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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
研究者 大橋
82/123

01

凱斗が大橋を痛めつけ、その様子を見ていた隊員達と輝血。

怯える隊員と構える凱斗。

それに気付いた輝血。

凱斗の元へと向かった隊員。

ここで輝血の記憶は途切れた。


目を覚まし、桜庭や凱斗と話した後体を休めた。

体調も良くなった頃、会長室に来るようにと凱斗に呼び出されあの時のことを聞かされた。

大橋は自ら食屍鬼ウイルスを投与していた。

大怪我をしていた。

足も落ちそうになっていた。

凱斗に殺されたものだと思っていた大橋が立ち上がり凱斗に牙を向けた。

どうして凱斗はその時に仕留められなかったのか?

輝血の質問に凱斗は困ったように笑う。

食屍鬼を知り尽くした研究者。

食屍鬼を愛した研究者。

龍よりも食屍鬼に詳しい研究者。

完璧なまでの薬をつくりあげていた。

それは己の肉体に剣を通すことは無く、急所に当てられる前に素早くかわす瞬発力を備えていた。

成功体の上位互角ともいえるものだった。

だが、大橋は一つミスを犯した。

薬によって強化された肉体、身体能力。

だが、体力だけは劣っていたのだ。

素早く動けば動くほど息が上がる。

凱斗が駆け付けた隊員達に声をかけている間に大橋はそれに気付き、隊員の一人を犠牲に部屋から抜け出した。

凱斗は座り込む隊員にその場を任せ大橋を追った。

だが、大橋は最後の力を振り絞り、並大抵の人間では絶対に乗り越えられない高さを一蹴りで飛び越えた。

その高さは龍の会長ですら難しい高さだった。

大橋は背後からの強大な殺意に鳥肌を立てた。

振り返っただけで飲み込まれ殺されてしまうのではないかと思えるほどの、禍々しいオーラを感じ取る。

大橋の身体は薬の力で回復し、足は繋がり新たな指を得た。

やはり、食屍鬼は素晴らしい。

大橋は身を隠しながらある場所へと急いだ。

”あそこへ辿り着けば、楽園を手に入れられる。”

──────────────

龍の屋敷から逃走し数日後の小雨が降る夕方、目的の場所へと辿り着く。

空を見上げ不気味に笑いながら歩き回る者。

殴り合い血を垂らす者。

隅で震え座る者。

大橋に対し罵声を浴びせる者。

瓶が大橋の目の前を横切り壁にぶつかり割れる。

大橋はそれらを無視して歩き続けた。

大橋の態度が気に入らない者が後ろから物を投げつける。

大橋の頭や背中にぶつかり落ちる。

「へっへへ……ここが楽園……。」

大橋はボソボソと独り言を話しながら歩みを進めた。

暫く歩くと入口より静かな場所へと辿り着く。

廃墟が立ち並び不気味な空気に包まれた場所。

大橋を追ってきていた男達はこの場へ足を踏み入れようとはしなかった。

文句を垂れ入口の方へと戻って行く男達。

大橋はそれに構うこと無く歩き続けていると雨が強くなってきた。

前方からパシャパシャと音を立て何かが大橋に向かってくる。

下を向き独り言を話しながら歩いていた大橋が顔を上げると、一人の男性とぶつかった。

「いてて……。」

気を抜いていた大橋は尻もちをつく。

「す、すみません!大丈夫ですか?」

大橋が顔を上げると気弱そうな男性が心配そうな顔をしながら大橋に手を差し伸べていた。

「へっへへ、大丈夫です。ありがとうございます。」

大橋が男性の手を取り立ち上がると、男性は軽く頭を下げ走り去って行った。

「……この先……あの建物から出てきたんですかねぇ?」

大橋は少し先に見える建物を目指してまた歩き始めた。

目指していた建物を前にし息を飲んだ。

部外者の立ち入りを拒絶するかのような空気が流れる。

大橋は恐る恐るドアに手をかけ開く。

「……何の用だい?」

薄暗い部屋から聞こえる声に大橋はニタリと笑う。

「貴方がキョウさんですね?」

大橋が部屋に一歩足を踏み入れると、ドアの横から太く逞しい腕が入室を拒否した。

「誰だアンタ?」

大橋の目の前に姿を現したのは、目付きが鋭く体格の良い男だった。

「私は大橋と申す者です。キョウさんにお願いがありまして……へっへへ……。」

雨に濡れ、汚れた白衣を着た大橋を見て男は眉間に皺を寄せた。

「頼み事はなんだ?俺が聞く。」

「いやぁ、でもこれはキョウさんご本人とお話を──」

大橋は話す途中で腕に鈍い痛みを感じ目を大きくした。

「俺が聞くと言っているんだ。それ以上この部屋の中に入る事は許さない。」

体格の良い男は大橋の腕を掴み力を入れた。

ミシッと鈍い音が鳴る。

このままでは折られてしまう。

”………どうしてだ……?”

