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死んだら神になりました。  作者: イントレット
第2章 偽神ハンター、ここに爆誕。
34/44

11話 偽神ハンター、勇者を見守る。 その10

 互いに一撃も貰えば致命傷となる攻撃を繰り出し、凌ぎ合うこと数時間。

 ついに戦いの均衡は崩れた。


「くそっ……なんで……僕は全然追いつけてもいないっ!」


 俺の目の前で剣を弾き落とされ、地面に片膝をつき息を荒くしているトールの姿があった。


「勝負ありだな。せめてお前が本気出せてればな」

「僕は全力でしたよ……」

「無意識で抑えてたんだろ。俺にいい感じの攻撃が当たる瞬間一瞬だけ止まってたしな」

「それは……」

「はあ……下手に一緒に行動したのは失敗だったか。情ってのは厄介だな」


 思わずため息をこぼす。

 この戦い互いに拮抗していて楽しいものだった。


 だが、トールは完全な本気ではなかった。

 それだけが残念だ。

 戦いが終わったことを察してティアも傍まで来ている。


「だが、まあ十分か。それなりに楽しかったしな。これで終わりにするか」

「レイッ!それはっ……!」

「なにを……え?」


 俺は自分の剣で自分の胸を深く刺した。

 そのまま後ろに倒れ、その衝撃で体から剣が抜けた。


「グフッ……やれやれ……俺も疲れてたか……急所外しちまった……」

「え……?師匠……なんで……」

「はっ、まだ師匠か……なんでってこれが俺の役割だからだよ」

「役割……?」

「最初に言っただろうが……。魔王が死んで物語はハッピーエンドってな」


 そう言ってニヤっと笑ってやる。

 トールもティアも今にも泣きそうな顔をしてやがる。

 気にする必要なんてないんだがな……。


「あほ面するな……グッ……ゲホッゲホッ……」

「でも……こんなのって……死ぬのが役割だなんて……」

「気にするんじゃねえ……もとより納得してやってんだ……」

「……しい」


 そろそろ意識が遠くなってきてトールの言葉を聞きのがした。


「ああ?」

「こんなの……間違ってる……おかしい……こんな世界は間違ってる……」

「お前何を……っ!?」

「トール!?」


 トールの存在が変わっていった。

 見た目がどうこうじゃなく人間からその上の存在へ。

 その存在がどういう存在か俺にはよくわかる。

 ある意味慣れ親しんだ存在だ。


「こんな世界間違ってる!だったら僕が!僕が世界を変えてやる!こんなことしなくても

……こんな誰かを犠牲になんてせずとも平和な世界でいられるように変えてやる!」


 そんなトールの叫びと共に世界が閉ざされた感覚を認識した。


 うかつだったな……トールはこれまでの事と今の会話だけで魔王と勇者のシステムについておおよそ察してしまった。

 そしてトールは分かっていない。

 トールからすれば俺はそのシステムに体よく選ばれたとかそんな認識なんだろう。

 だが違う。

 俺は分かっててやってることを。

 別に俺が世界の犠牲にされたわけじゃないってことを。

 ただの演出に過ぎないことを分かってない。


 だからトールはこの世界に反旗を翻すことにしたのだろう。

 そしてシステムから与えられていた勇者の力が悪い方向に作用してしまった。


 すなわち偽神への変質。

 やれやれ、偽神が生まれる要因ってのが一部だけだが分かってしまったな。

 おまけにトールの手にいつの間にか<聖剣>が握られている。

 そしてそれはもはや<聖剣>ではなく<神殺し>に変質しているようだ。


「糞が……面倒な仕事を増やしやがって……魔物召喚(サモンモンスター)


 まったくお前の恋人が震えてるじゃねえか。

 右腕を魔王専用の魔法を発動すると右腕の紋が赤く輝き、周囲に大量の魔物を発生させる。

 グランソラスの時とは桁が違う数を集めた。


「師匠……?何のつもりですか?これから世界を変えないといけないんですから邪魔しないで下さいよ」

「そういうわけにも……いかんさ……。弟子が壊れるのを許容できるかってんだ……。 大地に咲く華(ブラッディランス)、からの、虚無(ボイドスフィア)


