08
記者会見から一夜明けて、総龍会屋敷地下にて大橋は再び凱斗と顔を合わすこととなる。
「これは何だ?」
凱斗はキョウに渡された瓶と紙を大橋に見せる。
「そ……れは……。」
「どうやってこれを作り上げた?一人でやったのか?これを配っていたのは誰だ?」
「あ……一人で……作りました。キョウさんに匿ってもらったあの部屋に道具一式を持ってきてもらって……。」
「……道具一式はどこに隠していた?」
「……。」
「答えろ。」
「……私が隠した……いや、隠してもらっていた……その方が正しいですね。」
「誰に?」
「名前は分かりません。」
「は?何をふざけ───」
「ふざけてなんかいません。……彼は自分をRと名乗っていました。本当の名前は知りません。」
「R?どこで知り合った?水仙絡みか?」
「……はい。でも、その方と繋がったのは水仙さんが総龍屋敷に来るよりも前の話……。」
「どういう事だ?」
大橋は顔を下に向け、クククと笑った。
「凱斗くん。私はあの時、貴方に忠誠を誓った。この命を助けてもらったことを心から感謝した。これは本当なんですよ…。でもね、やっぱり私は食屍鬼の魅力には抗えない。」
「何を言っているんだ?」
「貴方が会長となり、それを喜んだ隊員達の中に良く思っていない隊員達がいた事は……凱斗くんも分かっているでしょう?」
「ああ。」
「貴方を良く思っていない隊員は、私にこう言いました。……「食屍鬼が復活すれば、会長はまた戦いに出る。その時もし食屍鬼の力が前よりも増していたら……会長はどうなると思いますか?」ってね。」
凱斗の眉がピクリと動く。
「私は、凱斗くんは簡単に倒されない。そう答えました。そしたら……へへっ、隊員さんは、会長を倒せる程の食屍鬼を復活させることは出来ないか?と言ってきたんですよ。へっへへ。」
凱斗は大橋の髪を掴み顔を上げさせ、目をじっと見つめる。
「その隊員の名前は?」
大橋はニタリと笑ったままゆっくりと口を開く。
「彼の名前も存じ上げておりません。へへっ、すみませんねぇ。」
「嘘をつくな!」
「嘘じゃないですよ。本当に知らない。ただ、白龍の隊員だと言う事しか。」
凱斗は大橋の髪から手を離し背を向けた。
「彼らは私の方を憎むべきなのに、それでも凱斗くんへ牙を向けた。それは何故か?……私を生かしておいたからですよ。」
「……。」
「あの時の凱斗くんはメンタルが弱っていて判断能力も低下していた。食屍鬼によって失った仲間達は数しれず、そんな貴方は、私を処分するという考えには至らなかった。それはどうしてか?……これ以上周りの命が消えていくのを見たくなかったから。」
「……。」
「自分の手で殺めることも、仲間に殺ってもらうのも納得出来ない。だから、自分に忠誠を誓わせ厳重な見張りと共に研究者として残した。……違いますか?」
「違う。」
「あら?違いますか?私はてっきり凱斗くんの心の弱さからきた誤った判断の結果だったと思っていたのですが。」
「誤った判断だったとは思う。当時は本当に……お前の事は許せなかったし今も許してはいないが、研究者としての腕は世界で五本の指に入るほどだと思っていた。お前の研究者としての力を認めていた。……だからこれからは別の方向で、人の為になることを出来れば、そう思ったんだ。」
「でもその結果がコレですよ、凱斗くん。それに、その気持ちは有難いですが……私が今までしてきた研究や実験は全て食屍鬼の為のもの。それ以外に研究したい事なんて無いんですよ。」
「……そうだな。あの時は俺もお前も弱っていた。甘さが出た。判断が鈍った。」
凱斗はゆっくりとドアの方へ向かうと、ドアの隣に置かれた小さなテーブルの上に瓶と紙を置き、代わりに銃を手に持った。
「協力者の名前、名前が分からなければ特徴、知り合った経緯や連絡手段、水仙との関係、全て吐け。」
凱斗は大橋の足に銃口を向ける。
「へっへへ、もし全て答えな───」
パンッという爆発音が響くと、大橋は椅子ごと倒れ込み大きな声で叫んだ。
「これ以上ふざけても良い事なんて一つも無いぞ。正直に答えろ。」
凱斗は倒れ込む大橋にゆっくりと近付きしゃがみこむと、大橋の顔を覗き込んで笑顔を見せた。
「もう誤った判断はしない。」
大橋は息を飲んだ。
「で、でも、もし今ここで私を殺したらなんの情報も得られない。そうなれば困るのは──」
大橋は喋っている途中で腕に痛みを感じた。
「いいから話せよ。穴だらけになりたいか?」
ニコリと笑みを崩さない凱斗を見て、大橋は全てを諦めた表情を見せる。
「話します。どうせ私の命は早くて今、遅くても今日中に終わるもの……。それに貴方に忠誠を誓ったのは本当だから……せめてもの償いをさせてください…。……食屍鬼復活に関わったのは────」




