05
「俺と約束しろよお客さん。」
「約束ですか?」
「そ。食屍鬼を討伐し終わったらまたここに来て俺と話す。食屍鬼討伐の話でも聞かせてくれよ。」
「俺が生きてたら……話に来ます。」
「はっはっ、約束なァ。破ったら天国だろうが地獄だろうが追いかけ回して熱した針を千本のませてやるよ。」
ケタケタと笑うキョウを見て輝血は自然と笑がこぼれた。
「キョウさんって思ったより優しい人なんですね。」
「ん?なんだい?喧嘩売ってんのかい?」
キョウが輝血の耳を軽く引っ張ると輝血は謝った。
「さて、そろそろ戻るか。皆さん心配してんだろう。」
キョウはゆっくりと立ち上がると大きく伸びをする。
輝血も慌てて立ち上がると足に痛みが走った。
「っ…」
「大丈夫かい?」
足から力が抜けた輝血をキョウは片腕で支えた。
「大丈夫です、すみません。」
「何謝ってんだい?お客さんはなんも謝るこたァねぇだろう。なんなら俺がおぶって連れてってやろうかァ?」
「そ、それは遠慮します。」
輝血はキョウの肩を借りて向かうことにした。
「歩くのが早かったら言ってくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
キョウはニコリと笑いゆっくりと歩き始める。
輝血の足を気遣っているのが伝わり、輝血は嬉しく思った。
「ここにいたのか。」
ビュッと強く風が吹く。
輝血は全身に電気が走った感覚に陥る。
「輝血、無事か?」
輝血は声が出せなかった。
やはりこの圧には勝てない。
「おや、この感じは会長さんかい?」
「……貴方はもしかしてキョウさんですか?」
「おっ、知ってくれてるのかい?悪いねェ、前は顔出さなくて。」
「いえいえ。で、うちの隊員とはどういう関係で?」
「あぁ、うちのモンがちょっかい出しちまってねェ、怪我までさせてしまって申し訳ない。」
凱斗は輝血の足を見るとすぐにキョウの目を見た。
冷めきった瞳と光の無い瞳が合うとその場の空気が一気に凍る。
「事情はコイツから聞きます。助けて頂き有難うございました。ここからは俺が連れて帰りますので。」
凱斗は輝血の前に立つと少し屈んで輝血の腹部に自分の肩をあてそのまま立ち上がる。
「うわっ」
急に担がれた輝血は情けない声を出す。
「会長さんは力持ちだねェ。……もうこれ以上アンタん所には手は出させない。アイツらにもキツく言い聞かせておく。今回は見逃してやって欲しい。」
「俺達も協力していただいている側なんであまり偉そうなことは言えませんし。でも次は無いです。」
「ありがとなァ。じゃあまあ、お仕事頑張ってくれよ。」
「失礼します。」
凱斗は頭を下げると元来た道に向かい歩き出す。
輝血が顔を上げるとキョウが手を振ってくれた。
輝血も小さく手を振り返し、少しするとキョウの姿は見えなくなった。
ザッザッと足音が響く。
無言のままの凱斗に輝血は冷や汗が止まらなかった。
担がれているので表情が見えない。
キョウと話している時の凱斗の目が怖かった。
敵を見ている時の目だった。
声にも圧を感じた。
だが、それはキョウも同じだった。
そんな二人に挟まれていたあの時、生きた心地がしなかった。
二人が蛇なら自分はネズミだ。
「輝血。」
「はいっ!」
声が上擦った。
「どうして一人で行動した?」
「あ、えっと近くの壁の落書きを見ようとして離れたら……。」
「バカなのかお前?」
いつもの優しさは感じとれなかった。どちらかというと呆れたような声だった。
「懍が泣いていたぞ。」
「えっ」
「自分が目を離さなければって後悔していたよ。食屍鬼に襲われてるんじゃないか?って不安にもなっていた。ちゃんと謝れよ。」
「……はい、すみません。」
「それにここに来たのは食屍鬼討伐目的で来てるんだ。遊びに来たんじゃない。勝手な行動はするな。今回はたまたまここの人間だったけど、実際食屍鬼に襲われていた可能性だってある。反省しろ。」
「はい……。」
凱斗はそれ以上何も話さなかった。
少しして遠くの方から、かーくん!と叫ばれた。
輝血は涙を止めることが出来なかった。
全員から凄く叱られたが、無事でよかったと抱きしめられた。
桜庭は鬼の血相のままだったが足の怪我を見て文句を言いながら応急処置をしてくれた。
羽鳥は顔が青ざめていた。凱斗から何か言われたのだろう。
輝血達の担当エリア以外は多少の見回りが終わっており、一旦屋敷に戻ることになった。
あれから凱斗とは言葉を交わしていない。
輝血から話しかけることも出来ないまま、全員が各車に乗り込むと次々と屋敷へと向かい走り出す。
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「赤城ィ、アイツらはどうしたァ?」
「はい。BABYに渡しました。」
「そうかいそうかい。新しい玩具が増えて喜んでただろォ?」
「はい。すぐに壊さないようにと伝えた時には既に腕を折るほどに喜んでいました。……キョウさん、龍に何かされたりはしませんでしたか?」
「大丈夫、何も無い。……いやァ、あの会長は一体何者なんだろうなァ?赤城ィ。」
「詳しく調べますか?」
「頼むよ。ちょっと興味が湧いちゃったわ。」
「承知しました。」
赤城は頭を下げると部屋を後にした。
「これは龍の味方をした方が賢いなァ。」
走り去る車を見ながらニタリと笑うその目は冷えきっていた。




