01
あの日から数日が経ち、総龍屋敷墓場に一つの墓が増えた。
凱斗は緊急会議を開き、大橋との会話映像を各隊長に見せた。
大橋が話すほどに亀八の表情が青ざめる。
「……という事だ。これが事実かどうかはこれから調べる。……が、俺は大橋が嘘をついているとは思わない。これはまだ甘さが残っているのかもしれないが、最期くらいはちゃんと話してくれた、そう思いたい。」
「会長!」
亀八は立ち上がると直ぐにその場で頭を下げた。
「白龍が協力者だとは信じたくないが……実際兄の一件で会長を良く思っていない者がまだ数人残っているのは俺も知っていた。もし、もしそいつ達の中に協力者がいるのだとしたら俺の責任でもある。本当に……本当に申し訳ございません。」
「亀八、頭を上げて。」
「いやしかし」
「いいから。」
亀八は悔しさと申し訳なさで心が潰れそうだった。
「亀八には白龍に協力者がいないか調べてもらいたい。もし見つけ出せたら総龍に連れてきて欲しい。そいつに聞きたいことがあるんだ。」
「……はい。」
亀八はショックを隠しきれない表情のまま椅子に座った。
「……赤龍青龍は変わらず国民の検査の手伝いに回って欲しい。桜庭は俺と一緒についてきて欲しいところがある。」
百音、彩葉、桜庭は頷く。
「今回で全てを終わらせる。今回の件に関わった人物は全て処罰対象。一人たりとも逃がさない。」
凱斗の目を見た隊長達は背筋を伸ばした。
その目は鋭く、そして胸が締め付けられるほどに悲しげであった。
亀八は白龍屋敷へ、彩葉と百音は二人で青龍屋敷へと向かった。
凱斗と桜庭だけが残る部屋。
「凱斗さん、私達はどこへ向かうのですか?」
沈黙を破ったのは桜庭だった。
「大橋が匿われていた部屋だ。あの街は今は閉鎖されている。キョウから許可を得る必要も無いし、あの部屋もきっとそのままのはずなんだよ。」
「他に何らかの手がかりが見つかるかもしれない、という事ですね?」
「……ああ、ネズミが入り込んでなければの話だがな。」
凱斗と桜庭が会話をする部屋の前を二つの影が通り過ぎた。
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数日前
凱斗達がリーヴ地区に行っている日の事。
「懍、本気で行くのか?」
「当たり前じゃん。」
輝血と懍は総龍屋敷の地下へと向かっていた。
「見張りが居るから会えないと思うぞ。」
「見張りの隙を見て……。」
「そんな上手くいくかな?」
地下へ続く扉の前でコソコソと話す二人。
「とにかく行ってみようよ、かーくん。」
「はぁ……。」
キラキラと目を輝かせながら話す懍を見て輝血は小さくため息を吐き出し、扉を開きゆっくりと中へ入る懍の後に続いた。
地下へと続く空間は二人の足音だけが響く。
長い階段を下り扉の前に辿り着く。
扉の前に立つ隊員が一人。
「何の用だ?」
輝血と懍は目を合わせ、懍が口を開いたと同時に隊員が言葉を発した。
「……大橋に会いたいのか?」
思っていた言葉とは違う言葉を投げかけられた二人は再び目を合わせた。
「どうして…?」
懍が隊員に話しかけると、隊員はクククと笑う。
「やっと動き出したか。」
「え?」
隊員は二人を見てニコリと笑った。
「大橋は会長に殺される。話すなら今のうちだ。」
「もしかして隊員さんが協力者?」
懍の問い掛けに隊員は頷いた。
「俺は水仙に頼まれて大橋の手助けをした。」
「お父さんとはどういう関係なんだ?」
輝血が隊員に食い気味で話しかけると、隊員は輝血の目を見る。
「お前達と同じだよ。俺は水仙と血の繋がりの無い子供。俺の他にもそこら中にいたよ。」
「……いた?」
「ああ。あいつ達もお前達と同じような事をして生活をしていた。いつ死んでもおかしくねえ。」
隊員は小さくため息を吐き出し椅子に腰をかけた。
「俺は水仙に頼まれて龍の隊員になった。約二年ほど前だ。……この意味が分かるか?」
「二年前……どうしてそんな前に龍に入らなきゃいけなかったの?」
懍が首を傾げながら聞くと、隊員は足を組みニヤリと笑う。
「食屍鬼復活の為に二年前から動いていたんだよ。」
輝血と懍は目を大きくする。
「二年前って……お父さんが望んでいたってことかよ?」
