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死んだら神になりました。  作者: イントレット
第2章 偽神ハンター、ここに爆誕。
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7話 偽神ハンター、勇者を見守る。 その6

 マースとミースに水をやったりブラッシングしたりなどして時間を潰すが、未だトール達は聖殿から出てこない。

 最悪このまま一晩出てこない可能性も考えておく必要もあるだろうか?

 どのみち日はまだ高くとも三時間後には日没だ。今日はここで野営だろう。

 そう考え、野営の準備を進める。


 テントに、焚火の用意。

 小さい椅子も収納袋から出しておこう。

 のんびり準備を進めていたらだいぶ暗くなってきた。

 日が落ちてきたのと、山から下りてくる風が冷たくて少し寒いな。


 ……そうだな。

 ここ最近は、風呂も入ってないから風呂でも作るか。


 風呂を作ると言っても大したことじゃない。

 ちょっと土魔法で穴を掘り、表面をコーティングし水魔法で水を生成して満たし、火魔法で沸かすだけだ。


 魔法を使えば簡単にできる。

 そうそう、入浴中にトール達が帰ってきてティアが馬鹿みたいに騒ぐなんてことが無いように土魔法で、壁を作って見えないようにおこう。

 んで、大きく入浴中っと刻んでおく。

 暗くなっても見えるように火の玉も浮かべておく。


 これでもわざわざ見てきて文句でも言ってきやがったら俺はキレるな。


「ふう……ああ、やっぱり風呂はいいなあ……」


 のんびり浸かる予定なので温度は少し温めだがそれがまた程よく気持ちいい。

 縁に腕を乗せ、すっかり日が落ちてしまった空を見上げる。


「ははっ知ってる星座ひとっつもねえな」


 世界が違うのだから当たり前か。

 そういえば神になってもう何年だっけか。

 数千年は過ぎているはずだが詳しくは覚えていない。


 すでに人間だったころの意識などほとんど残っていないだろう。

 もちろん人格が変わったとか別人になったということでもないが、人として生きていた、たかだか二十年の記憶などすでに多くの経験の中の一つに過ぎない。

 思い出すのも馬鹿馬鹿しくなるずっと前のことだ。

 それでもふと思い起こせば俺の人格とか性格は人としての二十年で培われたものからそう変化していない気もする。


 まあ、神は不死の存在だ。

 肉体が絶対に老いることがないのだから、精神のみが老いていくといったこともないのだろう。

 そう考えると遥か昔の人間だった頃の記憶が今の俺を形作っていると言えるか。

 今後も無限の時を生きるだろうが人間だった頃の記憶はずっと残り続けるのかもしれない。


 そんなことをつらつらと考えていたら階段を降りてくる足音が聞こえてきた。

 どうやら勇者様たちのお帰りらしい。


 じゃあもう少ししたら揚がることにしよう。

 だが、その前に追い炊きして熱い湯で温まろう。


 そう考えてこのままのんびりと湯に浸かりながら火魔法で湯加減を調節していると、


「こんなところで風呂だなんて物好きね……」

「師匠!無事<聖剣>回収できました!」


 そんな声が壁の向こうから聞こえてきた。


「おーうおつかれさん。すぐ揚がるから待ってろ」


 湯から上がり火と風の複合魔法(ドライヤー)によって体を乾かす。

 絶妙な温風で湯冷めすることもない。

 魔法ってマジ便利だよな。


 体を乾かしたらササッと服を着て壁の向こう側へと向かった。


「おう、結構時間かかったな――ってすげえボロボロだな」


 風呂からでてトール達を見ればそれはもう酷い恰好だった。

 フローレ迷宮時点でそれなりに服など傷めていたのだがその時の比ではない。


「あはは……なんか試練とか言って守護者(ガーディアン)と戦うことになりまして」

「もう!迷宮の時といい今回の時といい肝心な時にいないんだから!」

「はっはっは、そりゃすまんな」

「笑いごとじゃないわよ!職務怠慢よ」


 そりゃ仕方ねーじゃん。

 それが俺の(神としての)お仕事なんだから。


「まあ、道中の俺の鍛えがあってこそ無事切り抜けられたんだ。つまり、ちゃんと責務は果たしてるから大丈夫だな」

