01
「きゃあああああ!」
「ア…アァ……タベ…ァ……」
響く悲鳴と転がる死体。
涎を垂らし大きく口を開け逃げ惑う人を追いかける者。
銃声が鳴り、静けさを取り戻したかと思えばすぐにまた聞こえる悲鳴。
地面や壁、所々に飛び散る血痕の近くには涙を浮かべ食い荒らされた人の姿。
建物内に避難した者達は周りに疑いの目を向ける。
疑心暗鬼の中聞こえてくる悲鳴に、小さな子達が泣き叫ぶと、血肉を求めた者達が反応を見せる。
「オイシ…オイ……オイシ……?」
一人、また一人と固く閉ざされた門に向かい歩き出す。
「なんなのよコイツ達は!?」
「食屍鬼って結構前に別地区で全滅したんじゃないのか?」
「どうしてここで復活してるんだよ?!」
パニックに陥った大人達が騒ぎ立てる。
「龍とかいう組織は何をしているんだ?!」
「早くアイツらを始末しに来いよ!」
「龍はこっちに来ているのか?!」
「別地区だから見殺し……なんてことしないよね?」
「でも来るとしてもここにつくのは何時間後だよ?!龍が来る頃には俺達も……?」
外の門に群がる者達は数を増やし、中にある餌を目指し門を揺らしている。
この建物は、ここリーヴ地区の中央に位置する保育園。
周りには大きな噴水がある公園や、高層ビルやショッピングモール等が建ち並ぶ人が集まりやすい場所だった。
そして、リーヴ地区で一番の被害が出ている場所だった。
保育園には高い柵が設置されており、門以外からの部外者の立ち入りを許さなかった。
それが故に、この保育園へ避難した者達は逃げ場を無くしていた。
もしあの門が突破されれば、きっとまず狙われるのは子供達だろう。
集まった大人達も自分の事で精一杯で、子供達を守るという考えを持つ者は多く無かった。
黒龍がリーヴ地区に到着した頃。
桜庭は言葉を失っていた。
悲惨な現状、そして予想以上の数の食屍鬼。
それに加えて、息絶えていた者が立ち上がるまでの速さ。
前とは違う。
噛まれ、食い荒らされた者達は暫くそのまま動かなかった。
それに、そもそも生き返る前に絶命している確率の方が高かった。
遺体は念の為に火葬していた。
が、今は遺体確認中に蘇生される可能性が高い。
となれば、龍から被害が出る可能性がある。
龍の隊員、それも幹部や上級層クラスの人間が食屍鬼になったとすれば、更なる地獄が待っているということが容易に想像出来る。
「桜庭さん。」
黒龍幹部の声に桜庭がハッとする。
「すみません。まずは今この場にいる食屍鬼の討伐。会長や各龍への報告は……陽平さんにお願いします。」
「了解です!」
陽平は携帯電話を取り出し凱斗へと電話をかけた。
桜庭は幹部達と構えの体勢に入り、食屍鬼目掛けて駆け出した。
一人でも多くの人を救う。
これ以上の被害拡大はさせたくない。
龍の者達の気持ちはあの当時と同じだった。
「……はい。」
「アニキ!報告です!リーヴ地区は破滅的状況です!今桜庭さん達が討伐に行っています!俺もすぐに向かいます!」
「……陽平、こういう連絡は龍の電話にするんだよ。俺個人にかけてくるな。あとアニキじゃなくて会長って呼べって言ってるだろ。」
「まずは会長に連絡かなって!」
「はぁ……あのな、陽平。龍の電話に掛けると自動的に各龍の電話にも繋がる仕組みになっている。だから一本の連絡で各龍に情報がいくんだよ。時間が限られているからそうやって一回で済むようにしてあるの。……入隊の時に教えられているはずなんだけどな。」
「あっ……。」
「次からは気をつけろ。電話はこっちで繋げるからまずは状況を詳しく教えてくれ。」
「はい、すみません。……えと、食屍鬼数は見える限りで約40~。被害者数はまだ分かりません。被害者確認を含めると黒龍だけではこの先に進むのは困難です。」
「40?リーヴ地区全域じゃなくて到着時で?」
「はい!」
「見間違えていないか?」
「これはどう見ても……残念ですが食屍鬼です。」
「分かった。俺達も今向かっていてそっちにはあと約一時間半後に到着予定だが、なんとか一時間以内につくようにする。その前に他龍がつくはずだから、まずは他龍が到着するまでは最小限に抑える努力をしろ。」
「了解です!」
「陽平、行ってこい。」
「はい!アニキ!行ってきます!」
陽平は元気よく返事をすると電話を切り桜庭達の元へと向かった。
「会長って呼べっつってんだろうが。」
呆れ顔をした凱斗を乗せた車はスピードを上げ、リーヴ地区へと急いだ。
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「ァ…アァア……イィニ…ォィ…」
「向こうに行って!近寄らないで!」
「ママァ!怖いよぉ!!」
小さな女の子を庇うように母親が前に立ち手を広げる。
一歩、また一歩と二人に近付く影はニタリと笑う。
「お母さん!手でお子さんの目を覆って!」
影の後ろから聞こえた声に驚きつつも、母親は背を向け少女を強く抱き締めた。
母親は背中に感じた温もりに不快感を覚えた。
「大丈夫ですか?立てますか?」
背後から掛けられた声。
震える我が子を抱きしめたまま顔を後ろに向けると、黒い隊服を着た男が立っていた。
「僕は総龍会黒龍上級 田所と申します。リーヴ地区の食屍鬼討伐に来ました。」
「あ……なたが龍……?」
「はい。お母さんはお子さんと一緒に避難し──」
「どこに逃げろって言うの?!どこに行っても化け物がいて、家の中にも入ってきたのよ!もう……逃げる場所なんてないのよ……。」
涙を流す母の訴えに困っていると、明るい声が聞こえた。
「悠司!もう少しで白龍が到着するらしい!俺達は一旦入口に戻れって桜庭さんが……。」
「……分かった。この人達も連れて行く。」
「うん。……大丈夫ですか?」
母親が背を向けたまま涙を流していると、抱きしめられていた少女が顔を出した。
「お兄ちゃん達がまもってくれるの?」
大きな瞳をウルウルとさせ問いかける少女に胸を痛めた。
「大丈夫だよ。お兄ちゃん達が守るよ。」
「お兄ちゃんもそこの人と同じ?」
「え?あ、うん。申し遅れました。総龍会黒龍上級沢田陽平と申します。」
「ゆーじお兄ちゃんとよーへーお兄ちゃん?」
「そうだよ!」
「さゆ、お兄ちゃん達と一緒に行く!」
「よーし、じゃあママとお兄ちゃん達と一緒に安全な場所に行こうね、さゆちゃん。」
陽平がニコッと笑うとさゆもニコリと笑った。
「お母さん、とにかくまずは安全な場所に行きましょう。ここもまたいつ奴らが来るか分かりません。」
母親は頷くとゆっくりと立ち上がり、さゆを抱き上げ悠司と陽平に挟まれる形でリーヴ地区入口へと向かった。




