03
「どういう意味だ?」
「最近思うんだ……俺達はお父さんにとって何だったんだろう?って。」
「……どうして?」
「もし俺の考えが正解だったとしたら……俺達はお父さんに駒にされていたって事じゃない?」
「駒って……そんな……お父さんが俺達をそんな扱いする訳ないだろ?」
「俺もそう思いたい。……けど、じゃあどうして俺達が大橋に接触する事を許した?会長と会えば勝てないって事もお父さんなら分かっていたはずだし……。」
「俺達の気持ちを尊重して……それにお父さんの中で俺達にはもっと力があると思っていた可能性だって……。」
「かーくん!……お父さんは俺達が弱い事を誰よりも知っていたはずだよ。俺達は基本的に集団でしか行動しない。俺とかーくんの二人で行動する事があっても他の家族が単独で動く事は滅多に無い。」
「数で押し切れると思っていた……とか……。」
「数で押し切れるような相手じゃないよね?俺達は実際誰一人として会長に立ち向かえなかった。」
輝血は懍の真っ直ぐな瞳を直視出来なかった。
なんとなく、輝血もそうじゃないか?と思っていたからだ。
「懍……もしこれが正解だとしたら、お父さんは俺達にどうなって欲しかったんだと思う?」
「……龍に捕まれば命の保証は無い。だから龍の内情をお父さんに報告することも出来ないから、偵察の為とは考えにくい。…それに、お父さん自身が龍に捕らえられた。そして命を失った。………そうだかーくん!」
懍が大きな声を出し、輝血が体を跳ねさせた。
「なんだよ……?」
「糸を張り巡らせた、その意味を俺達はまだ知らない。大橋が関わっていることは分かった。だけど、何処にどういう理由でどんな糸を張ったのかを知らない。」
「そうなんだよな。協力者……大橋一人では無いんだろうな。」
「龍の中にまだお父さんの協力者がいる可能性があるかもしれない。ソイツを見つけ出して話を聞けばお父さんの考えも分かるかもしれない。」
「……探すってどうやってだよ?今上の人達は皆食屍鬼討伐に行っているし……。」
「だから、だよ!会長、幹部、上級がいない今、動きやすいんじゃない?」
「うーん……。」
「よーし、なんだか燃えてきた!探し出してやるぞ、協力者!」
立ち上がりやる気に満ちた顔をする懍に輝血は顔を引きつらせた。
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その頃リーヴ地区では、各龍は食屍鬼に手こずっていた。
斬っても斬っても減る事がない食屍鬼。
大きく口を開け龍に噛み付こうとするその姿は、飢えという苦しみから解放される事しか考えていないようだった。
「会長、やはり中央に近付くにつれ数が増しています。このままでは……。」
「あぁ、本当……やってくれたなぁ、大橋。腹が立って仕方ない。」
羽鳥と背を合わせ剣を振る凱斗の瞳に光は無い。
「それに……見覚えのある顔がチラホラいるな。キョウの所の人間だ。」
「覚えているんですか?」
「最近だしな。見間違いじゃなければあの街にいた者だ。」
「……感染済みの人間をここに放ってしまった……という事ですか?」
「……話は後だ。とにかく、まずは目の前にいるコイツら全員の息の根を止めないとどうしようもない。……お前ら本気で殺れよ!」
凱斗の声に反応した龍の隊員達は、自分が喰われる覚悟で複数の食屍鬼目掛けて走り出す。
「ア…オ…ナカ……ス……タ…」
凱斗に手を伸ばし走ってくる食屍鬼の首が飛ぶ。
辺りに飛び散る液体は、凱斗の鼻を刺激する。
「どこから湧いて出てきてやがる?」
凱斗は息を切らす隊員達を横目に周りの建物を注意深く見渡した。
高層階から血肉を求め身体を乗り出しそのまま落下する者。
建物内から龍を目掛けて飛び出してくる者。
ありとあらゆる場所から自分達を狙う食屍鬼を見て、凱斗は眉間に皺を寄せた。
「……会長、会長。応答願います。」
耳元で亀八の声が聞こえた。
「どうした?」
凱斗は耳に付けた小型イヤホンに触れる。
「此方は境界付近は殲滅済み。これから中央へ向かいます。」
「了解。」
「中央の様子は……?」
「あー……ちょっと厳しい。数が多すぎる。」
「承知しました、急ぎます。」
「頼むよ。」
凱斗はもう一度イヤホンに触れた。
これは、リーヴ地区に来ている龍全員が装着している、世間一般ではインカムと呼ばれている物である。
耳穴にフィットしているイヤホンのようなもの。
それに触れると、付けている全員に自分の声が届く仕組みで、もう一度触れると通信は切断される。
「さて、と……。」
凱斗はキョウの仲間が避難場所として使っていた建物を目指し走り出す。
建物に辿り着く前に何十もの食屍鬼が凱斗を狙い口を開くが、凱斗の剣先の範囲内に入り込むと同時にその場に崩れ落ちる。
総龍が食屍鬼と戦う場所から数十メートル先に、避難所として使用されていたホテルがある。
凱斗は扉を蹴破り中へと侵入、襲い掛かる食屍鬼を斬りながら部屋を一つずつ見て回った。
「……俺に物を投げてきた奴だな。こっちは何か叫んでいたやつ。……やっぱり感染源はキョウの街のやつか?」
広間に集まる食屍鬼の集団は大体が見覚えのある顔をしていた。
「オ…イシ……アァ…ア゛ア゛……!!!」
凱斗が広間に一歩踏み込むと、食屍鬼の集団が凱斗に口を開けてみせるが、向かってこようとはしなかった。
「なんだ?」
剣を構えていた凱斗は不思議に思い、構えたまま様子を伺う。
食屍鬼達は自分の頭をガリガリと掻き毟り、その場に座り込むと床に頭を打ち付けた。
「アァ…アァ!!!!」
頭を打ち付けながら叫ぶその姿は、自分の欲を押さえ込もうとしているように見えた。
「おい……。」
凱斗が一歩踏み出すと、食屍鬼が一斉に凱斗を見る。
「ク…クル……ナアァ!!」
涎を垂らし叫び出す食屍鬼達を見て、凱斗は立ち止まる。
「お前達、もしかしてまだ意識が……?」
「ウ…アァ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
苦しんでいるのが分かる。
自分を喰わないようにしているのが分かる。
食屍鬼達は自分の指や腕を噛みちぎる。
「ォマ……ウ……ボス…ボ…ス……!」
「ボス?……キョウの事か?」
凱斗が発したキョウという名に食屍鬼が反応する。
目を見開き、体を震えさせる食屍鬼達。
「ボス……ボス……!!ァアァァア!!」
食屍鬼達は再び頭を床に打ち付けた。
「なんなんだ……?」
凱斗は異様な光景を目の当たりにし、動けないでいた。




