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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
リーヴ地区
94/123

06

「こんな時にこんな所まで何の用だよ?」

気怠そうに歩く凱斗を見てキョウは笑う。

「はっは、お疲れさん。これを渡したくてねェ。」

キョウは窓から車内に手を突っ込み紙袋を取り出し、凱斗に渡した。

「何だよこれ?」

「まァ見てみな。」

凱斗は紙袋の中を覗き、グシャグシャになった紙を取り出す。

「これは……?」

「大橋を匿っていた部屋に燃えカスが落ちててねェ。色々調べていたらその紙が出てきた。きっと他にも沢山あったんだろうけどそれは燃やしたかな?」

「大橋が書いたのか……ん?これは……?」

「それは飴。ウチの者も大橋からそれを貰って食べていたようだ。詳しい事は俺にも分からない……が、アイツらは相当キマるって喜んでいたからそういう成分が含まれているんだろうよ。」

「……またアイツはこんな物を……。」

「……これは俺の憶測だが、それが食屍鬼になるキッカケじゃないかい?ここで食屍鬼化した奴らの殆どがその飴を定期的に食ってたって話だ。……はっは、よくもまァウチの者に手ェ出してくれたなァあのオッサン。」

キョウの言葉を聞いた凱斗の背筋に冷たいものが走る。

ヘラヘラと笑っていたキョウから笑顔は消え、向こう側の人間の顔になったからだ。

「凱斗ォ……あのオッサンはまだ生きているのかい?」

ゆっくりと目を合わせてきたキョウから凱斗は思わず目を逸らした。

初めてだった。

生きている人間にここまでの恐怖心を感じたのは。

「……ああ。ここから戻ったら……って考えていたけど、これについて聞かなきゃいけない。だからもう少し生きる事にな──」

「終わったら俺に売ってくれねェか?」

「……何を言っているんだ?そんなの無理に決まってるだろ。」

凱斗はキョウの気持ちが分かった。

自分の大切な人を、自分の勝手な欲の為に壊される憎しみ、怒りが。

「そうかい。……そりゃァそうだろうな。悪かったよ。……出来るだけ、息絶える寸前まで苦しめてくれよなァ。」

キョウはそう言うと車のドアを開く。

それを見た赤城は運転席のドアを開け乗り込んだ。

「キョウ。」

車に乗り込み下を向くキョウに声を掛けると、キョウは窓を開けヘラヘラと笑って顔を上げた。

「なんだい?」

「……キョウの仲間……食屍鬼化した仲間と会った。」

「そうかい。」

「避難先のホテルの一室から外へ出る様子は無かった。」

「……そうかい。楽にしてやってくれたんだろ?有難うな。」

「あの人達は……最後までキョウを慕っていたよ。」

キョウの肩がピクリと動く。

「ボスってキョウの事だろ?きっとあの人達は誰の事も喰っちゃいない。俺を見ても……襲おうとはしなかった。……俺が大橋(アイツ)をちゃんと管理していなかったばかりにこんな目に遭わせてしまって本当に申し訳ない。」

凱斗が頭を下げると、周りにいた隊員達がザワついた。

「……はっは、いいっていいって。大橋を受け入れたのは俺だ。俺にも責任がある。顔を上げてくれよ。」

凱斗が恐る恐る顔を上げると、ニコリと笑うキョウと目が合う。

「教えてくれて有難う。……じゃァ俺はもう行くからよ。頼んだぞ、凱斗。」

キョウは窓を閉め手を振った。

キョウを乗せた車はリーヴ地区から出ると、龍の地区でも、キョウが仕切っていた街の方角でもない道を選び、あっという間に見えなくなった。

凱斗は、暫くそのままキョウの車が向かった先を見つめた。

──────────────

「ボス!あいつら何なんですか?!」

「ボス、俺達気に入らないっすよ。」


「何がだい?」


「最近出入りしている龍とかいう奴らですよ!」

「ボスが追い出してくれよー!」


「はっは、そう怒るんじゃねェよ。向こうは俺達に干渉してこない。お前達も放っておけ。」


「でも、目が合っただけで嫌な顔する奴とかいるんすよー!」

「ムカつくよなぁ!!」


「おいおい、お前達面倒事起こさないでくれよなァ?それでなくても龍がいるってので客が減ってんだ。これ以上減られちゃ困んだわ。」


「だから追い出そうって!」

「ボスはどうして許可してるんすか?!」


「んー、面白そうだから。……いいかァ?お前ら。今から俺が言う事ちゃーんと覚えておけよ。」

数人の男達が目を輝かせキョウの言葉を待っている。

「龍には手を出すな。絶対に、だ。コレは俺からお前達への頼み事だ。ガッカリさせるんじゃねェぞ。」


「へへ、ボスから頼まれちゃあ俺達も……なぁ?」

「ま、まぁ?向こうから何もしてこないなら俺達も手は出さないけどさぁ!」

「お願いじゃなくて命令でいいのに。」

「でもボスがそこまで言うなら……なぁ?」


「おいおいお前ら、あんまり調子に乗るんじゃねェぞ。」

呆れたようにそう言うキョウを見て男達は、ニィッと笑いピースサインを向けた。

「へへへ、冗談だってボス。大丈夫、俺達は絶対龍に手は出さないよ。」



キョウの視界は次第に歪み始め、その中にはキラキラと輝く男たちの笑顔が映っていた。

「はっは、俺の頼みちゃんと聞いてくれた……って事かい。……お前らは本当に……馬鹿だなァ。」

「キョウさん……。」

「なァ、赤城ィ。」

「はい。」

「お前は俺から離れてくんじゃねェぞ。」

「頼まれなくてもそのつもりですよ。どこまででも一緒に行きますよ。」

「はっは、そうかい。」

キョウと赤城が乗る車はスピードを上げた。

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