「そうだよ。ただその為には大橋が必要だった。だが肝心の大橋は龍に忠誠を誓い一人では表に出ない存在となってしまった。……だから俺が入隊し接触するように命令された。
いやあ、大変だったよこの二年間。会長はもちろん食屍鬼事件に関わった隊員が多いこの場所で、もし俺が復活を目論み潜入した隊員、だなんてバレたらそりゃもう想像するのも嫌になるほどの罰を与えられるだろう。」
「お父さんはなんの為に復活させたかったの……?」
「前会長への復讐、現会長への嫌がらせ。…ただそれだけだよ。」
「復讐と嫌がらせの為だけにアイツらを復活させたがってたって……そんな事──」
「そんな事あるんだよ。お前らが思っているよりも水仙はガキ思考だ。前会長は食屍鬼発生後にここに来た会長に付きっきり。自分よりも会長を愛した前会長を恨んでいた。……自分が受けるはずの愛を与えられていた会長は自分よりも優れていて、今こうして総龍の会長になっている。」
隊員はゆっくりと立ち上がり二人を見つめた。
「水仙はこの屋敷から出て行き自分の家族を作る為に各地を転々とすごした。そして俺やお前達みたいな子供を自分の元に置いた。お前達のチームも全ては龍にぶつける為に作られたモノ。」
「それじゃあ俺や懍はお父さんにとって……」
「……ただの駒だよ。あの人は誰の事も愛していない。」
「そんなの嘘だ!お父さんは俺たちを心配してくれた。俺たちに救いの手を差し伸べてくれた。俺たちを大切にしてくれた……愛していないだなんて……そんなことあるわけないんだ。」
「じゃあどうしてお前らは食屍鬼の実験に使われたんだよ?」
隊員の言葉を聞いた輝血は言葉を詰まらせた。
何も返せない。
それは輝血にも理解が出来ない……いや、目を背け続けていたからだ。
「お前達があの日あの場所でどうして会長と会ってしまったのか、考えたことは無いか?」
「たまたま一緒に来ていたんじゃないの?」
動揺する輝血を抱きしめながら懍が答えると、隊員は笑った。
「あの日、会長が大橋達と一緒に行動する事は隊員達は知っていた。だから俺が水仙にその情報を流した。」
「でもあの日出かけたのは龍に捕まっていた奴からの情報で……」
「そいつの代わりに俺が出した情報だ。柏木もお前達も騙された。全て俺や水仙がお前達が歩く道を作り上げていたんだよ。お前達は疑う事もなくその道を歩いて上手くこの場所へとやってきた。」
「でもどうしてそんなに前から企んでいたのに今になって?」
「それは……輝血の成長。お前がここまで打たれ強くなるまで水仙は待っていたんだよ。」
「かーくんの成長…?」
「悪さばかりして悪に染まりきったお前は、自分は強いと思い込んだ。そして喧嘩も強くなり体力も前より上がった。龍からの罰に耐えられる程に成長をした。」
「で、でも罰に耐えきれなかった可能性だって」
「いーや、それは無い。」
「どうして言い切れるの?」
「会長が輝血に弱いからだよ。」
「……どういうこと?」
「輝血は水仙に助けられたあの日、会長と会っている。と言っても会長が見ただけかもしれないが。自分と関わりある者の施設で育った子供を救えなかった会長は、あの日見かけた輝血の事も忘れていないだろう。そして、覚えていればきっと殺しはしない。」
「……じゃああの日のあの時から俺の将来は決まっていたのか…?」
輝血はか細い声で話した。
「水仙が話していた事を覚えている限りで教えているだけで、俺は水仙の考えまでは分からない。」
「じゃあ俺はずっと駒として育てられて、育ちきったから龍にぶつけられた……全てあの人の思惑通りって事か…?」
「ま、そういう事になるかもな。……俺より大橋の方が詳しく知っていると思うけど。会うか?」
輝血は首を横に振った。
「いいのか?聞きたいことがあるんじゃないのか?どこにどうやって糸を張っているのか、知っておきたいんじゃないのか?」
「……いや、もういい。よく分かった。」
輝血の声は弱々しかった。
突き付けられた現実からもう目を背けることは出来ない、そう思ったのだ。
「本当かよ?」
「なあ、一つ教えてくれ。」
「なんだ?」
「……キョウさんもあんた達の仲間なのか?」
隊員は二度三度と瞬きをすると困ったような顔をする。
「あの人は仲間には出来ない。だから違うよ。」




