03
「へへへっ、よく分かったなぁ?お前も詳しい人間かぁ?これは史上最っ高の魔法の飴だぁ!そうだなぁ、お前も死ぬ前に1回味わっとくといい!勿体無いけどなぁ!俺達と似た所があるお前には少し親近感がわいてるしなぁ!」
男は嬉しそうにテーブルの上に転がるカラフルな飴を一つ手に取ると輝血の方へ笑顔で向かう。
輝血は口に力を込めて閉じるが男と仲間達に無理矢理開かされた。
「これ食ってよぉ、気分が良くなった時にたっぷり痛めつけてなぁ、それでそのままお前をよぉ殺してやるからなぁ!」
男が嬉しそうに輝血の口元へとソレを近付け、指を離そうとした時、その場の空気が凍りついた。
「何やってんだァ?」
嬉しそうにしていた男の顔は青ざめ、仲間達は一斉に輝血から離れた。
「何やってんだ?って聞いてんだよ。」
男も輝血から離れると下を向き黙り込んだ。
「いけねぇなァ、お客さんに手ェ出しちゃ。手は出さないって約束してんだよ。お前らにも言わなかったかァ?!」
ドスの効いた声は凱斗とは違った圧を放つ。
縛り付けられた輝血からその声の主は見えないが、この街で一番上に立つ者なんだと察した。
「赤城ィ。」
「はい。」
「お客さんを解放してやんな。」
「承知しました。」
輝血の頭上の方から足音が近付いてくる。
男達は震え黙ったままだった。
「うちのモンがすみません。」
輝血の手足を締め付けるものが緩くなり、自由を取り戻す。
「あ、ありがとうございます。」
輝血は赤城と呼ばれる男に礼を言うと、赤城は軽く頭を下げた。
背が高くガタイが良い。
パッと見力勝負では勝てなさそうだと、輝血は赤城を見て思う。
「お客さん歩けるかい?」
輝血は振り向き声の主を初めて見た。
「……はい。大丈夫、です。」
男はニコリと笑う。
「我慢強いねェ。おもしろいなァ。」
「キョウさん、どうしますか?」
「そりゃァお前、お客さんを仲間の所に返してやらねェと。約束だからなァ。」
キョウと呼ばれる男はふわふわとした黒髪で片目が前髪で隠れていた。
耳には大量のピアスが付けられており、首元、そして腕から指先までタトゥーが入っている。
目が合うともう逃げられない感覚に陥り、輝血の心を恐怖で支配した。
「待ってくれよぉ。」
黙っていた男が小声で話すとキョウはニコリとしたまま男を見つめた。
「そ、その男はよぉ、俺達の仲間を殺したムスカリの奴なんだよぉ!」
男が声を震わせながら叫ぶ。
「ムスカリィ?」
キョウの声がワントーン下がると輝血はブルっと震える。
「あー、ムスカリってラメント支配してた奴らかァ?で、お客さんがムスカリの一員ってわけか?」
輝血の肩にキョウの手が触れると輝血の額に汗が滲んだ。
凱斗とはまた違う圧は愛情や優しさなんて欠片も見当たらない。
「どうなんだい?お客さん。」
輝血は唾を飲み込む。
「俺は……ムスカリの一員というかカブトのリーダーでした。」
「カブト?赤城、カブトはどこの奴だ?」
「カブトはルスト地区ですね。ムスカリを中心にカブトと雪のしずくという2チームが存在しまして、主にカブトがムスカリの資金源になっているという話です。」
「なるほどなァ!じゃあお客さんは金儲けが上手いって事かい?」
キョウは輝血の顔を覗き込み、ニコリと笑う。
「いいねえ、金儲けは楽しいよなァ。そうかいそうかい、お客さんはムスカリでカブトの人ね。覚えておくよ。」
キョウは輝血の肩をポンポンと叩くと男の方へ向き直し歩き出す。
「で?だからこんな真似したってか?」
「だ、だってその……前に行った時もう奴らは──」
「だってもクソもねぇんだよなァ!?俺が手ェ出すなっつったのにお前はそれを守らねェでしまいにゃ言い訳かァ?!」
キョウの怒鳴り声が響くと壁がポロポロと少し崩れた。
「ご、ごめんボス!でも俺っ俺っ……アイツ達の敵討ちがしたくてよぉ!もうこれ以上は手は出さないから許してくれぇ!!」
男は涙を流して座り込みキョウの足にしがみついて懇願した。
「おい赤城。」
「はい。」
赤城が輝血の隣を通り過ぎキョウの足にしがみつく男を引き剥がすとそのまま持ち上げ男の腹部に拳を入れた。
殴られた男はその場に嘔吐する。
「言うことを聞かねェ奴はいらねんだよ。」
キョウはそう言うと他の男達を見てニコリと笑う。
「お前らも、な。」
男達は足の力が抜けその場に座り込む。
「さぁて、じゃあ仲間の所に戻ろうかお客さん。キツいなら肩貸してやるからよォ。…赤城ィコイツらはBABYにプレゼントしてやれ。」
「承知しました。」
「さ、行こうかお客さん。ついてきなァ。」
キョウはニコリと笑ったまま部屋を出る。
助けてくれ、と懇願する男達は赤城に殴られ次々と倒れていく。
輝血は痛みと震えで上手く動かせない足を二度三度と叩きキョウの元へと向かった。
キョウに付いていき外に出ると、そこは廃墟が並ぶ薄気味悪いところだった。
キョウはゆっくりと歩きたまに後ろを振り返り「大丈夫かい?」と声を掛けてくれた。
輝血が頷くと「そうかいそうかい。根性あるねェ。」と、ニコリと笑いまた歩き出す。
カラスの鳴き声はこの場の不気味さを増し、風が吹くと空き缶が転がりカラカラと音を立てる。
キョウと輝血の足音が響く。
「お客さんの仲間が騒いでたよ。お客さんがいねェってなァ。」
「そう……ですか……。」
輝血は身勝手な行動を反省した。
「なんでまた一人で行動したんだい?」
「……近くの壁にあった落書きを見ようと少し離れたら急に視界が暗くなって意識が無くなって……。」
「あぁ、そういう事かい。いやァ本当に悪かったねェ。俺がきつーく言い聞かせてちゃーんとお仕置きしておくから許してやってくれねェか?」
「そ、それは……はい。俺も悪かったですし。」
「はっはっ、悪かったってのはカブト時代の時のことかい?」
「それもですし、勝手に一人で皆から離れたから。」
落ち込んだ顔をする輝血を横目にキョウは表情一つ変えずに話し始めた。
「まァ人間なんかよォ、一つや二つ悪い事もするし、お客さんは好奇心が旺盛ってだけの話だろ。それに今回の事に関してはアイツらが悪い。」
「あ、あの……。」
「なんだい?」
「あの人達はどうなるんですか?」
「どうってのはどういうことだい?」
「お仕置きと言っていたので……。」
「あぁ!そりゃァお前、俺の言いつけも守らねェで大事なお客さんを傷モンにしたんだ。それなりの事はするけどよォ、命までは取らねェよ。それともなにかい?殺して欲しいかい?」
「い、いやいや!そんな殺すなんて……。」
「ははっ、冗談だよ冗談。」
輝血から見たキョウは冗談を言っているようには見えなかった。




