03
各龍に連絡が行き渡り、到着までの時間湖周辺の見回りと湖での待機で分かれた。
輝血と懍は凱斗や桜庭、そして羽鳥や柏木と一緒に見回りに行くことになった。
凱斗が先頭に立ちその後ろに桜庭、その後ろに羽鳥と柏木と数人の幹部がつく。
「輝血と懍は桜庭と羽鳥の間ね。」
凱斗に言われ輝血と懍は全員に囲まれる真ん中へと立ち、その陣形で周辺の見回りへと出発した。
湖の周りは来た道よりも足場が悪かった。
一歩一歩踏みしめ無ければ転げそうになる道を凱斗はヒョイヒョイと歩き進めた。
「どうしてあんなに普通に歩けるの?」
輝血に支えられながら歩く懍は前を歩く凱斗を見て不思議そうな顔をする。
「そういう人なんですよ、あの人は。」
必死に歩きながら答える桜庭。
「昔からあの人は他人が出来ない事を直ぐにこなす。ですがその分の努力をしてきた人です。人にその姿は見せないので最初から何でもできる人と勘違いされやすいですが。」
「会長も努力とかするんだぁ。」
「何か言った?」
少し離れたところから振り返り笑顔で問いかける凱斗に懍は驚く。
「何も言ってないです!」
「ふぅん?」
凱斗は疑いの眼差しで懍を見つめると、また前を向きヒョイヒョイと歩き進めた。
「地獄耳なのかなぁ?」
懍はギリギリ聞こえる程の小声で輝血に言うと、輝血は「そうかも。」と笑って答えた。
そこからまた暫く歩き進むと急に凱斗が立ち止まる。
「そこから動くな。」
桜庭がその場に立ち止まると輝血達もその場で歩みを止める。
凱斗がその場に立ち止まってから約三秒後、静かに抜刀すると勢いよく右側へと剣を振り下ろした。
「グ…アァ……」
奇妙な声と共に赤黒い液体が飛び散ると異臭が漂う。
凱斗は剣をトントンと地面で叩き付着した物を落とす。
「なあ桜庭。やっぱりなんか違うな。」
「そうですね。」
輝血と懍は頭の上にハテナを浮かべ後ろにいる柏木を見た。
目が合った柏木はゆっくりと口を開いた。
「前にいた食屍鬼はもっと騒がしかったんだよ。」
「騒がしかった?」
「ああ、よく喋るというか。カタコトだったけどね。食事中は不快な咀嚼音がうるさくて、とにかく声や音で場所が分かりやすかったんだけど、今のを見た感じ声は出していなかったし、食事中だったにしろ咀嚼音が聞こえなかった。会長の耳が良いから見つけられたんだと思う。それでも立ち止まってから抜刀までの数秒は位置把握の為だったと考えると、相当見つけ出しにくくなったとも言えるな。」
「じゃあもし先頭が会長じゃなくて羽鳥だったら見つけられていなかったかもしれないってこと?」
懍が柏木に問いかけると、懍は羽鳥に頭をコツかれた。
「さんを付けろって言ってるだろ。それと、もし俺が先頭だったらきっと俺が襲われてたな。」
「じゃあもう会長に頼るしかないじゃん!」
「……そうだな、会長が見つけ出す早さから考えると俺はプラス5秒。よく言えて3秒。この3秒から5秒は大きい。討伐に専念するしか無いかもしれないな。」
羽鳥が肩を落としていると凱斗と桜庭から早く来るように声を掛けられ、輝血達は慌てて桜庭達を追う。
1時間程歩き回り、あの後二体と出会し両方とも凱斗が始末をした。
湖に戻るとまだ各龍は来ていなかったが、その場に転がる食屍鬼の数が増えていた。
残っていた隊員が凱斗と桜庭に報告をしている間、輝血と懍は仲間達の傍にいる事にした。
怯える仲間の背中を優しく撫でた。
「会長は今日全てを終わらせようと考えているんだろう。」
輝血達の所に来た柏木は輝血の隣に座る。
「そんな簡単に終わらせられる?」
「どうだろうな。でも各龍を集めるって事は終わらせるつもりではあると思う。」
「この場にいる食屍鬼が全てなのか?」
「いや、分からない。どちらにせよ大橋を見つけ出さない限り終わらないしな。アイツが鍵だよ。」
「大橋はここにはいないんじゃないのか?」
「分からないんだ。勿論俺達に気付いて逃げている可能性もあるし、逆手をとってどこかに身を隠している可能性もある。だから会長は人数を増やして隅から隅まで探すつもりなんだろう。」
「見つけ出せるといいけど……。」
「そうだな。早く終わらせたいな。」
「……柏木は……。」
「ん?」
「……食屍鬼討伐が終わったらどうするつもりなんだ?」
「終わったら、か。どうだろうな。龍の犬として残るんじゃないか?それしか道は残っていないし。」
「そうだよなぁ。」
「輝血はどうするつもりなんだ?」
「俺も龍の犬として残るのが正しいんだろうな。」
「……龍から出ていいって言われてもか?」
「うーん。出ていいって言われた所で俺には行くあてもないし、やりたいことも無いし、どのみち誰かに殺されて終わるだろう。」
「報復か。それは龍も同じだよ。」
「ま、俺が今までしてきた事を考えれば出ていいなんて言われることもないだろうし、一生償い続けても償いきれない事をしてきたしな。」
「なになに?なんの話ししてるの?」
背後に現れた懍が輝血と柏木の間から顔を出すと輝血と柏木は「なんでもないよ」と笑顔で答えた。
湖に戻ってから数時間経ち、少しずつ人が増え始めた。
白龍が到着し柏木は隊長へと挨拶をしに向かう。
青龍赤龍の隊長が同時に到着し、青龍赤龍の幹部と上級層が並ぶ。
輝血と懍は仲間達と座ったまま集まる人を眺めていた。
「女の人が沢山いるね、かーくん。」
「あ?ああ。そうだな。」
「女の人だよ?俺達最近麗華さん位しかまともに話してないじゃん!ちょっと話してみたくない?」
「懍の情緒はどうなってるんだよ。食屍鬼が近くにいるかもしれないって言うのに。」
「だからだよ!死ぬかもしれないじゃん?じゃあ最後に可愛い女の人と話したいじゃん?」
輝血が呆れた顔をしていると、一人の女性が輝血と懍の所へ歩いてきた。
「あの、すみません。少しいいですか?」
「いいですよ!!」
懍が女性に元気よく返事をすると、女性は困った笑顔を見せる。
「すみません、そちらの黒髪の方と二人で話しても良いですか?」
女性が輝血に笑顔を向けると、懍はムッと膨れた。
輝血は懍の頭を撫で立ち上がると女性に付いて少し離れた場所へと移動した。
懍が膨れながら二人をジッと見ていると、懍の背後に二つの影が迫ってきた。