「それは否定しないけどあなたの仕事には、トールを守り共に魔王と戦うというのも含まれてるの忘れないでください」

「へいへい。善処しますよっと」


 善処しても魔王と戦うってのは無理だけどな。

 そんなティアとのやり取りを横でトールが楽しそうに見ていた。


「で、それが<聖剣>か」

「はい!師匠から頂いた剣とまったく同じ型なので違和感は全くありませんが……」

「ん?どうした?」

「その……せっかく師匠から頂いた剣なのですが……その……」

「折れちゃったのよ。守護者(ガーディアン)を倒したと同時にぽっきりと」

「へえ」


 まあ、折れる時は折れるだろうな。

 何の変哲もない普通の剣だし。


「すいません……」

「いやいや別に謝るなよ。もともと俺の中古だから傷んでたんだろうし。それに戦いの途中じゃなくて最後まで戦い抜いてから折れたんなら剣も本望だろうさ」

「……はい!」


 さて<聖剣>だが……まあ、ほんとに騎士剣と変わんねーな。

 気配は別物だけど。

 流石に神聖な気配がすごい。

 もう魔王な俺だから傍にいると鳥肌が立ってる。

 剣も本望だとかなんとか抜かしてる間もずっと鳥肌立ってた。

 まあちょっと我慢すればいい程度のものなので気にすることは無いんだけど。

 でも、触ったりなんかしたら痛そうではある。

 確かに対魔王のための武器なんだってことは理解できました。


「そういや聖殿では結局守護者(ガーディアン)と戦って<聖剣>を回収しただけなのか?」

「いえ、<聖剣>を回収したところで、光の大精霊様が現れて光の精霊の祝福も貰いました」

「おお、ここでもらえたか。ってことは後は四属性か」


 光の大精霊は一応スピノリアにいることは知ってたけど聖殿内で<聖剣>と一緒にいるとまでは知らんかった。

 祝福とかなんとかについては大雑把にしか目を通してなかったからな。

 これで後は火、水、風、土の精霊の祝福を得れば勇者の誕生か。

 勇者が得る祝福は大精霊のもので、大精霊は基本の四属性に光と闇の大精霊を加えた六体しかいないからな。

 闇はある理由から除外されている。


「じゃあこれからは他の祝福集めか」

「あれ?一度王都に戻って報告したりはしないんですか?」

「いえ、その必要はないわ」


 その言葉に俺もトールもティアのほうも見る。

 ティアは当然知ってるか。


「え?でも報告はしないと国王様も安心できないんじゃ?」

「ええ、だから報告はする。でも王都に戻る必要はないのよ」

「それってどういうこと?」

「あなたは光の精霊の祝福を受けたでしょ?だからら光の精霊にちょっとお願いして王城に行ってもらえばいいのよ」

「それで報告になるの?」

「ええ、事前に聖殿で光の精霊の祝福を得られることは分かってたから精霊をよこすことで報告するってお父様と決めていたから」


 過去の勇者も同じように連絡していたようだ。

 勇者の旅は魔王を倒すまで終わらないってことだな。


「じゃあ他の精霊の祝福を得たときも同じように精霊を行かせることで報告するの?」

「ええ、そうよ。精霊は転移できるから距離なんて関係ないしね」

「ということはこのまま他の祝福を集めるんですね?」

「そう。向かうのは西の方よ。ここから西に火、水、風、土の順に大精霊の住処があって土の祝福を得てさらに西に向かった先には魔王が現れ、勇者と戦うとされる荒野があるそうよ。そこが旅の最終目的地ね」

「そうなんだ……なんか変な感じだね」

「え?」


 ん?


「だって王都からここにきて<聖剣>と光の精霊の祝福を得て、そのまま西に真っ直ぐいくと他の属性の祝福も得られて魔王の元に辿り着くだなんて都合がよすぎじゃないかな?」

「まあ、魔王なんてもんがそこらでぽんぽんと現れるのは変だし、特殊な環境が整ってるのがその荒野ってのが大昔になんとなくでも分かってたんじゃないか?

 で、道中が真っ直ぐなのは勇者の紋が現れてからどれぐらいの猶予があるかわからんからなるべく効率が良くなるように大昔の人が調整して国とか起こしたんだろ?それに西に真っ直ぐっつってもここから西側にあるってだけで結局南に行ったり北に行ったりでほんとに一直線に並んでるわけじゃねえだろうしな」