 かつてエルザのいた世界に行ったときに使ったのと同じ魔法を発動し周囲の魔物を岩の槍が串刺しにする。

 だが槍は2m間隔で生み出されていてその間にいた魔物は無傷だ。

 だからその槍を基点にもう一つ魔法を発動。

 間にいた魔物をまとめて闇が覆っていく。

 闇に触れた魔物は忽ち呑み込まれて消えた。


「魔物を生み出して自分で消して何を……?」

「リソース確保完了。再誕(リバース)

「っ!?」


 魔法を発動すると俺の体に光の柱が落ちた。


 魔物を倒したことで辺りに増えたリソースを消費しての魔法。

 その効果は即座に神の体を取り戻すこと。

 今回はこの世界の人間の体に転生していたし状況も悪かった。

 もう終わりだからと自殺図ってたからまともな手段じゃ神として動けなかった。


 もともとこの魔法は以前ゲーム世界に巻き込まれた時の経験からあのような状態を回避するために俺が作った魔法だ。

 あの時貰った薬を解明してそれを魔法化したのである。

 まさに、こんなこともあろうかと、ってやつだ。


「待たせたな」

「な……」


 光の柱も消えたその場から現れた俺を見てトールもティアも絶句して固まってしまった。

 正確には俺の存在を感じてだろうか。


「ったく。そんな世界のための犠牲なんてものをその世界の人間にさせるわけねえだろうが」

「えっ……?だって……師匠はこの世界に無理やり犠牲としての運命を背負わされて……だから僕は……」

「違う違う。どんだけ妄想膨らませてんだよ。もう大体わかんだろ?俺は神様ってやつで演出のために魔王やってたんだよ」


 なんだ運命を背負わされてって。師匠にもきっと何か理由があったんだとかそういう逃避か。

 そんな運命背負うわけねえだろうが。

 まあ偽神に関する運命を背負っているっぽいが。


「まったくこのバカはよりにもよって偽神化しやがって……世界ってのはそんな簡単なもんじゃねえんだよ。力があれば世界を変えられる、管理できるだなんて思うなよアホが」

「そんな……じゃあ僕はどうすれば……?」

「偽神化とかなんとか何の話よ!」


 ティアにとってはもう何が何やらだろうが今は無視。


 トールは俺が世界の犠牲になったと思い込んで偽神化した。

 だが実際はそうではなかったことを理解して目的を失った。

 今のトールには世界をどうこうしようなんてする理由がなくなっている。


 ……ふむ。

 ある意味これは俺のせいか。

 じゃあ、なんとかしないとな。


 幸いなことにトールはもう偽神で居続ける理由もないようだし。


「まあ、気に入らないからって世界をどうこうするんじゃなく自分の力でできることをするんだな」

「自分の力で……?」

「そう。お前が世界を平和に導けるように頑張ればいい。勇者としてな」

「勇者として……」


 まだトールは戻れる。

 そういう直感がある。


「だからまずはお前をただの勇者に戻さないとな」

「どう……やって……僕はもう……」


 トール自身自分がどうなってるのか気づいてるようだ。

 じゃあ話は早いかな。


「こうやってだ!」

「っ!?」

「トールになにするの!?」

「黙ってろ」


 <神具>を展開した左腕でトールに対してアイアンクローを繰り出す。

 <神具>はもともと偽神の武器<神殺し>が変質したものだ。

 そんな<神具>なら偽神を戻すことだって……!


「来たっ!」

「あああああああああああ!!!!!」

「ちょ、ちょっと!?トールが苦しんでる!やめてよ!」

「黙って見てろ!!」


 <神具>から何らかの力がトールへ送られていく。

 その力によってトールは激しい痛みを感じるようで絶叫をあげた。

 ティアがそれを止めようと近づいてくるが神の言葉により強制的にその場にとどまらせる。


「おい!トール聞こえるか!お前はなんだ!」

「うう……僕は……」

「答えろ!」


 初めての試みだが、直感でなんとなく分かる。

 これであってる。あとはきっかけがあればトールは元に戻れる。


「僕は……勇者だ……」

「そうだ!お前は勇者だ!世界を壊す物じゃない!」

「うっ……あああああああああ!」

「気をしっかり持て!お前は何を望む!?お前はどんな存在でいたい!?」

「僕は……平和な世界を……」

「お前はその平和な世界でどうしたいんだ!?独りでいたいのか!?」

「ちが……くぅ……!」

「じゃあなんだ!答えろ!」


 はっきりと自分の思いを言え。

 言ってくれ。


「僕は……皆と……」


 あとちょっと……!



