02
柏木はギリッと歯を鳴らすと叫びながら走り輝血へと拳を振り下ろす。
輝血はその拳を掴むとニタリと笑いかける。
「俺が直々に躾ってもんを教えてやる。有難く思えよ。」
掴んだ拳を見て舌なめずりをする輝血に怒りを露わにする柏木。
「調子に乗るな!!」
柏木は眉間に皺を寄せ叫ぶと輝血の手を振り解こうとする。
「へへっ、バカの頂点は大バカか。」
輝血は膝を曲げると掴んだ拳を離しそのまま柏木の顔に頭突きを入れる。
柏木は鼻に頭突きをされ、そのまま後ろに倒れ込むとケタケタと笑う輝血が上に跨り腹の上に腰を下ろす。
「躾の時間だ。」
輝血はニッコリと笑いかけた。
「何をする気だ!」
柏木は体を捩らせ輝血を振り落とそうとするが輝血はそれを楽しみ声を上げて笑う。
「ははっ、なんだコイツ。なあ懍、ひっくり返すの手伝ってよ。」
「仕方ないなぁ。その後は知らないからね?」
「うん、あとの事は俺一人で大丈夫。」
輝血が柏木の上から立ち上がると懍は柏木の腕を掴み引っ張り、柏木が暴れても二人はそれを楽しみ笑いながらうつ伏せ状態にした。
「なんなんだお前達は!」
柏木は顔を上げ叫んだ。
「え?俺達は子猫ちゃんなんじゃないの?お前がそう言ったんじゃん。」
輝血は柏木の左腕の上に片足を起きしゃがみこみ、懍は柏木の上に跨り腰を下ろすと煙草に火をつけ煙を吐き出した。
周りの男達は楽しげに笑う二人に近寄ることが出来ず、ただただ黙ってその光景を目に焼きつけることしか出来なかった。
「俺が悪かった!ちゃんと謝る!だから上から降りっ……ギャアアアアア!!!」
「え?何?」
柏木は輝血に許しを得ようと懇願するが、最後まで聞かれることは無く左腕に鈍い痛みが走る。
柏木は痛みに耐えきれずに顔を伏せ叫ぶが、その姿を見た輝血は笑いながら柏木の前髪を掴み顔を上げさせた。
「ギャアギャアうるせぇよ。でも俺も鬼じゃない。お前の事が可哀想だなと思えてきたから優しくしてあげるね。」
輝血はニコリと笑うと柏木の前髪から手を離しもう片方の肘の上に足を置く。
「あっ…や、やめっ…!」
「片方だけ、なんて可哀想だもんね。」
輝血は「ごめんね、片方ずつしか出来なくて。」と声を掛け、柏木の手首を掴み一気に上に持ち上げた。
柏木の叫び声が響き渡る。
煙草の煙を吐きながら懍が笑うと、輝血も笑った。
周りの男達は何も出来ないままその場に立ち尽くした。
「柏木、だっけ?俺はさぁ、生温い躾なんて必要無いと思ってるんだよね。」
輝血がそう言いながら柏木の足元へと移動すると、懍は立ち上がり柏木の肩を掴み仰向けにさせ腹の上に腰を下ろすと煙を吐き出す。
柏木は腕の痛みに耐えながら首を上げ二人を睨み付け、目が合った輝血はまた幼い子供のような顔をして笑う。
「ほら、まだそうやって睨み付ける。二度と俺の事を睨みつけないように躾ないと。ムカつくんだよな、下のやつにそういう目で見られるの。」
輝血は柏木の膝の上に足を置くとゆっくりと柏木の足首を持ち上げる。
「やめ、やめろ!分かった!もう二度と睨んだりしない!」
柏木は顔を歪ませながら懇願するが、柏木に背を向け座っていた懍が首を回し柏木の顔を見て微笑んだ。
「口ではなんとでも言える。俺達は言葉より行動で示して欲しいんだよ。」
懍はそう言うと残り僅かな煙草を柏木の顔の横へと投げ捨てる。
柏木の目に映る懍は悪魔でしか無かった。
そして、その奥に映る輝血は魔王と呼ぶに相応しかった。
時間をかけ鈍い音が鳴ると柏木の口から叫び声が上がる。
「時間がかかっちゃった。次は早めに終わらせるよ。待たせてごめんな、懍。」
「いいよ。気にしないでかーくん。俺はコイツの顔を見てる間楽しいからさ。でもやっぱり俺は男より女の方が好きだなぁ。」
まるで他の者がいないかのように二人で会話をする。
「次は早く楽にしてあげるからさ、終わった後俺になんて言えば正しいのか今のうちに考えておきなよ。」
輝血は柏木の顔を覗き込み笑いかけた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
柏木は慌てて謝るが輝血はニコニコとしたまま足首に手をかける。
「俺は賢いから学んだ。一人でやる時、どうすれば効率が良いか。」
輝血は柏木に答えること無く足首を掴み上へと持ち上げ手前に引っ張りながら膝へと蹴りを入れる。
鈍い音と柏木の叫び声、そして輝血と懍の笑い声が響く。
周りの男達は一歩、また一歩と後ろへと下がった。
「おい。」
輝血が一言発すると周りの男達は足を止める。
「コイツってお前達のなんなの?リーダーじゃねぇの?見捨てて逃げようってか?ははっ、リーダーを助けようともせずに自分達は逃げよう。下のやつらにそう思われている時点で、このチームは終わってんだよなぁ?!柏木ぃ、お前が作り上げたこのチームはやっぱりただの弱虫の集団。自分より力ある者がそれ以上の力の持ち主にねじ伏せられている所を見て、逃げる事しか考えられない弱虫を集めた所でさ、意味ねぇんだよ。なぁ?お前もそう思わないか?」
柏木は顔を歪め歯を食いしばる。
周りの男達は下を向き輝血の言葉を黙って聞いた。
そんな周りの男達を見て懍は笑う。
「俺達の仲間はアビス地区に来て龍に連れて行かれた。一緒にいた仲間はそいつを見捨てて帰って来た。でもそれは正しい。あそこでアイツが仲間を取り返そうと龍に立ち向かえば、アイツも連れて行かれ俺達は何の情報も得ることが出来なかっただろう。だがどうだ?お前達の仲間は人数有利であるにも関わらず、たった二人の俺達に立ち向かうこともせずただボーッと突っ立ってお前の叫び声を聞くだけ。お前にコイツらは必要か?」
輝血は柏木の胸の上に座り冷たい目で見下ろし、懍は立ち上がるとそんな輝血と柏木を見つめた。