「なるほど……そういえば僕も魔王は西の荒野に現れるなんて言い伝えぐらいは僕も聞いたことあります。これも過去の勇者様の知恵ってことなんですかね?」

「かもな」


 大嘘である。

 勇者と魔王というのはいわば世界という舞台で行う演劇だ。

 クライマックスに向けての演出は多少必要だがあっちこっち行って引き延ばす必要などない。


 そんな過程よりも、世界に混乱をもたらす魔王という存在を勇者が討つという結果が重要なんだ。

 だからその道中は勇者にとって都合のいいことになっている。


 そこに妙な違和感を覚えてもらっては困るので俺は適当にありそうな理由をでっち上げた。


「んじゃいざ明日から魔王討伐の旅の本格的な始まりだ。目指すは西へ!」

「はい!」

「まずは火の大精霊ね」


 とりあえず方針も決まったところで明日に備え今日はもうここで野営だ。

 飯は先の話し合い中に全員食っていたから後は寝るだけ。


「あ、風呂とか使ってもいいからな。温度はトールが調整すればいいだろ」

「ありがとうございます!」

「お言葉に甘えようかしら……あれ?温度はトールが調整ってもしかして一緒に入るってこと?」

「おう。もう夜も遅いからな。入るなら二人で一緒に入って早めに寝ろよ。俺は先に寝とくわ」

「ちょっと!」

「あ、そうだ。ほれトールとティアの服渡しておくわ」


 いやあ買っててよかった普通の平民服。

 服を渡して未だ頭こんがらがってるティアをほっといて俺はさっさと寝ることにした。


 見張りなんて置かない。

 寝てても半径100m以内は常に警戒可能だ。

 元神狼の経験を舐めないでほしいね。

 尚、その警戒中に二人で仲良く風呂に入る何かの気配を感じました。

 俺は何も言うまい。





 翌朝、とりあえず朝飯を食べ野営道具を仕舞い、火の大精霊の元に向かうため西へと出発した。

 馬の脚で一時間ほど進んだところでロックボアと呼ばれる岩を纏った猪みたいな体長2m程の魔物が現れた。


「ちょうどいいな。<聖剣>の試し斬りしてこい。とりあえず全力でな」

「はい!」


 馬に乗る俺たちの横で並走していたトールに声をかけ魔物と戦わせることにする。

 さて、<聖剣>の力、いか程の者か見させてもらおう。


 トールが魔物へと駆け寄っていく。

 そのスピードはかなり速い。

 スピノリアまでの五日間でだいぶ能力も向上してきているようだ。

 対するロックボアも黙ってみるわけじゃない。

 トールを確認するとすぐさま駆け出しトールへと突進していく。

 こちらも、その巨体からは信じられないスピードだ。

 ロックボアの攻撃は実のところ突進だけなのだが堅い岩に守られた体から繰り出される突進はなかなか脅威だ。

 おまけにその岩にはロックボアの魔力がしみ込んでいてただの岩よりも固く、対斬撃にはかなりの防御力を秘めている。


 そんな巨体が迫るなか、トールが走りながら<聖剣>を上段に構えると、光が集まり刃を覆っていく。


「あれは……魔法剣?いや、精霊の力によるものなら精霊剣って言ったところか」


 なるほどなるほど精霊の祝福ってのはそのために必要だったわけだ。


「ハァッ!」


 ロックボアとトールが互いに距離を詰め、ロックボアがトールの剣の間合いに入った瞬間トールはロックボアの軌道からぎりぎりで回避できるように横に移動しつつ、光の精霊剣を振り下ろした。


 光を纏った剣はその剣線を空に残しながらロークボアの体をいとも容易く、岩もろとも斬り飛ばした。

 斬られたロックボアは二分され、慣性でそのまま地面を滑って行った。


「ロックボアはこと斬撃に対してはかなりの強度を誇るがあっさりと斬ったか」


 それを可能とする<聖剣>もだが、走りながら綺麗な一閃をしたトールの技量もかなりものだ。


「さすが私のトールです」

「お前らだんだんオープンになっていくよな」

「もう関係はフィノルシアの時点でバレてしまいましたから。それから六日もあったら開き直るのには十分です」

「まあ、仲がいいのはいいことだからとやかく言わないが、流石に野営中によろしくやるのはやめてくれよな」

「してませんわよ!?」

「分かってるって。今後の話だ。町で宿を取った時とかなら構わんが」

「何の話ですか?」


 っとティアと話していたらトールが戻ってきたな。

 ロックボアの死体も持ってきたようだ。


「いや、何でもねえよ。どれそいつ見せてみろ」


 トールが持ってきたロックボアをよく見てみる。

 ふむ……岩も肉も断面はとても綺麗なものとなっている。

 とりあえず解体用のナイフを取り出して腹と肩の肉を切り出しておく。


「あとはまあもったいねえが放置だな。ほかの魔物が食うだろ」

「おいしんですか?」

「ああ、こいつらの攻撃は体当たりだからな。その衝撃を緩和するためか肩とか腹の肉は柔らかい。それに普段は動かずにエネルギーを蓄えているから脂が乗っててうまいぞ。その分、足とかに関わる肉はあの巨体と重量で突進するからクソかてえけどな」

「それは楽しみです!」

「おう。昼飯はこいつで決まりだからあと二時間ぐらい進んだらそこで飯にするぞ」


 その後は特に何事もなく進みロックボアをおいしくいただいた後、再び西へと進んでいく。




 まだ大丈夫である……が、そろそろまたお仕事をしなきゃならんなあ……どこでするかな……


 などとそんなことを考えながら。

どうでもいいけど会話とかは何をいいたいかを相手が分かるように自動で変換され相手に届くような機能が常時働いていますので会話中に横文字だったり地球のことわざだったりが入っても違和感なく通じます。

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