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食屍鬼 -蜘蛛糸-  作者: 藤岡
キョウ
87/123

03

「凱斗さん。」

「何?」

助手席で外を眺めている凱斗に桜庭が声を掛けた。

「キョウさんとは何のお話をしていたんですか?」

「んー、輝血の事。あと俺について色々言われたよ。」

「何を言われたんです?」

「ガキって。」

「ふふっ。」

「何笑ってんだよ。」

「すみません。」

桜庭は笑いを堪える。

「ふふ、で、輝血さんの話とは?」

「……んー、結局どうなるのかね。ま、今のアイツはキョウのところに行きたいんだろうなー、やっぱり。」

「そうですか。……そうなったらどうしますか?」

「うん……どうするのが正解なんだろうな。」

「凱斗さんはどう考えているんです?」

「輝血の気持ちを優先して黙って見送るか、今までの道に戻さない為にどんな手使ってでも俺の元に置いておくか……難しいんだよ。」

「輝血さんに情が湧いてしまったからですね。」

「そうかもな。幸輝の施設にいた子ってのが俺の中ではデカいんだよな。……キョウも自分の所に来たらそれは歓迎するって言ってたし、このままじゃまたアイツは人の命を奪ってしまう。」

「私は何としてでも阻止したいですけどね。」

「俺もそうだけど……輝血はその道から救い出して欲しかったわけじゃないのかもしれない。俺が無理矢理こっち側に連れてきたのは事実だし。」

「それが普通ですよ。救い出して欲しい欲しくないとか関係無いです。悪い事をしない方が良いに決まってるじゃないですか。」

「そうなんだけど……うーん。」

「……キョウさんとの会話で凱斗さんの気持ちも揺らいだんじゃないですか?しっかりしてくださいよ。……キョウさんも向こう側の人ですよ。」

「うん、分かってる。」

「同世代で龍以外の方と関わる事が無かったので嬉しいとか楽しいという感情が芽生えるのも分かります……あまりこういう言い方はしたくはありませんが、貴方は総龍の会長なんです。」

「……そうだな。ちょっと一回頭冷やすよ。……それに今は輝血の今後よりも大橋から事情聴取するのが先だ。」

「そうですね。凱斗さんがするのですか?」

「そりゃそうだろ。」

「食屍鬼になる可能性がありますものね。」

「……いや、多分アイツはもうなれないよ。」

「え、どうしてです?」

「どうしてって、なれるなら俺がアイツ見つけた時になってるだろうし。アイツは終始ただの人間でしか無かった。……あの時とは違った。」

「そうですか。でも一応警戒はしてください。隊員も付けますので。」

凱斗は黙って頷くと再び外へ目をやる。

──────────────

総龍会 屋敷 地下。

大橋は一番奥の部屋の中にいた。

後ろ手に手錠をされ、足も椅子に固定され、身動きが取れない状態だった。

大橋の前には椅子が一つ。

その後ろに扉が一つ。

大橋は下を向いたまま、時が来るのを待つ。

ギィッと音が鳴り、ゆっくりと足音が近付く。

大橋の前の椅子が動く。

「おい。」

椅子に座ったその人の足がチラチラと視界の端に映り込む。

大橋がゆっくりと顔を上げると笑顔の魔王様が座っていた。

「……。」

大橋は声が出なかった。

恐怖。

その一言に尽きる。

自業自得なのは分かっている。

死の覚悟も出来ている。

これから自分はどんな目に遭うのか。

想像を絶する痛みと苦痛の先にある死が遠く遠く感じるのだろう。

「嘘はつくな。本当のことを話せ。分かったな?」

「……はい。」

振り絞り出した声は小さくか細いものだった。

「……お前は何を企んでいる?」

背もたれに体重を預けていた凱斗はゆっくりと身を起こし、少し前屈みになり大橋をジッと見つめた。

「……私は……食屍鬼がいる世界を見ていたい。」

「……。」

大橋を見る凱斗の目が曇る。

「凱斗くんが───」

「会長、な。」

凱斗の声は低く怒りが滲んでいた。

「あ、か、会長が……良く思わないのは知っています……でも私はあの食屍鬼という生き物に魅了されている。……だから……。」

「だから自らが食屍鬼になろうって考えに至ったのか?」

「……そうです。」

「ふーん。……で?他は?」

「何も無いです。」

「お前はどうして俺に見つかった時や今、食屍鬼化しないんだ?」

「私の体力、年齢がついていけなかった……もう私はなることが出来ない。」

「へぇ、お前でも失敗するのか。……で、俺を二度も裏切っておいてこれで終わりか?」

「……はい。」

「他になにかないか?」

「無いです……。」

この時凱斗は、思ったよりもスムーズに返事をする大橋に違和感を感じていた。

「信用出来ねぇよ。」

「そうですよね……でも私はもう他に何も……。」

「キョウに匿ってもらっていたあの地下室で何やってた?」

「……ただ隠れていただけです。」

「大橋。これ以上俺をガッカリさせないでくれよ。」

「……。」

「何をしていたんだ?」

大橋は顔を伏せた。

何処までバレているのだろうか。全てお見通しということなのだろうか。

それともカマをかけているだけなのだろうか?

凱斗がこうして聞いてきているのは、まだ動きが無くそれに気付いていないから?それとも……。

「大橋。答えろ。」

イラついた声に大橋はビクリと跳ねる。

「……。」

「……そっか。だんまりか。お前はそれでいいんだな?」

「……え?」

「この場所が何処か分かっているよな?」

凱斗は立ち上がると腰にさした剣を抜く。

「総龍会。悪者を公正、始末する場所だ。」

ニコリと笑いながら大橋の首に剣を当てる。

大橋の首から鎖骨にかけて流れる生暖かいもの。

「事実を全て話すまでお前は死ねないし、死なせないよ。」

大橋の首から剣が離れ、ゆっくりと顔を上げると凱斗と目が合う。

あの頃と同じあの目をした凱斗を前に、大橋の心の中に小さな罪悪感が生まれた。


「会長!」

大きな音を立てて開いた扉。

息を切らした隊員が凱斗を呼ぶと、凱斗は大橋を見つめたまま返事をした。

「どうした?」

「それが……。」

隊員は凱斗の元へ駆け寄り凱斗の小声で耳元で話し始める。

凱斗の表情はみるみる険しくなっていった。

「報告は以上です。どうなさいますか?」

「……羽鳥に招集をかけさせろ。俺もすぐに行く。」

「はっ。」

隊員は扉の外側で凱斗に頭を下げ静かに閉めた。

「嘘……つくなって言ったよな?」

凱斗の声は怒りで震えていた。

「……。」

黙る大橋に舌打ちをする凱斗。

その舌打ち一つにさえ体が強ばる。

凱斗は大橋に背を向け部屋を出て行くと、その後すぐに隊員が大橋の元へ来て大橋はそのまま別の部屋へと連行された。

大橋が連れて行かれた部屋は黒部屋と呼ばれる、命の保証がされない部屋だった。

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