02
「そりゃァ?俺も怒ったら怒鳴る事もあれば手ェ出す事もあるけど、会長さんは圧で押し込めようとしてねェか?」
「……はい?」
「アイツがよォ、やけに会長さんの事怖がるもんだからどれだけ怖い人なのかと思ったら……まァそりゃもう誰が見ても分かるくらいの圧力よ。あんなもん俺でもちびっちまう。」
「……。」
「ははっ、なァ会長さん。ちょっとリラックスしたらどうだい?」
「リラックス、ですか?」
「そうそう。ま、俺みたいなもんと話すって事自体がストレスになるのかもしれねェけどよ、呼び止めたのは会長さんの方だろ。一回お互いの立場抜きにして話そうや。なァ?」
「……はぁ。」
凱斗はあまり気乗りはしなかったが、ヘラヘラと笑うキョウを見て凱斗もヘラッと笑ってみせる。
「はっはっ、会長さんの名前は確か……。」
「燈龍凱斗です。」
「とーりゅーかいと、ね。」
「そんなアホの子みたいな呼び方しないでください。」
嫌悪感を丸出しにする凱斗を見てキョウは嬉しそうに笑っていた。
「はっはっ、はいはい、凱斗きゅんとでも呼ぼうか?」
「絶対に辞めてください。」
「俺は……なんだっけ……あァ、そうそう。キョウちゃまでいいからよォ。」
「俺が良くないんですよ。」
ふざけたように話すキョウに対し凱斗は呆れを見せる。
「んーだよつれないねェ。折角仲良くしようとしてんのによォ。」
「リラックスってだけで仲良くするのはまた別でしょう。」
「まぁまぁ、俺らは今この場では一庶民。なァ?そうトゲトゲするなよ。友達と話す感じで話してみなァ?」
凱斗はケラケラと笑うキョウを見て既視感を感じたがその正体がなにかまでは分からなかった。
「まァいい、話を戻そうか。そうだなァ……人の心を開かせたいっていうならまず、自分がそのバリアみたいに張ってる圧を消し去って心開いてやらねェと。相手も警戒するし開けるもんも開けねェって話だ。実際今こうして俺らの立場とっぱらって崩して話したら凱斗もさっきよりは素に近い状態になれたんじゃないかい?」
凱斗は少し考え頷いた。
「……まぁ……そうかもしれない。」
不本意だと顔に書いてある凱斗を横目にキョウは思い出したかのように再び話し始める。
「あァ、そういやァ凱斗のことを調べたんだよねェ。」
「は?何を?」
凱斗は変わらず険しい顔をしたままだ。
「食屍鬼とかあんまり詳しくなくてよ、凱斗というか龍の事も別に詳しく知ってるわけじゃなかったからまァそこら辺をちょちょいとなァ。」
「あぁ。まぁ食屍鬼に関しては地区外の事だもんな。」
「調べていたら凱斗の幼少期の事とか知っちゃってよ。なるほどなァって思ったよ。」
「なるほどって……何を?」
凱斗が首を傾げるとキョウは遠くを見つめて口を開いた。
「ガキの頃から龍の籠の中で暮らしてたわけだろォ?凱斗は知ってるようで知らないんだよ、外の世界を。食屍鬼だの凶悪犯だのの事ばっかりだったろ?」
「……うーん。」
「周りの同世代が友達と悪さしてたりとか、女と遊んだりとかそういうことしてる間もお前は、ずっと籠の中で訓練だの勉強だのって生活をして、周りにいるのは龍の人間だけでよ……なんつーかその、人との関わり方が偏ってるって感じだなァ。」
「コミュニケーション能力がない……って事か……?」
凱斗が少し暗い顔をするとキョウが笑って凱斗の肩を叩いた。
「俺も上手く言えねェし、そもそも俺も人に偉そうに言えるほど人との関わり方がうまいわけじゃねぇけど。……まァもう少し自分も相手に心を許して対等に話してみりゃァいいんじゃないかい?」
「対等に扱ってるつもりだけど……。」
「いーや、お前は心のどっかで自分が上だって思ってるよ。そういう所はガキだねェ?でも、優しいのも相手を思っているのも伝わってるよ、ちゃんと。」
「……本当かなぁ?」
「はっは、なんでそこを疑うんだよ。」
凱斗とキョウは目を合わせ笑い合った。
「何あれ?あの二人って仲良しなの?」
懍は恐怖映像でも見たかのような顔をしていた。
