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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
揺らぎ
75/123

06

「どうしたの?かーくん。大丈夫?どこかに座る?」

懍が心配そうに顔を覗き込む。

「大丈夫。」

輝血がヘラッと笑ってみせると懍は頷き輝血の体を支えた。

「おいお前らこっちに集まれ。」

羽鳥に手招きされ輝血と懍は中央へと向かう。

「立ったままでいい。」

凱斗の声が響いた。

「約三年前俺達が戦った敵が今また復活を遂げ、俺達はソイツらを駆逐し再び平穏な生活を手に入れようと今頑張っているわけだが……。」

隊員達は静かに凱斗の言葉を聞く。

「その為にはあの時以上の死者が出る覚悟もしなければならないし、この地区を消さなければならない。」

隊員達は黙ったまま凱斗を見つめ次の言葉を待った。

「大橋は想像以上の事をしてくれてたよ。ははっ、ほーんと……あの時殺しとくべきだった。」

凱斗の声がワントーン下がり圧がかると隊員達は身震いする。

「この湖周辺の森全域を焼き払う。ここに住む生き物は全て食屍鬼だと思え。」

「生き物全てって……どういう事ですか、会長。」

隊員の一人が凱斗に問い掛けると、凱斗はポリポリと頭を掻き、参ったと言わんばかりの顔をした。

「動物達に感染している。」

ザワつく隊員達。

凱斗が片手を上げるとシンと静まり返る。

「さっきの怪我をした隊員、噛まれたのは確かに動物だった。リスなのかウサギなのかなんの生き物なのかは分からないが小動物に噛まれたような歯型だ。研究者が念の為検査をしたら食屍鬼の成分が発見された。それは噛まれた部分に多く、体内にはまだ流れきっていない状態だった。今は簡易的治療をされているがすぐに病院へ搬送してきちんとした治療を行う。」

話す凱斗の隣で桜庭がため息をついた。

「もし噛まれても見回りを続けていたら感染は広がりアイツはここで食屍鬼になっていた可能性がある。で、そこから考えられるのは動物自体が感染しているという事。となればこの森全域人型じゃない食屍鬼が数十、数百といる……と考えた方が良い。」

凱斗は隊員達に背を向け湖を眺めた。

「仮に数百いたとして、各龍が集結している俺達でも相手をしきれるかは分からない。それこそ生き延びる数の方が少ない可能性があるわけだ。……だから、この森全域を外側から一斉放火し生き物全てをここへ集結させる。逃げそびれるモノもいるだろう。焦り逃げ回ってきたヤツらに余裕は無いだろう。そこを叩く。」

凱斗は振り返りニコリと笑った。

「上級層、治療班はこの街を出て車で森の外側へ。幹部と隊長はここで俺と一緒に討伐だ。」

幹部達と隊長達は表情ひとつ変えず真っ直ぐに凱斗を見つめ敬礼する。

「街の住民は渋々だが避難してくれているはずだから、街への被害は心配しなくてもいい。必ずここでここにいる食屍鬼は滅ぼす。」

「今、会長が申し上げた通り、本日今この瞬間からこの作戦は実行されます。放火をする方たちは火を放ったらすぐにその場から離れてください。ここに残る方達は少しばかり無茶をしてもらうことになりそうです。」

凱斗と桜庭は隊員達に向かい頭を下げた。

二人が頭を上げると、作戦は直ぐに実行された。

幹部と隊長達は凱斗と桜庭の元へ駆け寄り詳しい話を聞いていた。

上級層は治療班と共に街への道へと向かう。

輝血と懍達は上級層達に連れられ一緒に街への道へと向かった。

湖の方へ振り返った輝血の目には、今までに見た事がないほどに暗い眼をした凱斗が映った。

「なんだか凄いことになっちゃったね。」

懍の声は暗かった。

「うん……。」

輝血の声も表情も暗い。

自分達のせいで。

この言葉が頭の中を埋めつくした。

──────────────

街へ出るとシンと静まり返っていた。

全員避難したのだろう。

隊員達は急いで車に乗り込むと森の外側へと向かう。

輝血達は黒龍の隊員に呼ばれその車へと乗り込んだ。

「行くぞ。」

運転席に座った隊員に輝血達は頷く。

助手席に座る隊員は少し落ち着かないようだった。

「アニキ達大丈夫かな?」

「大丈夫だって。各隊長と各幹部が勢揃いな上にアニキがいるってそりゃもう負け知らずでしょ。」

「だよなー!」

助手席の隊員と運転する隊員の会話を聞いて輝血は思い出したことがあった。

”黒龍隊員達は全員燈龍会長の事をアニキと呼んで慕っていた。”

