12話 ダンジョン攻略戦記パート1
「んーこれにしようか」
俺はある依頼を選びサクラにも見せる。
「なになに?『世界に点在する迷宮を自由に攻略せよ(強制能力制限)-ラビリンス管理者』?」
「どうかな」
「別にいいよ。でも能力が縛られて苦労したばかりなのに能力縛るの?」
「今後もああいうことあるかも知れないじゃん?だから慣れておこうって思って」
「んーそういう考えもあるね……」
「まあ<神器>は普通に使えるし、前のような緊急事態時には能力制限が自動解除されるから大丈夫。前回はゲームアバターの時に巻き込まれたからエラー起こしたようだし。」
「誰情報?」
「創造神様」
今後縛ったらそのままああいう輩と戦う可能性があるのは怖いってことで聞いておいたのだが意図的な縛りにおいては問題ないとのこと。
なんていうかこの能力制限っていうのはスイッチがあって管理者から力を受けている間は能力制限がオン。それが切れるとオフになって解放されるとか。
だからまた世界が隔離されてっていう事態に巻き込まれた場合自動的に管理者からの力も断ち切られるので即座に能力が解放される。
「それじゃあ大丈夫かな。能力制限のせいで存在消滅なんて笑えないからね」
「そうだな」
あ、そうだ。
ポイント溜まってるしアレ買おう。
そう思って<端末>を弄って800Pを消費してとあるモノを購入。
「なに買ったの?」
「それはあちらに行ってからのお楽しみ」
それではいざ、迷宮世界ラビリンスへ。
「お待ちしておりました」
「えっと……」
ラビリンスへと訪れたわけだがスタート地点が人の目の前ってのはどういうこっちゃ。
おまけに神父みたいな格好をしてるからここは教会かなにかなんだろう。
「私はこの世界、ラビリンスを管理されているフィリス様の代行者をしております」
ああ、なるほど。
多分この人がこの世界の事とか軽く説明でもしてくれるのだろう。
「ではまずこちらをお受取りください」
俺とサクラに渡されたのは何かの証書。
「これは?」
「迷宮ギルドに登録するためにお金が必要になりますのでそれを渡していただければ私の預金から引き落とされます」
これ、小切手かよ。というかあるのか小切手。
「次にこれをどうぞ」
小袋である。
小物を入れる時なんかに便利そうだ。
「魔法の袋で、200kgまでならいくらでも物が入ります」
「なるほどそれは便利だ」
「最後にこれらの図鑑をどうぞ」
「どうも」
魔物、植物、鉱石、迷宮の図鑑をもらった。
あとはこれ見て学べってことですかね。
ていうか迷宮図鑑ってなんだ、と思ってチラッとめくってみるとファストの街にはランク1の迷宮が二つありますよとかどこにどんな迷宮があるかが記されていた。
ガイド本かよ。
「魔物は迷宮にしか存在しません。魔物を倒せば魔石を落とし、ギルドで買い取って貰えます。また迷宮では宝箱が存在していてその中からはいろいろなアイテムが見つかります。売るもよし、自分で使うもよしです」
「お、おう」
「以上で説明は終わりです。ギルドはあちらの扉から外へ出て正面にあります。あなた方のご活躍期待しております」
そういって深く頭を下げたかと思えばすぐに頭を戻し、奥の部屋へと消えていった。
「な、なんか怖い人だったね……」
「そうだな……」
どこまでも事務的に淡々とそして無表情で物を渡し、説明してくる姿はあまりに不気味だった。
しかも説明してくれたことはかなり少ない。
こんなのほとんど前知識ないのと変わらないんじゃないだろうか。
まあ、気にしてもしょうが無い。
「まあ、さっさと登録して迷宮潜ってみるか」
「お金登録料しかもらってないから潜らないと宿にも泊まれないもんね」
もうちょっとサービスがあってもいいんじゃないだろうか?
