13話 ダンジョン攻略戦記パート2
テスト終わった。
ランク1迷宮を攻略した次の日。
旅の準備として鍋と鉄串と水筒を買ってから街の中をブラブラとしていた。
思いの外旅の用意がすぐ終わったので暇になったのだ。
「うーん。そういえばもうひとつ迷宮あったよな」
「でもそっちもランク1だよ?」
「まーでも暇だから行こうぜ」
「それもそうだね。この街お店の品揃えもあんまり良くないし遊べるようなところもないし」
暇だから。
そんな理由でもう一つのランク1迷宮へと行き、サクッとクリアした。
前回のはゴブリンの巣みたいな迷宮でオールゴブリンだったが、今回は頭に角の生えたホーンなんちゃらな魔物の巣だった。
角の生えた兎、角の生えた狼、角の生えた猪の3種類。ボスは猪で、その名もホーンボア。
突進は当たれば大怪我を負うだろうが当たらないので苦労はなかった。
尚、角狼ことホーンウルフは俺たちと対面した時何故か全員おすわりして頭を垂れていた。
まあ、一応俺たち元神狼になるわけで、その関係だろうか。
そんな感じで戻ってきたのは日も沈む夕方6時だった。
いつもの受付さんに魔石を売り渡すとともに、他の迷宮を攻略するため移動することを伝えた。
ついでにおすすめはないか聞いてみたところ西に馬車で三日のところにある街がいいだろうとのこと。
どうやらそこにランク2から4までの迷宮が1つずつあるらしい。
何故か受付さんは魔石を見せた辺りから終始顔が引き攣っていたが気にしないことにしてギルドを後にした。
どうでもいいことだが、例の臭い男はさすがに学習したのか、俺たちがギルドに顔を出した途端逃げた。
「ファストの街、迷宮制覇!!」
「イェーイ!」
適当な事言ってもサクラはしっかり乗ってくれる。
乗ってくれるが周りの視線は冷たい。
「さて、後は宿いって飯食って寝ますか」
「おー」
サクラさんもうそのノリは大丈夫です。
そして翌日。
俺たちは街を西門からでて十分ほど歩いた所にいる。
「で、移動はどうするの?」
「ほらこの世界来る前に俺何か買ってたじゃん?アレ使う」
「つまりあの時に移動用の何かを買ったってわけだね」
「そゆこと。んじゃさっさと出しますか。<神の宝箱>!」
片手を前に出し手を開いて俺はそう言った。
すると空から雷が俺の手に落ちた。
閃光で手が覆われどうなってるか見ることが出来ないがちゃんと手の感覚はあるので消し飛んだり怪我したりはしていない。
そして閃光が収まり見えるようになった手の中には、
「あれ?<神器>……?」
サクラがそう呟く。
手の中にあったもの、それは<神器>の通常形態によく似たものだった。
「まあ<神器>同じ仕組みで乗り物に変わるんだよ。ってことで『解放』!」
地面に放り投げてからキーワードを発する。
すると<神器>が武器に変形するようにこれも細い糸が現れて形を作っていく。
そうして出来上がったのが一台のバイク(サイドカー付)。
「これが800Pで買ったどんな悪路でも走破する最高のバイクだ!」
どんな感じのバイクかと言われれば日本の自衛隊が使用するような軍用偵察バイクにサイドカーを付けたものである。
最も中身は別物で燃料など無くとも永久的に走ることが出来る。
尚、このアイテムだがなんと世界間で持ち越しが出来ない。
つまり買ってから最初に呼び出した世界でしか使えないのだ。
本来は神界で移動する時に気分転換なアイテムだったりする。
「……うーん、バイクってよくわかんないんだよね」
元神狼で人間として生きたりもしたがそれでもたったの二十年。
知識として知っていてもどんなものかは分からないのは仕方ないかも知れないな。
いや、俺も死んで神になったのが確か二十歳だった気がする。
もう昔のことでよく覚えてないが。
俺はその人生でバイクに乗ってただろうか。
乗ってねえや。
「そういえば俺もバイク乗るのって初めてだったわ」
「え?」
まあ、運転はなんとかなる。
これ買った時に運転方法は頭に流れてきたからな。
「じゃあ互いに初めての経験だし楽しんでこーぜ」
「あはっ了解であります!」
互いにヘルメットを被ってサクラにはサイドカーに座ってもらい俺はバイクに乗り込んだ。
エンジンをかければブルンと振動が身体に伝わってくる。