柏木と出会った時の会話で聞いた言葉だ。

このアニキとは会長の事なのだろう。

「隊員さん達は会長が黒龍時代からいる人なんですか?」

輝血の言葉に反応した助手席の隊員が振り向き笑顔を見せる。

「そうだよ。俺と悠司(ゆうじ)はアニキが隊長の時に中級層だったんだよ。本当は俺達も総龍に移りたかったんだけど、幹部レベルになってから来いって言われちゃってさ。それにウチには可愛い可愛いワンコもいるしお世話しないとだからさ。」

笑顔が眩しい助手席の隊員はニコニコとしたまま話を続けた。

「あ、俺の名前は陽平(ようへい)ね。陽平さんって呼んでいいよ。」

「おい、あまり先輩面するなよ。お前より強いかもしれないぞ。」

「え、俺より強いの?!」

「だってこの人達って総龍の隊員だろ?アニキと一緒にいて訓練も受けているんじゃないか?」

「あー、じゃあ俺より強いかも。いざと言う時は頼みます!」

ケタケタ笑う二人を見て輝血達も自然と笑みがこぼれた。

「まあさ、アニキに任せておけば大丈夫だよ。あまり心配そうな顔しないでよ、ね?」

陽平が輝血に笑いかける。

「心配そうな顔……してましたか?」

「してたというかまだしてるよ。心配そうな不安そうな顔。大丈夫だよ、龍は強いから。」

輝血は頷いた。

「アニキは凄いんだよ。強いし格好良いし、普段冷たいけどいざと言う時は文句言いながらだけど必ず助けてくれるし。……本当、アニキがいなけりゃ俺は今ここにいなかったからさ。」

陽平の笑顔が少し曇ったように見えた。

「俺馬鹿で弱いからさ、いつもアニキに頼ってたし助けられてたんだよね。だから強くなっていつか俺がアニキを護るって今も思ってるんだ。……だからさ、本当は俺だってあの場に残りたかったんだけど……。」

「バーカ。焦るなって。これからもっと強くなりゃいいじゃん。メソメソしてたらアニキにつめたーい目で見られるぞ」

悠司が陽平の頭をグシャッと撫でると陽平の笑顔に明るさが戻った。

それから森の外側へ着くまでの間、陽平の凱斗愛を聞かされ続けた輝血と懍は少し疲労を感じていた。

輝血達が到着した頃にはほぼ全ての部隊が到着しており放火準備をしていた。

外側に治療班が並びその内側に隊員達が並ぶ。

地区警察や消防隊員が同行しており、輝血達は隊員達に並んだ。

数分経ち全部隊が位置についた。

「鳥に気を付けろよ。こっち側に飛んできた鳥は俺達で確実に仕留める。ここより向こう側へは行かせるな。」

隊員の一人がそう言うと隊員達は頷き警察達が用意をしてくれた松明を森へと放り込んだ。

煙が上がる。

徐々に火が燃え広がっていく。

少し待つと森の方から様々な声が聞こえてくる。

動物たちだろう。

木々が揺れる。

火に気付き走り回っているのだろう。

鳥が飛び回る。

隊員が言った通りこちらに向かって飛んでくる鳥もいた。

感染しているのかしていないのかも分からない命を奪わなければならない。

躊躇してしまう隊員に変わって飛び回る鳥に銃を向ける隊員。

地に落ちた鳥は治療班によって回収される。

火を付けてものの数分で火の海と化した森から聞こえる声は輝血達の耳にしっかりと届いていた。

自然と溢れる涙を輝血は静かに拭った。

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