「登録完了しました。こちらをどうぞ」
受付の女性は満面の笑顔でカードを渡してくれた。
よかったここでも無表情とかだったらどうしようって思ってたから一安心だ。
「お二人は早速パーティを組まれますか?」
「ああ、頼む。」
「かしこまりました。それではパーティ名はいかが致しましょうか?」
パーティの名前か……。
ま、これしかあるまい。
「『フェンリル』でお願いします」
「分かりました。カードをこちらに差し込んでください」
言われた場所にカードを差し込む。
「はい。無事、パーティ『フェンリル』登録いたしました」
「どーも」
「それでは、手続きは以上で完了です。命を大事にしてくださいね。魔石の買い取りはあちらで行っております。ありがとうございました!」
そういって受付の女性はペコリと頭を下げた。
それを受け俺たちもギルドから出て行く。
途中体臭がキツイ男を一人踏んづけた気もするが些細なことだと思う。
「ぐぇっ」とか聞こえたので死んじゃいない。
まったくサクラを下衆な目で見るばかりか絡んでくるとか身の程をわきまえろっての。
どうやら能力を縛られてはいてもそれなりには強いようだってことが確認できたので許してやらんでもない。
「すっごいスッキリした顔してたね、受付の人」
「なんか今までの鬱憤がある程度晴れたんだろうな」
まああの男が理由なんだろうけどな。
「んじゃ早速迷宮へと行きますか」
「この辺にある迷宮ってランク1のものしか無いんだよね」
「そうらしいな。お陰で別名初心者の街って呼ばれてるというのはある意味お似合いなのかね」
さて、能力制限された状態での迷宮はどんなもんなのか楽しみである。
現在ファストの街近くの迷宮内。
迷宮の中は洞窟のような通路と小部屋で構成されているようなスタンダードなものだった。
薄暗いが灯りが必要なほどではない程度に壁がうっすらと光っている。
そして今最初の獲物を見つけた
ゴブリンだ。
なんか迷宮に生えてる草をムシャムシャと食べてこちらに気づいていない。
だいたい10mほど離れている。
ちょうどいいので的になってもらいましょう。
銃の威力はどんなもんかな?
右手で引き金に指をかけグリップを握る。
左手は下から支えるようにして握り、右膝を地面に付いてグッと両腕を伸ばし左腕は真っ直ぐ、右腕はやや曲げるように構える。
詳しくは知らんが映画とかで見た体勢を真似てるだけであるが、そう間違ってはいないと思う。
銃上部の凹の部分から凸が見えるようにしてその先をゴブリンへと合わせる。
充分狙いをつけてなるべくブレないようにゆっくりと引き金を引く。
――タァン
乾いた音が響いて弾丸が撃ちだされた。
胴体の真ん中を狙っていたのだがやや左にズレでゴブリンの左肩に命中した。
遠距離攻撃はまず当てるのが難しいな……
まあそれでもズレが思ったより小さいってのは神故か。
まあそれより問題は……
「肩にあたったが結構こいつ元気なんだけど」
「まあ点の攻撃だしちゃんと急所にあてないと。あ、でも左腕は動かないっぽいね」
まあ、しょうが無いか。
こちらに向かって走ってくるゴブリン。
「じゃあ今度は<神器>だからこその機能試してみますか」
今度は普通に立って構える。
走ってくるゴブリンに銃口を向け今度は右半身を前にして片手で構える。
3mまで近づいてきた。さすがにこの距離なら外さない。
では試させていただきましょう。
「ファイア・ブレット装填」
そう言ってから引き金を引く。
すると通常の弾丸ではなく火の玉が勢い良く撃ち出された。
火の玉がゴブリンへと着弾するとその身を焼きながら貫いていった。
またその衝撃は中々のものだったようでゴブリンは後ろ向きに吹っ飛んで倒れた。
その胸には直径5cmほどの穴が空いていてその傷口は焼かれているため血もなく穴の先の床がくっきり見える。
「んー魔法弾の威力はそこそこってところか。能力制限で魔力低くなってることを考えれば充分か」
「それ魔法撃ちだすためだったんだね」
「そゆこと」
さすがサクラ、理解が早い。
せっかく魔法使えるのだから拳銃と組み合わせて見たのだ。
というよりそもそも通常の弾も土魔法で作ってたりするので最初っから完全に魔法銃である。
