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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
リーヴ地区
90/123

02

母親と少女は黒龍の車後部座席へと案内された。

「ここは……安全なの……?」

母親が不安そうに聞くと、悠司が頷いた。

「この辺りはとりあえず討伐済みです。ただ、100%とは言えませんので絶対に隊員以外の呼び掛けに応じて車のドアを開けないでください。他の龍の隊長達や、総龍会長の到着を待つ為に僕達はこの場に残りますので安心してください。足元の簡易冷蔵庫の中に飲み物が入っています。喉が渇いたら遠慮せず飲んでくださいね。」

母親とさゆが頷いたのを見て陽平と悠司は頭を下げた後静かに車のドアを閉めた。

他の黒龍隊員達も数人残り辺りを警戒している。

桜庭や幹部達は少し先に進みこの場所から姿を確認することは出来なかった。

残った隊員達は周辺警備に加え、到着した龍に現状報告と横たわる死体の火葬を任されていた。

「この場で火葬って……いいのかな?」

陽平はさゆ達が乗っているのとは別の黒龍の車から火葬に使う物を取り出す。

「食屍鬼なんかになる前に弔う方が良いだろ。」

悠司も陽平の手伝いをしながら答えた。

「そうだよな……。」

「あの時に比べれば俺達は成長した。けど、まさか食屍鬼まで成長しているとは思わなかったな。」

「本当に。……でも俺はあの時より一人でも多く救いたい。もう誰かがコイツらに苦しめられる姿なんて見たくない。」

「俺も同じだよ。」

陽平と悠司は遺体を数体一箇所に集め、しゃがみ手を合わせると陽平がその場で火をつける。

肉が焦げる臭いが鼻を刺激する。

他の場所では黒龍隊員達が同じように手を合わせていた。

遺体の衣類や肉は焼け消え、骨が残る。

悠司が燃える炎を消す作業に入る。

陽平は次の火葬場を探す。

建物の間から

建物内から

道端に

様々な所で横たわる死体。

食屍鬼は食屍鬼で纏めての火葬。

それの仕分けにも時間がかかった。


白龍が到着し、その後すぐに青龍と赤龍が到着した。

青龍と赤龍の医療班はリーヴ地区入口に簡易テントを張り、怪我をした隊員や住民をすぐに治療出来るように準備を進める。

亀八率いる白龍隊員達は黒龍隊員達から現状報告を受けてすぐにリーヴ地区中央へと向かう。

青龍隊長百音と赤龍隊長彩葉もこの場は治療班に任せ少数ではあったが隊員達を引き連れて白龍に続いた。

各龍の隊員が、逃げ場を無くし隠れていた者、怪我をした者を連れて帰る中、総龍の車がリーヴ地区へと到着した。

車が停車し、運転席と助手席のドアが開く。

助手席に乗っていた男が後部座席のドアを開くと、凱斗がゆっくりと姿を現す。

「アニキだ!」

凱斗の姿を見て陽平が満面の笑みを見せると、それに気付いた凱斗は陽平の元へと向かう。

「こんな時にニコニコしてるなよ。」

陽平は凱斗の言葉を聞き緩ませていた顔を引き締め、眉を下げて謝った。

凱斗は表情一つ変えず陽平の頭を雑に撫でると、総龍幹部と共にリーヴ地区中央へと向かい歩き始めた。

凱斗達の後ろに総龍隊員達も続く。

「アニキ!お気をつけて!!」

陽平が大きな声で叫ぶ。

「会長、な。」

凱斗は背を向けたまま手を振った。

小さくなっていく凱斗の背中を見ながら陽平は「かっこいい……。」と呟いた。

隣で見ていた悠司は呆れた顔をしながら陽平の腕を引き、次の火葬場を目指した。

「この辺りは落ち着いたとはいえリーヴ地区の3割程度か。さすがこの辺で一番栄えていて一番広いと言われる地区なだけあるな。さすがに日は跨ぐな。」

「はい。桜庭さんからの情報ですと、やはり蘇生スピードが早いとの事です。それと、中央に近付くほど被害者の避難を優先させると、食屍鬼に一気に巻き返される程の数がいるようです。」

