02
ある建物の地下室へと案内された。
「ここに寄り付く人はキョウさんと俺以外はほとんど居ない。この地下室は好きに使ってくれて構わない……が、少しでもキョウさんに危害を加えるような真似をしたら客人だろうが容赦はしない。」
鋭い瞳が大橋を睨みつけると、大橋がじんわりと汗をかきながら、そんな真似はしないと誓うと、赤城は背を向け部屋から出ていった。
扉が閉まり足音が遠のき、雨がうちつける音が微かに聞こえるだけの空間。
広くも狭くもなく、少し埃っぽい部屋。
自分の前にも誰かが使っていたのだろう。
大橋はドアの内鍵を閉めその場に座り込んだ。
「薬の効果が持続しないのは何故だ?」
「どうして私は食屍鬼に戻ることが出来ない?」
「体力を消耗しすぎたのか?」
「それとも……失敗作だったのか?」
「どうして私の腕は腫れ上がっている?」
「あの男の剣をも弾く硬さはどこへ行った?」
「私は、私は……食屍鬼にはなれないのか?」
「私は見る側でしかいられないというのか?」
ドアにもたれブツブツと独り言を話し続けた。
自問自答を繰り返し、納得のいく答えを探った。
そして気付けば朝を迎えた。
「食事です。」
ドアの向こう側から聞こえた女性の声に大橋は驚き飛び跳ねた。
鍵を開け恐る恐る扉を開くと、そこには美しい女性が立っていた。
「キョウ様からです。」
女性は大橋に袋を差し出した。
「キョウさんが?」
「はい。」
「どうして?」
「すみません、分かりません。私はただこの袋を持って行くように言われただけですので。では、失礼致します。」
頭を下げ階段を上っていく女性が見えなくなると大橋はドアを閉め鍵をかけた。
渡された袋の中を覗くと、コンビニで買ったパンやおにぎり、飲み物が複数入っていた。
大橋は一つのおにぎりを手に取り口へと運ぶ。
何故か涙が溢れた。
大橋はおにぎりを頬張り飲み物で流し込むと、部屋の隅にある机に向かい紙に何かを書出した。
「見る側には見る側の楽しみ方がありますからねぇ……へっへへ。」
大橋は何枚もの紙を真っ黒に埋めつくした。
数式や難しい言葉でビッシリ埋まった紙を眺めニヤニヤと笑う。
一日に一回食事が運ばれてくる。
運んできてくれる女性は複数人おり、時には男性が持ってきた。
大橋が男性に、キョウに頼みたいことがある。と言うと、赤城が部屋へとやってきた。
「頼みとはなんだ?」
赤城は変わらぬ鋭い目で大橋を見た。
「ある場所に私の私物があります。それを取ってきて頂きたい。」
「……。」
重苦しい沈黙が流れた。
「あの……。」
「前払いをしてもらったのは匿う金だ。食事はキョウさんの配慮なだけで、あの金で俺達が何でもすると思うな。行きたきゃ自分で行け。」
「追加でお支払いすると言っても……?」
「……キョウさんに確認する。待て。」
赤城は外に出て電話をかけ始めた。
声から放たれていた威圧感が消えたので、相手はキョウなのだろう。
少し経つと赤城が部屋に戻った。
「いくら払うつもりだ?」
「えっと……この額でお願いしたく思います……これが全財産です。」
大橋はボロボロの携帯電話を取り出し画面を赤城に見せた。
「……場所と持ってきて欲しいものを言え。送金はこの口座にしろ。」
そう言うと赤城は前とは違う口座を指定した。
大橋はそれに従い全財産を支払い場所と荷物の特徴を告げた。
三日後、大橋が頼んだ物が運ばれた。
大橋はダンボール箱を開ける。
「無事でしたか、へっへへ。」
ダンボール箱の中から様々な機械を取り出す。
「私が服用した薬を元に実験しましょう。きっとこれで……へっへへ。」
薄暗い部屋で大橋はニタリと笑った。
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「赤城ィ。」
「はい。」
「アイツは何をしてんだい?」
廃墟の一室でソファに寝転ぶキョウとその隣に立つ赤城。
「聞き出しますか?」
「いやいや、深くは関わりたくねぇの。けど、気になるよなァ。」
「荷物を運んでから俺もあの部屋には行っていないので詳しくは分かりません。すみません。」
「……良くない事やってんだろうなァ?」
「……。」
「命を狙われてるんだったかァ?最後の悪足掻きって所か。まァ俺には関係無いからなんでもいいけど。」
「勝手な行動をしたらどうしますか?始末しますか?」
「んー……商売の邪魔するってんなら考えなきゃならねぇなァ。今はまだ放っておいていい。それよりだ、最近この辺りをウロチョロしてるアイツらはなんだい?」
「総龍会ですね。近いうちにここにも来るかと。」
「へェ。思ったよりお早い到着で。で、龍の奴らは俺らにもちょっかいかけるつもりかい?」
「いえ、その心配は無いかと。仮に口を出してきたら警察が黙っていませんよ。」
「それもそうか。俺達に何かあったら困るのはアイツらだしな。はっはっ……赤城ィ。」
「はい。」
「今日の仕事始めるかァ。」
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それから数日後。
「キョウさん。」
「なんだい?」
「総龍会の会長と黒龍隊長がキョウさんにお会いしたいと。」
「やだよ。金にならねぇ客になんか会わねェよ。」
キョウは美女に膝枕をしてもらいながら面倒くさそうに答えた。
「対面では赤城が対応して。」
「はい。では向こう側の要望をお伝えします。」
「んー。」
「奥の森を捜査させて欲しい、とのことです。」
「それだけかい?」
「はい。こちらの商売には目を瞑るかわりに出入りを許可して欲しいと。」
「ふーん。あの白衣を探してるのかい?」
「いえ、食屍鬼を探しているようです。」
「ここに居るってか?」
「俺には分かりませんが……この周辺で見つけたから念の為じゃないですか?」
「そうだよなァ。見た事も聞いた事もないしな。まァいいや。一回見て居ないって分かったらどっか行くだろ。いいよ、許可するよ。」
「承知しました。ではそのようにお伝えします。」
「よろしく。」
赤城が部屋を出ていくとキョウはその扉を見つめた。
「食屍鬼……白衣のオッサン……なるほどねェ。」