「僕は平和な世界を作りたい!皆と……ティアと一緒に平和な世界を!!」

「よくいった」


 <神具>がひときわ輝いて力を送った。

 するとトールの体を光が包んでいき存在感を元の勇者としてのトールのものへと下げていった。

 閉じられていた世界も元に戻っていく……。

 

 手を離すとドサッと地面に崩れ落ちる。

 トールが持っていた<神殺し>も地面に落ち突き刺さる。

 

「トール!」


 倒れるトールをティアが抱えて支えた。


「トール!しっかりして!トール!」

「大丈夫……だよ。ちょっと疲れただけだから……」


 そういって微笑むトールは確かに疲れているようだが、それだけで後は正常そのものだった。


「詳しくは言っても分からんだろうから簡単に言うとな。トールは化け物になりかけた。んでちゃんと戻ってきた。だから大丈夫だ」

「レイ……」

「それとな。お前ら死後は面白いことになるから今のうちに覚悟しとけな」


 抱き合う二人にそんな忠告を送りつつ俺は地面に刺さった剣を手に取る。

 ……これは元に戻らなかったか。


 <神殺し>となった聖剣はそのまま俺の<神具>に吸い込まれていき、相も変わらず浸食していくように変形し、右腕の肩から肘までを守るようになった。


「さて、そうだな……<聖剣>もなくなっちまったしこの世界で勇者と魔王はもう出てこないだろうな」

「え?」

「だからそうだなあ……トールは歴代最高の勇者で、最後の勇者となり魔王の完全討伐を果たしましたっていう事になるだろうな」

「それは……」

「大変だぞ?これからは魔王っていう存在がいなくなる。そうなれば人間同士で争う余裕ができるってことだ」

「そんなっ!」

「だからそうならないようにしないとな。それがお前たちの役割になる。大変だぞ?せいぜい頑張ることだな、人間として。」


 舞台装置が全部壊れちゃったからね。

 もうこの世界で勇者と魔王の演目は開かれない。


「……そうですね」

「トール?」

「じゃあそんなことにならないように頑張ります。世界を平和にしてみせます」

「おうその調子だ」


 さすが勇者だ。

 そーこなくっちゃな。


「ティアも……手伝ってくれないかな?」

「トール……うん、当然よ!そもそも私は王族、その義務があるんだから!」

「ありがとう……」


 よしよしまあ大体まとまったかな。

 んじゃ俺も帰りますかね。


「じゃあな」

「あ、師匠も手伝ってくれないんですか?」

「アホいうな。神がそこまで面倒みるかっつの」

「そっか……あの……ありがとうございました」


 そう頭を下げてくるトール。

 裏切ったりなんやらしてたから恨まれると思ってたが。


「いえ、師匠は……レイ様は俺のことを鍛えてくれました。助けてくれました。裏切ったって言ってもそれは世界のためだった。だから恨むなんてことはしません。それに神様を恨んだりしたら後が怖そうです」

「ああ、そうだな。ついうっかり神罰で雷落しちまうかもな」

「それ、あまり冗談になってないわよ……」

「それもそうだ」

「ぷっ」

「ふふ」


 トールの冗談に俺も冗談を返しそこにティアが突っ込みを入れ、俺たちは大笑いしていた。


「そんじゃ、俺はこの辺でな」

「はい」

「さようなら」


 トール達に見送られ俺は無事神界へと帰還した。





 後日、神々に対し『世界を管理する際に下手に絶望を与えるようなシステムは偽神を誘発させる要因となるためやめるように』との警告がなされ、偽神についての解明を進めた対偽神特殊介入統括(レイズゴッド)ギルドの評価は神々の間で高いものとなった。

ちょい駆け足すぎたかもしれません。

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