01
街につき大橋はワゴン車に乗せられると、目隠しをされ手足を拘束された。
両脇に呼び戻された隊員が座りドアが閉められるとエンジン音が響きガタガタと車体を揺らした。
「さて、と。」
車を見送った凱斗は自分の車の助手席に乗りこみ煙草を一本取り出した。
カチッと音が鳴り煙草に火がつく。
「ありがと。」
運転席に座る桜庭がライターをしまい、前を向いた。
沈黙が続く。
「輝血さんが戻らなければどうするつもりですか?」
沈黙を破ったのは桜庭だった。
「どうするも何も、どうもしないよ。」
「凱斗さんはそれで良いんですか?」
「良くないけど。……それよりも大橋から話を聞かなきゃならない。」
「……良かったですね、私が一緒について行って。様子を見に行かなければ今頃大橋さんは一生喋る事が出来なくなっていましたよ。」
「……それは本当にごめん。目の前にしたらついカッとなって……俺が子供すぎた。」
「その点に関しては反省してくださいね。」
「……はい。」
桜庭がヤレヤレと呆れたようなどこか懐かしむような顔をしていると、助手席の窓がバンッと叩かれ凱斗と桜庭は肩を上げた。
「会長!かーくんはどこ?!」
助手席の窓に懍がベッタリと顔をくっつけ話しかけてきた。
「おまっ、何してるんだよ!」
慌てて羽鳥が懍の身体を引っ張り車から離す。
内側から見ていた凱斗と桜庭は思わず笑ってしまった。
凱斗は灰皿に煙草を押し付け外へ出る。
「ははっ、懍お前やめろよ。ブッサイクだったぞ。」
一緒に外に出た桜庭は、目に涙を浮かべながら笑う凱斗につられ顔を隠して笑った。
「酷い!俺はこんなに一生懸命なのに!!で、かーくんはどこなの?!」
不満げな顔をしながら懍が問いかけると、「ここだよ。」と声が聞こえた。
懍は声がする方を見て、涙を零しながら走った。
「かーくん!!」
飛びつかれた輝血は体勢を崩しその場に倒れ込む。
「いててて、懍やめろよ。痛いだろ。」
「へへっ、ごめん。でもかーくんが悪い!俺達凄く心配したんだからね!」
「うん。ごめんね。」
懍は輝血に抱きつき声を上げて泣き出し、輝血は困ったような嬉しそうな顔で懍の頭を撫でた。
「じゃ、俺達はこの辺で。」
輝血を送ってきてくれたキョウと赤城は後ろを向き歩き始めたキョウを凱斗が呼び止める。
「キョウさん。」
「なんだい?」
キョウは背を向けたまま返事をした。
「この度は幾度となくご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。」
凱斗が頭を下げると、桜庭と羽鳥、その他残っていた幹部達も頭を下げる。
「別にいいよ。俺も楽しませてもらったからねェ。」
凱斗は頭を上げる。
「キョウさん、このあと少しお時間頂いてもよろしいですか?」
「俺の時間が欲しい?高いけど大丈夫かい?」
「……おいくらですか?」
「そうだねェ。……会長さんの命、くらいかねェ。」
そう言って振り返ったキョウはニコニコとしていた。
桜庭達が構えの体勢に入ると凱斗が片手をあげる。
「俺の命、安いですよ?」
凱斗がニコニコと笑いながら返すと、キョウは声を出して笑う。
「はっはっ、安いわけ無いだろうよ。そんじょそこらの奴には手ェ出せねェ程の代物だよ。ま、今回は楽しませてもらったから特別に無料にしてやるよ。……何の用だい?」
「少し移動をしましょう。」
凱斗は近くの店を指さす。
「へいへい。」
キョウは赤城に待つように伝えると先に行く凱斗の後を追う。
赤城はその場で後ろに手を組みキョウを見送り、その場に残された龍の者たちは大きなため息をついた。
「何?あの二人の笑顔。笑顔なのに物凄く怖かったんだけど!」
懍が顔を引きつらせながら言うと、赤城以外の全員が同意した。
輝血は頷きながら自然と二人を目で追っていた。
「で、何の用だい?」
人が避難し空っぽになった荒れた酒場の前で壁にもたれ掛かるキョウと、少し気怠そうに立つ凱斗。
傍から見ればガラの悪い二人だ。
「輝血の事なんですけど……。」
