01
あれから数日経ち輝血の足の怪我は良くなっていた。
屋敷に戻った時、専属医師からこっぴどく叱られた。
懍は輝血から離れること無くずっと隣にいて、身の回りの世話の手伝いをしていた。
そして、凱斗とはあの日からまだ一言も話していない。
そもそも凱斗を屋敷で見かけることがなかったのだ。
輝血は生きた心地がしなかった。
でもこれは自分が悪かった。叱られて当然だ。と、反省の日々を重ねていた。
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「輝血くんいる?」
部屋でゆっくりしていると専属医師の麗華が部屋に来た。
「はい、います。」
輝血は立ち上がり麗華の元へと向かう。
「足の調子はどう?」
「もうだいぶマシです。」
「そう。ならいいけど!もうあんまり無茶はしないでよね~!」
麗華はそう言うと輝血の頭をグリグリと撫で回した。
「ちょ、やめてくださいよ。」
輝血が眉を下げてそう言うと麗華はヘラリと笑ってみせた。
「ほんっと初めて見た時はあのバカに似てると思ったけど今は全然違うねぇ!可愛いねぇ!」
「可愛くないですしあのバカって誰のことですか?」
「え?ああ、会長。凱斗の事だよ。」
室内がザワついた。
「え、麗華さん会長にバカとか言えちゃうんですか?」
懍が輝血の隣に立ち興味津々な表情を見せた。
「言えるよ。凱斗が黒龍隊長の時に私は黒龍専属医師だったし付き合いは長いよ。それにバカって言ったら向こうの方が言い返してくるしね。いつまで経ってもお子ちゃまなんだからぁ!」
麗華がケタケタ笑っていると麗華の背後にスッと黒い影が現れる。
「ヒッ」
輝血と懍、室内にいた全員の表情が強ばる。
「え、なーに?」
ニコニコ笑いながら麗華が振り返ると、ニコニコと笑顔を見せる凱斗がいた。
「ヒィッ!ちょっと気配消すのやめなさいって!」
「お前は消しても消さなくても気付かねぇだろーがバーーカ!」
「さすがに気付くわよ!あんた変なオーラみたいなの出してるし!」
「はぁ?そんなん出てねぇわ。な?」
話を振られた懍は首を縦に振った。
「ほら見ろ。」
「これはあんたに怯えてるだけでしょ!」
「人聞き悪い事言うなよ。ってそんな事よりさっさと医務室戻ってくんない?隊員が待ってんだわ。」
「また怪我したの?!もぉ~!!」
麗華はムッと頬を膨らませ小走りで医務室へと向かった。
それに続いて凱斗も歩き出すと、その後を輝血が追った。
「あ、あの!」
凱斗は立ち止まると振り返りニコリと笑った。
「何?」
「あの時は……本当にすみませんでした。」
輝血は頭を下げる。
輝血の後を追ってきた懍も一緒に頭を下げた。
「あー?……ああ、足を怪我した日のこと?」
「そ、そうです。」
「別にもう怒ってないよ。次勝手な事しなけりゃもうそれでいいよ。無事だったわけだし。」
輝血と懍が恐る恐る顔を上げると優しく微笑む凱斗がいた。
「ああ、そうだ。近々またあの場所にお前らも行く事になるんだけど……キョウさんとはなるべく関わるな。いいな?」
「えっ」
「えっじゃねぇよ。関わるな。あと一人で行動をするな。この二つを守れ。」
凱斗はそう言うと手を振り医務室へと向かっていった。
「かーくん、キョウさんって誰?もしかして助けてくれた人?」
「うん。」
「助けてくれた人と関わるなってなんでだろうね?」
「……分からない。あの場所の人を巻き込まないためとかかな?」
「ああ、なるほど。ま、そもそも関わる事が無いと思うけどね。さ、部屋に戻ろ!」
懍は輝血の腕を引っ張り部屋に戻った。
キョウさんと関わるな、か。
きっと会長の中でのキョウさんは悪い人なのだろう。
良い人なんだけどなぁ。
輝血は少しモヤモヤしたが、今は深く考えることをやめた。
考えちゃいけない気がした。
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数日経ち、あの街へ向かう日がやってきた。
輝血の足はほぼ完治した。
各自武器を手に取り車へと乗り込む。
羽鳥からは何度も何度も「俺から離れるな。」と言われた。
車は一台、また一台と走り始める。
日が暮れ始めた頃、やっと街に着いた。
相変わらず荒れた街に人。
羽鳥の後ろを歩きながら輝血は無意識にキョウの姿を探した。
が、キョウの姿を見る前に前の分かれ道へと辿り着いた。
「今日は全員ここね。」
凱斗が指を指したのは前に凱斗達が向かった道だった。
隊員達は息を飲んだ。
奥の奥の暗闇から感じる異様な気配。
「察しの良い奴は気付いたと思うけど、この先にいる。いつでも対応出来るように覚悟しておけ。」
凱斗はそう言うと先に向かい歩き出す。
その後ろを桜庭、幹部と続き、その後を柏木がいる部隊が付いていく。
「俺達も行くぞ。」
羽鳥と幹部が歩き始める。
「行こう。」
懍が輝血の腕を掴むと、輝血は頷き歩き始めた。
先頭を行く凱斗の姿は勿論見えない。
進めば進むほど草木が生い茂りジメジメとした空間に廃墟化した建物が所々に建っている。
前にキョウといた場所とは違い視界も足場も悪い。
少しの物音に体がビクリと跳ねる。
ここに食屍鬼がいる。
どこから現れるか分からない。
食屍鬼が何体いるのか分からない。
進めば進むほどに心臓が大きく跳ねる。
腕を掴む懍の手が震えている。
後ろに続く仲間達も歩くのがやっとだ。
輝血達は自分達が思っていた以上に食屍鬼に対して恐怖心を抱いていたのだ。
歩き進めていくうちに羽鳥が立ち止まり、後ろにいた懍と輝血達も合わせて立ち止まる。
前を覗き込むと全員が立ち止まっていた。
「何かあったのかな?」
懍が不安そうに輝血に問いかける。
輝血はなんの根拠も無かったが懍の頭を撫でながら「大丈夫だよ。」と伝えた。
少しでも不安を取り除いてやれれば、と思ったのだ。
そんなことを思う自分自身も不安でいっぱいだ。
それを隠すように振舞っているつもりだが、隠せているかは分からない。
もし今目の前に現れたら……そんなことを考えていると、前方から「助けて!」と小さく声が聞こえた。
輝血と懍は隙間から顔を覗かせる。
「出たぞ。」
羽鳥の言葉に目を大きくする。
微かに見えたのは大剣と靡く銀色。
そして、飛び散る赤黒い液体だった。




