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死んだら神になりました。  作者: イントレット
第2章 偽神ハンター、ここに爆誕。
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8話 偽神ハンター、勇者を見守る。 その7

「ずいぶんとあっけなかったな」

「まあ、祝福を貰うだけですしね」


 今、俺たちは火の大精霊のもとへと来て、無事祝福を受け終わったところだ。

 そして、ここは火の大精霊の住処である活火山。

 しかも地表にむき出しになってるのに表面が少しも固まることもない溶岩の湖なんかが点在しているようなファンタジーな活火山だ。


 常識的に考えれば有毒な火山ガスとか溶岩による熱とかで立ち入れるわけがない。

 が、この活火山にはそんな常識は通じないらしく『ただ暑い』それだけだった。

 そして、その山頂、というか火口の中に火の大精霊は住んでいた。


 そんなくそ暑い中を登り、山頂にたどり着いて大精霊と出会ったかと思えば、即座に祝福を貰えたのだが気分は微妙である。

 せっかくこの暑い中登ってきたのに祝福貰うのに五分もかからないとか何とも言えない。


 いや、魔王討伐の旅の道中は勇者にものすごく都合のいいようにされてるのは分かってはいるんだけどね。

 そりゃまあ、普通に考えて精霊も世界が荒れたら困るので協力してくれるでしょうよ。

 でもさ。やっぱお約束としてさ。


『我が祝福を与えるに相応しいかどうか、力を見せて見よ』


 とかあるだろ?そういう展開がお約束として普通あるよな?

 なーんもなかったわ。


 いや、むしろ火の大精霊がここ一帯を俺たちが来るのに合わせて『ただ暑い』程度に抑えてくれていたらしい。

 そんなことを大精霊が言っていた。


 くっそ。ヌルゲーすぎんだろうが。

 もういっそここで魔物の大氾濫でも起こしたろうか。

 いや、ここではしませんが。

 とにかくそんな気分である。


 やや思考がネガティブになってきている。

 暑いせいだな。


「さっさと降りよう。いらいらしてきた」

「抑えなさいよ」

「分かってる。でも暑いのは抑えられん」

「子供ね」

「俺は少年の心を忘れないからな」


 うだうだ言いつつもさっさと下山だ。

 こんな暑いところにいられるか!俺はさっさと降りさせてもらう!

 

 ちなみにトールが会話に加わってこなかったがあいつは大精霊にえらく気に入られて麓まで転移させてもらったのでいません。

 おまけに今は、登りの時よりも暑くなってる。

 山降りたらぶん殴ってやる。





「がはッ!?」


 目算10mは飛んだな。

 ティアもさすがにトールだけ転移で行ってしまったのに思うところあってかその顔は満面の笑みだ。


「さて、とりあえず火の祝福は無事確保。次は水だな」

「ええ、そうですね。その前にここから水の大精霊様の住処への間にあるグランソラスという街に寄ることになりますが」

「確か鍛冶が盛んで金属装備ならここの物が一番って評判の街だったか。そういえばいい加減お前らの装備もなんとかしないといかんしな」

「ええ、まあ私は金属鎧は無理ですけどトールの分はそこで最高の物を揃えておきたいですね」


 空を飛んでいったトールもティアもここまでの間で防具はボロボロだ。

 トールの鎧はもはやないよりマシ程度で、ティアはもはや防具はなくずっと女性用の平民服に外套を羽織った姿だ。

 とはいえトールはここ最近はもう攻撃を体で受けるなんてこともないし、ティアはもともとトールがいるからめったに攻撃も飛んでこない。いざとなれば魔法障壁も展開できるから別段困ってるわけでもない。

 

 だが、万が一ということもあるし見てくれ的にも問題だ。

 あんなボロ姿の勇者など見たら、英雄というものに憧れる子供の夢が壊れる。


「うう……いきなり殴り飛ばすだなんて酷いですよ師匠」

「いやいや全然酷くない。当然だよこれは」

「今回ばかりはトールが悪いです」

「ティアまで!?うう何が悪かったんだ……?」


 お前一人だけ楽々麓に降りたことだよ、とは言わない。

 どうせ言ったところで「あれは、僕の意志じゃないよ!?」と返ってくるだけだ。

 それはもっともなことだがこの場合関係ないのである。

 つまるところ八つ当たりだ。


「さてティアとも話し合ったんだが次はグランソラスという鍛冶の盛んな街へ向かうぞ。そこでお前の最高の防具を揃える」

「防具ですか……?でも師匠のおかげでもうほとんどの攻撃を回避できますし、<聖剣>で防ぐこともできますが」

「ばーか。万が一にも備えて防具は用意しておくもんだ。絶対に守ってくれると信じられる防具があるとそれだけで精神的にも余裕が出てくるからな」


 <神具>を展開しているときなど特にそうだ。

 まあアレは万が一とかじゃなくてもう回避とかしなくても<神具>のある場所への攻撃は全部無視でいいよね、ってなる代物だけど。

 

