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「本当にあの人はっ!幼い時からっ!私の言葉にっ!耳をっ!!傾けない!!!」
鬼の血相で文句を垂らしながら剣を振る桜庭に隊長や幹部は顔を引きつらせる。
騒ぐ食屍鬼達の声は段々少なくなっていく。
「あともう少しってとこですかね?」
亀八が剣を振りながら言うと、他の隊長達が頷く。
「さっさと終わらせて会長の所に行きましょう!」
彩葉と百音が背を合わせながら敵を倒し、羽鳥達も視界に入る食屍鬼に剣をふりかざす。
「終わったら会長には沢山言いたいことがありますからね!早く終わらせましょう!」
桜庭が叫びながら剣を振る。
「お説教だけは勘弁。」
「へっ?」
桜庭の目の前にいた食屍鬼の首が飛ぶ。
「か、凱……会長!」
「ただいま戻りました。さ、ちゃちゃっと終わらせるか。」
「……残された人は?」
「無事だよ。……多分ね。」
「多分って……その人は今どこに───」
「いいから今は目の前の敵に集中しろ。一番最初に喰われちまうぞ。」
ヘラヘラと笑いながら話す凱斗を見て桜庭は軽く頭を下げると凱斗と背を合わす。
「ご無理はなさらぬ様に。」
「……。」
桜庭と凱斗の付き合いは長い。
桜庭には全てお見通しだった。
凱斗が不安に襲われている、という事に。
それから数分後には湖周辺はシンと静まり返る。
「終わった……のか?」
亀八が剣を構えたまま凱斗に問いかけた。
「……森は出口から入口まで全焼。生き残っていたとしても、それなりにダメージは負ってるはずだ。」
凱斗は無線を取り出すと消火指示を出す。
数秒後、凱斗達が居る場所は豪雨地帯へと変貌する。
「空を覆い尽くすほどのヘリから降り注がれる水、地上数十台からの水。さて、鎮火までにかかる時間はどれくらいでしょうか?」
降り注ぐ水に濡れながら凱斗が桜庭に問いかける。
「えっと……これだけの水量、一分程でしょうか?」
凱斗は桜庭の目を見てニィッと笑う。
「知らね。」
「はい?」
「知らない。でもちゃんと消えるはず。凄いよな、水溜め込んで空に行けるの。まあ溜め込める量は多くないから数が必要になるんだけど。」
「……あのヘリは一体?」
「俺が作らせた。」
「はい?」
「だから、俺が作らせたの。こういう時の為に。」
「……え、ちょっと理解が追いつか──」
「老いには抗えないねえ、桜庭。」
「なっ!貴方って人は!どうしてそう余計な一言を!」
「ははっ、そう怒るなって。ほら見ろよ。あんなに暑苦しかったのに今は涼やかだ。」
桜庭は森を見つめる。
一斉に降り注がれた水が炎を消していく。
生い茂り先が見えなかった木々は殆ど残らず、腐臭が漂っていた。
──────────────
「おーい、無事か?」
凱斗が無線に話しかけると向こう側から元気な返事が返ってくる。
それを聞いた凱斗はニコリと優しく微笑んだ。
「お疲れの所悪いけど、最終見回りをして欲しい。もし残ってるやつがいたら殺してくれ。」
「了解しました!」
凱斗が無線を切ろうとした時
「会長!かーくんは無事ですか?!」
懍の震えた叫び声が聞こえる。
それは桜庭や他の隊長、幹部の耳にも届いた。
「……ああ、無事だよ。生きてはいる。」
「よかったぁ……よかっ……た……。」
懍の鼻をすする音。
桜庭の呆れた顔。
隊長達は表情を変えず、羽鳥だけは心配そうに凱斗を見つめる。
「……懍。」
「え、あ、はい!」
「お前、輝血がここに戻らなかったらどうする?」
辺りがザワつく。
「え?戻らないって……え、何?かーくんはどうなっちゃうんですか?!」
「いや、俺はどうもしない。アイツ次第なんだけど。」
「ごめ、ごめんなさい、会長が言いたい事が俺には分からない。」
「いや、俺こそごめん。後でまたちゃんと話すよ。……見回りを頼む。」
「ちょ、会ちょ──」
凱斗は無線をしまうと森だった場所へと向け歩き始める。
