21話 テンプレチックワールド・7
「さて、無事エルザさんが龍人へとなったわけですが、その夫となるレイ様にお願いがあります」
実は俺って偽神呼び寄せ体質なのではと一人悶々としているとアオイ様からそう声をかけられた。
「お願いですか。とりあえず内容を聞かないことには」
「お願い、といいますか依頼の変更ですね。エルザさんとバンバン子作りしてください」
「ぶっ!?」
「了解です」
アオイ様の言葉に吹き出したのはエルザである。
そりゃいきなり子作りだなんていえば普通は吹き出すだろうな。
まあ、俺は即答で了承の意を伝えておく。否はない。ありえない。
「あ、別にサクラとやっちゃいけないわけでもないですよね?」
「ええ、もちろん」
「私も頑張るよ!」
サクラはもうちょい恥じらいを持とう?かわいいのでいいけど。
それにしてもまた俺に関する神が増えるな……。
「ちょっと、えとその、私も嫌ではないけれど、さすがにここでは……」
何言ってんだこいつ。
この場で子作りするわけねえだろ……。
「エルザ落ち着け。そういうことじゃない。そういうのは二人っきりかサクラも交えての三人の時だけだから」
「えっ……っ!」
少しポカーンとしてすぐに顔を真っ赤にして俯くエルザ。
そっとしておこう。
「で、まあそれは言われなくてもなんですがどうしてわざわざ依頼変更ってことに?」
「せっかく龍人を誕生させたのに増やさなきゃ意味ないじゃない。いずれはここを文字通り龍人が統べる龍の国にする予定なんだから」
程よく増えるまで何百年かかるんだろうねそれ。
かかる期間もある意味では俺にかかってるかもしれない。つまり初期ブーストだ。
指数関数的に増えていくと思うし初期にどれだけブーストできるかで龍人の増加速度は変わる。責任重大だ。
うん、馬鹿じゃねえのか。
「でも、なんで最初に生命作った時に龍人も一緒に作らなかったんですか?」
「うーんとねえ……。龍人と聞いて浮かべるイメージってどんなのがありますか?」
「イメージですか。強靭な体に強大な魔力で肉体的にも魔法的にも力に特筆したって感じですかね」
「そう、私もそんな感じでイメージしてるしそのような龍人をこれから増やす予定。でもね、強すぎる力は忌避されるものよ。誕生したばかりの原初の世界だと特に力が物を言うから。だからあまりに強大な力を持つ龍人はほかの種族より遅れて誕生させなければならなかったのよ」
「なるほど。でも突然龍人っていう新種族が現れて最終的にこの国はその龍人たちが統べるんだろ?ほかの種族はよく思わないんじゃないのか?」
「大丈夫よ。何のために神として現れるときに龍の姿を取っていたと思ってるの?おまけにあんな絵まで用意して。この世界で龍は特に神聖な存在として何よりも崇められているのよ。彼女も驚いてこそいたけど、嫌がるということはなかったでしょう?そこに龍の祝福を得た種族が現れたとしても何の問題ないわ。元よりこの国は龍が統べる国ということ自体は昔からの伝承として語り継がせているしね。後は一応、神託という形で人々には伝えるし、逐一調整もいれるから万が一も起こさないわよ。まあ龍の祝福を得た種族と言いつつその元になったのが私の子孫とドラゴンだから嘘っぱちもいいとこだけれどね」
そう言ってクスッと笑うアオイ様。
なるほどな。
龍を信仰の対象になるようにし、また分かりやすく神として介入することでより印象付けて強い信仰を得てそれを利用すれば反目もかなり抑えられると。
ガチで神様がいて、直接関わってくるのだからその神から祝福されたなんて種族を無下にはできないと。
まあ、もし龍人を排斥したり逆に増えた龍人が力で周りを支配しようとしたらアオイ様が表に出てくるのだろうから、問題はないんだろうな。
「その世界に頻繁に介入するっていうのも結構有効な管理手段ですかね」
「まあ、この方法も何かと大変ですけどね」
絶対はないってことだな。
それにしてもアオイ様、随分とぶっちゃけたな。
一応エルザはまだ人なんだけど。
その点について聞いてみると