「さて、グランソラスまではどれぐらいだっけか」

「普通の馬なら六日。ですが、この子達なら抑えて進んでも三日とかからないでしょう」


 ティアがいうこの子達とは、もちろんマースとミースだ。

 なんとこいつら、この旅で器を大きく拡張させてそこらの馬はもちろん軍で鍛えられた馬よりも強靭な体を得ている。

 これも勇者補正ってやつなのだろうか。

 それとも俺の魔王補正だろうか。はたまた神補正ってのもあるかもしれない。

 そのうちユニコーンだとかペガサスだとかスレイプニルだとか別の馬に進化しそうだ。

 いや、この世界そういう進化はしないけど。

 そんなマースとミースだが一番懐かれてるのは俺で次にティアとも仲が良い。

 だが、トールとは馬が合わないようだ。馬だけに。


 ふう。だいぶ涼しくなったな。これも火山から降りたからか。


 トールに懐いていないといっても乗せることを嫌がったりはしないし蹴ったりもしないのだが、なんというかトール相手には対応がとても事務的になる。

 それをトールは残念に思ってるようだ。


 閑話休題(それはそれとして)


 マース達はそんな感じで大幅にその能力を向上させているため移動も楽になった。

 そんなマース達の首元を撫でてやりながら


「これからも頼むぞお前ら」


 と声をかけてから俺はマースに乗る。

 ミースにはトールとティアが相乗りだ。

 強靭になったミースはもはや二人が乗っても疲労しないほどなので問題ない。


「じゃあ目指すはグランソラス。出発しよう」


 そうして景色がかなりの速さで後ろへ流れるのを見ながらグランソラスへの道を進んだ。

 道中で俺の右腕の紋が少し熱を放った。




「やけに物々しい……何が……?」

「んー外壁の外に人が……ってありゃ兵士達か。訓練……って雰囲気じゃねえな」

 

 あれからいろいろあって予定より遅れてしまい四日ほどの旅を経て、グランソラスが見えてきたがそこで待っていたのは、物々しい雰囲気を放つ街の姿だった。

 別段街が燃えてるなどと言ったことは無いが外壁の外に兵士たちが整列し、一同に南を見て警戒している。


「南から何か来るのか……?」

「なんでしょうか……」


 などと言ってはいるが俺にとっては酷い茶番だ。

 当然の如くこれ俺の仕業ですし。

 

 この騒動の正体は魔物の大群が迫ってきているからだ。

 やっぱ魔王としてある程度混乱を招いておかないと必要悪としての役目を果たせない。


「とりあえず兵士どものとこへ行くぞ」

「はい!」


 壁の外の兵士を指揮しているらしき奴のところへと向かった。

 接近するまでに収納袋から特別性のマントを取り出しておく。




「おい、どういう状況だ」

「え?ちょっと今は部外者には……って、え?」


 兵士達に指揮していた男にマントの紋章が見えるように翳しながら状況を問う。

 初めは突然の部外者に顔をしかめていたが俺が広げているマントをじっくりと見て固まった。


「王国の紋章の入ったマント……って騎士団長!?」

「ああ、そうだ。いいからさっさと状況を報告!」

「はっ!南から魔物の大群が進行中!数は二千弱!これは三日前に冒険者からの報告を受け、こちらも斥候を出して観測し、その速度から考えて、本日この街へと到達する見込みです!」

「そうか、なぜこんな街の傍で迎撃態勢なんだ?」

「はっ!見ての通り南側はちょっとした広さの平原がありますがその先は深い森に覆われています。こちらから打って出ても森の中で戦うことになり対抗しきれないだろうと判断からです!その為いくつかの部隊に魔物の誘導を頼みここで迎撃、脇に漏らすことにもなると思われますが街は壁で守られていて西門、東門付近にも部隊を配置しているのでそちらで対応する予定です。また冒険者にも協力要請を出しています」


