02
前の方がザワつく。
全員がいつでも抜刀出来る体勢に入っていた。
「お前達は絶対に俺達から離れるな。……でも、俺達が殺られそうになったら迷わず来た道を戻れ。全力で走れ。振り返るな。」
羽鳥はそう言うと抜刀し構えた。
輝血達は震えながら頷いた。
前の方が歩き始める。
それに続く輝血達は、転がる首を目にして吐き気を催す。
「会長が斬ったんだ……。」
懍は目に涙を浮かべた。
その先の道は所々に首が落ち、血液が付着していた。
全て凱斗が斬ったのだろう。
嫌な臭いが漂う。
「本当に存在しているんだね。」
懍は泣きそうな顔をしながら話す。
「俺達生きて帰れるのかな?かーくん。」
「生きて帰らなくちゃいけないんだよ懍。」
「そうだけど……目の前にしたらやっぱり俺怖いよ。」
輝血は横目で懍を見て、優しく頭を撫でた。
「俺も怖い。けど、俺達も殺らなきゃ。」
「……うん。」
その後懍は黙ったままだった。
奥へ奥へ向かう度に転がる数は増えていった。
誰の話し声もしない。
足音と風の音だけが響いて、時々聞こえるのは食屍鬼の断末魔。
もう歩いてどれほどの時間が経過したのか分からない。
辺りは暗闇に包まれ各自が手に持つライトだけが頼りだった。
疲れが出始め歩くスピードが落ちる者が現れる。
それでも歩みを止める事は許されなかった。
そして、大きな大きな湖がある場所へと辿り着いた。
反対側は少し見える程度だった。
「湖か……。」
何かを考え込むような顔をした羽鳥がポツリと呟いた。
輝血達は疲労からその場に座り込んだ。
「大丈夫か?」
暗闇からの声に驚き輝血と懍はすぐに立ち上がると剣に手をかけた。
「はは、大丈夫そうだな。」
「会長!」
輝血達のライトに照らされた凱斗を見て羽鳥は背筋を伸ばし敬礼した。
「よく頑張って歩いたな。でもここからが本番とも言える。いけるか?」
輝血と懍が頷くと凱斗は微笑んだ。
「そうか。でも無理はするなよ。お前達はまず食屍鬼という存在が現れても冷静に対処出来るように慣れる事から始めなきゃいけない。ま、いざとなれば斬ってもらうけど。」
凱斗は輝血と懍、仲間達の頭を撫でると先頭へと戻って行った。
「これだけ歩いてしかも食屍鬼を相手して、先頭から最後尾まで来て平気な顔をしているって体力化け物かよ。」
懍は凱斗のタフさに驚きを隠せなかった。
「それだけの体力、精神力が無いと会長は務まらないんだよ。」
羽鳥は肩の力を抜きながら話す。
「正直俺達も前程食屍鬼と対面したわけではないし、どれだけ特訓を重ねてきたとはいえやはりあの当時に比べれば動きは鈍くなっているだろう。それに体力も落ちている。……会長は凄いよ。」
羽鳥がため息をついていると前方から叫び声が聞こえ、全員に緊張が走り構えた。
「状況が把握出来ないな……くそ、少し移動するぞ!」
羽鳥と幹部は右側へ向かい、柏木がいる部隊がそれを見て左側へと移動した。
湖を前に左側に柏木達の部隊、真ん中に凱斗達、右側に輝血達の部隊が並ぶ。
視界が広がり先程よりも周りの状況把握がしやすくなった。
そして、今ここで何が行われているのか輝血達は知ることになる。
「なん……だ……?」
輝血は言葉を詰まらせた。
赤く染る水の上に浮かぶ数十の死体。
それを見つめる凱斗の横顔は悔しそうだった。
「かーくん……あれは人間なのかな?食屍鬼なのかな?」
懍は今にも泣き出しそうな声をしていた。
仲間達の中にはその場に座り込み吐き出す者もいた。
「羽鳥さん、あれは食屍鬼ですか?」
輝血は何故か冷静になれた。
周りがザワついていたおかげかもしれない。
「ああ、そうだろうな。だが全員では無さそうだ。」
「全員じゃないって……じゃあ人間も混ざっているってことですか?」
「ああ。会長が斬ったやつらは食屍鬼、斬られていない者は食屍鬼の餌になっていた人だろう。」
輝血は目を凝らし湖の方を見た。
首や体に斬られた傷がある者と噛みちぎられている者が混じり合っている。
ここは食屍鬼の餌場なのだろうか?