「彼女はまあ、私の管理に巻き込まれた形になってるわけだし、後でいろいろはっきりするといっても何も知らないのはかわいそうじゃない?どうせ遅かれ早かれの違いしかないんだから事前知識を与えたって問題はないわ」
とのことだ。
それもそうかと納得する。
「あ、あのそれってつまり、アオイ様ってもしかして龍神様……なんですか?」
「ええ、その通りよ」
さて、神の言葉には力が宿るわけで、アオイ様の肯定は正しくエルザに伝わるわけで……
「す、すいません!私知らないとはいえ大変なご無礼を!!あ、あの!」
このように強制的に理解してしまったエルザは非常に慌てふためくわけである。
「気にしないで。神だからってそんな畏まることはないのよ。私も自分を隠さず話すことのできる相手ができるというのも嬉しいことだしね?」
「は、はい……その、よろしくお願いします」
「ふふ、まあのんびり仲良くなっていきましょうね」
だが、そんなエルザもアオイ様のフォローによりすぐに落ち着きを取り戻した。
まあエルザはアオイ様にとっては子供のような存在だからな。世界の子という意味でも自分の子という意味でも。エルザが神になる以上は今後もずっと会うことができるわけだし、親しくしたいってのはあるだろうな。
もしかしたらタロウのあの軽い態度も似たような理由からだったのかもしれないな。
「あ、そうそう。俺も神だから」
「私も。私もレイもこの世界のっていうわけじゃないけどね」
「えっ!?……いや、むしろ納得できるわね」
ついでとばかりに俺たちも自らの存在を教えることにした。
驚いたもののすぐに納得してしまった。ちょっとつまらない。
だからこそ、もう一つの爆弾も投下する。
一応神としての先輩でもあるアオイ様に大丈夫かと確認の意を込めて目線を送るが頷いてくれたので大丈夫だろう。
「あと、エルザはまだ一応人だけど神になるの確定だから」
「えっ……」
思いもよらぬ俺の爆弾発言に今度こそエルザは固まり、そして――――
「ええぇーーーー!!!!」
驚愕の声を上げるのだった。
やっぱりこういう反応がないとね。
「さて、そんじゃあ魔王討伐依頼がこの世界でイチャイチャ生活に変わったわけだけど不安要素は消しますかね」
「そうね。そうしてもらえると助かるわね。儀式も終わったから私がやってもいいんだけど」
「まあ、すぐ終わりますんで」
イチャイチャするにしても魔王なんていう物騒な問題は早めに解決するに限る。
シルフィーに現れた悪魔っぽいやつ、あんな感じで群れをまとめてるならほかにも似たような手下がいるだろうから普通にやってたら面倒なのでまとめて一掃しようか。
「チェンジ:グングニル」
まずは、<神器>を槍へと変化させる。
これは普通の槍であるが、一応グングニルの名前を取ったんだからそれらしい機能も盛り込んだ。
それはロックオン機能、つまり自動追尾である。
だから擬似的に神話通りに使うことができる。
この擬似的と言うのは手元に戻ってくるのが自動か手動かの違いだ。
手元に戻すのは槍の機能ではなく<神器>の引き寄せ機能を利用しているので俺が引き寄せようと思わない限り槍は戻ってこないのだ。
あとはこの槍が魔法発動の基点になる。まあこの基点ってのは他の<神器>もそうなんだけどね。
銃だと撃ち出した弾も基点にできるから、銃は魔法の発射速度だけでなく発動基点の面でも優秀だ。
いや話がずれたな。
グングニルにはロックオン機能があり自動で目標まで飛んでいく。
すると槍が、目標を貫くわけだが、俺が引き寄せない限りは手元に戻ってくることはなくその場に刺さったままだ。
そして、その槍は魔法発動の基点となる。
本気を出せば、その場から動かずに対象の探索しロックすることなど容易なのが神という存在なので無駄に動く必要もない。
「そうしてこのロックオン機能と魔法発動の基点となる特性を利用することであっという間に目標を殲滅することが可能なのである!」
「さっすがレイ!すっごい発想だね!」
「「……」」
と、ご丁寧にこれからやろうとすることを説明していたのだが、ノってくれたのはサクラだけでエルザもアオイ様も馬鹿でも見るような視線をよこすのだった。
