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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
協力者
99/123

03

「なんの用ですか?」

大橋の問いかけに答えたのは輝血だった。

「お父……水仙と何を企んでいる?」

大橋は表情を変えず輝血を見つめ続けた。

「君達も望んだ食屍鬼の復活。……ですがもう無理でしょうね。私は失敗をしてしまいました。」

「失敗?」

「ええ。私は食屍鬼になる事が出来なかったし、会長を怒らせてしまった。私の命はもう長くはないでしょう。それに、彼の死によって彼の子供達も自由に動き始めてしまいました……。」

大橋はまだ泣き真似をする余裕があるようだ。

そんな大橋を見つめる二人に笑みは無く、同情という感情も持ち合わせていない。

「元はどういう計画だったんだよ?」

輝血の冷たい声が響いた。

「食屍鬼を復活させ、龍を滅ぼす……のは難しいかもしれませんが、活動が出来なくなるまで隊員達を削る事。ただそれだけですよ。私の目的は単純に食屍鬼をもう一度この目で見て、もう一度彼達と過ごしたかった。」

「どうしてそこまで食屍鬼に拘るんだ?」

「彼達は美しい。美しいモノに惹かれるのは不思議なことでは無いでしょう?」

輝血と懍は顔を引きつらせた。

「まあ……人の価値観はそれぞれだから美しく感じることに対しては何も言わないけれど、だからってそれだけの理由で自分の命を危険に晒してまで復活させたいと思うのは……少し変わっているようにも感じるよ。」

懍の言葉を聞いた大橋はフフフと笑う。

「よくおとぎ話でもあるでしょう?永遠の眠りについたお姫様を復活させる王子様。お姫様を第一に考え戦う王子様。それと同じですよ。彼達は私のお姫様。そして私は彼達の王子様。ふふ、ふふふ。」

大橋は下を向き溢れ出す笑いを止められなかった。

そんな大橋を見て懍は更に顔を引き攣らせた。

「私にとって龍は敵。ですが私はその龍に一度命を助けられた。だから復活を諦めていた時期もありました。ですが、敵の中に味方を見つけました。」

「敵の中に味方?さっきの協力者の事か?」

輝血は首を傾げた。

「ええ、彼もそうですね。ですがそれよりも前に白龍にいる協力者が私の所に来たんですよ。もっと強い食屍鬼はいないか?ってね。」

「どういう事だよ?」

「白龍の中には会長を良く思わない隊員が存在するのはご存知でしょう?その人達ですよ。」

大橋は不気味な笑顔を二人に向け続けている。

「白龍隊員があんたに頼んだのか?」

輝血は表情を変えることなく自分の中にある疑問を大橋に投げかけた。

「そうです。その一部の白龍隊員は会長が復帰したのを良くは思わなかった。総龍の会長になったのも面白くない。より強力な食屍鬼を復活させることにより、会長の命を狙ったんです。」

「食屍鬼に頼らず自分達で立ち向かえばよかったんじゃないのか?」

輝血の言葉を聞いた大橋から発せられた乾いた笑い。

それはまるで叶わぬ夢を語る人に対して嘲笑うかのような、馬鹿にしたような笑い声である。

「へっへへ、それは無理でしょう。いくらあの時弱っていたとはいえ当時の黒龍を纏めていた隊長であった彼に数人で立ち向かった所で、まずは黒龍の隊員に阻止されるでしょう。仮に凱斗くんが手の届くところにいたとしても、凱斗くんにあしらわれて終わる。彼達はその辺の力関係は理解していた。だからこそ、食屍鬼に縋るしか無かったのです。」

「でもその白龍の人達って……確か自分の所の隊長が食屍鬼に殺られたんだよね?それで助かった会長を恨んで……ってよく分からない恨み方をしていたよね。食屍鬼に縋るのはおかしいんじゃないの?」

懍が納得のいかない顔を向けると大橋は頷いた。

「懍さんの言う通り。当時の白龍隊長は食屍鬼に殺られた。その食屍鬼を生み出したのは私の実験。そして、その隊長を食屍鬼として復活させたのも私。……食屍鬼になった隊長を殺ったのは凱斗くん。食屍鬼になりかけている凱斗くんを渋々助けたのは私。だから、本来なら恨まれるべき存在は私のはずなのですが、彼らは食屍鬼としてでも復活した隊長を終わらせ、そして自分だけが助かり、関与していた私を生かしていた凱斗くんに全ての怒りをぶつけた。」

「何度聞いても理解し難いな」

輝血がボソッと呟くと「ね、分からないね。」と懍が輝血の肩に顎を乗せる。

「洗脳と依存は人を狂わせるのです。」

輝血と懍は目をパチパチとさせた。

「白龍隊員達は前白龍隊長に依存していました。いや、依存と言うよりは崇拝や心酔、と言った方が正しいですね。」

「なんだか宗教みたいだな。」

輝血の言葉を聞き懍が頷くと、大橋はニタリと笑い話を続けた。

「白龍隊員達は前隊長が全てでした。その人を一度失い、絶望を感じている時に食屍鬼として復活した事を知り、それでもまた前隊長と共にいられるならばと思った矢先、黒龍の隊長がその命を終わらせたと知らされたのです。彼達は当時深く物事を考えられない程の大きな心の怪我をしました。もう一度会いたい、もう一度話したい、出来ることならどんな姿であろうとこの先も共に過したい……と、前隊長への思いが強すぎるばかりに周りが見えない状態だったのです。」

「だからって会長を恨むのは……ねえ?」

懍はやはり納得がいかない様子だ。

「そうです。今の彼達はそれに気付いています。貴方達の所にもいるでしょう?気付いている元白龍隊員が。その人と同じように、会長に噛み付くのは間違いだと分かっている。ですが、分かっていても辞められないのです。このモヤモヤとした気持ちをぶつける場所が欲しいのです。そして、凱斗くんはそれを理解した上で相手をしています。度が過ぎた事をすれば罰を与えますが、それでも凱斗くんはぶつけられる言葉を全て受け止めています。凱斗くん自身が一番自分を恨んでいるから気持ちがわかるのでしょうね。」

淡々と話す大橋ではあるが、凱斗の気持ちを考えると心はズキズキと痛みだし、それは大きな同情へと変化していく。

「会長が……まあそれは少し分かるけど…。自分のせいでって思っちゃうと……ね?かーくん。」

「うん。でもだからって他の奴の言葉を全て受け止める必要は無いだろ。」

二人は何度聞いても理解が出来ないと呆れた顔をしてみせた。

「そうですね。でも凱斗くんはああ見えて人に優しい……そして甘い人間なので。へっへへ。じゃないと私が今この時まで生きているのはおかしいですからね。今は私を生かしておいたことも後悔していると思いますが。」

大橋は凱斗の選択ミスのおかげで命拾いをした。

だが、それは凱斗自身をとてつもなく苦しめる決断だとあの時から分かっていたのだ。

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