「……凱斗さんは同世代の友人……いや、そもそも友人と呼べるような方がいません。凱斗さんと関わる人間は依頼主や龍の人間でしたし、今もそれは変わりません。……立場はどうであれ龍以外の同世代の方と話すのは仕事以外では初めてで戸惑いもあるでしょうが嬉しいんだと思いますよ。」
二人を見つめる桜庭の顔は親のようだった。
「でもいいの?桜庭さん。」
「何がですか?懍さん。」
「キョウさんってかーくんを助けてくれた良い人だけど、どっちかっていうと前の俺達と同じような世界の人じゃないの?会長が仲良くしちゃいけないんじゃ……?」
「そうですね。正直に言えばあまり深くは関わらないでほしい人ですが……今回は輝血さんを助けて頂いたり、この場の出入り許可を出していただいたりと協力して頂いたわけですので。」
「まっ会長だし大丈夫か!何かあれば俺達がすぐ向かえるしね」
「……それはキョウさん側も同じですけどね」
桜庭はチラリと赤城を見る。
赤城は桜庭達には我関せずでずっとキョウと凱斗の方を見つめていた。
凱斗が少しでもキョウに危害を加えようものならすぐにキョウの元へ行けるように。
「で、俺にまだ聞きたいことでもあるのかい?」
キョウはクワッと大きな欠伸をする。
「いや、今の所はもう無い。時間をくれて有難う。」
「……そうかい。じゃァ俺はそろそろ仕事に行くとするかァ。」
「仕事か……。」
「なんだい?そんなに暗い顔をするほど俺が仕事に行くのが嫌なのかい?」
キョウはケラケラと笑っている。
「内容を考えれば嫌に決まっているだろう。そもそも、俺の前で堂々と仕事に行くと言う所も気に食わない。貴方が龍の地区の人間なら、問答無用で捕まえられるんだけどな。」
「はっはっ、俺にそんな口を利く奴は中々いねェ。面白いねェ、本当に。……まァ、凱斗が嫌だっつっても俺は仕事に行くし、ここは俺の縄張りだ。……口出し出来ねェな?」
キョウがどこか勝ち誇ったかのような顔をすると、凱斗は諦めたかのようにため息をつきながら一歩後ろに下がり頭を下げた。
「……はぁ。分かったよ。引き止めて悪かった。本当に感謝している。……有難うございました。」
キョウはニタニタとしたまま凱斗の肩を叩く。
「どういたしまして。……さァ俺達もそろそろ仲間の所に戻ろうかァ?」
凱斗がゆっくりと顔を上げると、笑わない瞳と目が合った。
善と悪の二人が並び歩く姿は誰も近寄らせないオーラを漂わせていた。
「待たせたなァ。帰んぞ赤城ィ。」
「はい。」
赤城はキョウの後ろに立つ。
「俺らも帰るぞ。」
凱斗が声を掛けると龍の人間は各自車へと向かう。
「元気でなァ。」
「キョウも元気でな。」
「くっくく、なんか変な感じすんなァ。」
「いいから。もう行けよ。」
「いやいやァお客さんの事はちゃーんとお見送りするって。」
凱斗は軽く頭を下げると車に乗り込んだ。
「では、失礼致します。」
桜庭はキョウと赤城に丁寧にお辞儀をする。
「あァ。クソガキの面倒見るのは大変だろうけど頑張んなァ。」
「クソガ……あぁ!……有難うございます。それでは。」
桜庭は、輝血の事か?と思ったが、キョウの目線の先にいる凱斗に気付き、クソガキとは誰を指しているのかを理解した。
桜庭が車に乗り込み少し経つと凱斗を乗せた車が走り出す。
キョウは小さくなっていく数台の車を眺めていた。
「いやァ、龍はやっぱり面白い存在だなァ。敵なのが少し寂しいけどなァ。」
「キョウさん……。」
「なんて顔してんだァ?赤城。」
「……キョウさんが寂しいなんて言葉を使うとは思っていなかったので少し動揺しました。」
「はっはっ、俺も人の子。それなりに感情は持ち合わせてんだよ。さァてと……赤城ィ、引っ越し先の様子はどうだい?」
「はい。順調です。」
「そうかいそうかい。……そろそろここともサヨナラだなァ。」
「そうですね。……寂しいですか?」
「ははっ、そうだなァ。すこーし寂しいかもなァ。」
「キョウさんは寂しがり屋なんですね。」
「…あ?何笑ってんだァ?赤城ィ。」
「すみません。」
笑いを堪える赤城の背中をバシッと叩くキョウ。
そして二人は立ち並ぶ廃墟の中へと姿を消した。