「あぁ、やっぱり気になるかい?」
「まぁ、少し。」
「そりゃ自分とこの大事な隊員がウチみたいな所に行くって言ったら止めない訳にはいかねェよなァ。」
「輝血はキョウさんの所に行くつもりですか?」
「……さァね。俺にも分かんねェよ、んな事。結局どうするのか決めるのは本人次第だろうよ。ま、ウチに来たいってんなら俺は歓迎するけど。」
「もし仮に輝血がキョウさんの所に行ったら輝血に何をさせるつもりですか?」
「……ははっ、おかしな事を聞くねェ会長さん。んなもんわかってんだろォ?俺の下で働くならそれなりの事はしてもらわねェとなァ?」
「……。」
「会長さんは嫌だろうねェ。そりゃそうだ。この国を守る警察の犬だっけか?それでも警察より力があるんだから逆な気もするけど、国民からすりゃそれ位の地位にいてもらった方がいいのかね。……で、その善側の人間からすりゃァそれはもう俺達みたいな悪側の人間がやる事なんて理解に苦しむだろうよ。」
「……。」
「でもなァ、会長さん。俺達のその行いが救う命もあるって事も覚えておいてくれよ。ま、失う命の方が多いんだけどなァ!はっはっ」
キョウがケラケラと笑うと凱斗は難しい顔をする。
「……はーあ、んな顔するなって。人が歩む道なんてよォ、周りが決めるもんじゃねェだろ。アイツがしたいようにすりゃァいいじゃねェか。」
「そうなんですけど……でも……。」
凱斗が地面を見つめながら言葉を詰まらせる姿を見たキョウは、ヘラっと笑い目を細めた。
「会長さんってあれだな、思ったよりガキだなァ?」
「は?」
キョウの言葉に凱斗は眉間に皺を寄せる。
「いやいや怒るなって。もっとこうスパッと物事を決める人かと思っていたけど、自分の玩具が取られそうになったら、でもでもだってって駄々こねてよォ。かぁわいいねェ。」
「……やっと悪の道から救い出せた……救い出せそう……って思ってたのに……。」
「それをアイツが望んだのかい?」
「……望んでいなかった……かもしれないですね。」
「アイツもガキっつってもよォ、もうすぐ二十歳だろ?自分の事くらい自分で決めるだろうよ。俺ら大人はそれを見守ってサポートしてやんのが役目なわけで、あれはダメこれはダメってそりゃァまだテメェでケツも拭けないようなガキにしか通用しないって。なァ?」
「悪の道に行くのを止めるのに年齢なんて関係ないですよ。」
「……わかっちゃいねェな会長さん。あのなァ、それは、止めてくれ!俺を助けてくれ!って望んでる人間に差し出す手なわけ。望んでもない奴に勝手に手ェ差し伸べて勝手に引っ張り寄せてそのまま自分の所に置いておくってそりゃァ自分勝手すぎんだろうよ。」
「俺は別にそんなつもりじゃ……。」
「いやァ、会長さんが言いたい事も気持ちも分かるけどねェ。じゃあ会長さんは黒龍の隊長になるってのを周りの大人に、危ないからやめときなァって言われたら辞めてたのかい?」
「それとこれとは話が───」
「いいから答えろよ。……どっちなんだい?」
キョウはジッと冷たい目で見つめ凱斗からの答えを待った。
「……辞めてなかった……と思います。」
「だろうよ。結局周りがなんと言おうが自分のやりたいようにやんの。人間なんかそんなモン。周りのアドバイスなんか聞いちゃいねェ。結局自分を肯定してくれる奴の言う事しか聞きゃァしない。これがどういう意味かわかるかい?」
「後押し待ちって事ですかね?」
「そうそう。自分の中ではもうやりたい事決まってんの。あと一歩踏み出せねェから肯定して背中押してくれる人間を探してんの。きっとアイツだってもうどうするか決めてるだろうよ。俺は、とりあえず会長さんや仲間に謝れって言った。いらねェとも言ったが、まァちゃんと謝った後なら来ても来なくてもどっちでもいいって言った。自分の足で動かなきゃなんの意味も無ェからなァ。」
「あー……輝血はやっぱりキョウさんの所に残りたがってる感じですか?」
少し寂しそうな顔をする凱斗を見てキョウは呆れた顔を向けた。




