07
「たす…け……」
少女の声が聞こえた。
輝血は涙を拭い森の方をジッと見つめる。
「助……苦し……あ…い…」
途切れ途切れに弱々しい声が輝血の耳に届く。
気付いた時には輝血は火の海へと飛び込んでいた。
後ろから聞こえる懍達の叫び声。
俺は何をしているんだ?
でも少女が取り残されているんだ。
だけどどうしてこんな所に?
……………………。
きっと街の人だ。
この森に迷い込んだんだ。
帰ろうとしたら食屍鬼がいたから隠れていたんだ。
俺が助けてあげなきゃいけないんだ。
「聞こえるか!?どこにいる!?」
輝血は叫んだが動物達の悲鳴に掻き消される。
声が聞こえる距離にいた。
火が広がってきたから内側に向かったはずだ。
自分が走ればきっと追いつくはずだ。
輝血は燃え盛る森を駆けた。
熱さなんて感じなかった。
助けを求めた少女の事だけを考えた。
「聞こえたら返事をしてくれ!」
輝血は叫びながら走った。
動物達は輝血には目もくれず火から逃れようと内側へ向かって走り抜けていく。
輝血の目の端に人影が映る。
「おい!そこで止まれ!助けに来た!」
輝血は人影に向かって叫ぶ。
人影はその場に立ち止まった。
良かった、生きてる。
輝血は必死に走った。
あと少しで助けられる。
この場所から外側へ向かうのはもう無理だろう。
死にに行くようなものだ。
少女と共に内側へ向かおう。
きっと会長達に叱られるだろう。
だけどそれでもいい。
この子が助かれば。
あの時助けられなかったんだから。
今回こそは助けるんだ。
絶対に。
「ハァッ……大丈夫か?ハァッ……怪我はしてないか?」
息を切らす輝血に背を向けたままでいる。
「……ハァッ…ハァッ……ッ…よし、行こう。歩けるか?」
輝血は自分達に迫る火を気にしながら背を向ける人物の肩に手を置くと、輝血の手が力強く掴まれた。
「つっっ!!」
想像を絶する痛みが広がる。
「へへ…へへヘ……」
「何笑って……。」
輝血は自分の手の指を見て目を見開いた。
「オ…イシ…」
輝血の右手人差し指の第一関節部分が無くなっていた。
「なっ……え…?」
輝血は理解が追いつかなかった。
「オイ…シ……ネェ」
ぐるりと輝血の方を見た人物はニコリと不気味な笑みを浮かべながら輝血の指を舐めていた。
輝血は声が出せなかった。
食屍鬼だ。
理解は出来たがここからどうすることも出来ない。
自分は弱い。迫りくる炎。震える手。
数歩後退りをした。
目の前には食屍鬼。
外側から迫る炎。
もう近くに動物達はいない。
ここには輝血と食屍鬼しかいない。
「モット……タベ……タイ」
食屍鬼は輝血の指を口に放り込むとゴクンと喉を鳴らした。
ボタボタと垂れる涎。
食屍鬼の瞳には怯える輝血だけが映っている。
一歩一歩近寄る食屍鬼から逃げようと足を動かすと激痛で顔を歪める。
輝血は自分の足が大火傷を負っていることに気付く。
気付くと同時に痛みが広がり立っていられなくなった輝血はその場に座り込んだ。
ああ、必死になっていたから気付かなかったのか。情けないな。
俺もここまでか。
やっぱり俺は食屍鬼に殺される運命なんだな。
食屍鬼が伸ばす手はあと数歩の距離で輝血に届く。
懍達の顔を思い浮かべ全てを諦めかけた時、ビュッッと風を切る黒い影が輝血の目の前を通り過ぎる。
「え……あ……どうして…?」
影は食屍鬼を炎側へと蹴飛ばすとそのまま食屍鬼に馬乗りになり顔を殴り始める。
「イタ…ヤ…メ……アァ…ア゛ァア゛……!!!!!!」
食屍鬼が暴れ始め自分を殴る手を握ると口を大きく開く。
「はっは、俺を食おうって言うのかい?おもしろいねェ。」
楽しそうな声で話し終わるとドンッと大きな銃声が鳴り響いた。
「ア……アァ………」
掴まれた腕を摩る手には銃が持たれていた。
食屍鬼の頭に火が付く。
「大丈夫かい?」
輝血に近寄り手を差し出す。
「キョウさん……どうして……?」
「話は逃げ終わってからでいいだろォ?さ、行こう。俺達まで燃えちまう。」
ヘラッと笑うキョウを見て輝血の目から涙が溢れ出す。
キョウは輝血の足の火傷に気付くとヤレヤレと輝血を雑に担いだ。
「会長さんみたいに安定はしないかもしれないけど我慢してくれ。」
そう言うとキョウはヒョイヒョイと走り始める。
輝血は遠ざかる炎を眺めた。
数十秒経つと火は薄らとしか見えない距離に達する。
「おい赤城ィ、開けろ。」
キョウが声を掛けるとギィッと音が鳴る。
「お客さんがまぁた怪我をしているからちょっと診てやってくれ。」
湖の方へ向かうのかと思いきやキョウは途中で左側へと走り出し、暫く進むとあの廃墟空間と同じような場所へと出た。
その空間にある一室に輝血は運ばれたのだ。
「承知しました。」
輝血は室内の椅子に座らされると目の前に赤城がしゃがみこみ輝血の火傷を見てどこかへ電話をかけ始める。
キョウは輝血を担いでいた方の肩を回し終わると輝血を見てニコリと笑った。
「えっと……ありがとうございました。」
「ん?ああ、礼なんていらねェよ。」
キョウは煙草を取り出すと輝血にも一本差し出したがそれを輝血は断った。
キョウは煙草をしまうと咥えた煙草に火を付け煙を吐き出した。
「あの、どうしてキョウさんがあの森に?避難したはずじゃ……?それにこの場所は……?」
「はっは、よく喋る口だねェ。……避難しろってのは聞いたよ。でもなァ、俺がここから離れるとしたらそれは俺が引っ越したくなった時だけだよ。森に居たのはなんとなくお客さんがいる気がしたからだよ。」
キョウは煙を吐き出し伸びをした。
「この場所はそうだな、俺の隠れ家みたいなもんだなァ。ここからもう少し奥に進めばあの街に行けるし、さっきの道を戻って行けば湖の方にも行ける。あまり人も寄らないし静かで気に入ってたんだよ。」
キョウは話終わると横目で輝血を見つめた。
目が合った輝血は喉を鳴らした。
「で?お客さんはなんで一人であんな所に?」
輝血は少女の声が聞こえた事、気が付けば火の海に飛び込んで走っていた事を話した。
キョウは目を丸くして笑い出した。




