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輝血が仲間達の声に耳を傾けること無く一目散に森へと飛び込んだ頃。
「かーくん!!」
輝血の後を追おうと走り出す懍は陽平と悠司に腕を掴まれる。
「離せよ!かーくんが、かーくんが!!」
「落ち着け!お前まで飛び込んでどうするんだよ!」
陽平達の腕を振り切ろうと懍は暴れた。
涙を流し大きな声で叫びながら。
「いいから離せよ!もうかーくんを一人にしないって決めたんだ!離せ!!」
「いい加減にしろ!」
懍は陽平、悠司の他に周りの隊員達に押さえ付けられた。
「うあぁああああ!!!!!」
懍は目の前の木々が燃え崩れ落ちていく姿を見て泣き叫んだ。
「懍、落ち着きなさい。」
アザミと香が懍の隣に立つ。
「うるせぇよ、離せ!」
それでも抵抗を辞めない懍の頬に衝撃が走る。
「っ……何すんだよ!?」
「懍が行った所で輝血もあんたも燃えて死ぬ。あんたそれでいいわけ?」
手をプラプラと振りながら話す香を睨みつける懍を見て陽平達は震えた。
ニコニコ明るく笑っていた懍しか知らない陽平達は、懍の本性を見た気がした。
「あ?助けられるかもしれねぇだろ。お前らなんでそんな平気な顔してんだよ?」
「輝血がやる事には今まで沢山驚かされてきたわよ。今回も驚いてはいるわ。それでも輝血は毎回生きて戻ってきた。……今回もきっと生きて戻ってくるわよ。」
懍はアザミの言葉を聞き、更に怒りが増す。
「こんなに燃えてる場所に!それも食屍鬼がいる場所に一人で入っていって生き残る確率なんか低いだろ?!どうしてそんな他人事なんだよ?!お前ら今までかーくんにどれだけ救われてきたんだよ?!きっと戻ってくるって…今までとはわけが違うだろうが!!いいから早く行かせろよ……おい!離せっつってんだよ!!」
懍は自分を掴む隊員達に敵意を剥き出しにして吠えた。
隊員達は少し怯むが、掴む力を弛めることは無かった。
「あんたが行った所でなんも変わんないって言ってんの。もういい加減大人しくしなさいよ。」
香が呆れたような顔で懍に言うと、懍は香を再び睨みつける。
「緊急連絡、緊急連絡、隊員の一人が森へ入り込み消息不明。」
隊員の一人が無線を取り出し話し始める。
「……あ?」
無線から返ってきた声にその場が一斉に凍り付いた。
先程まで吠えていた懍も口を閉じてしまう。
まるで目の前に腹を空かせ凶暴化した龍がいるかのような、一歩でも動けば食い殺されるかのような緊張感。
「森に入ったのは誰?」
「あ、はい。総龍の輝血です。」
「あぁ……分かった。お前達はその場で待機。これ以上勝手な行動は許さない。」
無線越しに聞こえてくる断末魔と隊長や幹部の声。
「こっちが片付いたらまた連絡する。外側に向かう生物は全て殺せ。」
「会長!!」
懍が叫ぶ。
「……何?」
「かーくんがっ……かーくんを助けたいっ……!」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら懍は叫んだ。
「……お前はそこにいろ。余計な事はするな。」
「でも!」
「……今お前とお喋りしてられるほど暇じゃねえんだよ。」
無線が途切れる。
足の力が抜けた懍を掴んでいた隊員達が懍を支える。
「きっと大丈夫だよ。アニキが見つけ出して連れて帰ってきてくれるよ。」
陽平は涙を堪えながら懍の背中を叩いた。
「どうしてお前が泣きそうになってるんだよ。」
今にも泣き出しそうな陽平を見て悠司が呆れた顔をする。
「だっでぇ……気持ちわがるもん。仲間がさぁ、いなくなるかもって思うと胸が苦しくなってさぁ、辛いよぉ。」
話しながら泣き出した陽平を見て悠司は陽平の頭をクシャっと撫でた。
「だな。俺も分かるよ。」
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「どうかしましたか?何か問題が?」
息が上がった桜庭が凱斗の隣に立つ。
「……俺は森の方へ行く。出てきたヤツらは任せる。」
「ちょ、何を言ってるんです?!ヤツらが出てきた所を……もしかして誰か森の中に残っているのですか?」
「そっ。もう死んでるかもしれねぇけど。」
「そんな……こんな広い場所でどこにいるかも分からないのを戦いながら探すなんて無茶ですよ!」
「あぁ、そうだな。本当に腹が立つよ。」
「凱……会長、心苦しいですが最優先は討伐です。」
「分かってる。」
「森へ行くことは許可しません。」
「許可なんていらない。俺が決める。」
「なっ!貴方って人は!今どういう状況か分かっているのですか?!」
「分かってるよ。ほら、俺にばっかり構ってると自分が死ぬぞ。」
凱斗は桜庭の腕を引き剣を振り下ろす。
「周りをよく見ましょうね、桜庭。」
「……申し訳ございません。」
桜庭の背後数センチ先で血を流しながら横たわる人。
頭を下げる桜庭にニコッと笑いかけ凱斗は森の方へと走り出す。
「ちょっと会長!!戻ってきてください!!!」
頭を上げ叫ぶ桜庭の声に周りの隊長と幹部が気付き、森の中へと走り去る凱斗の姿を捉え目を大きくした。
「ほんっとうに……腹が立つな。」
凱斗の苛立ちは全身から溢れ出ていた。
湖へ向かい走ってくる食屍鬼や動物を倒しながら、凱斗は走った。
迫る炎を見て凱斗は眉間に皺を寄せる。
「範囲が狭い。生きているとしたらそろそろ出会っていてもおかしくない。……喰われたか?それとも燃え……そもそもどうして入り込んだ?」
凱斗は近くにあった大木に駆け登り上から燃える海を見下ろした。
「ゲホッゲホッ」
迫り来るのは炎と食屍鬼だけでは無い、真っ黒な煙も共に迫ってきているのだ。
「視界が悪いしこのままじゃ俺まで……。」
凱斗は剣を構え振り返る。
「……あ?」
遠くの方の物音と見えた影。
それは輝血を担ぎ走るキョウの姿だった。
「どうしてあの人が……それに向こう側は……。」
凱斗は木から飛び降り走り去る姿を見つめ、走り出した。