「はっはっ、おい赤城ィ、お客さんに失礼だろ?放してやれ。」

「はい。」

赤城が手を離すと大橋は腕を押さえその場に座り込む。

「悪いねェお客さん。で、俺に頼みってなんだい?」

大橋が歪めた顔を上げると、雷に照らされた不気味な笑顔が見つめていた。

「あ……あの……私を匿ってはくれませんか?」

大橋の言葉を聞きキョウは笑った。

「誰かに追われているのかい?それは俺にとってどんなメリットがあるんだい?」

「……とある組織に命を狙われています。」

「ふゥん。で、俺にとってのメリットは?」

「大金が手に入ります。……これを全てキョウさんに渡します。」

大橋はゴソゴソと白衣の内ポケットから通帳を取り出す。

「赤城。」

「はい。」

赤城が大橋の通帳を取り上げキョウの元へと運んだ。

「……はっは、へェ?お客さんを匿うだけでこの額かい?こーんなうまい話逃す訳にはいかねェ……が、そのお客さんの命を狙うとある組織ってのはなんだい?」

「総龍会です……。」

「あァ、なんか聞いたことあるねェ。化け物退治の組織だったか?何年か前に騒ぎになってたねェ。……で、どうしてその組織がお客さんの命を狙うんだい?」

「話せば少し長くなるのですが……。」

「今日は暇しててねェ。そこに掛けて話してくれないかい?」

キョウは自分の斜め前にある椅子を指さす。

「赤城、お客さんを支えてやんなァ。」

「はい。」

大橋は赤城に腕を捕まれ立ち上がると椅子へと誘導された。

「ヒッ」

大橋は椅子やその周りにこびり付く血痕を見て声を漏らす。

「どうしたんだいお客さん?早くかけなァ。」

大橋はゆっくりと浅く椅子に腰を掛けると、キョウに話をした。

自分が食屍鬼の研究者である事。

復活させた者である事。

龍の屋敷で生活をしていたこと。

ある人と食屍鬼復活を目論見実行した事。

キョウは黙って大橋の話を聞いていた。

「見かけによらず悪い事してるんだねェ。」

大橋は顔を伏せる。

「ま、俺は金さえ貰えりゃ何でもいい。ただ一つ先に言っておく。」

「……なんでしょう?」

「総龍がお客さん以上の金を持って居場所を教えてくれと頼んできたら俺は迷わずお客さんを売る。それでもいいかい?」

「大丈夫です。」

「はっは、売られても良いなら匿ってもらう必要は無いんじゃないのか?」

「きっと龍は……会長は私を探し出すでしょう。私は彼から逃れることは出来ない。ですが、その時私は目的を果たし終わっているでしょう。……ならばもうこの命は必要ないのです……へっ…へへへっ……。」

「……お客さん、ここでよからぬ事をしようってんじゃないだろうなァ?商売の邪魔されちゃ困るんだけど。」

「キョウさんに迷惑はかけません。」

「……ちなみに今から何しようとしてんだい?」

「それは話せません。」

「へェ。……まァいいや。ところでお客さんはどうして俺の所に?」

「水仙さんの紹介です。」

「水仙……?あぁ、あの長髪のオッサンの事か?元気にしてんのかい?」

「彼はもう……龍に殺られてしまいこの世にはいません…。」

「へェ、そうかい。」

「今龍には水仙さんのお子さん達がいます。きっといつかここに来ると思います。」

「そうかいそうかい。まァそのガキ共に会ったとしても知らないフリするけどなァ。」

「味方にしないのですか?」

「はァ?別に俺は龍から何かされたわけでもねェ。お客さんを売る可能性だってある。それに俺と水仙だってそこまで深い仲ってわけでもねェ。味方もクソもねェんだよ。……お客さんとしてなら大歓迎だけどよォ。」

「……。」

「お客さん、うちは前払いでねェ。支払いが確認出来るまでは匿ってやれねぇんだけど。」

「あ、え、はい。今すぐにお支払いします。」

「じゃあ今からうちの者と一緒に引き出しに行ってもらおうか?」

「あ、あの。ネット経由での送金では駄目でしょうか?外は龍の目が……。」

「ん?あァいいよ。赤城、指定口座を教えてやんなァ。」

「はい。」

赤城は携帯電話を取り出し大橋に画面を見せた。

「これはキョウさんの口座でしょうか?」

大橋がキョウに問いかけると、キョウはニコッと笑う。

「ウチの口座だよ。」

大橋は口を閉じ指定口座へ送金をする。

「出来ました。」

赤城はキョウの元へと向かい携帯電話の画面を見せた。

「はい、まいどあり。……赤城ィ、俺の息抜き部屋の隣に案内してやんなァ。」

「承知しました。」

大橋は赤城についてくるように言われ立ち上がりキョウに頭を下げた。

キョウはヘラヘラと笑いながら手を振っていたが、その目は1ミリも笑ってはいなかった。

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