まあ、燃料燃やしてそのエネルギーで動かしてるってわけでもなく不思議パワーで動く代物なので振動とか無しに動くんだが実車を再現しているんだろうな。
実際再現をオフにするスイッチがあるし。
「結構振動が伝わってくるよ」
「なんだか楽しくなってきたな」
やや大きな声でサクラと話す。
エンジン音がうるせえ。
「んじゃ出発進行!」
「おー!」
いよいよ出発となり俺はアクセルを引いてバイクを発進させた。
最初はゆっくりと、すぐに慣れてきてスピードをどんどん上げていく。
体全体にぶつかる風が気持ち良い。
舗装もされてない道だからひどい振動を覚悟していたがそんなこともない。
その辺りはさすが神のアイテムだ。
サクラを見れば騒ぐでもなくひたすら景色を眺めていた。
目はゴーグルで見えないが口元には笑みが浮かんでいるのでサクラも気に入ったようだ。
土埃を上げながら街道沿いを突き進む影がある。
もちろん、俺たちなんだが。
ファストを出たのが朝の十時ぐらいでそれから大体一時間ぐらい走っている。
今太陽はもう上のほうにあって昼に近づいてることを教えてくれる。
「そろそろ一回休憩するぞ!」
「分かったあ!」
風の音が大きいので叫ぶようにサクラに告げればサクラも了承したのでスピードを緩める。
いい感じにあった岩場に停めてバイクから降りやや固まった体を伸ばす。
「ん~~ッ!お尻がちょっと痛いよう」
「ハハッ 馬車よりは揺れないが揺れが完全に無くなるわけじゃないからなあ」
ホバータイプの乗り物ならともかく地面を走るバイクではどんなに性能がよくても地面の凹凸を無くす事は出来ない。
それに障害物も馬車もいなかったのを良いことに時速80kmぐらいで走らせたので若干揺れも大きくなってたかも知れない。
「辛いか?」
「んーん、ホントにちょっと痛いだけだし全然平気」
「ならいいか。今のうちにしっかり休んどきな」
「レイもね?」
「分かってる」
そんな会話をしてサクラは岩の上に寝そべった。
あれは疲れたからってよりは陽が暖かくて気持ちいいんだろうな。
季節なのかそういう気候なのか知らんが日本での秋半ばぐらいには寒いからな。
そんなサクラを横目に、俺はそばにある森に入っていった。
息を殺しながら森を進んでいると白い毛に覆われた動くものを見つけた。
ウサギである。角も生えてない普通のウサギだ。
この世界には地球と同じように動物もいるのだ。
迷宮の魔物との違いは魔石の有無だ。魔石のない動物は地球のと同等の能力しかない。一方魔物は見た目が攻撃的になってるだけなく摩訶不思議な能力を持ってる。見た目以上の剛力とかそういうのだ。
今目の前にいるウサギはどうやら食事のようで小さい木の実を食べている。気付かれないよう音に注意しながら〈神器〉を銃にして構え狙いを定めた。
時々周囲を見渡して警戒しているのでその行動をやめ食事に戻った瞬間、俺は引き金を引く。
――パシュ
気の抜けた音と共に飛び出したそれはウサギに浅く突き刺さる。 それ自体にはとても殺傷力など望めないがウサギはそれが刺さると同時に体を痙攣させて倒れていた。
パラライザー。対象に離れた位置から電流を流し意識を奪う制圧用兵器だ。見た目は普通の大口径拳銃なのだがそこは〈神器〉。自由なものである。
「昼飯確保っと」
一人つぶやきつつウサギを回収しようとすると正面の茂みからイノシシがでてきた。確かイノシシは雑食だったから横取りする気だろう。
そういえばイノシシって警戒心が強く見知らぬものを見た場合逃げるとか聞いたことあるんだけどこいつ逃げんな。
多少は同じ動物でも差異はあるってことなのか俺の知識が間違っているのか。
そんな、今関係ないことを考えながら銃口をイノシシに向けて引き金を引いた。銃声が響いたその場には頭を撃ち抜かれたイノシシが倒れている。
「肉追加だな」
なんていうかあっさりだった。
余計なコトを考えながらほとんど無意識な感じで撃ったからだろうか、避ける動作など一切なかった。
俺は収穫を引きずってサクラのいる場所まで戻った。
岩場に戻ると既に焚き火が用意されていてその側には目を輝かせながら短剣を手に持つサクラの姿があった。察しのいいことで。
苦笑しながらもサクラにウサギとイノシシを渡せばすごい勢いで解体していった。