二人の反応に影響され、なんとなくサクラにも馬鹿にされてるようにも感じたけど尻尾ぶんぶん振り回してるので純粋に褒めてくれてるようだ。
少しでも疑ってごめんよ。
「ちっ、ノリ悪いな」
テンションがだだ下がりとなったので黙々と作業を進め異常な群れを形成している魔物の団体を見つけ、その中心にグングニルをロックオン投擲。その際空間魔法で建物の外に出すのでお城を壊すこともない。あとは最初この世界にきたときに使った大地に咲く花を発動して終わり。これを四回繰り返した。
四回繰り返したのは手下と思わしきものが火の国、水の国、地の国で群れを集めていて、ここ龍の国には魔王らしきものが群れをまとめているようだったため計四つの群れを殲滅したからである。
この作業の間俺はひたすら無表情だ。ボソボソと別に少しくらいはっちゃけてもいいじゃないかとつぶやきつつも無表情で完遂した。
エルザはそんな俺の様子を見て悪く思ったのか「わ、わるかったから、謝るからやめて」と言ってきたので呟くのは早々にやめたが。
尚、同じく冷めた反応をくれたアオイ様は一切気にする様子を見せることはなかった。
「さて、一応終わりましたが」
「……はい、確かに魔王の消滅を確認できました。その手下も全て消えたようですね」
アオイ様にも確認してもらい、無事、魔王関係の問題は解決したようだ。
とにもかくにもこれでのんびりイチャつけるってものである。
だが次の瞬間、俺とサクラの<神具>が強制的に展開されると共に何かが割れるような音が世界に響き渡った。
そして空気全体が重くなったかのようなプレッシャーを感じる。
この感覚は俺にとってはある意味慣れたものだ。
「「!?」」
「レイ、これって……」
この事態にエルザはともかくアオイ様までもが驚いていて、サクラは何かを察したように俺に確認してくるがそれに頷いておく。
すぐに外へ出て状況を確認する。
城の外にはここで仕事していたであろう人たちが出ていて空を見上げていて、それを追うように俺たちも空を見る。
「フラグを建てたのは俺じゃなくてアオイ様だったよな」
そこで見た物に俺は思わずぼやく。
視線の先にはガラスが割れたかのような穴の開いた空とその穴から黒いガスのようなのが出てきているところだった。
それはだんだんと一か所に集まって人型を形成していく。
だが、その姿は普通の人ではなく頭に角を生やし、肌は真っ黒。背中には蝙蝠のような翼が生えていて、尻尾もあるようだ。その姿はまるで悪魔のようで、手には三又の槍が握られている。
「偽神……」
そうアオイ様が呟く。
そう、やっぱりあれは偽神なんだろうな。それも<神殺し>持ちだ。
でも俺の頭の中では、あいつに関わると虫歯になりそうだなとかパンのヒーロー呼ばないとなとか下らないことを考えていた。
多分悪魔っぽい姿で三又の槍なんぞ持ってるからだ。
「ぷふっ……」
そう考えると吹き出してしまいアオイ様に怪訝な目で見られた。
エルザは超常の相手に怯んでて固まっているようだ。
よく固まるなあと思ったがまあ、一応格が違うからねえ。
威圧されれば普通の人はそうなるんだろうな。
「クク……、よし、落ち着いた。サクラは地上の防御よろしく」
「むー私も戦えるよ?」
「わかってるって。でもここは荒野でもダンジョンの中でもない街のど真ん中なんだから、な?」
「冗談だよ。分かってる」
笑いも収まったところでサクラに街の守りを頼み、今回は俺一人で戦うことにする。
軽い冗談を交わし、サクラと拳をコツンと当てて俺は偽神を見上げた。
サクラもすぐ行動し始め、街全体に結界を張っていく。
アオイ様も結界を張るのを手伝い始めた。
既に俺の手にはグングニルが握られている。結界が張られていくのを横目に俺は偽神の下へと飛び上がった。
「よう、何もせずに待っているとか紳士だな?」
「……貴様が俺の計画を邪魔した忌々しい神か」
そういってこちらを睨み付ける偽神。だが、それだけで襲い掛かってくるということもない。
会話しようってか?
うーん、計画というと魔王云々の話か。
ん、ということは俺がこの偽神呼び寄せたわけじゃないのか?
よし!呼び寄せ体質じゃない!出会う確率が高いだけだ!