「会長。」
桜庭が駆け寄り凱斗の隣に並ぶ。
凱斗と桜庭は黙ったまま歩き進めた。
焼かれた死体が転がる。
嫌な臭いが鼻を刺激する。
それでも凱斗は表情一つ変えずに真っ直ぐ前を向き歩き進めた。
ハンカチで鼻を押さえながら凱斗の隣を歩く桜庭。
暫く歩くと凱斗は方向転換する。
「凱斗さん?」
「こっちに用がある。」
「……畏まりました。」
それ以上桜庭は何も言わず凱斗について行った。
暫く歩くと輝血とキョウが向かった場所へと辿り着く。
「ここは一体……?」
「ほら、あそこ。」
凱斗が指を指した先には建物の前で椅子に座り煙草を吸っているキョウの姿があった。
「生存者ですか?全員避難したと思っていました……すみません。」
「いやいいよ。あの人は自分の意思で残った。俺は少しあの人と話すから桜庭はここで待機。」
「私も同行し──」
「俺が一人で行くから。待ってて。」
桜庭は頭を下げる。
「お気をつけて。」
「ん。」
凱斗の足音が遠ざかる。
桜庭は顔を上げ凱斗の後ろ姿を見つめた。
──────────────
「お迎えかい?」
煙を吐き出しながら話すキョウ。
「……うちの者が一度ならず二度までも……ご迷惑をおかけしてすみません。」
「はっは、別に迷惑だなんて思っちゃいねェよ。……お客さんは今眠っている。……少し話さないかい?」
「……はい。」
キョウは凱斗の返事を聞くとニコニコと立ち上がりもう一つ椅子を持ってくると「どうぞ」と凱斗に声を掛け先程まで座っていた椅子に腰を下ろした。
凱斗は差し出された椅子に座るとキョウを真っ直ぐ見つめる。
キョウはニヤリと怪しく笑みを浮かべている。
「会長さんが知りたいのはお客さんの容態かい?それとも……研究者の居場所かい?」
凱斗は真っ直ぐキョウを見つめたまま話す。
「……研究者の居場所だ。」
凱斗の答えを聞き笑うキョウ。
「はっは、部下の心配の前にお仕事かい?熱心でいいねェ。」
「研究者はどこにいる?」
「……ウチは安くないよ、お客さん。」
「情報提供者にはそれなりの礼はする。」
「ふゥん。それなり、ねェ。」
「なるべく希望額に見合った額を……。」
「敵に金なんて払っていいのかい?」
「………もちろん、貴方達が生業としている事は目を瞑り難い。が、この研究者はそれよりも見過ごせない。」
「俺はあの薄汚い研究者に助けを求められて助けた。くくっ、俺みたいな奴にあの男は大金を払った。匿うだけで貰えるにしては大金だったから裏があるのは分かってたが……まさかこんな事をしてるとは思わなかったねェ。」
「研究者はどこにいる?」
「まぁまぁ待ちなよお客さん。先に俺に渡すもんがあるだろ?」
キョウは少し前屈みになり手を差し出す。
凱斗は隊服内ポケットから一枚の紙を取りだしそれを渡した。
「……はっは、いいねェ。俺が望むより大きな額で驚いた。これだけの大金払ってでもあの男が欲しいのかい?」
「そうだ。」
「総龍会の会長さんともあろう人がねェ。」
「……。」
「ま、俺は貰えるもん貰えりゃなんでもいいんだけど。研究者はこの隣の建物の地下に篭ってるよ。」
「中には何人いる?」
「あ?一人だよ。」
「一人?他に仲間は?」
「さぁねェ?ウチの者が食事の用意をしてやってた位であの日から俺も顔は合わせちゃいねェ。」
「そうか。助かった。感謝するよ。」
凱斗は立ち上がり頭を下げるとキョウに教えられた建物へ向かう。
「おい。」
座ったままキョウが声を掛けると凱斗は立ち止まる。
「部下はどうするつもりだい?」
「……アイツが決める事だ。俺は別に迎えに来たわけじゃない。戻ってきたいなら自分の足で戻ってこればいい。」
「はっはっ、中々冷たいねェ。」
「……。」
凱斗は何も言わずに建物の中へと入って行き、キョウは座ったままジッと地面を見つめる。
「いやァ、冷たいんじゃなくアレがあの人なりの優しさ……かァ?」




