて急増している。
多分、後五百年程は落ち着かないだろうとおもう。
ともかく、従神が増えたということは何もしなくても入ってくる経験値が増えたということであり俺はますます存在格を高めている。
あと三百を超えた時点からポイントも入ってくるようになったのでこのまま放置していれば俺はちゃんとした世界を創造できるようになるだろう。
まあさすがに三百を超えた程度で分配されてくるポイントだけで世界創造するには万単位の年数を必要とするだろうけども。
まあ俺の場合は従神も偽神によく出会い偽神を倒したときに得られるポイントも高いのでそれなりのポイントが入るから他の似たような状況の神よりは優遇されてる。
そして今のところ<神殺し>持ちの偽神と出会うのは俺だけだ。
そうして益体もないことをつらつらとまとめてヒエダノーレに思念を送っているとようやくご来客のようである。
「あっ!ししょ……う?」
「なにしてんのよあんたは……」
俺の目の前に懐かしい顔が現れた。
懐かしいと言ってもたかだか五十年でほとんど最近のことだ。
もはや時間に対する感覚は神のソレである。
ともかく、俺の目の前に現れたこの二人、いやこの二神は俺の新たな従神であり五十年前、魔王だった俺と戦ったり偽神化したり戻ったりした者たち、元勇者のトールと元王女のティアであった。
とりあえず俺の目の前に現れたこの二神を放置して俺はサクラとエルザとの口付けを続ける。
貪るようなソレをトールとティアに見せつけておく。
「あの……師匠?えっと……」
「ちょっと!いい加減にしなさいよ!」
「ちっうるせえな……あっ」
しまった。
つい反応してしまい熱い口付けを中断してしまった。
「ふふーん。レイの負けだね。これで旅行先は海じゃなくて山に決定!」
「あーもう顎がいたいわ。さすがに五十年もし続けるなんて」
サクラは嬉しそうにエルザは顔をほんのり赤らめてそれぞれ声を出す。
くそっサクラ達の水着姿のために海に行きたかったのになあ。
まあ頼めばいつでもなってくれるんだろうがノリである。
「あのーいろいろと説明してほしいんですけど」
「というか気が付いたらここにいて目の前にレイがいてわけがわからないのに何で無視してキスしてんのよ!」
ああトール達ここに直接送られてきたのか。
じゃあ説明とかも全部されてないんだな。
「ん、じゃあ軽く説明するか。まず俺別れ際にも言ったけど神の一柱だ。で、こっちの二人も同じく神であり、そして俺の愛するかわいいパーフェクトな嫁でこっちの犬っぽいのがサクラで龍っぽいのがエルザだ」
「へえー師匠って奥さんいたんですね。それも二人も」
「トール、ツッコむとこそこじゃないわ」
改めて神であることを宣言、そしてサクラとエルザも紹介する。
さすがトール、動じない。
何かおかしい気もするけど。
「で、お前らについてだが勇者トール、そしてティラミス王女。あなたたちは志半ばに倒れてしまいました。などということはなく天寿を全うして死んだからここにいます。でもってお前ら共に神になりました。説明終わり」
「あ、やっぱそうなんですね」
「だれがティラミスよ!私はティエリア!ってえっ?何?神?私とトールが?……えっ?」
トールは神になったと言われてもまったく動じない。
それに引き換え、ティラミス、もといティアはツッコミも冴えわたりそして分かりやすく動揺してる。
俺が神になった時のことを思い出すなあ。
俺も突然お前、もう神だからとか言われた時はわけわかんなくなって、でも神の言葉で自然に納得させられて驚いたもんだ。
「トールは全然動じないんだな」
「ええ、まあ。僕は一度ほら経験ありますし」
「ああ、そうか偽神とはいえあれも神に匹敵する存在だからなあ。それでここに来た時点で理解できたのか」
「そういうことです」
「私が神……そんな……でもすでに納得してる私がいて……」
偽神化の影響で一度神に限りなく近い存在になったトールはここにきて自分がすでに神という存在になっていることに気づいていたようだ。
「おいティア。うだうだ否定しようとしても無駄だから。もう神だから。開き直れよ」
「ティアちゃん今後は同じ神としてよろしくね」
「ティアさんよろしくおねがいしますね?」
「うう……分かってるわよ……あのサクラさん、エルザさん、よろしくおねがいします」
「ティア俺は?俺によろしくしないの?」
「うるさい!」
「師匠!サクラさん!エルザさん!若輩者の神ですがよろしくおねがいします!」
「おう、よろしくな。トールは素直でいいな。だがもう同じ神だ、その師匠ってのやめろ。レイでいい」
ティアは俺を無視して挨拶するがトールはちゃんと俺にも挨拶してくれた。
「じゃあ後は渡すもん渡していろいろ説明して終わりにするかな」