いつのまにやら解体の術を身につけていたのか<偽神>騒動の時よりも鮮やかだ。
「はい!」
満面の笑みで渡してくるサクラから肉を受け取り鉄串に刺して行く。ウサギの肉は全部刺し、イノシシの肉は元が大きいので割合としては少な目だが量はかなりある。
まあ残りの肉をどうするかは置いておこう。
串に刺した肉を火の傍におき、焼いていく。
肉の焼ける香ばしい臭いが堪らない。
程よく焼けたのでまずはウサギから食べる。
ガブッ……モグモグ……。
うん、うまいな。時間を置いていないし血抜きはこっちに持ってきてからだからやや獣臭いが気になる程ではなかった。
食感や味は鶏肉に近い感じだ。
もっと食べたいがウサギは小さいのでもう無くなってしまっている。
というわけで次はイノシシを食べる。
……ふむ。かなり獣臭いことを覚悟していたがそんな風味はほとんどない。
なにより、味が素晴らしい。特に脂がいいものだ。
赤身の部分は適度に歯ごたえがあり噛むほどに肉汁が溢れ出てくる。
これは当たりを引いたのか元々イノシシはこんなに旨いのかは分からんが狩ってよかったな。
「うまいが、多いよな」
チラッとサクラを見ればすごい勢いで食べている。
だが、それでもこのイノシシの肉は半分も消化出来ないだろう。
さてどうするか……。
「ん……?」
森のなかからこちらを伺う気配があった。
7,8匹で……ほう。
「よしサクラ食べ終わったら出発しようぜ」
「ん、分かった。残りのお肉はどうするの?」
「そのまま置いてく」
「え、でも……あっ、なるほど」
サクラも気づいたらしい。
既に焼いてある肉はお腹の中に収納し串などを片付けると俺たちはさっさとバイクに乗って出発する。
ちょっと離れて振り返ると肉を引きずる狼の姿が見えた。
その傍で一際大きい2匹の狼がこちらにをじっと見て座っていた。
敵意は感じないので警戒しているわけではないようだ。
それを見てサクラと見合えばお互いにニッと笑ってから先へと進んでいった。
「着いちゃったな」
「着いちゃったね」
俺たちは今、目的の街ツーバイまでやってきていた。
ウサギとイノシシを食べた後、三時間ほどバイクで間に一回休憩を挟みつつ走り続けていたら着いてしまった。
馬車で三日と言われてたが馬車って時速10kmぐらいだろうか。
まあ調子に乗って時速100km以上出してたから当然の結果かね。
門を通るの際に一悶着なども無くすんなり街の中へ入った。
「さて、どうしようか。中途半端な時間に着いちゃったしさすがに迷宮にも潜れないな」
時刻は夕方。地平線に隠れるほどではないがそれでも太陽はかなり下のほうだ。
「まあ、今日は移動で結構疲れたし宿に行ってさっさと寝ちゃおうよ」
「それもそうだな。寝るか」
そういうことで適当に大通りっぽい道を歩いて屋台でいろいろつまみながら宿を探した。
大通りを抜けた広場に宿を見つけたのでそこで部屋を取りすぐに寝た。
翌日、俺とサクラはランク2の迷宮にやってきていた。
「くそ、全然効かねえ」
今戦っているのは岩で出来たゴーレムだ。
ここの迷宮で出てくるのはゴーレムなどの魔法生物ばかりらしい。
パワーと堅牢さに優れている他、魔法にも一定の耐性があるなどかなり厄介な敵だ。
だがスピードが遅いのでそのパワーを恐れることはなかった。
問題はこいつの防御力だった。
サクラは短剣でスパスパと斬り払っていた。
まあ<神器>なので多少物理に強かったりしても無駄なのだ。
それこそ俺の左腕にある<神具>ぐらいでないと抵抗することも出来ない。
サクラは敵を軽々倒すのだが俺の方は少し手こずっていた。
弾が弾かれるのである。
まだ魔法弾を撃ってるわけではないのだが実弾が普通に通じないことに違和感を覚えた。
俺の銃も<神器>なんだが……。
「なんでだ?……あ、もしかして」
撃つのをやめて銃のグリップでゴーレムを思いっきり叩きつけた。
すると弾かれるのでもなくまるで豆腐のように砕け散った。
「<神器>は銃のみであって弾は違うってか……」
なんてこった。
確かに弾は魔法で作ったものだから<神器>ではない。
つまりは遠距離から<神器>としての桁違いな威力をお見舞いするなら形態の一つに弾を登録しないといけないのか。
もしかして初期に2つ登録できるのって銃作る神のためじゃね?
