09
「幸輝!!!」
「うわっビックリした!!」
ガバッと身体を起こした輝血の隣に座っていたキョウが目をパチパチとさせていた。
「あ……あれ?俺今幸輝と……。」
「夢でも見てたんだろ?治療は終わったぞ、お客さん。」
「え……?」
輝血の足と指には包帯が巻かれていた。
「ありがとうございます……。」
「はっは、すぐには思うように歩けないだろうってさ。一応鎮痛剤を置いていってくれてるからこれ飲んで過ごしなァ。仲間の所に戻ったら綺麗な病院に行くんだなァ。」
キョウは輝血に薬が入った袋を渡す。
「お客さんの漢気を見込んで特別に無料にしてやるよ。」
「え、いやちゃんと払います……。」
「へェ?ウチは高いよ?」
「……いくら位でしょうか…?」
「ぶはっ、いいっていいって。無料無料。そんな怯えた顔しないでくれよ」
ニコニコ笑うキョウを見て輝血は少し安心感を得た。
「さて、湖の方へ向かえばいいのかい?」
キョウは立ち上がり窓の方へ向かう。
「あー……」
輝血の脳裏に浮かぶのは鬼の血相をした会長と桜庭だった。
「会長さんが怖いかい?」
窓の外を眺めながらキョウが聞く。
「ええ、まあ。圧で殺されるかもしれないです。」
「はははっ、圧で殺すってそりゃァもう人間じゃないねェ。」
「会長は本当に人間離れしているので……。」
「どちらにせよ会長さんには連絡がいってるだろうしバレてるんじゃないかい?」
輝血は薬が入った袋をギュッと握った。
「そんなに怖いのかい?」
「はい。元々会長からすれば俺なんて罰する対象者だったわけで……その後もこうして言うことも聞かなくて迷惑ばっかりかけて……。」
「まァお客さんが悪いけどねェ。」
キョウはケタケタと笑う。
「それは分かっているんですけど。なんだか他の人に叱られるより怖くて……。」
「だからって戻らないわけにもいかねェだろ?」
「……キョウさん。」
「ん?なんだい?」
「俺、ここに残っちゃダメですか?」
「ここに残るって……それは龍の所には戻らないって事かい?」
「はい。」
「そんな事したら仲間達が悲しむんじゃないかい?」
「……はい。でも……。」
「逃げるって事かい?」
「え?」
「自分が悪いってのは分かっているけど怖いから逃げる。ここを逃げ場にしたい。そういう事かい?」
「逃げ……そうかもしれません。……俺が戻らなければ森に入り込み食屍鬼に喰われたって事になると思うんです。」
「まぁそうだろうなァ。で、一人になってどうするんだい?」
「キョウさんのそばにいちゃ駄目ですか?」
「傍ってェのはなんだい?俺の下につきたいって事かい?」
「そうです。」
「はっはははっ!」
キョウは笑いながら輝血の隣に戻ると輝血の前髪を掴み冷たい目で見つめた。
「甘ったれんなよ。テメェでやった事の落とし前もつけれねェ奴が俺の下につくだァ?舐めてんのかァ?!」
自分に対し声を荒らげるキョウを見て、輝血は声が出せなかった。
そんな輝血を見たキョウは力いっぱい輝血をベッドに押し倒し馬乗りになると輝血の額に銃を突き付ける。
「俺はなァ、俺の役に立たねェ奴はいらねェんだよ。俺の為に動けねぇ奴もいらねェんだよ。忠誠を誓えない奴もいらねェ。逆らう奴も、生意気な口叩く奴もいらねェ。お前は嫌な事があれば逃げるし、身勝手な行動をした癖に恐怖を感じて逃げ出すような奴だ。お前は俺にはついて来れねぇしいつか逃げ出す。そんな奴はいらねぇんだよ。」
輝血は目に涙をうかべる。
「泣けばいいとでも思ってんのかァ?いつまでガキ気分でいるつもりだ?カブトのリーダーやってたって言うからちょっとは根性あるやつかと思ったらこれかよ。くだらねェなァ?そんなに戻るのが怖くて嫌なら……ここで死ぬかい?」
「……すみません、死ぬ事は出来ないです。」
輝血は銃を握るキョウの手を掴む。
「あ?」
キョウの眉がピクリと動く。
「甘えたこと言ってすみませんでした。でも、今ここで死ぬわけにはいきません。俺は生きて償わなきゃいけないので。」
「……はっ、ははっ」
キョウは自分の腕を掴む輝血の手を剥がすと銃を赤城に渡し輝血の上からおりた。
「本当……お客さんは自分勝手な人だなァ。」
輝血は身体を起こしキョウの方を向く。
「なんか自分でも今どうしたいとか何話してるとかもうよく分からなくて。すみません、滅茶苦茶な事を言ってしまって……。」
「いやァ、別にいいよ。面白かったし。」
「お、面白い?」
「言い訳並べて命だけは助けてくれって涙流しながら懇願する奴ばっかだったからよォ、言い返してきたのは俺にとっちゃ高ポイントってわけ。」
キョウは赤城から銃を受け取るとポケットへと突っ込んだ。
「まァ、お客さんが会長さんや仲間にちゃんと謝ってからなら考えてやるよ。」
「え?」
「でもなァ、俺の下についたら泣いてる暇なんかねェぞ。それにお客さんはまたこっち側の世界に戻ることになる。それでもいいのかい?」
振り返ったキョウの視線は氷のように冷たく痛かった。
「……………。」
「ははっ、別に来なくてもいいよ。向こうでよろしくやってる方がお客さんにとっちゃ幸せだろうよ。ちっと頭冷やすんだなァ。」
「すみません。」
「さて、そろそろ戻るか。俺も仕事があるしなァ。」
キョウがそう言うと輝血の所に赤城が来て輝血を抱き上げる。
お姫様抱っこをされた輝血が少し暴れると赤城と目が合った。
「暴れられると落としてしまう。動くな。」
輝血の全身にゾワッと悪寒が走る。
凱斗やキョウとはまた違った威圧感。
この人も強者の一人だ。
「さァて、内側か外側のどっちに行きたい?」
笑顔で話しかけるキョウに輝血は戸惑っていた。
凱斗に叱られた時とはまた違った恐怖。
だが、その中に確かに感じた温かい何か。
まるで親が子を思い叱っているかのような、そんな何かを感じ取ったのだ。
でも、少しでも間違った選択を取っていれば確実に殺されていただろう。
あの時のキョウの目は、裏の王と呼ぶに相応しい程に鋭く冷たかったのだ。
「お客さん?聞いてるかい?」
キョウが輝血の顔を覗き込み、輝血はハッと我に返る。
「はっは、まァ疲れてんだろうけど。どっちに行きたいかだけ教えてくれりゃあ後は寝てても良いよ。なぁ、赤城ィ。」
「はい。」
輝血は気付いた。
キョウと話す時だけ赤城の声から威圧感が消えている。
見た目だけならキョウより赤城の方が体格も良く背も高い。
だが強さはやはりキョウの方が上なのだろう。
凱斗もそうだ。
決して体格が良い訳では無い。
どちらかと言うと桜庭を除いた周りに比べれば細身の方だ。
二人には共通点が多い。
体格もそうだし、地位もそうだ。
それにあの冷たい目や反論出来なくなる圧。
荒いのはキョウの方だろう。
これは世から見た善と悪の頂点に立つ二人の違いだろうか。
どちらにせよ敵に回すと恐ろしい、という事には違いない。
「お客さん?」
「あ、すみません。えっと、じゃあ……。」