 報告の通り遠くには鬱蒼とした森が広がっている。

 十全に戦えるであろう平原は街付近は広めにあるがやや狭い。

 それにあまり森に近づいていても森の中から急襲される場合があるからあまり森の近くにまで布陣は敷けないと。


「まあ、対応はそんなもんか。あとは士気か」

「はっ!情けないことに二千もの大群など今までに経験したこともなく縮こまるものも出ています。また大群の中にはなかなか強力なのもいますので」


 まあ、ビビるのはしょうがねえだろうけどな。

 それでも俺が現れ、騎士団長って分かったことで多少士気も上がってきてるようだがまだ足りんな。

 これでいつもの団長仕様の鎧も身に着けてれば様になったろうが今の俺は魔獣の革から作られたロングコート程度の装備しかない。

 これじゃあ若干頼りない。


「お前ら!そんなんで街を守れると思ってんのか!」


 ないものは仕方ないのでとにかく声を張り上げる。

 その声にすべての兵士の顔が上がりこちらを見てくる。


「それともお前たちは街を、街にいる友人や家族を守ることから逃げる臆病者か!」


 その言葉に兵士は怒りを感じたのかこちらを睨み付けてくる。


「は!違うってか!じゃあびくびくするんじゃねえ!ドンと構えろ!お前らが堂々としてなきゃ街の皆が安心できねえだろうか!違うか!」

「「「「違いません!」」」」


 もはやビクつくものは一人もおらずそれぞれが闘志を燃やす。


「よし!だいぶ良くなってきた!俺はこの国の騎士団長で俺はこの世界で何と呼ばれているか言ってみろ!」

「「「「最強の騎士」」」」


「そうだ!今はその最強の騎士である俺もここにいるんだ!それでも何か不安があるか!」

「「「「否!」」」」


「すごい熱気……」

「ああいうのを見るとやっぱり騎士団長なんだって納得できるわね」


 だいぶ盛り上がってきたな。

 俺の後ろからぼけっとしたトール達の声も聞こえてきた。

 なに他人事みたいにしてるのか。


「よしいい調子だ!いったん落ち着け!……いいか?ここにいるのは俺だけじゃねえ!俺はもともと勇者の旅の付き添いでここにいる!この意味、分かるよな?」

「「「「っ!!」」」」


 兵士たちはその言葉を聞いて俺と一緒にこの場にやってきた二人を見る。

 ははっトールもティアも顔引き攣らせてやんの。


「そこの青年こそ今代の勇者トールだ!……トール、<聖剣>を構えろ。光の精霊剣を全力で発動して掲げろ」


 大声でトールを紹介し、小声でトールに支持を出す。

 顔を引き攣らせていたがすぐさま俺の声に答え動き始めた。


 トールはこの道中鍛えられて強くなったとはいえまだまだ若い。

 装備もボロボロで、未だ兵士たちには頼りない青年にしか見えていないだろう。

 だから、勇者であり力があるというその証拠を示す。


「見よ!あれこそがその証拠だ!」


 俺の言葉にあわせ、トールは全力で光の精霊剣を発動させ天に突き上げる。

 すると一条の光が天へと伸びて上空の雲を吹き飛ばした。

 その光景に兵士たちは感嘆の声を上げる。


「見たか!あれこそ勇者の力だ!そして一緒に馬に乗っているお方はこの国の第三王女、ティエリア・アイレス・シエル・アグレシア様である!王女様の目の前で無様な姿は晒せないだろう!」


 そしてティアのほうも紹介する。

 ティアはさすがにこういったことに対しても耐性はあるのか指示しなくとも、一切の不安を感じさせない笑みを浮かべ手を軽く振るっている。

 まさか王女様が不安がっていないのに兵士がビビるわけにもいかないだろう。


「勇敢なる戦士たちよ!恐れることは無い!俺たちもついてる!絶対に勝つ!絶対に街を守る!気合いを入れろ!声を出せ!」

「「「「おおおおおおおおーーー!!!」」」」


 これで士気は最高潮だろ。

 ある程度は神の言葉で補正したしな。

 ああ喉いてぇ。


 ともかくこれで被害も減らすことができるだろう。

 別に今の俺は、大量虐殺したいってわけじゃないからな。


 

 それからすぐに誘導部隊から伝令が走ってきてもう間もなく魔物がやってくるとの報告があった。

 魔物の大群による地響きも感じる。

 だが、兵士たちに恐れは見えない。

 いい感じに戦意を維持できているようだ。


「ティアは後方で怪我人治療、トールと俺は前線でとにかく多くぶっ倒すぞ」

「はい!」

「トールの横でって言ってられないのは歯がゆいわね」


 トールとティアの役割も確認しておく。

 今回、ティアは後方支援に回る。

 士気がいくら高くても怪我人は出るだろうからな。

 ついでに俺が持ってた収納袋を渡しておいた。

 戦場で収納袋ごと、勇者預金などを落としたら笑い話にもならんからな。


「おまえらは無理しない程度に怪我人を運んでくれるか?」


 そうマースとミースに問いかける。

 魔物の大群相手に馬に乗ってはちょっと無理だからな。

 こんないい馬を失うわけにもいかんし。


 こちらの言葉を理解しているようで、まかせろとばかりにこちらを小突いてきた。


「よし、じゃあいよいよ―――」


 そういうと同時に森から誘導部隊であろう兵士たちが抜け出して全力でこちらへ走ってきた。


「―――開戦だ」


 最悪のマッチポンプを始めよう。

大精霊の山の麓からグランソラスへ四日かかったことにし、その内容を本文に追加しました。


加えて、グランソラスの守備隊が、魔物の群れの情報を入手した時期について十日前から三日前に変更しました。 (10月12日、修正)

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