02
「仲間にできない…?」
輝血は不思議に思うと同時に心のどこかでほっと安心していた。
それが何故なのかは分かってはいない様子だ。
「水仙と面識はあるし俺達も会ったことがある。でもあの人は駄目だ。金さえ払えば仲間のフリ位ならしてくれるかもしれないが……仲間にはならないだろうな。」
「どうして?」
「そりゃあの人が水仙を好いていないのもあるし、食屍鬼の復活なんて願わないからな。」
「キョウさんがそう言っていたのか?」
「いや、本人が言ったわけじゃないが……あの人は騒がれるのが嫌いな人だから。それに、自分が認めた仲間以外は人間扱いなんてしないって噂だ。俺達もあの人を仲間にしようとは思っていなかったよ。」
「じゃあどうして面識があったんだよ?仲間にする為に会いに行ったんじゃないのか?」
「違う違う、元々水仙はキョウから子供を買い取っていたんだよ。お前達の所にもいただろ?どこから来たのか分からない子供が。」
「確かに……俺達が助け出した子達とは別に急にお父さんが連れ帰った子供達もいたね、かーくん。」
懍が思い出したかのように輝血に問いかけると、輝血も小さく頷いた。
「その子供はキョウが用意した子供。水仙とキョウの関係は人身売買だけの関係だ。」
「キョウさんはどうやって子供達を用意したの?」
懍が隊員に問い掛けると、隊員は首を横に振った。
「それは俺にも分からないし水仙も知らないんじゃないか?あの人はそういう仕事をしている人だし、向こうの世界では顔が広い。どうにかして手に入れたんだろ。」
「じゃあどうして大橋はキョウさんの所にいたんだよ?」
輝血は自分の中にある疑問のひとつを隊員にぶつけた。
「それは、あの場所なら会長も大橋を奪いにくいと考えたからだよ。よく考えてみろよ、向こう側のキョウと会長、お互い良い顔なんてしないだろ。敵みたいな立ち位置にいるからな。それにあそこはキョウの縄張り。会長も下手に手は出せない。」
「……分かった。今日はもう帰るよ。」
輝血は隊員に背を向け階段の方へと歩く。
懍が慌てて輝血の後を追うと後ろから「俺の事は誰にも話すなよ!」と声が聞こえた。
二人は返事を返すことなく地上へと戻った。
「かーくん、どうしようか。」
懍は黙ったまま立っている輝血に話しかけた。
「……頭の中がゴチャゴチャしていて整理ができない。」
「うん、俺も。」
二人は俯きため息を漏らした。
「お父さんの事はなんとなく分かっていた。分かっていないふりをしていた。でも、いざそれが事実だと突きつけられると動揺してしまったし、それに俺が思っていたよりも……お父さんは俺を愛していなかった。」
輝血の瞳はゆらゆらと滲む。
そんな輝血を見た懍は唇をぎゅっと噛み締めた。
「……俺達ってなんなんだろうね?本当にただの駒として育てられていただけなのかな。」
もう諦めたといったような表情をする懍と、まだ諦めが付いていない様子の輝血。
輝血はどうにかして事実を覆す根拠を探してみたが、それは顔を出すことはなかった。
「……普通なら、愛する子供に罪を犯させる親はいない。でも俺達のお父さんは普通では無い道をあたかも普通の道だと思わせて歩かせた。俺はそれに気付きながらも見て見ぬふりをして歩き続けた。俺も悪いんだけど……。」
輝血はどうしても憎みきれずにいた。
自ら犯した罪を思い出すと、たった一人を悪者にすることなど出来ないのだ。
「俺だって悪い事をしているって理解はしていたよ。それが自分の家族の為になると思っていたし、実際あの時の俺はそこまで悪い事をしているという自覚をしていなかったのかもしれない。俺のせいで人生が台無しになった人間が沢山いる。でもそれでも、俺はあの時確かに幸せだったんだ。」
懍は遠い過去を振り返るような、だけどそれはすぐ側にあるような、そんな不思議な感覚に陥りながらもあの時の光景を鮮明に思い出し、もう二度と手に入れることはできないであろう幸せを噛み締めていた。
「人を壊して得る幸せは長く続かないな。」
「そうだね。……で、これからどうする?思ったより早く協力者と接触してしまったし、お父さんの考えも少しずつ分かってきた。」
懍が輝血の肩を抱くと、輝血は顔を上げ真っ直ぐ懍の瞳を見つめた。
「……懍、もう一回地下に行こう。大橋にも話を聞いておこう。」
どこか覚悟を決めたかのような、諦めがついたかのような瞳をする輝血を見た懍は喉を鳴らした。
懍が大好きな輝血のあの目に少しだけ戻った気がしたのだ。
「そうだね。全てをハッキリさせないと気持ち悪いしね。」
懍がヘラッと笑うと、輝血もつられて笑った。
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「なんだ?帰ったんじゃないのか?」
椅子に座り雑誌を広げていた隊員は雑誌を雑に閉じ立ち上がった。
「やっぱり大橋と話したくて。」
輝血は隊員の目をジッと見つめた。
「ふーん。いいよ、鍵を開けてやる。ただし一つ約束してもらうぞ。」
「約束?」
「ああ。ここの監視は俺一人でやっている訳じゃない。交代時間になったら別の隊員が来る。そいつは俺達に関係していない純粋な龍の隊員。だからそいつが来る前には話が終わって無かったとしてもここから出て行ってもらう。いいな?」
輝血と懍が頷くと隊員は鍵を取り出した。
「ついて来い。」
隊員はドアを開け廊下を進んで行く。
輝血と懍は恐る恐るそのすぐ後ろを歩いた。
奥へ奥へと進むほどに空気が重くなっていく。
三人の足音だけが響く。
「ここだよ。」
隊員は一つの扉の前に立つと鍵を差し込みドアノブを捻った。
「お前達が大橋と話せるのは俺が呼びに来るまでだ。」
「分かった。」
隊員がゆっくりとドアを開くと、中からは悪臭が漂う。
「うっ」
輝血と懍は思わず口と鼻を手で覆った。
「おっと忘れてた。これを着てから中に入れ。」
隊員は一度ドアを閉めると廊下にポツリと立つロッカーを開き中から防護服を取り出した。
頭の天辺から足の爪先まで覆われる服を輝血達は手に取り身につけた。
「会長はそのまま入って行っちゃう時があるんだけど、基本的にこの部屋に入る時は全員がこれを着る事になってるんだ。って言ってもそんなにこの部屋に用事は無いから忘れてたんだけど。」
「少し息苦しいね……大丈夫?かーくん」
「大丈夫。」
輝血は大きく息を吸って吐き出した。
「外からの臭いもそれを着ていりゃ平気だろ。」
隊員はそう言うともう一度ドアを開ける。
「じゃあまた後でな。」
二人が部屋に入ったのを見た隊員はドアを閉めた。
薄暗くジメジメとした部屋。
虫が飛び交う。
「珍しいお客さんですね。」
椅子に拘束された大橋が不気味な笑みを浮かべて二人を見つめると、二人はブルッと震え上がった。