「で?その計画って?」
「神を殺し、世界を奪う。そのために今まで世界の裏側に潜んで表立たないようにしていたのだが」
「ふーん、やけにべらべら話すね?それにそのまま隠れておこうとは思わなかったのか」
「ふん、もはや計画は台無しで隠す意味もないからな。そして、貴様がこの世界にわざわざ来たということは我の存在もばれたということだ。隠れてても仕方ない」
自嘲気味にそう返してきたが、はて? 俺は別にこいつの存在など知らなかったのだが。
そう不思議に思ったが偽神の視線は俺の<神具>に向けられていた。
ああ、これってもとは偽神の<神殺し>だし、何かしら感じとることがあるのかもしれないな。それで勘違いしたと。
それ指摘して煽るのも楽しそうだけどやめとこ。
もしかしたら感じ取ったわけでなく偽神同士が裏で繋がっていたとかもあるわけだから勘違いさせたままのほうが都合がいい。
「それは残念だな。魔王の次は閉じこもってた殻ごと消そうと思ってたのに」
「忌々しい神め……」
「で、計画は破綻して仕方がないから直接ってか?」
「そうするほかないからな」
「そんじゃこんな無意味な会話はやめてさっさと終わらせようぜ。俺、さっさとイチャイチャしたいんだよね」
「舐めたことを」
勘違いを勘違いのまま話を進め最低限聞くことは聞いたので切り上げることにする。
俺が戦闘態勢を取ると、偽神は自らの槍の切っ先で浅く腕を切った。
「はっ!しょっぱなから全力か!」
血を吸った三又の槍は赤黒く染まりさらにモヤモヤとしたガスのようなものが槍を覆っている。
獲物は互いに槍でリーチは互いに同じ。武器にも優劣もなく互いに殆ど同格の存在であると感じている。
となれば勝負を決するのは互いの技量だろうか。だが、それもそう変わりはない。
でも決定的な差が俺と奴にはある。
「悪いけど、この勝負俺が圧倒的有利なんだよね」
俺は偽神に対して左半身を前にして槍を構える。
ただ、これだけ。
これだけで偽神は俺に対しての有効な攻撃をできなくなる。
俺の左半身を守る<神具>は<神殺し>にも有効な防具なのだから。
結局、勝負はすぐについた。
俺を攻撃するなら守られていない頭か足にしか攻撃できず、そこまで絞られれば避けるのは簡単だ。
一方、偽神は俺の攻撃を躱すか、<神殺し>で受けるしかなくさらに頭でも腕も胴体でも足でも広く俺は狙うことができる。
当初はこんな左半身だけガッチガチにしても攻撃されなくなるから意味がないとか思ったけど、一部でも絶対に守ってくれる防具があるってのは実際にはかなり有利に働くってことが分かった。
もちろん、立ち回りなどで俺の裏に回るとか懐に潜り込むなどと言った方法もあるのだろうが、それを可能にするほどの力を偽神はもっていなかったようだ。
まあ懐に潜り込まれても別に俺は槍にこだわる必要はないから別に不利にもならないけどね。
「こうまで容易く御されるとは化け物だな……」
「どうも」
槍に貫かれ瀕死の偽神がそう呟く。
どうも武人っぽい雰囲気があるんだよねこの偽神。
「まあ、もし生まれ変わることがあったらただの武人として生きろよ」
「フ……そのような機会などありえないだろうが、そうだな……そうするか」
そう言って静かに偽神は目を閉じ、死んでいった。
その表情は心なしか穏やかである。
せめてもの情けと俺は槍を刺したまま魔法を発動する。
「彼の者に安らぎあらんことを 『浄化の炎』」
その魔法を発動すると槍が刺さった場所から青白い炎が現れ偽神の身体を包み、炎は灰も残さずその身体を燃やし尽くした。
残ったのは三又の槍だけだ。
俺がそれをつかみ取るとやはり光となって<神具>に吸い込まれていくと左胸から左わき腹にかけてを覆うように<神具>が形を変えた。
やはり俺の場合はだんだん左腕に浸食されていく感じに<神具>が展開されていくようだ。
それを確認し、俺は地上へと戻った。
「おつかれー」
「さすが、偽神ハンターと呼ばれることはありますね」
「おつかれ……役立たずでごめんなさいね……」
地上へ降りるとそれぞれ声をかけてくれて、サクラはいつも通りに軽い調子で、アオイ様にはお褒めの言葉を頂いた。
そしてエルザは自分一人だけ固まっていたことを悔やんでるようですこし元気がなかった。
まだ神になったわけでもないし仕方ないことなんだけどねえ。
俺はそんなエルザを元気付けるために近寄り抱きしめるとその唇に熱い口付けをした。
「っ!?」
「まあ大胆ね」
「むう、次は私だからね」
エルザは驚き体をびくっとさせたが抵抗はしなかった。
それを横から見て楽しそうにアオイ様は笑い、サクラはほっぺを膨らませて次は自分だと要求する。
唇を離しエルザの顔を見れば顔は真っ赤でボーっとしてる。
だが、落ち込んでた雰囲気はどこかに吹っ飛んでいたのでこれで良しとする。
順番と寄ってきていたサクラにもキスをしてようやく平穏な日々を送れそうだと一人感傷に浸る。
その後、サクラの<神具>を更新したり、龍の国でも風の国で行った祭りと似たようなことをし、その時龍の祝福を受けた種族エルザを紹介したりした。
そうしてアオイ様からの依頼をしっかり達成しつつその間ほのぼの子育てストーリーもあったがそれはまた別の話。
俺たちはこの世界で平和に暮らし、この世界に来てから約五百年エルザの寿命を迎えると共に神界へと帰るのだった。
後にアオイ様に聞いたのだが、アオイ様の世界で最近、ある槍使いが現れたとか。その槍使いは世界を旅して武を極めんとし、時に人を助けながらも修行の日々を送っているらしい。
バゥス。誕生のbirthから。
龍は東洋竜。
竜は西洋竜。
そんなイメージで書いてます。