輝血が湖を見て考え込んでいると桜庭から召集がかけられる。
隊員達は真ん中の方へと進みその場に膝をついた。
「私達も前はこの場所までは辿り着けませんでした。なのでこの場のこの状況は前からなのか最近なのか、それとも今日だけでなのかの判断が出来ません。が、この近くに他の食屍鬼もいると考えられます。」
隊員達は喉を鳴らした。
「総龍、黒龍、白龍、青龍、赤龍の隊長、幹部、上級層全てをここに集結させ一斉に叩きます。これ以上の被害拡大は絶対にさせてはなりません。……羽鳥さん。」
「は、はい!」
名指しをされた羽鳥は慌てて立ち上がった。
「貴方達は輝血さん達を連れて街へ戻り各龍に連絡をしてください。そして、輝血さん達の迎えが来たら貴方達幹部は再び各龍を連れてここへ戻ってきてください。街の方達にも避難をしてもらわなければなりません。その為には警察の協力が必要ですので、警察へは私から連絡を入れます。警察の方が到着したら貴方達が誘導してください。……貴方達が戻るまで私達はこの場で食屍鬼討伐を続けます。」
「はっ!」
羽鳥が敬礼をし、輝血達に「行くぞ。」と声を掛けると、立ち上がった輝血は真っ直ぐ凱斗の方へと歩き出す。
「こら、どこに行くんだ!」
羽鳥が声を荒らげた。
それに応えず輝血は凱斗の目の前に立つ。
「輝血さん、今は話している暇はありません。羽鳥さんと一緒に───」
凱斗が片手を上げると桜庭は口を閉じる。
暗く暗く光の無い闇に吸い込まれそうになる凱斗の目をジッと見つめた。
「会長、俺はここに残りたい。」
輝血の言葉にその場にいた者は驚きを隠せなかった。
「ちょっとかーくん!」
懍が慌てて輝血に近寄り腕を引っ張った。
「湖見たでしょ?食屍鬼が数体いたの見たでしょ?!」
「うん。でもそれを俺は討伐しなきゃいけないから。」
「それは……気持ちは分かるけど!今の俺たちじゃ無理だよ!」
「無理かどうかはやってみないと分からないだろ!!」
輝血が声を荒らげると懍がビクッと震える。
「どうせ俺達の命はずっと前に終わってたはずなんだ。今俺達が生きているのは償いをする為。その償いは復活を願った食屍鬼を討伐する事だと思うんだ。もし食屍鬼に殺されてもそれは自分の力不足。俺の役目はそこまでだし、なにより俺達は今龍の犬なんだからここで盾にならなきゃ。……でも、懍達は戻ってもいい。俺がお前らのリーダーだから全てを背負うよ。」
「かーくん……。」
「だから会長、俺を残してください。お願いします。」
輝血が頭を下げると頭上から「ははっ」と笑い声が聞こえた。
「顔を上げろよ輝血。お前の気持ちはよく分かった。残りたいなら残れ。その代わりちゃんと戦え。もう逃げられねぇぞ。」
「ちょ、ちょっと会長!何を仰っているんです?!」
「桜庭は少し黙ってろ。」
桜庭は不服そうに口を閉じる。
「お前がリーダーだから全員分背負うって覚悟は認める。が、お前らのリーダーは俺だ。一人で無茶しようとするなよ。」
「はい!ありがとうございます!」
「あと一つ。お前は食屍鬼討伐が初めてだ。俺の傍から離れるな。いいな?」
「はい!」
輝血は凱斗に敬礼をする。
それを見て微笑む凱斗。
「かーくんが残るなら俺も残る!いいよね、会長?」
凱斗は懍の方を見て頷いた。
それを見ていた桜庭はワナワナと震える手を必死に抑えている。
仲間達も、怖いけど俺達も……と、結局全員がその場に残ることを選択し、桜庭の体からは力が抜けた。
「じゃあ……羽鳥、悪いけどこの場で各龍に連絡だけ入れてくれるか?」
凱斗の言葉を聞いた羽鳥は急いで携帯電話を取り出し電話をかけ始める。
凱斗はペタリと座り込む桜庭の隣にしゃがみこみ肩を叩くとその手は払われた。
輝血は覚悟を決め、そんな輝血を見た懍は自分の頬をパンパンと叩いて気合いを入れ直した。