「中央から外側へ広がって行ったって事か?……となると一旦全員が各外側から中央へ向かうのが良さそうだな。」

「そうですね……配置はどうしますか?」

「北に黒龍、西に白龍、東に青龍と赤龍を配置しろ。南のここからは俺達が向かい中央の討伐を始める。」

「はっ。」

羽鳥は携帯電話を取り出すと凱斗からの言葉を伝えた。

電話を切ると同時に、前方に居た白龍と青龍赤龍が中央から道を逸らす。

「さて、気合い入れていけよ。」

「うぉー!行くぞー!!!!」

凱斗の言葉を聞き、総龍隊員達が叫び走り出した。

──────────────

総龍屋敷。

輝血達はソワソワしながら屋敷の清掃を行っていた。

輝血は懍と二人、掃除用具を持ち会議室へと向かう。

「かーくん、会長達大丈夫かな?」

「大丈夫だよ、きっと。」

会議室に入り掃除用具を床に置き、水が入ったバケツに雑巾を浸した。

「……かーくん。」

「何?」

輝血は雑巾を絞り床を拭き始める。

「キョウさん……だっけ?かーくんを助けてくれた人。」

輝血の心臓がドクンと音を立てた。

「……うん。キョウさんがどうかした?」

「かーくんはキョウさんの所に行きたいの?」

「どうして?」

「俺の勘違いなら申し訳ないんだけど……キョウさんの隣に立つかーくんはなんだか安心しているように見えたから……。」

「……そうかな?話しやすい人ではあるけどね。」

輝血は丁寧に床を拭く。

「あんなに安らいでる顔はここに来てから見た事がなかったから……もしかして?って思ったんだけど、違ったならごめん。」

「……懍。」

輝血は手を止め懍の方へと向くと小声で話し始めた。

「俺は償わなければならない。だから(ここ)にいる。……俺はもう前にいた世界に戻る事は許されないし、戻った所できっと前みたいな事はもう出来ない。だから、キョウさんの所に行っても俺は足手まといにしかならないしここに残った方がいいんだ。」

懍は暫く輝血を見つめた後、少し目を大きくした。

「行きたいってことじゃん。」

「いや……どうなんだろう?俺にもよく分からないんだ。」

「会長が怖いから?罪を償わないといけないから?」

「うーん……そうだな。会長は怖い。俺は会長には勝てない。それに、今までしてきた事はどれだけ償っても許されない。」

「それは俺も同じだよかーくん。でもさ、思うんだけど……俺達がしてきた事は間違えているし許される事じゃないのは分かっている。でも、俺達は龍からの制裁に耐えた時点で龍が決めた償いは果たしている……って思っていたんだよね。」

「……。」

「あの時に命を落とした家族がいる。でもそれは因果応報として済まされ、たまたま生き残った俺達はきっと前みたいな事をしないようにってここに残されている。龍の犬になれとか盾になれとか言う割に今回俺達はお留守番。俺達を連れて行って盾にすりゃいいのに、俺達は会長達から安全地帯で隔離されている。」

「……うん。」

「正直さ、こんな事言ったら駄目なんだけど……昔からああいう生活をしていて、それが普通だった俺からしたらつまんないんだよね。……そりゃ食屍鬼の事もキッカケは俺達だけど、復活させたのは大橋で、俺達が復活させたわけじゃないし、ただ少し無知のまま願望を抱いたってだけ……なんだよね。」

「だけど俺達が食屍鬼復活を願わなければ……。」

「それでもきっと復活していたよ。」

「え?」

「だってよく考えてみてよ。俺達がここに来てから復活させようとしたならさ、逃げ道作ったり薬を作ったり……会長の留守が多いとは言え総龍で隠し通せると思う?俺の予想では、俺達がここに来る前から大橋は復活させようとしていたんじゃないかな?」

「俺達が来る前から?でもそれじゃあお父さんの協力はどうなる?」

「これもあくまで俺の予想なんだけど……お父さんと大橋は前から繋がりがあったって考えられない?」

「待って、待ってよ懍。それじゃあ俺達が食屍鬼の話をした時、お父さんはもう大橋と一緒に動いていたって事?だとしたらじゃあどうして俺達に教えてくれなかった?教えてくれていたら俺達が大橋に接触しようとすることも無かったかもしれない。そうしたらお父さんも他の家族も生きていたかもしれないのに……。」

懍は手に持っていた雑巾をバケツに放り込み輝血の隣に座った。

「……俺達はお父さんのなんなんだろうね?かーくん。」

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