まあ、無機物系のこいつらだからこそ効きづらいだけで普通の生物系には有用だろう。
<偽神>レベルでくると無力になるだろうけど。
これを解決するなら……まあ弾の改良しか無いか。
もっと色んな性質のものを考えようっと。
「ここが最終階層か」
「すっごく大きい扉があるね」
俺たちは最終階層まで来ていた。
目の前には扉。
やたらとデカい。
それにこのフロア全体的に天井が高い。
つまりそれだけ広い空間が必要なボスがいるってことなんだろうな。
扉に触れると自動で開いていく。
中をみるとかなり広い円形のエリアで中央にはまるでこのエリアを支えているかのようなどでかい柱がある。
完全にエリアに入ると扉が閉まる。
いよいよボス戦のようだ。
そして柱にヒビが入っていったかと思えば柱そのものが巨大なゴーレムへと変形していく。
「でけえな……」
「ちょっとこれじゃあ大変かな」
サクラは自分の武器を見てそう呟く。
確かに短剣のリーチじゃあこの巨大ゴーレムの足など斬り落とせないだろう。
だが斬り落とせないまでもそれなり削られるだろうから後は自重で崩れるんじゃないかとも思うが。
「ま、敵は硬くてパワー馬鹿のノロマだしなんとかなるでしょ」
そういって俺はとりあえず普通の弾を撃ちだす。
もちろん弾かれるわけだがこれはただ確認のためにそうしただけである。
もう一発、弾を撃ちだす。
今度は弾かれず弾が突き刺さる。
これも実験だ。
徹甲弾みたいなものが出来ないか試したのである。
「これが本命!喰らえ、インサイドボム!」
次に撃ち出された弾はやはり突き刺さる。場所は右腕の関節部分。
そして刺さった瞬間ゴーレムの右腕が内側から吹き飛ばされた。
「よっし成功!」
これが対ゴーレム用の弾。
徹甲弾で少しでも貫通するとその内側に内包されていた魔力を流し込み爆発させるというものである。
これの何がいいかと言えば魔法耐性を無効化できることである。
ゴーレムの魔法耐性というのはそういう特性ではなくゴーレムの表面に触れた魔力を散らす効果を持つ防護フィールドが展開されているのだ。
だから内側から魔法を発動されれば魔法耐性が無効化されることになる。
「うん、とりあえず銃も色々試せば通用するって分かったしさっさと終わらせるか」
すでにゴーレムの左腕もなくなっていた。
サクラがすごいスピードで切り刻んでいたからな。
ゴーレムはコアを砕くことで倒すことが出来る。
逆に言えばコアを砕かなければどんなにボロボロになっても暴れまわる。
ランクが低い迷宮だからか再生能力はないようなので今現在こいつはひたすら足で踏みつけようと頑張っている。
高ランクだと砕いても砕いても瞬時に回復して襲い掛かってくると魔物図鑑に載ってた。
なお、コアそのものが魔石なのでなるべく形が残っていたほうが価値が上がるのだが、砕けたものでもそれなりの価格で買い取ってもらえる。
別にお金には困ってないのでさっさと片付けることにした。
銃口を向け引き金を引けば撃ち出された弾は瞬間的に特大のトゲ付き球へと変形して言った。
言わずもながな<神器>の棘玉だ。
無理やり弾にして撃ちだしてやった。
最初ゴーレム相手だと、銃は<神器>だが弾は別だから工夫しないと弾かれた。
だが、今回は弾も<神器>である。
その威力は凄まじく当たったゴーレムの上半身は粉々に吹き飛んだ。
「あっ」
吹き飛んだのはゴーレムの上半身だけではなくその内部にあった魔石も綺麗さっぱり粉々に砕け散った。
ただ割れただけなら別にそこまで価値は落ちない。
だが<神器>の破壊力は半端なものではなく、魔石は粒子レベルに砕け散り風に乗って消えてしまった。
ランク2迷宮を一応は攻略したもののギルドではそれを証明できずランクは2のままとなった。
連続した会話文の行を空けないようにしてみました。
ちょっとテンポが遅くなってしまった気がするので次回急展開なるかもしれません。