<神器>やらなんやらを全部分け与えて、それの使い方や機能、神ギルドの事、偽神対策ギルドの事を全部説明した。
「まあこれで説明は終わりかな。そうそう世界は人間だけで回ってるわけじゃないからな。時には人間を殺す依頼もあるから覚悟しておけよ。まあ、どうしても嫌だってなら別にその依頼を避けてもいいが間違っても人間を殺すなんておかしい!とか喚くなよ。」
「はい」
「そうね……もう人間じゃなくて神だものね……」
俺だって元人間だからなるべく人として動けるような依頼を受けている。
完全な人外は神狼ぐらいだろうか。
魔族とか魔王とかにもなったけどアレはまだ人型だしな。
そんなわけで人として動くことが多い俺だが別に人間に肩入れしているわけでもないし、殺すような依頼でも躊躇なく遂行する。
ただ、人型で動くのが一番違和感がないからそういった依頼を受けるだけで立場はどっちでもいいというのが俺の考えだ。
「まあ、あまり気負うなよ。あ、それと一つ忠告だ。お前らは俺の従神ってことになってる。俺の影響で神になったってことだな。だからお前らが依頼を受けてある世界に行ったりするとまあ一割ぐらいの確率で偽神に出会うだろうから気をつけておけ」
「なるほど……偽神って以前僕がなりかけたあれですよね?」
「ああ。偽神ってのは世界の管理を奪おうとする神に匹敵した存在でな。まあ大した問題でもないんだ。ただ偽神がその世界を隔離して管理しようとしたところで管理しきれずに世界ごと消滅するのがオチだからでたら倒すのが普通だ。んで、隔離された世界にいる偽神に対して唯一対抗できるのが俺や俺の従神だけだったりするわけだ」
「でも僕は偽神化したけど消されませんでしたよね」
「まあな。あの時は運が良かっただけだ。偽神になったばかりだったし、お前の中から世界をどうこうするっていう意思が無くなってたしって感じで。普通は無理だな」
あとは後天的に偽神になったっていうのもあの時トールを戻せた一因だろうか。
かつてのダンジョン世界のボスとして現れた偽神は変質したんじゃなくて偽神として生まれ出て来てたようだったからな。
偽神の発生にはいくらからのパターンがあってトールはその一つのパターンに過ぎない。
「さっきから従神って言ってるけどどういうことなの?」
「ん?それは俺に従う神だから。まあ別に俺に奉仕しろっていう話じゃないから安心しろ。ギルドの説明の時に言った存在格とかの経験値を一割だけ貰うことになってるけどそれだけだ。あと、厳密にはトールは俺の従神だがティアはトールの従神な。なんていうか神の影響を受けた存在が神に昇華すると影響を受けた神の配下という形になるんだが、トールは偽神化うんぬんで影響あったけどティアには俺の影響なんて極薄でしかないからな」
「えっとつまり?」
「トールは一度偽神化してるからな。偽神っつっても神に匹敵する存在で元に戻ってもその影響は残ってる。で、そんなトールと結婚したティアはめでたくトールの影響から神へと昇華したってこと。死後、神になっても一緒にいられるんだからラッキーだろ?」
これは一度トールが偽神化したからこその特例だ。
だから俺の子孫は従神として神になったけど生前のパートナーは神になれてない。
あいつらももうその点割り切っているようだけどやっぱり生前愛した者のことが忘れられず夫婦を作ると行ったことはしていない。
それも可愛そうなのでなんとかするつもりではある。
「それは……そうね。トールと離ればなれになるなんて悲しいもの」
「僕もティアと一緒にいられてうれしいよ」
「トール……」
「そういうのは後にしろよな」
まったく、人目を考えろよな。
「なによあんただってさっき人目も気にせずにいちゃこらしてたじゃない」
「ここは俺の世界。さらにここは俺の宮殿だ。俺がルールだからな。まあお前らの住処になる家も用意してあるからそこでいちゃつけばいいさ。んじゃ話はこれで終わりだ。自由気ままな神ライフを楽しむといいさ」
かつては俺も言われたようなことをトールとティアに言うというのはなんだか感慨深い。
俺も神として長くなってきたんだなあと思えるからな。
トールとティアもある程度納得したようで取りあえず用意された家へと転移してった。
さて、トールとティアに対するあれこれも終わったし神婚旅行の計画をサクラやエルザと一緒に練ることにしよう。
こうして今回の騒動の幕は閉じた。
僻むなよヒエダノーレ、いつかはお前にも春が来るさ。
そんな思念を最後に送った。
ヒエダノーレは一章 5話 神界にて。 の冒頭で出てきた物語が好きな神様です。
あとモテません。
トールとティア達ですが見た目は互いに25ぐらいです。
レイはその点一切興味がなかったのでその辺の描写は一切なしです。
とりあえず美男美女です。
後はご想像にお任せします。