魔法弾は火薬で飛ばすわけでもないので音が響かないのっも利点だろう。
通常弾は響くからね。
そう迷宮みたいな空間だと特に。
「んーやっぱ迷宮に銃ってミステイクなんかね。いっぱい来たわ」
ぞろぞろと音に釣られたのか奥から結構な数の気配を感じる。
「その通常弾って土魔法で作ってるんだよね?わざわざ火薬も含めて」
「うん」
「魔法弾と同じように魔力で飛ばさないの?」
「……ロマンって大事だと思うんだ」
「そうなの?」
「そうなんだ」
サクラに痛いところを突かれたかがロマンってことでゴリ押しする。
魔力で飛ばせば音はましになるが気分ってものがあるんだよね。
魔法弾だって音こそ少しは控えめだが撃った衝撃は実弾と変わらなかったりする。
「まあ、ともかくあれなんとかしちゃうか」
音につられてゴブリンがまず5匹向かってきている。
「2,3匹残してよ。私も動きとか確認しないとだし」
「了解」
「アイス・ショット装填」
さっきとはまた別の魔法弾を撃ちだす。
撃ち出された瞬間弾丸が弾け氷の散弾が敵を貫いた。
前列にいたゴブリン達3匹に氷柱が刺さっていて刺さった部分から身体が凍っていく。
「ブレイク」
そう言うとともにゴブリンは砕け散る。
尚、わざわざ口にだすのもその後のもろもろも全部演出である。
何も言わずとも氷の弾撃ちたいと思いながら引き金を引けばそうなる。
別にいうことで装填されてるなんてこともない。
まあ銃も慣れたな。神補正効いてるのかそう意識しなくとも命中するし。
まあ、何も物理現象だけで撃ってるわけでもないので自動追尾弾とか出来ますけどね。
全てロマンってことで。
「んじゃ2匹どうぞ。奥からまだ来るから手早くな」
「うん、すぐ終わると思う」
短剣を握り直して仲間が氷になり砕けたのに驚いたのか足が止まっていたゴブリンまで一気に駆け寄っていくサクラ。
能力制限があるので一瞬で、とはいかないがかなり早い。
ゴブリンもピクッっと反応こそするがそれだけで、ほとんど何も出来ずサクラに接近を許し無防備な身体を晒す。
しかし、サクラはそこで立ち止まる。
2匹のゴブリンは何も疑問に思うこと無くただチャンスとでも思ったのか同時に棍棒をサクラに振るった。
その攻撃の単調だが速度はそこそこ早い。
何の訓練も経験もない大人の男性であれば苦労する程度には。
だがサクラにとってはそうでもないようだ。
ギリギリ当たらないように後ろに一歩下がって避けていた。
しかし何もしない。
ただ避けただけである。
その後、数回ゴブリンの攻撃を紙一重で回避し続け一人納得したように頷いた後、次のゴブリンの攻撃を前方に避けながらゴブリンの間を抜け2匹の首を落としていた。
「感触はどんなもんよ」
「うん、大丈夫かな。思ったより動ける」
「んじゃどんどん行こうか。とりあえずランク1の迷宮だしさっさと消化しちゃおう」
「了解」
そういったところで追加のゴブリンが現れたが都合のいいことにまとまっている。
ゴブリン達に銃口をむけて引き金を引けば撃ち出されたのは魔法弾。
「サンダー・ブレット」
弾が当たったゴブリンを強力な電撃が遅いそれは周りのゴブリンにも広がっていった。
まとまっていた全てのゴブリンが感電して息絶えていた。
「やっぱ雷系は他よりも威力高いんだよなあ」
「むー私あまり動いてない。つまんない」
横でサクラがほっぺを膨らまして抗議してきた。
遠距離系の<神器>あるとこういう問題が起こるのか……。
かわいいから俺にはご褒美にしかならんが。
膨らましたほっぺをつついて遊んだりしながら迷宮を奥へと進んでいった。
「こ、こちらは迷宮のボスゴブリンナイトの魔石ですね。迷宮クリア、お、おめでとうございます」
やや引き攣った笑顔で受付の人がそう言ってくれた。
登録の時に担当してくれてた人である。
「えー全部で買取額は全部で10万フィルになります」
そういってカードを渡された。
10万フィルは何処に行ったのかといえばこのカードの中にである。
まさかのクレジット機能付きだった。
デビットカードっていったほうが近いかもしれない。
月末支払いじゃなくて預金にある分だけ自動で引き出して使うようだ。
