03
総龍会が街の出入りを許可された事が大橋の耳に入る。
「それは本当ですか?」
「あぁ。ボスが一応お前にも伝えておけってよ。もうこれ以上俺から話す事はねぇ。」
男は大橋に袋を渡しさっさと地上へと戻ってしまった。
ドアを閉め鍵をかける。
「すぐそこに凱斗くんがいる……見つかるのも時間の問題……へっへへっ、へへっ……。」
大橋はズルズルとその場に座り込み笑い出す。
「……一歩遅かったですねぇ凱斗くん。へっへへ、そろそろ目覚めの時……さぁ早く、早く、早く目覚めて私にその可愛い姿を見せてください……。」
一晩経ち、冷静になった大橋は少しの物音にも敏感に反応するようになった。
ノック音にも身体が強ばる。
キョウと凱斗が出会わなければここが見つかるはずは無い。
森に立ち入りこの場所が見つかったとしても、きっとキョウが止めに入るだろう。
キョウがNOと言えば凱斗はそれに逆らうことは出来ない。
ここでは凱斗じゃなくキョウが絶対だ。
キョウに歯向かえば赤城やその他の男達が黙ってはいない。
キョウは喧嘩が得意なようには見えなかった。
だが、それは凱斗も同じだ。
あの赤城が慕い他の男達が慕うとなれば……想像以上の強さを持っている……それとも何か弱みを握られているのか?
いや今はそれは考えなくてもいい。
そもそもこの場所は龍の担当外地区。
担当外で手を出せばこの地区の警察達も黙ってはいない……。
どうして警察はキョウ達を野放しにしている?
大橋はキョウと凱斗の事を考え頭を抱えた。
「私は……キョウさんの事を何一つ知らない……何者なんでしょうか……?」
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龍が出入りをするようになったと知ってからも変わらずこの場所は静かだった。
キョウが立ち入りを許していないのか、ただこの場所がまだ見つかっていないだけなのか。
食事は決まった時間に届けられる。
その時間以外に訪問する場合は携帯電話に連絡をしてもらうようにした。
鍵を増やしてもらった。
大橋は自分が見つかった後自分がどうなるのか容易く想像出来た。
自分が服用した薬はあの時に食屍鬼化しただけで、あれ以降一度もそれらしい気配は無かった。
研究に集中したいが為に念の為渋々自分に抑制剤を投与した。
この先自分が食屍鬼になることは無いだろう。
でもそれでいい。
自分がなるよりもやはり第三者目線で見た方が美しいのだから。
「凱斗君があのままでいればより強い食屍鬼が増えていたでしょう……。」
大橋はカラフルな飴が入った瓶を手に取り眺めながら呟いた。
「……勿体無い。」
大橋は机の上に瓶を置くとベッドへと移動し横になった。
「私がキョウさんに支払った額以上のお金を凱斗君が自分の敵に匹敵する相手に渡すはずが無い……。へっへへ、それにその頃にはもう……貴方はきっと街の外へ逃がすでしょう?」
大橋はニタニタと笑いながら深い眠りについた。
外の騒がしさで目を覚ます。
「近い……ですね。」
大橋はベッドから身を起こしてドアの方へと向かうが、伸ばした手を引っ込める。
「動物達の鳴き声……龍の仕業……?……この近くに来ていますね。」
大橋はドアから離れ椅子に座る。
「私の命ももうすぐ終わりますね。」
それからどれだけの時間が経ったのか分からない。
大橋は食事を運んでくれた男に貰ったライターを手に取りバケツを用意した。
大量に書き込まれた紙に火をつけバケツの中へと放り込む。
燃え始めた紙は少しずつ灰に変わる。
それをボーッと眺めていると、悪寒が走った。
大橋はドアを見る。
ガチャガチャッ
「ヒッ」
ここには辿り着けないだろうと心のどこかで思っていた。
いつか来るかもしれない、そんな考えはほんの少ししか持っていなかった。
キョウが教えたのか、自分で見つけ出したのかも分からない。
でも確実に今この部屋の前に凱斗が居る。
大橋は恐怖心で頭の中が一瞬にして真っ白になった。
……鍵を増やしてもらって正解だ。
早くこのメモを消滅させなければ。
大橋がバケツの中を覗き込んだその時。
「……開けろ。」
大橋は怒りと憎しみが籠った声に恐怖し椅子から転げ落ちた。
その拍子に足がバケツにぶつかるとバケツは机にぶつかり倒れ、机の上に置いてあったコップが転び水が溢れ落ちる。
中で灰になりかけていた紙がバケツから顔を出し水が掛かると、それは燃えることをやめた。
ガチャガチャともう一度ドアを開けようとする凱斗を気にしつつ、大橋は必死に足を伸ばして水を被ったバケツを机の下の奥の方へと転がした。
バンッと大きな音を立て扉がこちらへと向かい倒れてくる。
その先には薄暗い中で目を光らし自分を見つめる魔王様がいた。
「久しぶりだな。元気にしてたかぁ?」
大橋は、本当の死を覚悟した。
自分の上に跨り拳を振り下ろす凱斗の姿は、あの時食屍鬼と戦っていた時と同じ目をしていた。
怒りと憎しみに満ち溢れた表情。
謝ることも許されず、ただただその痛みを受け入れるしかできなかった。
息をする事すらままならない状態になるまで殴られた。顔が腫れ上がり、血の味がする。
少ししてまた聞き覚えのある声が止めに入る。
大橋の意識は朦朧としていた。
ああ、このまま殺されるのだろう。
だが、大橋の予想とは違い凱斗は大橋の上から退くと、桜庭と話し始める。
キョウに売られたと知る。
それに対して怒りの気持ちは勿論無い。
そして、水仙の子 輝血がキッカケで二人が顔を合していたことも知った。
凱斗と桜庭が一通り話終えると大橋は凱斗に引き摺られ地下室を後にした。
途中で立ち上がらされた大橋は凱斗と桜庭に挟まれる形で歩く。
大橋が隣の建物をチラリと見ると、窓からこちらをみているキョウの姿があった。
キョウの姿を見た大橋は冷や汗をかく。
光の無い冷たい目。
凱斗に似た何かを感じた。
「余所見をするな。」
隣から低い声で指摘され大橋は前を向く。
一歩、また一歩と自ら死に向かって歩き続けた。