「10万フィルか……それなりだと思うけどランク1迷宮程度じゃこんなもんかね」
「ハハハ、普通はランク1でも登録初日に1日で攻略したりはしないんですけどねー」
そう、乾いた笑いを吐き出しながらも突っ込まれた。
なんか対応が崩れてきてるな。
ちなみに10万フィルの内の9割がボスの魔石によるものである。
やっぱボスのは価値が高いんだな。
「それとランク1の迷宮を攻略されましたので探索者のランクが2に上がりました。カードに記載されていますのでご確認ください」
そう言われカードを確認すればレイ、探索者2となっていた。
登録の時聞いたがこのランクで入れる迷宮に制限が付きますよってわけではない。
ただのクリア証明みたいなものだ。ランクの一つ下の迷宮をクリアしたことがありますよっていう感じ。
まあ、ランクが上がると買取額が割増されたり宿で割引されたりするなどの特典はある。
ついでに残金50,000Fとも表示されている。
無駄に便利だなこれ。
もう半分はサクラのカードに入っている。
尚ステータス表記なんていうものはない。
それにしてもこの受付さんはよく訓練された受付さんだ。
無駄に大声で騒いだりしないし突っ込んで聞いてくることもない。
多少固まったり、微妙に態度が崩れたりしたがすぐに流してくれた。
ビジネスライクっていいよね。
「それではお疲れ様でした。さらなるご活躍、期待しております」
その言葉を受け、俺たちは出口へと向かう。
登録時にあった臭い男とのあれこれと、即効で迷宮攻略したせいか皆道を空けてくれる。
別に空けてくれなくともいいのだが。
まあ、気にせず臭い男を踏みつけてギルドを出て行った。
全く学習しろよな。
「とりあえず宿か」
「お店とか見てみようよ」
そういえば店とか見てなかったな
「じゃあ見ながら宿向かうか」
そう言って色々店を覗いていく。
うっわこの鉄の剣買うのに5万フィル?
防具は一式で最低8万?
今日の稼ぎ吹っ飛ぶじゃん。
ランク1はやっぱり初心者用なんかね。
敵も弱かったし。
よく見れば胸当て部分だけ買う人が結構いた。
まあ余裕ないだろうからねえ。
あとは屋台が出ていた。
サクラが串焼きに釘付けになっていたので買うことにした。
一本100F。高いのか安いのか分からない。
支払いは俺のカードを専用の機械のようなものに差し込むことで出来た。
ほんと便利だな。
「ここが宿だな」
看板にはハゲ親父亭と書いてある。
なんだろう入りたくない。
だがここがギルド一押しの宿らしいので意を決して中へを入った。
「らっしゃい!泊まりか!部屋はいくつで何日だ?」
入ってそうそうこれである。
「一部屋にベッドはいくつある?」
「小さい部屋で2つだな」
「じゃあその部屋を1つで3日で」
「まいど!食事付きなら3日で1500、無しでいいなら1200フィルだな」
「食事付きで頼みます」
そういってカードで支払う。
「食事は朝食と夜食の2回でそれぞれ朝6時から9時の間と夜6時から9時の間に食堂で食べてくれ」
「分かった」
「部屋の鍵はこれだ2階の一番奥の部屋だな」
鍵を受け取りしまう。
時間がちょうど夜の6時を回ったところだったので食堂で食べてから部屋へ向かった。
ファンタジーよろしく硬い黒パンにみすぼらしいスープ……ではなく柔らかい白パンに濃厚で具だくさんなシチューだった。
超美味かった。
部屋へと入りサクラと迷宮に入った感触を確かめ合う。
「ランク1は正直余裕だったよな?」
「うん。出てくる魔物の動きも遅かった」
「能力制限つってもそこまで厳しい制限じゃないようだな」
「そうだね」
「じゃあこれからどうする?」
この周辺にはランク1の迷宮しかない。
まさに最初の街だ。名前もファストだし。
「やっぱりもうちょっとランクの高い迷宮のある街にいきたいかな。遠距離から終わっちゃうしちょっとつまんないし」
「じゃあ明日、旅のための道具とか揃えて次の日出発ってことろかな」
「それでいいんじゃないかな、移動はどうする?徒歩?それとも馬車か何か乗るの?」
「いや移動については心配しなくていい」
「どうして?」
「内緒。楽しみしてて」
ついにアレを使える時が来たようだ。クックックッ……。




